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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十一章 「広くなりすぎた家」

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第115話 広くなりすぎた

「じゃあ、どこから見る?」


 ヴィオラが、新しくできた通路へ一歩踏み出す。


「待て」


 すぐにリゼが肩をつかんだ。


「まだ何もしてないよ?」


「今からするところだっただろう」


「扉を開けるだけ」


「昨日までなかった扉だぞ」


 壁の動きは止まり、床も揺れていない。だからといって、安全だと決まったわけではない。


「扉の先が、見た目どおり隣の部屋とは限りません」


 記録帳を持ったミネットが言った。


「ダンジョンみたいに?」


「その可能性も考えておくべきです」


「ここがダンジョンだと決まったわけじゃないけどな」


「はい」


「ならば、我が先に行けばよい」


「昨日も聞いた。一人で行くなって言っただろ」


「我に何かあるなら、そなたらが一緒でも同じではないか?」


「そうかもしれないけど、一人で行く理由にはならない」


 ナーヴァが不満そうに鼻を鳴らした。それでも、勝手には進まなかった。


「まず全員で動く。一個ずつ開ける。変だと思ったら戻る。見つけた物も、いきなり使わない」


「我の炎は?」


「出さない」


「まだ何も言っておらぬ」


「先に言っておいた方がいいと思って」


 ほかにも、荷物はまだ動かさない。用途を決めつけない。分からない場所へ一人で入らない。


 確認することを決めてから、俺たちは入口側へ戻った。


     ◇


 昨日まで外界への入口を開いていた場所へ近づくと、先に風が頬へ触れた。


「ここ、外になったの?」


 ヴィオラが頭上を見上げる。


 天井がない。正確には、天井らしいものが見当たらなかった。


 明るい空のようなものが広がっている。でも、太陽も雲もない。外界の空と同じかは分からない。


 外界へ通じる入口を開く場所は変わっていなかった。ただし、その周囲は部屋ではなく、壁に囲まれた小さな空間へ変わっている。


 数人が立っても余裕があり、壁際には腰掛けと小さな卓がある。外から持ち込んだ物を一時的に置けそうな棚もあった。


 その先には、高い壁と閉じた門がある。


「門の前?」


「以前の応対区画が、この形へ変化したように見えます」


 ミネットが、入口から門までの距離を歩いて確かめる。


「外部入口と、その先の区域の間に、新しい境界ができています」


「入口を越えても、まだ家の中じゃないんだな」


 外から誰かが入ってきても、すぐ住民の生活場所を見られずに済む。ここで一度立ち止まってもらえる。荷物を棚へ置き、腰掛けに座って話すこともできる。


「本当に、誰かを待つ場所みたいになったね」


「そう使えそうだというだけじゃ。用途まで決められたとは限らぬ」


 門も、その両側へ続く壁も、石で造られているように見えた。壁の向こう側は見えない。


「守るための壁でしょうか」


「隠すためかもしれない」


 リゼが門へ触れ、継ぎ目や蝶番らしき部分を確認した。


「少なくとも、入口と生活区域を区切ることはできる」


「丈夫?」


「見ただけでは分からない」


 俺は拳で壁を軽く叩いた。硬い音が返ってくる。


「石?」


「石のような感触がすることと、外の石と同じ物であることは――」


 ミネットが言いかけ、止まった。


「何?」


「いえ。今は材質まで調べられません」


「今の、言いたかった?」


「必要な区別ではあります」


 門へ手をかける。重そうに見えたのに、力を込める前に動いた。


「夜斗さんだから開いたのでしょうか」


「分からない。あとで皆も試してみる?」


「先に向こうを確認してからじゃな」


 開いた門の隙間から風が流れ込んだ。昨日感じた土の匂いも濃くなる。


 俺たちは門を開き、全員で内側へ進んだ。


     ◇


「家が広がったっていうより、土地ごと増えてない?」


 ヴィオラの言うとおりだった。


 門の内側には、広い敷地がある。正面には、昨日まで見たことのない大きな建物が立っていた。


 派手な城ではない。それでも、これまでの質素な生活空間と比べれば、十分に邸宅と呼べる大きさだった。


 建物の周囲には道が続き、その外側には土のある土地と広場がある。敷地全体は、さっき通った門と同じ高い壁に囲まれていた。


「これが《淫獄》の端?」


「壁があることと、その先に空間がないことは同じではありません」


「越えて確認する?」


「今はやめよう」


 ただの壁なのか、《淫獄》の領域そのものの境界なのかも分からない。


「上は?」


 ヴィオラが、明るい空を指さす。


「飛べば分かる」


 ナーヴァが言った。


