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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十二章 「向こうから、つながった」

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第129話 欲しいのは、物だけじゃない



 融合入口を見張る時間が、少しずつ長くなっていた。


 今はリゼが門前空間に立ち、灰色の通路を見ている。


 千代は壁門の内側で記録を広げ、昨日までに起きたことを整理していた。


「今のところ、新しい魔物は来ておらぬ」


「来てないことって、記録する必要ある?」


 俺が聞くと、千代は筆を止めずに答えた。


「異常が起きた時刻だけ残しても、間隔は分からぬからな」


「ずっと見張ってた時間も必要ってこと?」


「そういうことじゃ」


 門前空間に魔物が現れていない。


 だから安全になった、とは言えない。


 ただ、来ていない時間が続いている。それも記録しておけば、あとで役に立つかもしれない。


 ミネットは千代の記録をのぞき込みながら、別の紙へ現在の入口構造を書いていた。


「昨日の巡回者が通過して以降、固定前室門に変化は確認されていません」


「通れた人が増えたら、何か分かるかな」


「事例は増えます。ただ、それだけで条件を断定はできません」


 昨日、探索者組合の巡回者二人が固定前室門を通った。


 二人とも《淫獄》へ入ったが、住民にはならなかった。


 一方、あとを追った小型魔物は同じ門を越えられなかった。


 人間だから通れたのか。


 敵意がなかったからなのか。


 探索者組合の人間だったからなのか。


 それとも、俺たちがまだ気づいていない条件があるのか。


 何も分かっていない。


「前は誰かを迎える場所だったのにね」


 ヴィオラが壁門の内側から門前空間を見る。


 腰掛けも、小さな卓も残っている。


 けれど、その向こうには今、灰色の通路へ続く融合入口がある。


「今は、来る相手を確認しないと迎えられない」


「魔物も来るもんね」


「そっちは迎えたくない」


 損傷した壁門には、前回奪われた金具の跡が残っている。


 菜園の囲いも一部が壊されたままだ。


 直したい。


 だが、修理中にまた魔物が来たら、作業をしている人が襲われる。


 放っておくこともできないのに、すぐ直すこともできなかった。


「我が向こうに立てばよい」


 ナーヴァが言った。


「ずっと?」


「来たものを倒すまでだ」


「次がいつ来るか分からないんだよ」


「ならば、来るまで待つ」


「ナーヴァを門に置きっぱなしにはしない」


 俺が答えると、ナーヴァが眉を寄せた。


「我ならば、あの程度に傷つけられはせぬ」


「傷つくかどうかだけの話じゃない」


「では何だ」


「ずっと見張らせるのが嫌なんだよ」


 ナーヴァは少し黙った。


「必要なら頼む。でも、最初からナーヴァの役目にはしない」


「……好きにせよ」


 不満は残っていそうだ。


 それでも、勝手に融合入口へ向かおうとはしなかった。


 固定前室門の方から声が聞こえたのは、その直後だった。


「探索者組合です! 事前に伝えた確認へ来ました!」


 昨日話していた組合側の担当者が来たらしい。


     ◇


 固定前室門を通ってきたのは三人だった。


 昨日も来た巡回者が一人。


 その後ろに、前の担当者より役職が上らしい男。


 さらに護衛らしい探索者が一人ついている。


 三人とも、門に拒まれなかった。


 俺が能力表示を確かめても、住民の名前は増えていない。


「そちらが、この空間と関係する能力の保有者ですね」


 中央の男が俺を見る。


「そうです。ただ、この灰色の通路まで俺が作ったわけじゃない」


「その点も含めて確認します」


 男は門前空間を見回した。


 融合入口。


 固定前室門。


 損傷した壁門。


