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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

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第131話 王は、俺だけじゃない

 灰色の通路の正体を知っている。


 エウリオは、そう言った。


 すぐにでも続きを聞きたかった。


 だが、門前空間は落ち着いて話せる場所ではない。


 さっきも魔物が一体現れたばかりだ。壊された警戒用の紐と木片が、融合入口の近くに散らばっている。


 エウリオの周囲には、六体の人形がいた。


 吊り寝台を運ぶ小型の四体。


 色の薄い人型が一体。


 黒い人型が一体。


 全部まとめて壁門の内側へ入れていいのか、俺一人では決められなかった。


「少し待ってて」


「どのくらい?」


「皆と相談してくる」


「長くなりそう?」


「分からない」


「では、なるべく短くしてほしい」


 エウリオは吊り寝台へ横になったまま答えた。


「ここで待つのは危険だよ」


「だから、この二体を連れてきた」


 淡い色の人形と、黒い人形へ視線を向ける。


「その二体だけで大丈夫なの?」


「少なくとも、さっきの程度なら問題ない」


 実際、灰色の魔物は淡い色の人形に一撃で倒された。


 黒い人形は戦わず、エウリオを守る位置へ移動していた。


 命令されてから動いたようには見えなかった。


「勝手に壁門を越えないで」


「そのつもりはないよ」


「人形も」


「分かった」


 本当に分かったのか、人形たちから返事はない。


 それでもエウリオがそう言うなら、今は信じるしかなかった。


 俺たちは壁門の内側へ戻り、門を閉じた。


     ◇


「中へ入れて話を聞きたい」


 邸宅へ戻ると、俺は最初にそう伝えた。


 ファステ、レイナ、千代、ヴィオラも共用の部屋へ集まっている。


 ナーヴァは椅子へ座らず、窓の近くで腕を組んでいた。


「灰色の通路について知ってるって言ったんでしょ?」


 ヴィオラが聞く。


「うん。俺の持ってる何かについても、前から気づいてたらしい」


「怪しいですわね」


 レイナが眉を寄せた。


「怪しいけど、話を聞かないまま帰す方がいいとも思えない」


「本人だけなら入れてもいいんじゃない?」


「ヴィオラはいいの?」


「人形を六体全部入れるよりはね」


 リゼが卓へ手をつき、少し考える。


「あの男本人が弱いとは限らない」


「自分では戦わないって言ってた」


「戦えないとは言っていないだろう」


「うん」


 俺もそこは気になっていた。


 面倒だからやらない。


 必要がなければ動かない。


 エウリオは、できないことまでできないとは言っていない。


「我が見ておればよい」


 ナーヴァが言った。


「敵ならば、倒す」


「最初から倒すつもりで迎えるのはやめよう」


「敵ならば、と言った」


「分かってるけど」


 ナーヴァは不満そうに鼻を鳴らした。


「人形たちは、門前空間に残してもらうべきじゃな」


 千代が言う。


「あれらの力も、意思も、あの男との関係も分からぬ。すべてを生活区域へ入れる必要はあるまい」


「エウリオさんだけを中へ招くのですか?」


 ファステが確認する。


「そのつもり。ただ、皆が嫌なら門前で話す」


「門前空間の方が危険です」


 ミネットは記録帳を開いたまま答えた。


「話の途中で魔物が出れば、確認できる情報が減ります。邸宅内へ入れる危険と比較する必要はありますが、安全に話せる場所を使う理由はあります」


「安全かどうか、あの男には確かめておらぬのじゃろう?」


「確かめる方法がありません」


「なら、条件を決めるしかないな」


 リゼが、本人だけを招き、ゴーレムは門前に残すことを提案した。邸宅内では、許可なく能力を使わず、生活区域を調べない。それが条件になった。


「嘘をつかない、も入れたい」


 俺が言うと、ヴィオラが首を傾げた。


「嘘をついても分からなくない?」


「分からないけど、先に言っておく」


「本当のことを全部話すことと、嘘をつかないことは別です」


 ミネットが言った。


「話したくないことには、話さないと答えてもらう方がよいと思います」


「それも入れよう」


 答えたくないことは、そう言ってもらう。それなら、分からない答えを無理に作らせずに済む。


「こちらのことは、どこまで話す?」


 レイナの問いに、全員の視線が俺へ集まった。


「まだ決めてない。まず、向こうが何を知ってるか聞く」


「そなたの力について問われたらどうする」


 ナーヴァが聞いた。


「その時に、もう一度皆へ確認する」


「面倒だな」


「外の男と同じことを言うでない」


 千代がため息をつく。


「でも、一度で全部決める方が危ないだろ」


「分かっておる」


 全員の意見を確認した。


 条件つきで本人だけを邸宅へ入れ、話を聞くことには反対されなかった。


     ◇


 壁門を開けると、エウリオはさっきと同じ場所にいた。


 吊り寝台へ横になったまま、目だけをこちらへ向ける。


 小型の四体は寝台の四隅を支えている。


 色の薄い人形は融合入口側。


 黒い人形は壁門側。


 待っている間も、役割を分けていたらしい。


「決まった?」


「条件つきで、エウリオだけなら中へ入っていい」


「この六体は?」


