第133話 同じ地球じゃない
「今、地球って言った?」
「言ったけど」
エウリオは、どうして俺が話を止めたのか分からないようだった。
聞き間違えるはずがない。
地球。
魔法も、魔物も、ダンジョンもなかった、俺が元いた世界の名前だ。
「どこの地球?」
「その質問には、どう答えればいいのかな」
「国は? どこに住んでた?」
「その前に、君はどうして地球を知っているの?」
「俺も地球から来たからだよ」
エウリオの目が、わずかに開いた。
普段なら、それだけでも大きな反応だった。
「それは、先に言ってほしかったな」
「お前も言ってなかっただろ」
「聞かれなかったから」
「俺だって聞かれてないよ」
「では、お互いに説明が足りなかったということだね」
椅子の背もたれへ預けていた身体を、エウリオが少しだけ起こす。
それを見ただけで、俺まで胸がざわついた。
同じ地球から来た人間。
ようやく会えたのかもしれない。
「俺は日本にいた。日本は分かる?」
「ニホン」
エウリオは、確かめるように繰り返した。
「それは国の名前?」
「そう」
「知らないな」
「有名じゃなかったとか?」
「僕が知らない可能性はあるよ。世界中の国名を覚えていたわけではないから」
「じゃあ、お前の国は?」
エウリオが答えた名前は、俺の知らないものだった。
名前そのものに心当たりがない。
「どの辺りにあった?」
「西側の大陸。海に面した地域だよ」
「広すぎるな」
「詳しく説明するなら、地図が欲しい」
「今はない」
「なら、後でいい」
「後でにするな。同じ地球かもしれないんだぞ」
「同じなら、急がなくても変わらないよ」
「気になるだろ、普通」
「君が二人分気にしているから、今は足りている」
こいつは、こんな時までこいつだった。
◇
「エウリオさんが暮らしていた地域では、どのような言葉を使っていたのですか?」
ミネットが尋ねた。
「英語だよ」
「英語?」
俺はエウリオを見る。
「英語って呼んでたのか?」
「そう呼んでいたけれど、君の知っているものと同じかは分からない」
「俺の地球にも英語はあった」
「では、そこは同じかもしれないね」
「じゃあ、こっちの言葉はいつ覚えた?」
「覚えた記憶はないよ」
「俺もない」
この世界へ来た時から、俺は今の言葉を使えていた。
文法を習ったこともない。
単語を覚えたこともない。
それでも、ファステたちとは最初から話せた。
「今は、英語じゃないよな?」
エウリオが少し黙った。
「……そうだね」
「今気づいたのか?」
「使っている言葉を、わざわざ確認していなかったからね。言いたいことがそのまま伝わっていた」
「俺も日本語で話してるつもりだった」
「お二人とも、今は同じ言葉を使っています」
ミネットが言った。
「少なくとも、私にはそう聞こえます」
「俺にも、エウリオが俺と同じ言葉で話してるように聞こえる」
「僕にもそう聞こえているよ」
「英語で話せる?」
「たぶん」
エウリオが、短い言葉を口にした。
今までとは音が違った。
俺にも聞き覚えのある英語だった。
流暢すぎて細部までは拾えない。それでも、何を言っているのかは普通に分かった。
「今の意味は?」
「僕の言葉が理解できるか、と聞いた」
「分かる」
「私にも分かりました」
ファステが答えた。
リゼたちも同じだった。
「英語を習ったことは?」
俺が聞くと、ファステは首を横へ振る。
「ありません」
「私もです」
レイナも知らない。
千代もヴィオラも、英語という言葉自体を今初めて聞いたらしい。
ナーヴァだけは、何を問題にしているのか分からない顔をしていた。
「意味が通じておるなら、それでよいではないか」
「よくありません」
ミネットはすでに記録帳を開いていた。
「知らない言語の意味を、学習せず理解できています」
「通じぬよりはよかろう」
「便利であることと、仕組みを理解していることは別です」