 その内側へ続く《淫獄》の敷地。


「壁門の内側も確認できますか?」


「今は駄目です」


「理由を聞いても?」


「皆が暮らしている場所だから」


 男は壁門の向こうへ目を向けたが、それ以上は求めなかった。


「承知しました。今回は、この門前までを確認します」


 ナーヴァには、邸宅内で待ってもらっている。


 組合には、俺たちの中に大型魔獣を倒せる者がいることまでは知られている。


 だが、それが竜だとは話していない。


 説明することを増やしたくないという理由もある。


 それ以上に、俺一人の判断でナーヴァの正体を話すつもりがなかった。


「現在の管理範囲について、組合側の暫定的な見解をお伝えします」


 男が記録用の板を開く。


「地上側の地下入口、石段、固定前室までは、従来どおり探索者組合が管理します」


「固定前室門からこっちは?」


「それを判断するために来ました」


「俺たちの能力に関係する場所なんだけど」


「それだけで帝国側の管理から完全に外れるとも、反対に、すべて組合側で管理できるとも決められません」


 すぐに取り上げると言われなかったことには安心した。


 だが、俺たちだけで好きにしてよいとも言われない。


「あの灰色の通路は?」


 リゼが融合入口を示す。


「現時点では、従来のダンジョン領域が変化したものと考えています。ただし、以前と同じ危険度や構造だとは扱いません」


「入口を再開するつもりはあるの?」


 俺が聞くと、男はすぐには答えなかった。


「安全性と管理方法を確認できれば、将来的に再開を検討する可能性はあります」


「再開したら、探索者が全員ここを通るんだよね」


「現在の構造が続くなら、そうなります」


「ここ、俺たちの家の前なんだけど」


 地下へ向かう探索者が増えれば、門前空間を毎日誰かが通る。


 魔物が来る場所を通り、そのすぐ近くには俺たちの生活区域がある。


「その点も問題だと認識しています」


「じゃあ、ここを勝手に通路にはしない?」


「少なくとも、本日ここで決定することではありません」


「でも、道はこれしかない」


「現在確認できている範囲では」


 担当者も断定しなかった。


「通れることと、通路として使ってよいことは別です」


 ミネットが言った。


 組合の男がミネットを見る。


「そのとおりです。利用の可否には、安全性だけでなく、権利、管理責任、監視方法も関係します」


 ヴィオラがいたら、また「別だ」と笑ったかもしれない。


 今は壁門の内側で待っている。


「つまり、まだ何も決まらない?」


「地下入口の閉鎖を継続することは決まっています」


「それ以外は?」


「これから確認します」


 結局、一つずつ見るしかないらしい。


     ◇


 俺たちは融合入口へ近づきすぎない位置で止まった。


 灰色の通路には、今のところ何も見えない。


 灯りがあるわけでもないのに、少し先までは形が分かる。


 だが、その奥は暗く沈んでいた。


「この境界より先へは入っていないのですね」


「入ってない」


「魔物が戻ったことは?」


「倒し切れなかった個体は、あの通路へ逃げた」


「追跡は?」


「してない」


「適切です」


 組合の男が護衛へ合図する。


 護衛は袋から小さな金属片を取り出した。


「何するの?」


「距離を測るための目印です。床へ置くだけですが」


「待って」


 俺は金属片を見た。


「前に来た魔物、門の金具とか道具を持っていこうとした」


「金属を集める習性があると?」


「そう見えただけ。金属だからなのか、別の理由なのかは分からない」


 護衛が金属片を袋へ戻す。


「では、別の目印を使います」


 木製の小さな杭へ持ち替えた時だった。


 リゼが剣へ手をかける。


「来るぞ」


 灰色の通路の奥から、硬い爪が石を打つ音が聞こえた。


 一つではない。


「固定前室門へ戻って!」


 俺が言うより早く、灰色の通路から魔物が飛び出した。


 三体。


