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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

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第134話 帰るのが面倒になった



 昨夜、話が終わると、エウリオは邸宅の寝具を使わず、門前空間の吊り寝台へ戻った。


 泊まっていけばいいと言ったのだが、返ってきたのは、


「寝る場所を変えると、朝に確認することが増えるから」


 という答えだった。


 結局、俺たちは壁門を閉じ、エウリオはゴーレムたちと門前空間に残った。


 そして翌朝。


 壁門を開けると、吊り寝台の上から声が飛んできた。


「遅いね」


「起きてたの?」


「今、起きた」


「じゃあ遅くないだろ」


 エウリオは返事をせず、寝台の上で片手だけを持ち上げた。


 融合入口側には淡い色の人形。壁門側には黒い人形。残る小型ゴーレム三体は吊り寝台のそばにおり、試験中の石製個体だけが警戒設備の横に立っている。


 昨夜から配置は変わっていないように見えた。


「警報は?」


 俺が聞くと、ミネットが二つの器を確認した。


「固定前室門側に、小石が二つあります」


「昨日の巡回者の行きと帰りだな」


「はい。融合入口側にはありません」


 紐も木片も元の位置へ戻っている。石製ゴーレムにも、目立った損傷はなかった。


 試験結果と、俺たちが見た出来事は一致している。


「一日目は問題なし?」


「確認できた範囲では、決められた作業を行っています」


 ミネットは言い直した。


「問題がないことまで確認できたわけではありません」


「分かってる」


「それならよいです」


 エウリオが寝台の上で目を閉じたまま言う。


「試験は終わり?」


「一日だけって話だったから、続けるならもう一度決める」


「外すの?」


「外してほしいの?」


「外して、また必要になって、もう一度設定するのは面倒だね」


 千代が警戒設備を眺める。


「今のところ、記録と実際の食い違いはない。役割も増えておらぬ。数日、同じ条件で続けてみてもよかろう」


「俺もそれでいいと思う。エウリオは?」


「動かさなくていいなら、それでいいよ」


 試験期間だけを延ばす。


 役割は変えない。


 融合入口と固定前室門のどちらかで仕掛けが動けば、決められた音を鳴らす。仕掛けを戻し、入口ごとの器へ小石を一つ入れる。


 戦わない。追わない。人物や会話を記録しない。壁門の内側へ入らない。


 変更が必要なら、エウリオ本人がここへ来て設定し直す。


「これで、また何日か来る必要があるのか」


 条件を確認した後、エウリオが呟いた。


「記録を見るならね」


「《万物迷宮》を通って?」


「今のところは」


 エウリオは灰色の通路を見る。


 昨日までと違い、そこに何がいるのかを俺たちは少しだけ知っている。


 命や物を奪おうとする魔物。


 強欲を止められなくなった王。


 エウリオが通ってきたからといって、安全な道になったわけではない。


「帰る時も、あそこを通るんだよな」


「そうだね」


「危なくないの?」


「危ないよ」


「普通に言うんだ」


「危なくないと言っても、魔物は消えないからね」


 淡い色の人形がいる理由も、それなのだろう。


 エウリオ自身が戦う代わりに、危険へ対応するものを連れている。


「ここへ来るたびに、あの通路を通るの?」


「それが面倒なんだ」


「危険じゃなくて?」


「危険だから、余計に手順が増える」


 護衛を動かす。


 安全な経路を選ぶ。


 途中で何か起きれば対処する。


 吊り寝台に乗っていても、移動そのものが消えるわけではないらしい。


「この近くに、街はある?」


 唐突にエウリオが聞いた。


「あるけど」


「歩いて行ける?」


「地下入口からなら行ける。俺たちが組合へ行ってる街」


「なら、そこに住む」


「……誰が?」


「僕が」


 エウリオは、寝台から起き上がる気配もなく言った。


     ◇


「街に住むって、《無為宮》を出るの?」


「出ないよ」


「でも家を借りるんだろ?」


「そう」


「どっちに住むんだ?」


「《無為宮》」


 話が合っているようで、合っていない。