「また別か」
「今回はかなり重要です」
「じゃあ、俺が日本語で話しても通じる?」
意識して、日本語の短い言葉を口にしてみる。
久しぶりに使ったはずなのに、喉も舌も迷わなかった。
「分かった?」
「分かったよ」
エウリオが答えた。
「何て言った?」
「今日は疲れた」
「合ってる」
「音は、普段の言葉とは違いました」
ミネットが言う。
「ですが、意味は理解できました」
現地の言葉。
英語。
日本語。
使っている音が違っても、意味は通じる。
この世界そのものの働きなのか。
転移した時に与えられたものなのか。
別の何かが関係しているのか。
何も分からなかった。
「話す方がそうなら、文字は?」
俺が言うと、ミネットが紙と筆記具を差し出した。
「確認しますか?」
「うん」
エウリオが受け取る。
「英語で何か書いてみて」
「何を書けばいい?」
「今のと同じでいいよ」
エウリオが紙へ筆記具を下ろした。
並んだのは、俺にも見覚えのある英字だった。
俺の知っているものと、ほとんど変わらない。
短い文章なので、俺でも読めた。
「英語だ」
「同じ文字を知っているの?」
「俺の地球にもあった」
紙を覗き込んだミネットが、慎重に尋ねる。
「この文字は、こちらで使われているものとは違いますよね?」
「違う」
「ですが、内容は分かります」
ファステも紙を見た。
「私にも分かります。エウリオ様が疲れている、と書かれています」
「英語は読める?」
「いいえ。今まで見たことのない文字です」
「なのに意味は分かる?」
「はい」
ほかの皆にも確認した。
文字の形は知らない。
書き方も分からない。
それでも、文章の意味だけは理解できる。
「では、夜斗さんもお願いします」
筆記具を受け取り、俺は日本語で同じ内容を書いた。
漢字とひらがな。
紙には、俺が書いたとおりの文字が残った。
エウリオがそれを見る。
「意味は分かるよ」
「日本語を読めるのか?」
「文字の読み方は知らない。でも、何が書かれているかは理解できる」
「同じ字を書ける?」
「無理だと思う」
エウリオが俺の文章を写そうとする。
形を一つずつ真似ることはできた。
しかし、それは文字を覚えて書いているというより、見えた線を図形として写しているだけだった。
「今書いた字の意味は?」
「写した部分だけを見ても分からないね」
「元の文章なら分かるのに?」
「そうみたいだ」
ミネットの筆が止まらない。
「文章として書かれたものには、意味を理解させる何らかの補助が働く可能性があります」
「文字が変わってるわけじゃないんだな」
「はい。英語と日本語は、見た目が明らかに異なります。現地の文字にも変化していません」
「読めるようになったわけでもない?」
「意味を理解できることと、その言語の読み書きを習得したことは別です」
「便利だな、その言い方」
エウリオが言う。
「エウリオまで使い始めないでください」
「僕は前から似たような分け方をしていたよ」
次に、エウリオが元の世界にあった会社の名前を書いた。
英字はそのままだ。
俺にも名前の読み方は何となく分かった。
だが、それが何を作る会社なのかは分からない。
「名前であることは分かる。でも、知らない名前だ」
「僕の地球では有名だったよ」
「会社のことまで頭に入ってくるわけじゃないんだな」
「固有名詞を読めることと、その名前が示す対象を知っていることも別です」
「今日は何回別になるんだ?」
「必要な回数です」
文章なら、意味が分かる。
固有名詞も、名前として読むことはできる。
けれど、知らないものを知っていることにはならない。
言葉も文字も通じるのに、互いの世界の知識までは共有されない。
それがなぜなのかは、何も分からないままだった。
◇
「言葉と文字だけでは、同じ地球か判断できないな」
「最初から、それだけで判断するつもりだったの?」
「じゃあ、歴史を比べるか」