「ここに残してほしい」


 エウリオが六体を見る。


「分かった」


「それだけ?」


「連れて入れないと言われたから、置いていく。それ以上に何を話すの?」


「嫌じゃないの?」


「説明を繰り返す方が嫌だ。中で一度に話せるなら、その方が楽だよ」


 小型ゴーレム四体が同時に膝を曲げた。


 吊り寝台がほとんど傾かず、ゆっくりと床へ下ろされる。


 エウリオはようやく上半身を起こした。


 寝台の端へ座り、床に置かれていた靴へ足を入れる。


「歩けたんだ」


「歩けることと、歩きたいことは別だよ」


 立ち上がったエウリオは、思っていたより背が高かった。


 ただ、姿勢に力がない。


 立つことそのものを嫌がっているように見える。


 エウリオが壁門へ向かうと、人型の二体も同時に動いた。


 色の薄い一体が先へ。


 黒い一体が後ろへ。


「待って」


 俺が止めるより先に、エウリオが片手を上げた。


 二体が止まる。


「ここで待機。僕が呼ぶか、事前に決めた条件へ当てはまるまで動かなくていい」


 二体は返事をしなかった。


 だが、それ以上は進まない。


「今の、命令を理解したの?」


「その質問へ答えるには、どこからを理解と呼ぶか決める必要がある」


「自分で考えてる?」


「それも同じだよ」


「じゃあ、意思はある?」


 エウリオが人型の二体を振り返る。


「それは、必要になったら本人たちへ聞いた方がいい」


「本人?」


「今は僕の説明を聞きたいんだろう?」


 答えをずらされた。


 けれど、答えたくないとは言わなかった。


 俺たちはエウリオを壁門の内側へ通した。


 門を越えても、能力表示に変化はない。


 住民の名前も増えていない。


「この庭も君の領域?」


「そうだけど、勝手に調べないで」


「分かっているよ」


 エウリオは周囲を見回した。


 邸宅。


 菜園。


 広場。


 何かを探るような動きはない。


 ただ、目で見えるものを確かめているだけに見えた。


 邸宅玄関の前で、俺は一度足を止めた。


「ここから先も、さっき決めた条件は同じだから」


「さっき聞いたよ」


「もう一度言ってる」


「確認が多いね」


「知らない人を家に入れるから」


「それは正しいと思う」


 エウリオは、俺が開けた玄関を普通に越えた。


 何かに阻まれることもない。


 俺が入っていいと言ったからなのか。


 別の理由なのか。


 それは分からなかった。


     ◇


 話をする場所には、共用の予備室を使った。


 まだ用途を一つに決めていない部屋だ。


 大きな卓と、必要な数の椅子を運び込む。


 エウリオは椅子へ座ると、背もたれへ深く身体を預けた。


「寝台がないと、落ち着かない?」


 ヴィオラが聞く。


「横になった方が楽ではある」


「椅子から落ちないでね」


「努力するよ」


 努力が必要なのか。


 ミネットが記録帳を開いた。


「記録してもよいですか?」


「僕の話を?」


「はい。確認できた事実と、あなたの推測は分けて記録します。外部へ見せる場合は、改めて確認します」


「記録してくれるなら、あとで同じ説明をしなくて済みそうだ」


「許可と受け取ってよいですか?」


「いいよ」


 ミネットが日付を書き込む。


「では、灰色の通路についてお願いします」


「《万物迷宮》」


 エウリオは短く答えた。


 誰もすぐには言葉を返せなかった。


「それが、あの通路の名前?」


 俺が聞く。


「正確には、領域の名前だよ」


「領域?」


「君たちがダンジョンと呼んでいるものが連なっている、広い異空間」


 ミネットの筆が動く。


「複数のダンジョンが、一つの異空間へ接続しているという意味ですか?」


「僕が知っているいくつかのダンジョンは、同じ《万物迷宮》へ連なっていた」


「すべてのダンジョンがそうなのですか?」


「知らない」


「確認できた範囲だけ?」


「そうしてくれると助かる」


 エウリオは眠そうに瞬きをした。


「ダンジョンって呼ぶのは間違い?」


「間違いとは言わない。見えている一部へ付けた名前としては、それで困らないだろうから」


「でも、全部じゃない」


「そういうこと」


 以前、ミネットは《淫獄》に一番近い比較対象としてダンジョンを挙げた。


 そのダンジョン自体が、さらに大きな異空間の一部かもしれない。


「《万物迷宮》は、誰かが作ったのですか?」


 ミネットが聞く。


「それは知らない」


「自然にできた可能性は?」


「否定できない」


「魔法で作られた可能性は?」


「それも否定できない」


「分かっているのは?」


「今も所有者がいること」


 エウリオの答えに、部屋の空気が少し変わった。


「所有者?」


「《万物迷宮の王》」


 王。


 俺の能力と、同じ言葉がついている。


「その人が、ダンジョンを動かしてるの?」


「すべてを本人が意識して動かしているとは限らない。領域は、本人が逐一命じなくても働く」


「魔物も?」


「同じだよ」


 リゼが椅子へ浅く座り直す。


「あの魔物は、その王の命令で私たちを襲ったのか?」


「個別に命令された可能性は低いと思う」


「なぜ分かる」


「あれらは、そういう眷属だから」


「眷属……」


「《万物迷宮》に生まれ、奪うことを本能にしている。命、肉体、魔力、道具、食料、土地、縄張り。何を優先するかは個体ごとに違うけれど、手に入れられるものがあれば奪おうとする」


