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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

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第132話 楽をするための仕事

「仕事を増やさない方法って、具体的に何?」


 俺が聞くと、エウリオは椅子の背もたれへ身体を預けたまま答えた。


「まず、君たちは灰色の通路をずっと見張っているんだろう?」


「交代でね」


「何も来ない時間も?」


「来るかどうか分からないから」


「それをやめればいい」


「やめたら、魔物が来ても分からないだろ」


「誰かがずっと見ていることと、何かが来た時に気づけることは別だよ」


 ミネットが記録帳から顔を上げた。


「現在の簡易警戒設備と同じ考え方ですか?」


「たぶんね。まだ詳しく見ていないけれど、紐と容器を使って音を出していたものだろう?」


「うん」


「あれ自体は悪くない」


 エウリオが、少しだけ目を開く。


「ただ、作動した後は誰が戻すの?」


「俺たち」


「壊されたら?」


「俺たちが直す」


「どちらの入口から来たかは?」


「音だけじゃ分からない」


「誤作動かどうかを確かめるのは?」


「……俺たち」


「仕事が残りすぎている」


 はっきり言われた。


「仕組みを作ったのに、その仕組みを見張る人が必要なら、まだ仕事が残っている」


「でも、何でも自動にできるわけじゃないんだろ?」


「何でもする必要はないよ」


 エウリオは片手を持ち上げ、指を一本立てた。


「何かが通ったら音を鳴らす」


 二本目。


「どちらの入口から来たかを、音の違いで知らせる」


 三本目。


「作動した仕掛けを元へ戻す」


 四本目。


「通った回数だけ残す」


 そこで手を下ろす。


「同じことを毎回繰り返すだけなら、僕がやる必要はない」


「俺たちがやる必要もなくなる?」


「その部分だけはね」


 全部ではない。


 魔物かどうかを確かめること。


 危険なら戦うこと。


 探索者組合から人が来た場合に応対すること。


 それまで自動で終わるわけではないらしい。


「何を置くつもりだ?」


 リゼが聞く。


「小型の作業用ゴーレムを一体」


「外にいた四体のうちの一体か」


「石で作った個体が、今回の作業には合っている」


「戦えるの?」


 ヴィオラの質問に、エウリオは首を横へ振った。


「戦わせないよ」


「弱いから?」


「戦うための手順を持たせていないから」


「持たせれば戦える?」


「作り直す部分が増える。それに、警報と迎撃を同じ個体へ任せれば、戦って壊れた時に警報まで止まる」


 エウリオがリゼを見る。


「知らせることと、倒すことは別にした方がいい」


「その方がよいな」


 千代が頷いた。


「敵を倒せぬとしても、来たことが分かれば備えられる」


「我が倒せばよい」


 ナーヴァが腕を組んだまま言う。


「毎回ナーヴァにやらせるとは決めないよ」


「必要なら呼べ」


「うん。必要なら頼む」


 ナーヴァはそれで納得したらしい。


 エウリオへ視線を戻す。


「それで、その小さいのを我らの門へ置くのか」


「許可されるなら」


「勝手には置かないんだ」


 俺が言うと、エウリオがわずかに眉を動かした。


「勝手に置けば、あとで撤去されるかもしれない。説明と作り直しが増える」


「結局、面倒だからなんだ」


「ほかに必要な理由がある?」


     ◇


 便利そうではある。


 だが、すぐに置いていいとは思えなかった。


「そのゴーレムを置いたら、エウリオには何が見える?」


 リゼが最初に確認した。


「何も」


「本当に?」


「今回使う個体に、遠くの景色を僕へ送る機能はないよ」