 エウリオはようやく身体を起こし、吊り寝台の縁へ腰を下ろした。


「街で家を借りる。その家の玄関を、《無為宮》へつなぐ」


「玄関を?」


「普段は普通の家として使える。必要な時だけ、扉の先を《無為宮》へ変える」


「そんなことができるの?」


「前にも似た使い方はしたよ」


 ミネットがすぐに記録帳を開く。


「物理的に扉や建物を作り変えるのですか?」


「前に試した場所では、目に見える損傷は残らなかった」


「接続中、外側から扉を開けた場合は?」


「設定による」


「誰でも通れますか?」


「それも入口の設定と、つないだ先による」


「《淫獄》の入口と同じ仕組み?」


「似た使い方ができるだけで、同じとは限らないよ」


 そこはエウリオも分けるらしい。


 便利そうではある。


 街の家から自分の領域へ帰れるなら、毎回《万物迷宮》を通る必要はなくなる。


 警戒設備を確認したい時も、街から地下入口へ来ればいい。


「それ、いつやるつもり?」


「家を借りたら」


「すぐ?」


「後回しにする理由がある?」


 俺は、門前空間を見回した。


 一方には《万物迷宮》へ続く融合入口。


 もう一方には、固定前室へ続く門。


 壁門の向こうには、《淫獄》の敷地と邸宅がある。


 入口同士が近づいただけで、二つの領域は融合した。


 そのすぐ近くの街へ、今度は《無為宮》の入口を作ろうとしている。


「待って」


「何を?」


「《無為宮》をつなぐのは」


 エウリオが、分かりやすく嫌そうな顔をした。


「家を借りるのは、エウリオが決めればいい。でも、入口を作る前に少し考えたい」


「何を?」


「また領域同士がくっつかないか」


「離れた街だよ」


「どのくらい離れれば影響しないか、分かってる?」


「分からない」


「《万物迷宮》も近くにある」


「あるね」


「三つが近くなっても、何も起きない?」


「起きないとは言えない」


 そこは迷わず認めた。


「なら、先に確認しよう」


「誰へ?」


「少なくとも、街へ行く前に俺たちで話す。探索者組合にも、灰色の通路から来た人がいることは伝えないといけない」


「長くなりそうだね」


「街の人を巻き込むかもしれないんだぞ」


「分かったよ」


 返事は早かった。


 納得したのか、反論が面倒になったのかは分からない。


     ◇


 まず、エウリオが現地世界側へ出られるかを確認した。


 エウリオは吊り寝台から下りた。


 固定前室門の前に立ち、何のためらいもなく一歩を踏み出す。


 身体は拒まれなかった。


 そのまま固定前室へ入り、こちらへ戻ってくる。


「通れたね」


「王だから?」


「分からない」


「人間だから?」


「それも分からない」


「夜斗さんが認めたからでしょうか」


 ミネットが聞く。


「今分かったのは、僕が通れたことだけだよ」


 エウリオ本人が、一番早く話を止めた。


 固定前室門を通れたことと、安全に街で暮らせることも別だ。


 身元も、この世界での立場も、借りられる家があるかも分からない。


 それでもエウリオは、もう街へ行くつもりらしい。


「今日はどうするの?」


「帰る」


「《万物迷宮》を通って?」


「その予定だった」


 エウリオが灰色の通路を見る。


「でも、また近いうちに戻ってくるなら、帰るのも面倒になってきた」


「じゃあ、ここに泊まる?」


「寝台ごと入っていいなら考える」


 壁門の内側へ入れるかは、俺一人で決めることではない。


 皆を見る。


 条件付きで、一時的に滞在することなら反対は出なかった。


 ただし、勝手に部屋を調べない。能力を使わない。ゴーレムを増やさない。融合入口に異常があればすぐ共有する。


 今夜すぐ邸宅へ泊まると決めたわけではない。


 エウリオはしばらく条件を聞き、最後に吊り寝台へ戻った。


「考えておくよ」


「街の家も?」


「それは借りる」


「接続は待って」


「分かっているよ」


 そう答えたエウリオは、すぐに目を閉じた。


 エウリオは、《無為宮》へ帰るのをやめたわけではなかった。


 帰るために、まず近くの街で家を借りようとしていた。


 楽をするための仕事は、警報を作った時より増えていた。

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