「飛ぶなよ」


「まだ何もしておらぬ」


「今からしそうだった」


「そなたは我を何だと思っておる」


「飛べると思ってる」


「当然だ」


「だから、今日は飛ばないでくれ」


 見えない天井や境界があったら危ない。


 門から邸宅までの道と、建物の周囲を全員で確認する。隠れている者はいない。動く物も見当たらない。


 土のある土地には、草も作物も生えていなかった。


「畑?」


「まだ土があるだけじゃ。作物が育つかは分からぬ。種も苗も、農具もない」


「でも、水の音はするよ」


「調べることが増えました」


 ミネットだけは、少し嬉しそうだった。


「増えすぎじゃない?」


 俺は邸宅を見上げた。昨日までなかった壁と門。その内側に、広い土地と大きな建物。


「そういえば、能力の表示を見てない」


「昨日も?」


「見てない。急に揺れて、壁が動き始めたから」


「今なら確認できるのか?」


「やってみる」


 意識を《淫獄の王》へ向ける。表示された内容を、上から順に確かめる。


 途中で、見覚えのある項目に目が止まった。


『固有スキル:《淫獄の王》 Lv.3』


「……三になってる」


「何が?」


「《淫獄の王》。Lv.3になってる」


「いつからですか?」


「分からない」


「昨日の変化が始まる前には確認しておらぬのか?」


「してない」


「では、いつLv.3になったのか分かりません」


 ミネットは記録帳を開いた。


「全員が希望を口にした瞬間なのか、夜斗さんが場所を望んだ時なのか、その前から条件を満たしていたのかも確認できません」


「通知もなかった」


「以前はあったのか?」


「レベルが上がった時は、表示が出た」


「今回は見逃したのではないか?」


「それも分からない。でも、少なくとも昨日は気づかなかった」


「また、表示されなかったことを記録する必要があるのう」


「今回は、レベルアップの通知なし?」


「通知を確認できず、じゃな。なかったとまでは断定できぬ」


「細かい」


「記録とは、そういうものじゃ」


 Lv.3になったことだけは分かった。いつ、何を満たして変わったのかは分からない。


「これ、Lv.3になったから広がったのかな」


「順番も確認できていません」


 ミネットが答える。


「Lv.3になった結果として空間が変化したのか、空間の変化を現在のLv.3と表示しているのかも不明です」


 システムは嘘をついていないのかもしれない。でも、やっぱり全部を教えてくれるわけではなかった。


     ◇


 邸宅の玄関を開くと、広い通路が続いていた。左右には、いくつもの扉が並んでいる。


 最初の部屋には何もなかった。壁と床があり、明るさと空気もある。寝所として使えそうな広さだが、寝台も棚もない。


「部屋は増えたけど、全部揃ってるわけじゃないな」


「それでも、誰かの寝所を移さずに使える場所があります」


「ここ、私の部屋にしていい?」


 ヴィオラが真っ先に手を挙げた。


「もう決めるの?」


「早い方が好きな場所を取れるでしょ」


「全員の希望を聞いてからだ」


「じゃあ、予約」


「予約も待て」


 廊下の先にも似た部屋がいくつかあった。ただし、誰の部屋とも表示されていない。


 ミネットは毎日ここで暮らすと決めていない。セリナも今は不在だ。本人へ聞かずに部屋を決める必要はない。


「我は要らぬぞ」


 ナーヴァが空室を一目見て言った。


「じゃあ、ナーヴァの分だけ決まったな」


「決まっておらぬ。ここが狭いと言っただけだ」


「広い場所を見てから?」


「当然であろう」


     ◇


 次に見つけた部屋は、ほかとは明らかに違っていた。


 扉が少し低い。人が入れないほどではないが、内部の物はどれも床に近い位置へ作られている。


 柔らかそうな大きな寝床。小さな段差が続く遊び場のような場所。明るい場所と日陰になった場所。低い棚。身体を隠せそうな窪み。浅い水場まである。


 奥には、庭へ出られそうな小さな通路が続いていた。


「何、この部屋」


「人間が使うには低すぎる物が多いです」


「これ、縁のためにできたのか?」


 俺が言うと、ミネットが振り返った。


「縁?」


「名前」


「どなたのですか?」


「たぶん、この部屋を使う奴」


「たぶん?」


 小さな通路も、低い棚も、隠れられる場所も、縁が使うところを想像しやすかった。


「そう見えることと、縁のために作られたことは別です」


「確かに」


 その時、入口の方で小さな音がした。


 廊下に、縁がいた。


「……この子は?」


「縁」


「名前ですか?」


「俺たちはそう呼んでる」


 縁も足を止め、ミネットを見ている。


 ミネットは記録帳を閉じた。すぐに書き始めず、縁の姿をじっと確かめる。


「使い魔になる生物です」


「分かるの?」


「はい。学校でも、使い魔との契約が可能な生物について学びます。実物を見るのは初めてですが、教わった特徴と一致しています」