 ファステとミネットが確かめると、残すのは二つの入口を通った回数だけだった。会話、姿、持ち物は記録せず、壁門の内側にも入れない。


 エウリオは、壁門の内側を見せろとも言わない。


「でも、持ち主はエウリオなんだよね」


 俺が聞く。


「そうだよ」


「ここに置いても?」


「置いた場所で所有者が変わる理由はない」


 ナーヴァがわずかに頷いた。


「当然だな」


 自分の金を別に管理し始めたばかりのナーヴァには、分かりやすい話だったらしい。


「じゃあ、俺たちが勝手に分解したり、別の場所へ持っていったりはできない?」


「やめてほしい」


「エウリオも、勝手に役割を増やさない?」


「君たちの生活場所の前に置くなら、その方がいいだろうね」


「外からエウリオが命令を変えることは?」


「できないよ。この個体の手順を変えるなら、僕がここまで来て設定し直す必要がある」


「離れた場所から、勝手に役割を増やすことはできない?」


「できない」


 それなら、知らない間に監視範囲を広げられる心配はない。


 エウリオが変更するには、もう一度ここへ来なければならなかった。


「なら、ずっと置くかは試してから決める」


 俺が言う。


「まず、一体だけ。門前空間だけ。期限を決めて試す」


「期限は?」


「一日」


 千代が答えた。


「一日動かし、記録と実際に起きたことを比べる。その後、続けるかを改めて決めればよい」


「一日だけのために設定するの?」


 エウリオが、少し嫌そうな顔をした。


「他人の眷属を家の前へ置くのじゃ。それくらいは当然であろう」


「問題がなければ、そのまま続ける可能性は?」


「ある。ただし、自動では決めぬ」


「分かったよ」


 エウリオは諦めたように息を吐いた。


 ミネットが、条件を一つずつ書き始める。


「行動範囲は門前空間のみです」


「うん」


「壁門を越えない」


「うん」


「確認するのは、融合入口と固定前室門の通過です」


「そう」


「人物の顔、声、会話、所持品は記録しない」


「必要ない」


「自動攻撃は行わない」


「させない」


「物品、魔物の死骸、落とし物を勝手に回収しない」


「それもさせない」


「役割の変更には、私たちの同意が必要です」


「分かった」


「故障した場合は?」


「触らずに知らせて。僕が確認する」


「知らせる方法は?」


「僕がここにいない時の話?」


「そうです」


「それは、まだ決めていない」


 エウリオが面倒そうにミネットの記録を見る。


「条件が増えていくね」


「最初に決めなかった場合、後で確認する仕事が増えます」


 少しの沈黙があった。


「それは、そのとおりだ」


 エウリオが負けた。


     ◇


 全員で門前空間へ戻った。


 壁門を開けると、六体のゴーレムは同じ場所で待っていた。


 吊り寝台は、小型四体に支えられたまま浮いている。


 淡い色の人型は融合入口側。


 黒い人型は壁門側。


 エウリオが外へ出ると、黒い人型がすぐに近づいた。


 けれど、俺たちへ攻撃する様子はない。


「警戒を戻していいよ」


 エウリオが言うと、黒い人型は少し離れた位置へ戻った。


 色の薄い人型も、融合入口を見たまま動かない。


「今の言葉も理解してるように見える」


「見えることと、実際に何を理解しているかは別だよ」


 ミネットが言いそうな返しだった。


 本人も一瞬だけエウリオを見る。


「その言い方、ここで流行ってるの?」


「少しだけ」


「便利だからね」


 エウリオが小型四体のうち、石でできた一体を指した。


「下ろして」


 四体が同時に身体を沈める。


 吊り寝台が、ゆっくりと床へ置かれた。


「その一体を使うの?」


「そう」


 石の小型ゴーレムだけが、寝台から離れた。


 残りの三体は、三つの角で止まっている。


「三体では運ばないのか?」


 ナーヴァが聞く。


「運べないとは言わないけれど、傾く」


「そなたが歩けばよい」


