↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
136/189

第136話 近くにいても、呼べない

 警報が鳴った。


 一度だけ。


 融合入口側だ。


「リゼ!」


「聞こえた!」


 椅子を引く音と同時に、リゼが立ち上がった。俺も壁門へ向かう。ナーヴァはすでに立っていた。


「我も行くぞ」


「うん。でも、先に門の向こうを確認する。勝手に出ないで」


「分かっておる」


 千代が残る者たちへ声をかける。


「ファステ、レイナ、ヴィオラは邸宅内へ。ミネットは記録より先に、退路を確認せよ」


「はい」


 エウリオはいない。


 昨日、近くの街に借りた家の玄関から、《無為宮》へ帰ったままだ。


 門前空間に残っているのは、警戒設備を担当する石製の小型ゴーレム。吊り寝台のそばで待つ小型ゴーレム三体。それから、融合入口側を警戒する淡い色の人型ゴーレムだけだ。


 壁門を少し開ける。


 灰色の影が二つ見えた。


「二体いる」


 リゼが言った。


 一体は細身で、前脚だけが妙に長い。もう一体は四足で、腹が床へ触れそうなほど低い姿勢を取っている。


 淡い人型ゴーレムは、すでに細身の魔物と向き合っていた。


 魔物が壁門側へ動く。人形が進路を塞ぐ。横へ回り込めば、同じだけ横へ動く。


 倒すことより、先へ進ませないことを優先しているように見えた。


「エウリオがいなくても動いてる」


「決められた範囲だけだ」


 リゼが剣を抜く。


「任せきるな」


 四足の魔物が、吊り寝台の木枠へ噛みついた。首を振り、金具のついた部分を持ち去ろうとする。


 だが、壁門の隙間から俺たちを見つけた瞬間、その動きが止まった。


 魔物が木枠を放す。頭がこちらを向く。


「来るぞ」


 リゼの声と同時に、魔物が床を蹴った。吊り寝台も、剥がしかけた金具も残している。


 俺たちの方を選んだ。


 リゼが前へ出て、振り下ろされた前脚を剣で受ける。


「ナーヴァ!」


「分かっておる!」


 ナーヴァが魔物の横へ回る。炎は使わない。伸ばされた首をつかみ、そのまま床へ叩きつけた。


 石床が鈍く鳴る。魔物が脚をばたつかせるが、ナーヴァの腕は動かなかった。


「まだ動くぞ」


「そのまま押さえて!」


「軽い」


 その時、門前空間の端で、容器がもう一度鳴った。


 最初と同じ、融合入口側を示す一度だけの音だった。


 もう一体が、淡い人形の横を抜けようとする。


 人形は深追いしない。横へ一歩だけ動き、魔物の胴へ腕を当てる。


 勢いを崩された魔物が床を転がった。起き上がる前に、人形の足が背中を押さえる。


 二体とも動けなくなった。


 リゼが融合入口の向こうへ目を向ける。


「ほかには?」


「見える範囲にはいない」


 すぐ近くに、新しい影はなかった。


     ◇


 警戒設備は、すでに元へ戻っていた。


 倒れた容器は起こされ、紐も木片も元の位置にある。融合入口側の器には、小石が二つ増えていた。


「二体だから、二つ?」


 安全を確認した後、ヴィオラが壁門から顔を出した。


「記録としては一致しています」


 ミネットも器の中を確認する。


 石製ゴーレムは、警戒設備の横で動きを止めていた。少し前まで戦闘が起きていたのに、魔物へ近づこうともしない。


「ちゃんと動いたのに、何も助けてくれないんだ」


 ヴィオラが言った。


「助けるようには決めていません」


「目の前で襲われていても?」


「状況を理解しているとは確認できていません。仕掛けを戻し、通過数を残す。それだけです」


 千代が二つの小石を見る。


「失敗ではない。頼んでおらぬ仕事をしなかっただけじゃ」


 警報は鳴った。どちら側から来たのかも分かった。仕掛けも戻され、通過数も残っている。


 頼んだ仕事は、全部終わっている。


 淡い人型ゴーレムも、事前に決められた範囲で魔物を止めた。


 それでも、足りないものがあった。


「エウリオ、来ないな」


 俺は固定前室門を見る。


「警報が鳴ったことを知らないのではありませんか?」


 ミネットが答えた。