 前に見たものと同じくらいの大きさだ。


 四本の脚と、長い前脚。


 灰色の身体。


 石の床を削る爪。


 先頭の一体が、護衛へ向かって走る。


 護衛は腰から金属製の道具を外し、床へ投げた。


 乾いた音が門前空間へ響く。


 前回と同じなら、魔物はそちらへ向かうかもしれない。


 そう思った。


 だが、魔物は落ちた道具を見なかった。


 走る護衛を、そのまま追った。


「金属じゃない?」


「下がれ!」


 リゼが横から剣を振る。


 魔物は床を蹴り、刃をかわした。


 長い前脚が護衛の足首へ伸びる。


 爪が防具の端へ引っかかった。


 護衛の身体が傾く。


「離せ!」


 護衛が剣の柄で魔物の頭を打つ。


 それでも魔物は離れない。


 噛みつくのではなく、融合入口の方へ引きずろうとしていた。


 二体目が駆けてくる。


 護衛を助けに来たようには見えなかった。


 二体目は、護衛の反対側の脚へ向かう。


 だが、その前に一体目へ噛みついた。


 灰色の身体同士がぶつかる。


 二体は護衛を挟んだまま、互いへ爪を立て始めた。


「仲間ではないのか?」


 千代が声を上げる。


「少なくとも、獲物を譲る気はないらしい!」


 リゼが一体目の前脚を剣で打ち払う。


 護衛の足が解放された。


 俺は男の腕をつかみ、固定前室門の方へ引く。


「走って!」


「待て、記録が――」


「今は置いていって!」


 男の手から板が落ちた。


 金具で補強された記録板が床を滑る。


 三体目の魔物が、そちらへ顔を向けた。


 一瞬だけ止まる。


 だが、男が動くと、魔物は記録板を無視した。


 こっちへ来る。


「人を狙ってる!」


 俺と男の間へ、巡回者が割って入った。


 魔物の爪が巡回者の腕をかすめる。


 防具の表面が削られた。


 巡回者が槍の柄で押し返す。


 その横からリゼが踏み込み、魔物の身体を剣の腹で打った。


 灰色の身体が床を転がる。


「前室へ退け!」


 リゼの声に従い、組合の三人が固定前室門を越える。


 俺と千代、ミネットもその後を追う。


 最後にリゼが門を越えた。


 追ってきた魔物が固定前室門へ飛びつく。


 何もない境界へ、正面からぶつかった。


 一体。


 二体。


 三体目も越えられない。


 門は開いている。


 それでも、灰色の爪は固定前室側へ届かなかった。


「今回も止まった……」


「今回の三体は、です」


 ミネットが息を整えながら言う。


「ほかの魔物まで通れないとは、まだ言えません」


「今はそれでいい。怪我は?」


 護衛が足を確かめる。


「防具に傷が入っただけだ」


 巡回者の腕にも浅い傷がある。


 血が流れるほどではない。


「倒さないと、門前へ戻れないな」


 リゼが魔物を見る。


 三体は境界の向こうで、こちらへ爪を立て続けている。


 床に落ちた金属製の道具も、記録板も、そのままだ。


 誰もいなくなった門前空間で、魔物たちは物品へ向かわない。


 固定前室にいる俺たちを見ていた。


     ◇


 固定前室門を盾にしたまま、魔物の動きを確かめた。


 一体が、床に落ちた道具を踏んだ。


 それでも拾わない。


 記録板にも興味を示さない。


 俺たちが少し動くたび、三体の顔がその動きを追う。


「前の個体は、金具を持ち去ったんですよね」


 組合の男が聞く。


「うん。道具も狙ってた」


「では、今回の個体とは習性が違う?」


「違う可能性はあります」


 ミネットが答える。


「ですが、前回の個体が金属を狙ったことは、人を襲わないことの証明にはなりません」


「物を奪う個体と、人間を襲う個体が別にいる可能性もあるか」


「同じ個体が、その時に優先する対象を変える可能性もあります」


 ミネットも答えを決めない。


 確認できたのは、今回の三体が、落ちた物より生きている人間を追ったことだけだ。


「こちらから仕掛ける」


 リゼが言った。


「門を越えた直後を狙われませんか?」