「今日は歩く時間が長いな」


「楽をするために来たのではなかったか?」


「将来の僕が楽をするために、今の僕が働いている」


「同じそなたではないか」


「時間が違う」


 ナーヴァは納得していない顔をした。


 エウリオは石のゴーレムを、警戒設備の近くへ連れていく。


「まず、今ある仕組みを全部見せて」


「見るだけで分かる?」


「分からない部分は聞くよ」


 俺とミネットで、作った時の手順を説明した。


 融合入口側に渡した紐。


 固定前室門側へ置いた木片。


 それぞれが動けば空の容器が倒れ、音が鳴る。


 壊された時にも、別の重りが落ちるようにしていた。


 エウリオは途中で何度か質問した。


「この紐は、何が触れても動く?」


「たぶん」


「床を歩かないものは?」


「分からない」


「紐を切られたら?」


「重りが落ちるようにした」


「容器ごと持っていかれたら?」


「そこまでは考えてない」


「あとで考えよう」


 エウリオはしゃがみ、石のゴーレムの前へ指を置いた。


「ここから先へは行かない」


 床へ短い線を引く。


「この壁門は越えない。開いていても同じ」


 石のゴーレムは動かない。


 返事もしない。


「聞いてるの?」


 ヴィオラが顔を近づける。


「今、役割を設定している」


「聞こえてない?」


「音を聞いているわけではないよ」


「じゃあ、何してるの?」


「この個体が繰り返す手順を決めている」


 エウリオは、融合入口側の仕掛けを示した。


「こちらが動いた場合、容器を一度鳴らす」


 次に固定前室門側を示す。


「こちらなら二度」


 二つの小さな器を、警戒設備の横へ置く。


「作動した後、紐と木片を元の位置へ戻す。融合入口側なら、こちらへ小石を一つ。固定前室門側なら、もう一方へ一つ」


 エウリオが床に落ちていた小石を拾い、器の中へ入れて見せる。


「自分が動けなくなった場合は、この支えを外す」


 別の小さな重りを、石のゴーレムの身体と紐でつなぐ。


 ゴーレムが倒れたり、強く動かされたりすれば、重りが落ちて別の容器を鳴らすらしい。


「今ので全部覚えたの?」


 俺が聞く。


「覚えたというより、決めた手順を繰り返すようにした」


「意味を理解しているのですか?」


 ミネットが聞く。


「必要ないよ」


「魔物が来たことも?」


「理解しない」


「危険であることも?」


「理解しない」


「ただ、仕掛けが動けば決められた音を鳴らす?」


「そういう作業にした」


 石のゴーレムは、黙ったまま決められた位置へ移動した。


 人形というより、本当に道具へ近い。


 ただ、その道具は自分で歩き、紐を戻し、小石を数える。


「まず試すよ」


 エウリオが融合入口側の紐を動かした。


 空の容器が床を打つ。


 一度。


 石のゴーレムが動いた。


 倒れた容器を起こし、外れた木片を戻す。


 それから小石を一つ拾い、融合入口側の器へ入れた。


「今のはできた」


「一回だけだよ」


 エウリオが言う。


「もう一度やる」


 二回目も同じだった。


 三回目は、紐を少し弱く動かす。


 今度は容器が完全には倒れなかった。


 石のゴーレムも動かない。


「弱い接触は分からない?」


「今の仕掛けではね」


「ゴーレムが見張るんじゃないの?」


「ずっと入口を見て判断させるより、仕掛けが動いた時だけ作業させる方が簡単だから」


「見張りを自動化したんじゃなくて、警報を戻す仕事を任せた?」


「通過回数も残す」


「そこは増えたんだ」


「仕事を全部一つの方法で消す必要はないよ」


 次に、固定前室門側の木片を動かす。


 容器が一度鳴った。


 少し間を置き、もう一度鳴る。


「二回」


 石のゴーレムが仕掛けを戻し、別の器へ小石を入れた。


 何度か繰り返しても、二つを間違えなかった。


「同じ音にしなかったのは、どっちか確認するため?」