「音が届くのは、この周辺だけです。石製ゴーレムにも、エウリオさんへ報告する手順はありません」


「でも、近くの街にいるんだろ?」


「近くにいることと、音が届くことは別です」


「……近くに住んでも、呼べなかったら来られないのか」


 街までの距離は短くなった。《万物迷宮》を通る必要もなくなった。


 けれど、異常が起きたことを知らなければ、移動を始めることもできない。


 エウリオが近くに住んだことで短くなったのは、来ると決めた後の時間だけだった。


     ◇


 エウリオが現れたのは、それからしばらく後だった。


 固定前室門の向こうから、黒い外套をまとった人型ゴーレムが入ってくる。その後ろを、エウリオが歩いていた。


 灰色の通路側からではない。借家から街へ出て、地上の地下入口を通ってきたのだろう。


 エウリオは、床に残った戦闘痕を見た。次に、動けなくした二体の魔物を見る。


「何か来たの?」


「見れば分かるだろ」


「二体?」


 エウリオは、融合入口側の器を確認した。


「小石も二つ。記録は合っているね」


「合ってる。でも、エウリオは今まで知らなかった」


「そうだね」


「警報、聞こえなかった?」


「僕の家まで聞こえるわけがないだろう?」


「昨日のうちに気づいてほしかった」


「実際に必要になったから、今確認できた」


 エウリオは淡い人型ゴーレムへ近づき、腕や脚を確認する。目立った損傷はないらしい。


「こちらも、決めたとおり動いたようだね」


「二体を止めた。でも、エウリオを呼びには行かなかった」


「呼びに行けとは設定していないからね」


「近くに住んだのに、呼べなければ来られないんだな」


 俺が言うと、エウリオは少しだけ考えた。


「そのようだ」


「今気づいた?」


「起きない問題まで全部考えるのは面倒だよ」


「起きる可能性はありました」


 ミネットが言う。


「可能性を全部並べれば、何も始められない」


 それも間違いではない。


 ただ、エウリオの場合は、考える必要がある問題まで同じ箱へ入れてしまうことがある。


「同じ役割の個体を、もう何体か置けばいい」


 エウリオが淡い人形を見ながら言った。


「そうすれば、僕が来なくても済む」


「それは、エウリオへ知らせる方法じゃないだろ」


「呼ばれなくても、全部終わっていれば問題ない」


「今回は二体だった」


 リゼが口を挟む。


「次に来るものが、同じ数、同じ強さとは限らない」


「数を増やせば、対応できる範囲も増えるよ」


「どこまで増やすつもりだ?」


「必要なだけ」


「必要な数が分からないと言っている」


 千代も頷く。


「それに、そなたの戦力を他者の領域へ常設する話でもある。便利だからと、その場で決めることではあるまい」


「警報すること、エウリオさんへ伝えること、侵入者を迎撃することは、それぞれ別です」


「三つに増やさないでほしい」


 エウリオが嫌そうに言った。


「最初から三つなんだよ」


 人型ゴーレムを増やす話は、そこで止めた。


     ◇


「じゃあ、警戒用の石の個体へ、知らせに行く仕事を追加する?」


「ここでは変えられるよ」


「これからも、設定を変えるたびにエウリオが来るの?」


 エウリオが石製ゴーレムを見る。


「その個体を、僕の家まで持ってくればいい」


「俺たちが?」


「調整したいのは君たちだろう?」


「作ったのはエウリオだろ」


「所有者であることと、毎回取りに行くことは別だよ」


 また便利に使っている。


 ミネットは、言い回しではなく内容を確認した。


「それは、私たちがその個体を運んでもよいという許可ですか?」


「調整が必要な時だけなら」


「分解や、別の用途への転用は?」


「しないでほしい」


「調整後は、私たちが持ち帰る?」


「そうして」


 所有者はエウリオのまま。俺たちが自由に使える物になるわけではない。


「固定前室門を通れるの?」


 ヴィオラが聞いた。


「試せば分かる」


「危なくない方法でお願いします」


 エウリオが石製ゴーレムへ近づいた。


「今から少し運ばれる。警戒設備の仕事は、戻ってから再開する」