「じゃあ、縁は使い魔なの?」


「いいえ。使い魔になれることと、誰かの使い魔であることは別です」


「契約してないから?」


「はい。契約して初めて、特定の魔法使いの使い魔になります」


「夜斗さんが契約しているのですか?」


「してない」


「では、今は誰の使い魔でもないのですね」


「たぶん」


「契約の有無なら、魔力のつながりを確認すれば分かります。少なくとも、今の縁から夜斗さんへ続く契約の反応は感じません」


 ミネットは、縁へ手を伸ばさなかった。


「触らないの?」


「縁が、私に触れられたいか分かりません」


「使い魔、欲しいんじゃなかった?」


「欲しいです」


 ミネットは即答した。


「ですが、使い魔になれる生物を見つけたことと、その相手が私との契約を望むことは別です」


 縁が、ゆっくり部屋へ入ってくる。ミネットの前で一度止まり、匂いを確かめるように顔を近づけた。


 ミネットは動かずに待つ。


 やがて縁は、ミネットの記録帳へ鼻先を近づけた。


「これは、私の記録帳です」


「説明して分かる?」


「分からなくても、勝手に触れるよりはよいと思います」


 縁は革紐の端を少し嗅いだ。それからミネットの足元を一周し、何事もなかったように離れていく。


「嫌われなかった?」


「まだ分かりません」


 そう言いながら、ミネットは縁の後ろ姿を目で追っていた。


 興味はある。使い魔への憧れもある。それでも、縁が自分から選んでいないことまで先に決めようとはしなかった。


 当の縁は、部屋の中を歩き回っていた。


 柔らかそうな寝床を嗅ぎ、小さな段差へ上り、浅い水場を覗く。日向に見える場所を一度通り過ぎ、最後に低い棚の下へ置かれた地味な箱へ入った。


 箱の中で身体を丸める。


「そこ選ぶの?」


 豪華に見える寝床も、遊び場も使わない。ただの箱に収まって、落ち着いている。


「あれだけ用意したのに?」


「縁が落ち着くなら、そこが一番なのでしょう」


 ファステが言った。


「ほかの物、要らなかった?」


「一度使わなかっただけでは分かりません。しばらく、縁自身が何を使うか確認した方がよいと思います」


「使わない物は、後から移せばよかろう」


 《淫獄》は、縁が喜びそうな物を全部並べたように見える。でも、何を使うかを決めたのは縁だった。


 豪華な寝床より、隅にある箱の方が、今は縁の居場所らしく見えた。


     ◇


 次に見つけたのは、中央に大きな卓が置かれた部屋だった。全員が座っても余裕がある。


「食事をする場所でしょうか」


 ファステが隣の扉を確かめる。その先には、台と棚、洗い場らしき設備があった。


「こっちは調理場?」


「そのように使えそうです」


 食事をする場所と、料理を作る場所が分かれている。誰かが記録や材料を片づけるまで、食事を待つ必要もない。


「でも、食材は増えてないな」


 棚の中は空だった。調理器具も、今まで使っていた物を運ぶ必要がある。


「場所を用意しただけ?」


「それだけでも、十分助かります」


 ファステは洗い場の前へ立った。


「ここから水が出るのでしょうか」


 水の出口らしき物はある。俺が触れて、水が出るところを想像した。


 次の瞬間、透明な水が流れ始める。


「出た」


「止められますか?」


 水が止まるように意識すると、流れはすぐに止まった。もう一度試すと、また出る。


 ファステが容器へ少量を受けた。見た目に濁りはない。変な匂いもしない。


「飲める?」


「見た目と匂いだけでは判断できません」


 ミネットが容器を覗き込む。


「普通の水に見えますが、最初から飲用できるとは断定できません」


「でも、水運びは減るかもしれないんだよな」


「安全を確認できれば、そうなります」


 俺がもう一度、少量の水を洗い場へ流した。水は底に溜まらず、穴の先へ消えていく。


「排水もできる」


「それなら、前の汚水もここへ――」


「それは別です」


 ミネットがすぐに止めた。


「普通の水が排水されたことと、危険な汚染物を処理できることは別です」


「……今のは分かりやすい」


 グールの汚れが混じった水まで、同じように流してよいとは限らない。どこへ流れているのかも、どう処理されるのかも分からない。


「ただ、生成した水をそのまま排水できることは確認できました」


 できることが一つ分かった。できないと決まっていないことは、まだ試さない。


     ◇


 厨房の近くには、身体を洗うためと思われる区画もあった。水を出す設備と、排水する場所がある。


「これなら、外から戻った後に身体を洗えますね」


 ファステの表情が明るくなる。


「装備を洗う場所は分けたい」


 リゼは別の洗い場へ目を向けた。


「普通の土や汗と、正体の分からない物が付いた装備を一緒には扱えない」


 さらに進むと、出入口に近い場所へ広い空室があった。