「私が出る。護衛は続け。巡回者は長物で境界越しに牽制できるか試せ。ただし、腕を出しすぎるな」


「分かった」


「夜斗たちは、ここにいろ」


「でも――」


「お前が前へ出ても、増える手数は少ない」


 反論できなかった。


「死ぬなよ」


「そのつもりだ」


 リゼが固定前室門を越える。


 魔物三体が一斉に動いた。


 だが、待ち構えていたリゼの剣が、先頭の一体を横から打つ。


 続いた護衛が二体目を押さえ、巡回者の槍が境界近くから三体目の進路を塞いだ。


 魔物たちは互いを避けない。


 狭い場所へ一斉に飛び込み、ぶつかり合う。


 一体が倒れると、別の一体がその上を踏んで進んだ。


 仲間を助ける様子はなかった。


 短い戦いの後、三体とも動かなくなった。


「終わった?」


「まだ待て」


 リゼは一体ずつ動きを確認した。


「今度こそ終わりだ」


 俺たちは門前空間へ戻った。


 護衛が落とした道具を拾う。


 組合の男も記録板を回収した。


 どちらにも、魔物が触れた跡はほとんどなかった。


 一方、護衛が引きずられかけた場所には、融合入口へ向かって爪痕が続いていた。


「あれ、人を倒したかっただけじゃないよね」


 俺が言うと、リゼが爪痕を見る。


「こちらで殺すより、向こうへ引きずろうとしていた」


「生きたまま持っていきたかった?」


「それは分からぬ」


 千代が答える。


「殺すことが目的だったのか。命ある獲物を持ち去ろうとしたのか。そこまでは確かめられぬ」


「確かめたくもない」


 ヴィオラがいたら、どちらでも襲われる側には同じだと言いそうだ。


 俺もそう思う。


「物を欲しがる魔物ではなかったのか?」


 組合の男が聞いた。


「物も欲しがる。でも、人も欲しがるのかもしれない」


「人間だけですか?」


「分からない」


 ミネットが爪痕を記録する。


「今回確認できたのは、生きている人間を、落ちている物品より優先したように見えたことです」


 魔物二体が、一人の護衛を奪い合った。


 あれがただの争いだったとは思えない。


 同じ相手を欲しがり、相手へ爪を立ててでも、自分の方へ引こうとしていた。


     ◇


「地下入口の閉鎖は継続します」


 探索者組合の男は、その場ではっきり決めた。


「一般探索者の立ち入りも認めません。門前空間を通路として利用する案についても、安全が確保されるまで保留します」


「安全になったら、また通路の話をする?」


「構造が維持されていれば、その必要はあります」


「ここを使わない道を探す方は?」


「それも調査対象にします。ただし、現在は代わりの経路を確認できていません」


 結局、問題そのものが消えたわけではない。


「組合の人が、ここへずっといることになる?」


「現状では危険すぎます。常駐はさせません」


 少し安心した。


 知らない人に生活場所の前を見張られ続けるのは落ち着かない。


「では、誰が見張る?」


「地上入口の外側は、引き続き組合が封鎖・監視します」


 男が壁門を見る。


「こちら側の変化は、あなた方に確認していただくことになります」


「俺たちだけで?」


「異常が発生した場合は、可能な範囲で組合へ知らせてください。こちらから確認へ来る際は、事前に地上入口側から声をかけます」


「一緒に見張るわけじゃないんだ」


「常時同じ場所へ人員を置くという意味での共同監視は、今は行えません」


 担当者は記録板へ暫定方針を書き込む。


「組合は地上入口と固定前室側を監視する。あなた方は門前空間と融合入口の変化を確認する。異常情報は双方で共有する。当面は、この形になります」


「管理経路を決める話は?」


「その前に、生きて通れる経路にしなければなりません」


「ここを通路にする話は、その後?」


「その後です」


 当然の順番だった。


 利用する人間が命を狙われる場所を、公共の通路にはできない。


「次に来る時も、複数人で固定前室門を越えます」