「だから、物だけじゃなく人も襲った?」


「たぶんね」


「命まで欲しがっているように見えた」


 俺が言うと、エウリオは頷いた。


「基本的には、命を欲しがる。道具を拾っている個体でも、生きているものを見つければ襲うことはあるよ」


「前に、魔物同士でも人を奪い合った」


「珍しくない。欲しいものを前にして、譲る理由がないから」


「同じ眷属なのに?」


「同じ場所から生まれたことと、仲間として助け合うことは別だよ」


 ミネットが一瞬だけ顔を上げた。


 エウリオは気づかなかったように続ける。


「繁殖した個体もいる。すべてが王から直接作られたわけでも、常に命令を受けているわけでもない」


「では、王を止めても、魔物が全部止まるとは限らない?」


「その可能性は高い」


 リゼの顔が険しくなる。


「面倒な話だな」


「僕もそう思う」


 その言葉だけは、少し早かった。


「その《万物迷宮の王》は、どこにいる?」


 俺が聞く。


「知らない」


「名前は?」


「オルカ・クローネ」


 今度は迷わなかった。


「女の人?」


「女性だよ」


 ミネットが名前を書き留める。


「エウリオさんは、オルカ・クローネ本人を知っているのですか?」


「名前は知っている。《万物迷宮》が今ほど崩れる前の状態もね」


「会ったことがある?」


 俺が聞くと、エウリオは少しだけ目を細めた。


「その話まで、今必要?」


「答えたくない?」


「今は、そうしておく」


 知らないとは言わなかった。


 でも、知っているとも言わない。


 さっき決めた条件どおり、話したくないことを誤魔化してはいない。


「オルカは、どうしてこんなことをしてるの?」


「本人が望んでしているかも分からない」


「どういう意味?」


「《万物迷宮》は、強欲に結びついた領域だ」


 エウリオが卓の上へ視線を落とす。


「欲しい。手に入れたい。自分のものにしたい。奪われたくない。もっと増やしたい。その欲望を力にする」


「強欲……」


「欲望があること自体が、すぐに問題になるわけではないよ」


「でも、今は問題になってる」


「オルカ・クローネが、自分の強欲を止められていない」


 部屋が静かになった。


「暴走してるってこと?」


「そう呼んでいいと思う」


「前から?」


「前は、ここまでじゃなかった」


 エウリオの声から、少しだけ眠気が消えた。


「魔物が奪おうとする性質は前からあった。《万物迷宮》が外のものを取り込み、広がる性質もね。でも、止めるところでは止まっていた」


「オルカが止めていた?」


「少なくとも、領域も眷属も今より抑えられていた」


「今は、本人にも止められない?」


「そう見える」


「本人が命令すれば止まる可能性は?」


「分からない」


「暴走した理由は?」


「知らない」


「いつから?」


「正確には分からない」


「元へ戻せる?」


「それも分からない」


 エウリオは知っている。


 だが、何でも知っているわけではなかった。


 オルカ・クローネという名前を知っている。


 以前の《万物迷宮》も知っている。


 今は強欲を制御できていないと判断できる。


 それでも、本人がどこにいて、なぜそうなり、どうすれば止められるのかまでは分からない。


「そなたは、なぜそこまで知っておる」


 ナーヴァが初めて口を開いた。


 エウリオがナーヴァを見る。


「君は?」


「今は、そなたが答える番だ」


「そうだったね」


 エウリオは面倒そうに息を吐いた。


「僕も、似たものを持っているから」


「似たもの?」


「僕の固有スキルは、《無為宮の王》」


 また、王。


「《無為宮》っていう場所があるの?」