 石製ゴーレムから返事はない。


 俺が抱き上げる。見た目どおり、かなり重い。


「これ、毎回俺が運ぶの?」


「ナーヴァへ頼めば?」


「我なら片手で足りる」


「頼むかどうかは、その時に決める」


 抱えたまま、固定前室門へ一歩を踏み出す。


 拒まれなかった。


 俺も石製ゴーレムも固定前室へ入り、すぐ門前空間へ戻った。


「通れた」


 床へ下ろすと、石製ゴーレムは自分で警戒設備の横へ戻った。


「ゴーレムだから通れたのでしょうか」


「俺が持ってたから?」


「エウリオさんが許可したことも関係するかもしれません」


「今分かったのは、その条件で一度往復できたことだけだね」


 エウリオが言った。


 調整へ持ち出している間は、自動復旧も通過数記録も止まる。その間は俺たちが手動で警戒することにした。


     ◇


「でも、エウリオの家って街のどこだよ」


「外れの方」


「それだけで分かる?」


「魔道具士の看板を出しているから、見れば分かる」


「……もう看板まで出したの?」


「ゴーレムを連れている理由を、会う人全員へ説明する方が面倒だろう?」


 家を借りたと思ったら、その日のうちに看板まで出していたらしい。


「何て書いたの?」


「作業用魔道人形と魔道具の製作、調整」


「エウリオ、魔道具士だったの?」


「作業用ゴーレムを作って、調整して、直せる。こちらでは、それを魔道具士と呼ぶのだろう?」


「一般的な魔道具士と、同じ方法で作っているのですか?」


 ミネットが聞く。


「同じ方法とは言っていないよ」


 嘘ではない。でも、全部を話しているわけでもない。


「看板を出したら、仕事を頼まれない?」


「ほとんど受けないよ」


「それで看板を出す意味ある?」


「僕がゴーレムを連れている理由は説明できる。仕事を受けるかどうかは、別の話だろう?」


「看板があるのに仕事を断るんだ」


 ヴィオラが面白そうに言った。


「値段を伝えれば、大半は帰るよ」


「そんなに高いの?」


「魔道具は、一般的に安価な物ではありません」


 ミネットが答えた。


「複雑な機能や希少な素材が必要であれば、さらに高くなることがあります」


「ゴーレムなら、素材も調整も必要になる」


 エウリオが続け、少しだけ言葉を切った。


「生成には、《怠惰石》も使うからね」


「……怠惰石?」


 聞いたことのない名前だった。


 けれど、すぐに《淫獄石》を思い出した。


「エウリオにも、石があるの?」


「あるよ」


「《無為宮の王》の?」


「僕の固有資源だね」


「何に使う?」


「ゴーレムを作る。役割を増やす。より複雑な判断をさせる。ほかにも使い道はある」


 エウリオは淡い人形と黒い人形を順に見た。


「高性能な個体ほど、必要になる石も多い」


「それ、どうやって増えるの?」


「その説明を始めると長い」


「短く」


 エウリオは少し考えた。


「僕が自分で繰り返さなくて済む仕組みを作ると、増えることがある」


「今の警戒ゴーレムみたいな?」


「あれで増えたかどうかまでは教えない」


「なんで?」


「所持数や増え方まで話す必要はないだろう?」


 そこは、エウリオ自身の情報だ。俺だって《淫獄石》のことを話していない。


 名前が似ているからといって、仕組みまで同じとは限らない。


 それでも、王の能力に結びついた石を持っているのは、俺だけではなかった。


「わざと高くして、仕事を断ってる?」


「必要な素材と石を使うのだから、高いだけだよ。安く受ければ、次も頼まれる。細かな特注を受ければ、修正が増える」


「じゃあ、どんな仕事なら受けるの?」


「長く同じ作業を続けられるもの。今ある仕組みを大きく変えずに作れるもの。あとは、金が必要な時」


「看板を出してるのに、客はいらないんだ」


「客が来ることと、仕事を受けることは別だよ」


「やっぱりミネットの言い方、便利に使ってるだろ」


「説明が短くなるからね」


「前にも、魔道具士をしてた?」


「似たことはしたよ」


「どこで?」


「今、その話も必要?」


「少し気になる」


「必要になったら話す」


 それ以上は答えなかった。