「同じ音では、あとで見に来る仕事が増えるからね」


「飛ぶ魔物は?」


「紐へ触れなければ鳴らない」


「大きな魔物が、仕掛けごと壊した場合は?」


「石の個体まで動かされれば、故障用の音が鳴る可能性はある」


「可能性?」


「全部壊されたら鳴らないよ」


「地面の下から来たら?」


「今の仕組みでは分からない」


 ミネットが次々に記録する。


「対応できることより、できないことの方が多くない?」


 ヴィオラが言った。


「できないことを全部解決しようとすれば、完成する前に別の問題が起きる」


 エウリオは気にしていない。


「今は、すでに起きた方法で何かが通った時に知らせる。それで十分だよ」


     ◇


 固定前室門の向こうから声がしたのは、試験を続けている最中だった。


「探索者組合です! 定時確認へ来ました!」


「今日は早いな」


 前にも来た巡回者の声だ。


「入っていいよ!」


 俺が返す。


 巡回者が固定前室門を越えた。


 その足が門前空間の床へ着いた直後、容器が鳴る。


 一度。


 間を置いて、もう一度。


「何だ?」


 巡回者が武器へ手を伸ばした。


「待って! 今、警報の試験をしてて」


「警報?」


「固定前室門を誰かが通ったら、二回鳴るようにした」


 石のゴーレムが、巡回者の横を通り過ぎる。


 仕掛けを元へ戻し、固定前室門側の器へ小石を一つ入れた。


 巡回者が、その動きを目で追う。


「そちらの小型人形は?」


「エウリオのゴーレム」


 巡回者はエウリオを見る。


 次に、奥で待機している人型二体へ視線を移した。


 警戒したのが分かった。


「昨日までいなかった方ですね」


「今日来た」


「どちらから?」


「灰色の通路側」


 巡回者の表情が変わった。


「魔物ではない?」


「少なくとも、話はできる」


「住民ですか?」


「違う」


 能力表示にも名前は増えていない。


「この人も、来訪者……だと思う」


「思う?」


「まだ、俺たちがそう呼んでるだけだから」


 巡回者はすぐに記録板を開いた。


「詳しい事情は、組合へ報告していただく必要があります」


「分かってる。今日聞いたことを、どこまで話していいかも確認してから伝える」


「そのゴーレムを、ここへ置くのですか?」


「一日だけ試す。固定前室門と融合入口を誰かが通ったら知らせるだけ」


「組合関係者の通行も記録される?」


「名前も姿も残さない。通った回数だけ」


 巡回者は石の入った器を見る。


「それでも、組合側の通行に関する記録になります」


「勝手に使わないよ」


「取り扱いについては、こちらも上へ報告します」


「駄目って言われたら?」


「少なくとも、私の判断だけでは決められません」


 いつもどおりだった。


 巡回者は、本日の異常の有無だけ確認する。


 新しい魔物は来ていない。


 灰色の通路にも、見える範囲で変化はない。


 巡回者はエウリオとゴーレムを何度も気にしながら、固定前室へ戻った。


 再び門を越えた時も、警報が二回鳴った。


 固定前室門側の器へ、小石がもう一つ増える。


「行きと帰りで二回になるんだ」


「通過した回数だからね」


「一人が来て帰ったのか、二人が来たのかは分からない?」


「今の記録だけでは分からない」


 ミネットが新しい未確認事項を書き足した。


     ◇


「魔物と人間を見分けられない?」


 俺が聞くと、エウリオは当然のように答えた。


「見分ける条件を、まだ与えていないからね」


「条件を増やせば、見分けられる?」


「何を人間と判定するかを決めれば、試すことはできる」


「じゃあ、人間だったら鳴らさないようにする?」


「駄目です」


 ミネットがすぐに止めた。


「人間の姿をしていることは、安全であることの証明になりません」


「固定前室門を通れた人なら?」


「通過条件が分かっていません。通れたことと、私たちへ危害を加えないことは別です」