「あるよ」


「エウリオの領域?」


「そう考えて困ることは少ない」


「何ができる?」


「僕が直接しなくても済むようにする」


 ヴィオラが首を傾げた。


「何でも?」


「何でも、なんて便利なものではないよ。決まった作業を繰り返す。物を運ぶ。決めた条件に反応する。管理を任せる。そういう仕組みを作る」


「外の人形も?」


「僕が毎回動かさなくて済むようにしている」


「怠けるための能力?」


「同じ作業を何度もするのが嫌なだけだよ」


「それを怠けるって言うんじゃない?」


「言い方の問題だね」


 ヴィオラは少し楽しそうだった。


 エウリオは楽しそうではない。


「《無為宮》は、何に結びついた領域なのですか?」


 ミネットが聞く。


「怠惰」


「《万物迷宮》は強欲。《無為宮》は怠惰」


「そう」


 俺の喉が少し乾いた。


 《淫獄の王》。


 俺の能力にも、王がついている。


 偶然だと思っていたわけではない。


 けれど、同じ形の名前を持つ人間が目の前にいる。


「エウリオは、俺が何を持ってるか分かってる?」


「正確な名前までは知らない」


「でも、似たものだとは分かる?」


「君から届く反応は、僕のものや《万物迷宮》と似ている」


 俺一人で話していいことではない。


 そう思って、皆を見た。


 ファステが小さく頷く。


 リゼはしばらくエウリオを見た後、俺へ視線を戻した。


「名前までなら、すでに皆で話してよいと決めた範囲だ」


「ほかは必要になってからでよいじゃろう」


 千代も続ける。


 ナーヴァは何も言わなかった。


 ただ、止めもしなかった。


「俺の固有スキルは、《淫獄の王》」


 エウリオが初めて、少しだけ姿勢を起こした。


「《淫獄》」


「知ってる?」


「名前は知らなかった。でも、なるほど」


「何が?」


「君の領域が、どういう欲望に結びついているのか」


「言わなくていい」


「聞かれても説明しづらい名前だね」


「今、自分で言ったけど」


「僕は気にしないよ」


 それは慰めになっていなかった。


「《淫獄》も、《無為宮》や《万物迷宮》と同じもの?」


「同じ能力ではない」


「でも、王がついてる」


「同じ側にある領域だとは思う」


「同じ側?」


「似た仕組みで存在し、それぞれ違う欲望へ結びついた領域と王」


「何人いるの?」


「それを今ここで全部説明する必要はないだろう?」


「知ってるんだ」


「知らないとは言っていない」


 また答えを止められた。


 エウリオは、必要だと思ったことだけ話すつもりらしい。


「王同士で話せるの?」


「いつでも連絡できる便利な仕組みはないよ」


「じゃあ、なんで俺に気づいた?」


「領域同士が、弱く触れたからだと思う」


「いつ?」


「かなり前」


 あの時の感覚を思い出す。


 水場に二つ目の接続地点を登録した時。


 遠くを見たはずなのに、どこかから見返されたように感じた。


「俺が、水場の近くに入口を増やした時?」


「君が何をしたかまでは分からなかった。ただ、遠くで妙な反応が生まれた」


「エウリオからも見えた?」


「見えたわけではない。場所も分からなかった」


「それでも気づいた」


「弱い反応だけね」


「だから放っておいた?」


「探す方が面倒だった」


 エウリオらしい理由だった。


「今は?」


「《万物迷宮》と君の領域が直接つながった。前より反応が強い。灰色の通路側から辿れる程度には」


「共通の通信機能があるわけではないのですね」


「ないよ。少なくとも僕は使えない」


「では、こちらの会話が聞こえていたわけでもない?」