「こっちも、融合入口へは入らない」


「追跡もしないでください」


「分かってる」


「大型魔獣を倒した方にも、改めて伝えてください」


「それも分かってる」


 またナーヴァが不満そうな顔をするだろう。


 それでも伝えなければならない。


     ◇


 組合の三人が固定前室へ戻った後、俺たちは壁門を閉じた。


 邸宅へ戻ると、ナーヴァが腕を組んで待っていた。


「遅い」


「魔物が三体来た」


「なぜ我を呼ばぬ」


「組合の人がいたから」


「我を見られると困るのか」


「ナーヴァが嫌じゃないなら、いつか話すかもしれない。でも、今日は急に決めたくなかった」


 ナーヴァは少し考えた。


「我へ聞かず、隠し続けると決めたわけではないのだな」


「うん」


「ならばよい。それで、魔物はどうした」


「リゼたちが倒した」


「我の出番はなかったか」


「今回はね」


 ナーヴァはリゼを見る。


「次は我へ残せ」


「獲物の取り分みたいに言うな」


 リゼが疲れた声で返した。


「それより、見張り方を考えないといけない」


 俺たちは卓を囲み、門前空間の構造を描いた紙を広げた。


 融合入口。


 門前空間。


 壁門。


 壁内敷地。


 邸宅玄関。


「融合入口を、ずっと誰か一人に見張らせるのは無理だ」


 リゼが言う。


「眠る時間も、食事も必要です」


 ファステも頷く。


「交代しても、全員の生活が見張り中心になってしまいます」


「音で分かるようにはできぬか」


 千代が紙へ書き込む。


「糸や金属片を張る?」


 レイナが尋ねる。


「魔物に奪われぬ物がよいな」


「何なら奪われないか分からないよ」


 ヴィオラの言うとおりだ。


 金属を欲しがるもの。


 道具を欲しがるもの。


 そして、生きている相手を欲しがるもの。


 何を置いても、別の理由で狙われるかもしれない。


「壁門までの間に、障害物を置くのはどうでしょう」


 ミネットが言う。


「完全に止めるためではありません。進む速度を落とし、音が出るようにします」


「壊されたら?」


「壊されたことが分かります」


「防ぐ物と、知らせる物は別か」


 俺が言うと、ミネットが少しだけ目を丸くした。


「はい。そうです」


 今回は真似したつもりはなかった。


 でも、少し嬉しそうなので訂正しないことにした。


「来たものを、すべて我が焼けば早い」


 ナーヴァが言う。


「組合の人も来るから、全部は焼くな」


「人と魔物の区別くらいつく」


「入口ごと焼くなってこと」


「加減は覚えた」


「風呂と同じ加減で戦わないでくれよ」


「あれよりは強くする」


「そういう話じゃない」


 話し合いの結果、まず退避の順番を決めることになった。


 異常を確認した者が声を上げる。


 非戦闘員は邸宅へ入る。


 戦える者も、必要以上に融合入口へ近づかない。


 魔物が壁門を越えた場合は、菜園や家具を守ることより、人を邸宅へ入れることを優先する。


 ナーヴァの力が必要なら、その都度本人へ頼む。


 できることは、まだそれくらいだった。


     ◇


 話し合いの後、俺はもう一度壁門の近くまで行った。


 門前空間には、護衛が落とした金属製の道具があった場所だけ、薄く跡が残っている。


 魔物は、それを拾わなかった。


 記録板も、食料の入った袋も残っていた。


 追いかけたのは、逃げる人間だった。


 欲しがっているのは、金属だけではなかった。


 食料や道具だけでもなかった。


 あの魔物たちは、たぶん命まで欲しがっている。


 融合入口の奥から、かすかな音が聞こえた。


 爪が石を引っかくような音。


 今度は近づいてこない。


 それでも、向こう側に何かがいる。


 ここを通路として使えるか考えるより先に。


 俺たちは、ここを生きて守れる場所にしなければならなかった。

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