 リゼも頷く。


「来たのが人間なら警報を鳴らさない、では困る」


「でも、毎回組合の人が来るたびに鳴るよ」


「誰かが来たことを知るためのものだろう?」


「敵が来たっていう警報じゃない?」


「そこを分けた方がよい」


 千代が二つの器を見る。


「今の仕組みが知らせるのは、何者かが入口を通ったことだけじゃ。危険かどうかは、その後に確かめる」


「最初から、そのつもりだよ」


 エウリオが言った。


「目的を増やすと、判断に必要な条件も増える。人間。魔物。敵意。武器。所属。例外を一つずつ考えれば、それを決める仕事だけで日が暮れる」


「じゃあ、ゴーレムは何も判断しない?」


「入口を通ったかどうかだけは判断する」


「その後は?」


「君たちが見る」


「全部任せられるわけじゃないんだ」


「全部を任せたいなら、起きることを全部先に決める必要がある」


「そんなの無理だろ」


「だから、決められるところだけ任せる」


 エウリオが石のゴーレムを見る。


「同じ手順は、この個体が繰り返す。危険かどうかは、その時に人が判断する。僕が楽をしたいからといって、分からないものまで勝手に決めさせれば、あとで余計に面倒になる」


 ミネットの筆が動いた。


「自動化していることと、判断する者が不要になることは別なのですね」


「そういうこと」


「つまり、楽をするために働いたのか」


 ナーヴァが言った。


「最初に一度だけね」


「また壊れれば?」


「直し方も覚えさせる」


「それも仕事ではないか」


 エウリオが黙った。


 ヴィオラが笑う。


「負けた?」


「長い目で見れば、僕が楽になる」


「今日のそなたは働いておるぞ」


「それ以上言うなら、説明をやめるよ」


 ナーヴァは少し満足そうだった。


     ◇


 試験は一日だけ。石製の小型ゴーレム一体を門前空間へ置き、二つの入口の通過だけを知らせてもらう。戦闘や回収はさせず、役割を変える時は改めて話し合う。


 明日、記録と実際に起きたことを比べてから、続けるか決める。


 ミネットが読み上げ、俺たちとエウリオの両方が確認した。


「これで、ずっと見張らなくてよくなる?」


 ファステが聞く。


「完全には無理だと思う」


 俺は融合入口を見る。


 仕掛けに触れない侵入や、設備ごとの破壊には対応できない。


「でも、何も来ない間まで、誰かがずっと立ってる必要は減る」


「それなら、十分です」


 危険は残る。それでも、見張りに使っていた時間の一部を取り戻せる。


「エウリオは、こういうことを前からしてたの?」


「していたよ」


「《無為宮の王》になってから?」


「その前から似たことはしていた」


「ゴーレムがいたの?」


「僕の元いた世界に、こんなものはいなかったよ」


 エウリオが石の小型ゴーレムを見る。


「では、どうやっていたのですか?」


 ミネットが聞いた。


「道具と仕組みで、人が同じ確認を何度も繰り返さなくて済むようにしていた」


「魔法なしで?」


「魔法もなかった」


「魔法がない世界?」


 レイナも興味を示す。


「少なくとも、僕がいた場所ではね」


「なのに、これと似た仕組みを作ってた?」


 俺が聞くと、エウリオは頷いた。


「使うものが違うだけで、考え方は同じだよ。僕のいた地球では、こういう仕組みを――」


「待って」


 俺はエウリオの言葉を止めた。


 エウリオが、面倒そうにこちらを見る。


「何?」


「今、地球って言った?」


「言ったけど」


 その言葉を聞き間違えるはずがない。


 《万物迷宮》も、《無為宮》も、まだ分からないことばかりだった。


 けれど、その男が口にした一つの言葉だけは、俺もよく知っていた。


 地球。


 俺が、もう戻れないと思っていた世界の名前だった。

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