「どこから?」
「大きな戦争とか。有名な国とか。あとは宇宙開発とか」
「年代を一つずつ確認するの?」
「ほかに何があるんだよ」
「もっと覚えているものにしよう」
エウリオが、また背もたれへ身体を預けた。
「ゲームとか」
「それだ」
「決まるのが早いね」
「歴史の年号より覚えてるからな」
まず、俺が元の世界で有名だったゲームの名前をいくつか挙げた。
エウリオは、どれにも反応しなかった。
「一つも知らない?」
「知らないね」
「本当に?」
「知っているのに、知らないふりをする理由がない」
「じゃあ、そっちで有名だったのは?」
今度はエウリオが題名を挙げる。
俺には一つも分からなかった。
似た遊び方のものはある。
剣と魔法の世界を旅するもの。
町を作るもの。
乗り物で速さを競うもの。
小さな生き物を集めて戦わせるもの。
けれど、名前も登場人物も違っていた。
紙へ題名を書いてもらっても同じだ。
文字として読むことはできる。
名前であることも分かる。
それでも、どんな作品なのかまでは伝わらない。
「この世界へ来る前まで、続編が何本も出ていたんだよ」
「そんなに有名なのに、俺は聞いたこともない」
「僕も、君が挙げたものは一つも知らない」
「時代が違うだけじゃない?」
ヴィオラが口を挟む。
「古いゲームと新しいゲームなら、知らなくてもおかしくないでしょ」
「それはある」
俺たちが元の世界にいた年代を確かめる。
数字の数え方は通じた。
季節も、一年の長さも、大きくは違わないようだった。
だが、互いの言う年を比べても、何十年も離れているわけではない。
「じゃあ、映画は?」
「映像作品のことならあったよ」
「漫画は?」
「似た形式のものはあった」
「有名な作品は?」
また名前を出し合う。
やはり、一つも一致しなかった。
「歴史を見るまでもなくないか?」
「まだ早いと思います」
ミネットが止めた。
「作品名が一致しないことだけで、世界が違うとは断定できません」
「でも、これだけ一つも通じないんだぞ」
「娯楽が地域ごとに大きく異なっていた可能性もあります」
「ミネットは正しいよ」
エウリオが言う。
「だから次は、食べ物にしよう」
「結局、俗っぽい方へ行くんだな」
「僕は年号を覚えるために生きていなかったからね」
◇
「ハンバーガーは?」
「あった」
「ピザ」
「あったよ」
「炭酸飲料」
「あった」
「揚げた鶏肉」
「あったね」
「湯を入れて待てば食べられる麺」
「僕の地球にもあった」
「かなり似てない?」
「似ているね」
店の名前を聞く。
それは一つも一致しなかった。
味の種類も、人気の組み合わせも少しずつ違う。
けれど、肉を焼いてパンで挟む。
薄く伸ばした生地へ具と乳製品を載せて焼く。
乾燥させた麺へ湯を入れ、短い時間で食べられるようにする。
大まかなところは同じだった。
「ピザに甘い果物を載せる店は?」
「あったよ」
「そこは同じなのか」
「僕の地球でも、載せるかどうかで争っていた」
「そこまで同じなのかよ」
リゼが眉を寄せた。
「食えるなら、好きな方を食えばいいだろ」
「そういう話じゃない」
俺とエウリオの声が重なった。
今度はリゼが黙った。
「同じ地球なんじゃない?」
ヴィオラが笑う。
「今のはちょっと思った」
「争うほどのことではなかろう」
ナーヴァまでリゼと同じ側だった。
「ナーヴァは肉が載ってれば何でもいいだろ」
「肉が多い方がよい」
「ほら」
「では、果物を減らして肉を増やせば解決だな」
「解決してない」
食事を家まで運ぶ仕組みも、両方の地球にあった。
決まった時間まで開いている店もある。
硬貨や紙ではなく、数字だけで支払える仕組みもあった。
似ている。
なのに、その仕組みを作った会社も、使っていた道具の名前も一致しない。
「手のひらに収まる通信機器は?」
「あったよ」
「画面に触って動かす?」
「そう」