「聞こえていたら、同じ質問へ何度も答えずに済んだかもしれない」


「聞こえていなかったと記録します」


「そうして」


「ここまで、どうやって来たの?」


 俺が聞く。


「経路を探させた」


「人形に?」


「ゴーレムに。反応と灰色の通路の変化を調べさせて、通れる経路が見つかってから運ばせた」


「自分では探してないんだ」


「僕が探す必要はないだろう?」


 エウリオにとっては、本当にそれが普通らしい。


「じゃあ、この入口がくっついた理由も分かる?」


「分からない」


「何も?」


「候補ならある」


 エウリオが指を一本立てた。


「一つ。君の領域と《万物迷宮》が似た側のものだったから、近づいた入口同士が反応した」


 二本目。


「二つ。接続先が変わる時、二つの入口が空間的に近い位置へ置かれた」


 三本目。


「三つ。《万物迷宮》が君の領域を欲しがった」


「《淫獄》を奪おうとした?」


「そうかもしれない」


「違うかもしれない?」


「そうだね」


「オルカが欲しがったの?」


「本人が意識して欲しがったのか、制御を失った領域が勝手に反応したのかは分からない」


「でも、奪えてはいない」


 千代が言った。


「入口は融合したが、《淫獄》そのものが《万物迷宮》へ取り込まれたわけではない」


「今のところはね」


「今後は分からぬと?」


「分からないものを、絶対に起きないとは言えないだろう?」


 ミネットが、わずかに頷いた。


「では、融合を解除する方法は?」


「知らない」


「《万物迷宮の王》を止めれば解除されますか?」


「それも分からない」


「オルカ・クローネ本人へ会う方法は?」


「知らない」


「どこにいるかも?」


「さっき答えたよ」


「確認です」


「そう」


 エウリオが背もたれへ戻る。


 話すほど、分からないことも増えていく。


 灰色の通路には名前があった。


 所有者にも名前があった。


 でも、名前が分かったからといって、入口を閉じる方法が見つかったわけではない。


「エウリオは、俺たちを助けに来たの?」


 俺が聞くと、エウリオはすぐに首を横へ振った。


「違うよ」


「じゃあ、何のため?」


「君たちの領域と《万物迷宮》がつながったことで、僕の側にも余計な問題が増える可能性がある」


「どんな問題?」


「それを確認するには、もう少し話が必要だ」


「今してるよ」


「今日は、僕が知っていることを説明するところまでだと思っていた」


「相談もするんじゃなかった?」


「するよ」


「今日?」


 エウリオは少し考えた。


 考えたあとで、深く息を吐いた。


「話が長くなるな」


「ここまで来たんだから、仕方ないだろ」


「来なければよかったかもしれない」


「帰る?」


「帰って同じ問題が残るなら、来た意味がなくなる」


 その時だけ、エウリオは少し真剣な顔をした。


「僕は、君たちを助けに来たわけではない」


「うん」


「《万物迷宮》を救うためでも、オルカを止めるためでもない」


「じゃあ、本当に何をしに来たんだよ」


「これ以上、僕の仕事を増やさない方法を相談しに来た」


 王。


 それは、俺の固有スキルにだけついている言葉ではなかった。


 強欲に飲まれた《万物迷宮の王》、オルカ・クローネ。


 怠惰に結びついた《無為宮の王》、エウリオ・ハーバー。


 そして、《淫獄の王》を持つ俺。


 何人いるのか。


 誰が作ったのか。


 なぜ俺が選ばれたのか。


 まだ何も分からない。


 ただ、一つだけは分かった。


 王は、俺だけではなかった。

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