     ◇


 警戒ゴーレムの調整方法は決まった。


 設定を変えてほしい時には、俺たちがエウリオの借家へ持っていく。看板が目印になる。


 けれど、異常が起きたことを遠くへ知らせる方法は決まっていない。


「固定前室の上まで綱を通して、鐘を鳴らせないかな」


 俺が言うと、エウリオが固定前室門を見る。


「できるかもしれないね」


「じゃあ、エウリオに――」


「嫌だよ」


「まだ何を頼むか言ってない」


「これ以上、僕の仕事を増やす話だろう?」


「でも、鐘があればエウリオにも知らせられる」


「僕へ知らせるために、僕が新しい仕組みを作るの?」


「そうなるけど」


「なら、知らないままでいい」


「言い切ったな」


 エウリオは石製ゴーレムを指した。


「警報を鳴らす。どちらの入口で作動したかを分ける。仕掛けを戻す。通過した数を残す」


 次に、淡い人型ゴーレムを見る。


「融合入口から来たものを止める」


「うん」


「設定を変えたいなら、僕の家へ持ってくれば調整する」


「うん」


「僕は、もう十分に仕事を減らす仕組みを渡した」


 エウリオが俺を見る。


「その先まで僕へ任せるなら、君たちの仕事を僕へ移しているだけだよ」


 言い返そうとして、止まった。


 一理ある。


 門前空間は《淫獄》の一部だ。固定前室と地上入口には、探索者組合も関わっている。


 エウリオが仕組みを作れるからといって、ここで起きる問題を全部任せていいわけではない。


「分かった」


 俺が言うと、エウリオが少し目を開いた。


「……それだけ?」


「今まで手伝ってくれた分だけでも、かなり助かってる」


 石製ゴーレムを見る。


「警報を戻すのも、侵入数を残すのも」


 淡い人型ゴーレムは、すでに融合入口側の定位置へ戻っている。


「人形が戦ってくれたのも」


 エウリオへ向き直る。


「ありがとう」


 エウリオは答えなかった。


 いつもの眠そうな顔のまま、俺を見ている。


「それで終わり?」


「断ったんだから、これ以上は頼まないよ」


「できるのに?」


「できることと、やらなきゃいけないことは別だろ」


「君まで、その言い方をするんだね」


「便利だから」


 エウリオが、ほんの少しだけ息を吐いた。


 呆れたのか、笑ったのかは分からなかった。


「その石の個体は、試験が終わっても置いておいていいよ」


「いいの?」


「今さら持ち帰って、別の仕事を設定する方が面倒だから」


「それ、本当の理由?」


「理由を増やす必要がある?」


 声が、少しだけ柔らかくなったように聞こえた。


 気のせいかもしれない。


「鐘は作らない」


「うん。探索者組合に相談する」


「ただ、今の警戒設備が何をして、何をしないかくらいは書いておくよ」


「それも仕事じゃない?」


「一度書けば、君たちが同じ説明を何度もせずに済む」


「俺たちの手間を減らすため?」


「間違った説明をされて、あとで僕へ確認が来るのを防ぐためだよ」


 結局、自分のためらしい。


 でも、それだけではない気もした。


 追及はしなかった。


     ◇


 石製ゴーレムは、期限を決めずに借り続けることになった。


 設定変更が必要になれば、俺たちがエウリオの家へ持っていく。


 人型ゴーレムは増やさない。新しい伝令用ゴーレムも作らない。


 警鐘については、探索者組合と相談する。


 エウリオは、設備の現状と限界だけを書面にする。鐘そのものを作る仕事は引き受けない。


 決めた後、エウリオは黒い人型ゴーレムを伴い、固定前室門へ向かった。


 門を越える直前に、こちらを見る。


「君は、頼めることを全部頼まないんだね」


「断られたら止めるだけだよ」


「それができない人は多いよ」


 それだけ言って、エウリオは固定前室へ出た。


 来た時より、少しだけ話しやすそうに見えた。


 断られても、俺たちの関係が遠くなったとは思わなかった。


 エウリオは鐘を作らず、自分で選んだ分だけ、もう少し手を貸してくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。