「写真も撮れる?」
「撮れる」
「動画も見られる?」
「見られる」
「それなのに、会社の名前が一つも違うのか」
「君の知っている会社は、僕の地球にはなかったんじゃないかな」
「そっちの会社も、俺は知らない」
ここまで似ていて、ここまで違う。
ただ別の国にいただけでは、説明しにくくなってきた。
◇
「ゲームに、お金を払って中の物を得る仕組みはあった?」
エウリオが聞いた。
「もちろん」
「もちろんなんだ」
「一回ごとに抽選して、何が出るか分からないやつは?」
「似たものはあったよ」
俺は思わず身を乗り出した。
「そっちにもガチャがあったのか?」
「ガチャとは呼んでいなかったけどね」
「何を引いてた?」
「引いていない」
「なんで?」
「欲しいものが確実に手に入らないから」
俺はエウリオを見た。
エウリオも俺を見る。
「……敵だな」
「何の?」
「ガチャは、何が出るか分からないからいいんだよ」
「欲しくないものが出たら?」
「次がある」
「またお金を払うの?」
「払わなくても貯められる分がある」
「貯めたものを使って、欲しくないものが出たら?」
「次こそ出るかもしれない」
「出なかったら?」
「その次がある」
「終わらないね」
「出たら終わる」
「別の欲しいものが追加されたら?」
「……新しく始まる」
「終わっていないよ」
反論しようとして、言葉が出なかった。
顔を上げると、全員が俺を見ていた。
「なんで皆、俺を見るんだよ」
「いえ」
ファステが視線を逸らす。
「夜斗らしいと思っただけだ」
リゼは逸らさなかった。
「分かりやすいですわね」
レイナまで微笑んでいる。
ヴィオラは完全に笑っていた。
「何が?」
「別に?」
「その別は使い方が違うだろ」
千代は、俺とエウリオのやり取りを聞いて小さく息を吐いた。
「エウリオ殿は、賭け事を好まぬのか?」
「結果が分からないことへ資源を使うのは好きではないね」
「先の分からないものに賭けるから面白いんじゃない?」
ヴィオラが言う。
「面白さのために手順と損失を増やしたくない」
「人生がつまらなくならない?」
「面白くするために損をする必要はないよ」
「敵だね」
「今度は何の?」
「私の」
エウリオは返事をしなかった。
話すこと自体が面倒になったらしい。
◇
それでも、会話は終わらなかった。
元の世界で、一番恋しい物は何か。
俺が聞くと、エウリオは少し考えた。
「温度を自動で保つ寝具」
「もっとあるだろ」
「起きなくても食事が届く仕組み」
「食べる時は起きるだろ」
「受け取りに行かなくて済む」
「ほかは?」
「勝手に床を掃除する道具」
「お前、元の世界でも今と同じだったんだな」
「今より便利だったから、今ほど仕組みを作る必要はなかったよ」
エウリオは、《無為宮の王》になったから何もしたくなくなったわけではないらしい。
元から、繰り返す作業を嫌っていた。
話せば話すほど、《無為宮》でやっていることの元が見えてくる。
「便利な世界だったのですね」
ファステが言った。
「便利だったよ」
「それでも、面倒なことはあったのですか?」
「便利になると、それまで我慢していたことまで面倒に感じるようになるからね」
「贅沢な話だな」
リゼが呆れる。
「否定はしないよ」
レイナは服を、ファステは安い料理を、ヴィオラは賭博を聞いた。千代は遠くの相手と話す仕組みを、ミネットは魔法なしで動く機械を尋ねた。
ナーヴァだけは、途中から不思議そうな顔をしていた。
「それほど便利な世界から来たというのに、なぜ不満の話ばかりなのだ?」
「住んでる時は、便利なのが普通だったから」
俺が答える。
「なくなってから、便利だったって分かった物も多い」
「失ってから価値へ気づいたということか」
「そう言われると重いな」
「事実であろう」
「そうだけど」
俺は、元の世界の話をこれほどしたことがなかった。