「ここなら装備を置けそうだ」


「棚はないけど」


「必要な物は後から入れればいい。生活場所へ持ち込む前に、状態を確かめる場所にもできる」


 別の二部屋では、レイナとミネットが足を止めた。


「ここなら、途中の物を置いたままにできます」


 レイナが室内の明るさを確認する。


「ですが、材料を置く棚と作業台が必要です」


 隣では、ミネットが壁と空気を確かめていた。


「資料を置く場合は、湿気と明るさを継続して確認したいです」


「片方を工房、片方を資料室にする?」


「まだ候補です」


「遊ぶ部屋は?」


「すべてを資料で埋めるとは言っておらぬ」


「じゃあ、一緒に使う?」


「札と資料を同じ卓へ広げるつもりか?」


「今までやってたよ」


「それを分けるための場所であろう」


 部屋が増えたのに、使い方を考えるだけで話し合いが必要になりそうだった。


     ◇


 邸宅の裏側にある扉から、再び敷地へ出た。こちらには、まとまった土の土地がある。


「菜園にできるでしょうか」


「何か植えてみないと分からない」


「種も農具も必要じゃな」


 土があるだけで、食料が勝手に生えてくるわけではない。


「ここならよい」


 ナーヴァが、土の土地から少し離れた広場へ進んだ。


「何が?」


「我が戻る」


「本当に?」


「そのための広さであろう」


 リゼが全員を建物の近くまで下がらせる。


 俺たちが十分に離れたことを確認してから、ナーヴァが姿を変えた。


 人の形が大きく膨らむ。赤黒い鱗。巨大な四肢。長い尾。頭上へ伸びる角。


 翼が開く。


 邸宅へは触れない。周囲の壁にも届かなかった。


「入った……」


『当然だ』


 低い声が、広場全体へ響く。


 ミネットは、記録帳を持ったまま動かなくなっていた。


「ミネット?」


「……ナーヴァさんは、竜だったのですか?」


『何に見える』


「竜です」


「本人が見せるまで、俺たちからは話さないことにしてた」


「では、今は本人の意思で見せたのですね」


『我が姿を戻しただけだ』


 ナーヴァはミネットへ正体を明かすために変身したわけではない。それでも、隠すつもりもないらしい。


「飛べる?」


 ヴィオラが聞いた。


『試してみるか?』


「今日はやめろ」


『なぜだ』


「上に何があるか分からないからだよ」


 明るい空のように見えても、本当にどこまでも続いているとは限らない。


『ならば、翼を動かすだけにしておく』


「弱くな」


 ナーヴァが翼を一度動かした。


 風が広場を走る。土の土地から細かな土が舞い上がり、俺たちの方まで飛んできた。


「弱くって言っただろ!」


『弱くした』


「これで?」


「強く羽ばたくな」


 リゼがナーヴァを見上げる。


『飛んではおらぬ』


「飛ばなければいいって話じゃない」


 ナーヴァは不満そうだったが、二度目は動かさなかった。


 広くなった最初の日に、掃除する場所まで増えた。


     ◇


 邸宅へ戻り、確認できたことを千代とミネットが整理した。


 入口の前には応対用の空間があり、壁と門の先に邸宅と広い敷地がある。


 暮らす場所は増えた。水も土も竜へ戻れる広さもある。ただし、安全性や使い道は、これから一つずつ確かめなければならない。


「広くなったけど、分からないことも増えたな」


「使える可能性が増えたからです」


 ミネットが記録帳へ書き加える。


「縁の部屋は?」


 ヴィオラが聞く。


「まだ決めない」


「もう寝てたよ?」


「縁が何を使うか、もう少し見てから決める」


「その方がよいと思います」


 ファステが頷いた。


「普通の部屋は決めていい?」


「全員の希望を確認してからだ」


「まだ駄目か」


「今日見つけたばかりじゃろう」


 セリナが戻った時も、ミネットが泊まりたい時も、今なら選べる場所がある。


「明日から、何をする?」


 俺が聞くと、全員がほとんど同時に答えた。


「厨房の確認です」


「装備を移す」


「作業台が必要です」


「まず記録を整えるべきじゃ」


「遊ぶ部屋を決める」


「もう一度、広さを確かめる」


「水の確認を続けます」


「増えたの、場所だけじゃないな」


 やることまで増えている。


 最初は、俺一人が逃げ込めればよかった。


 今は、門がある。壁がある。


 その内側には、皆が暮らす邸宅と、それぞれの望みに使える場所がある。


 門の外にも、誰かを迎えて話せるだけの空間が残されていた。


 《淫獄》は、もう一つの部屋ではない。


 家というだけでも足りない。


 一つの小さな領地になり始めていた。


 場所が足りないと思った翌日、場所は増えた。


 その代わり、どこから手をつけるか分からないくらい、暮らしの続きも増えていた。

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