聞かれれば答えることはあった。
だが、通信機器も、動画も、ゲームも、課金も、最初から説明しなければ伝わらない。
説明してまで話したいほど大事なことでもなかった。
エウリオには、細かな説明をしなくても大まかな形が通じる。
名前は違う。
作った会社も違う。
中で流行っていた作品も違う。
それでも、似たものがあったことだけは分かる。
◇
国の名前は一致しなかった。
有名な人物も違った。
大きな戦争の時期も、起きた場所も噛み合わない。
宇宙へ人を送った国も違う。
通信機器が広まった順番も違う。
年代が少しずれているだけでは説明できなかった。
「同じ名前の、別の世界なんじゃないかな」
エウリオが言った。
「地球が二つあるってこと?」
「少なくとも、僕らがいた場所を同じ地球だと考える方が難しいね」
「似てるところは多いのに?」
「似た別のものは、似ている部分が多いから別ではない、とはならないだろう?」
「またそれか」
「便利な考え方だよ」
ミネットが少しだけ複雑そうな顔をした。
「では、複数の地球が存在すると考えてよいのでしょうか」
「僕らの故郷が同じではなさそうだ、というところまでだね」
エウリオが答える。
「ほかにもあるかは知らない。なぜ似ているかも分からない。僕らの記憶のどちらかが間違っている可能性だって、完全には消せない」
「でも、同じ地球じゃないと思ってる?」
「今のところは」
俺も同じだった。
同じ地球から来た人間に、ようやく会えた。
一度はそう思った。
少しだけ、残念だった。
エウリオが知っている地球へ行っても、俺の住んでいた町はない。
俺が知っている誰かもいない。
元の世界へ戻る方法につながる保証もない。
「落ち込んでいるの?」
「ちょっとだけ」
「同じ地球だったとしても、僕は帰り方を知らないよ」
「分かってる」
「なら、確認できたことが増えただけだ」
「ミネットみたいになってきたな」
「それは褒めている?」
「今のところは」
エウリオは小さく息を吐いた。
◇
「まだ聞くの?」
しばらくして、エウリオが言った。
「嫌ならやめるけど」
「同じ説明を、別の機会にもう一度する方が面倒だ。今日まとめて話そう」
「じゃあ、元の世界で一番遊んだゲームは?」
「それは、さっき話した」
「どんなところが面白かったかは聞いてない」
「それも必要な確認?」
「もう確認じゃない」
「そう」
「嫌?」
エウリオは、少しだけ間を置いた。
「今さら別の話を始めるよりは楽だね」
そこから、さらに話した。
学校で流行っていた遊び。
安い店でよく食べたもの。
夜中まで動画を見て、次の日に後悔したこと。
途中でやめたゲーム。
課金してから、別の使い道を思い出したこと。
面倒だった仕事。
なくても困らないと思っていた道具。
なくなって初めて不便だと気づいた物。
どちらの地球にも似たものはあった。
けれど、同じ名前はほとんどなかった。
「地球の話、まだ続いてるの?」
ヴィオラが呆れたように聞いた。
「続いてる」
「さっきから食べ物とゲームの話しかしてないけど」
「地球にあったものの話だ」
「もっとすごい話はないの?」
「すごい話って?」
「世界の秘密とか、空を飛ぶ巨大な船とか」
「飛行機ならもう話した」
「それじゃなくて、もっとこう……」
「俺たちにとっては、安い飯の方が身近だったんだよ」
「地球人、思ったより地味だね」
「勝手に期待したのはヴィオラだろ」
エウリオが欠伸をした。
それでも、会話を終わらせようとはしなかった。
俺たちがいた地球は、同じ場所ではなかった。
元の世界で使っていた言葉も、文字も違っていた。
けれど、この世界では、そのどちらも意味が通じた。
それでも、安い飯とゲームと課金の話は通じた。
知っている名前は違うのに、後悔するところまでよく似ていた。
その夜、俺たちは二つの地球にあった、どうでもいいものの話をずっと続けた。




