↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第十章 「呼ばずに増える住民」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
111/189

第111話 住民ですが、帰ります



「住民になったから残るのではありません」


 ミネットは新しくできた腰掛けへ座った。


「私が、もう少し確認したいと思ったから残ります」


 住民になったことと、今ここにいたいと思うことは別だ。


「何から確認する?」


「まずは、私自身からです」


 ミネットは両手を膝の上へ置き、目を閉じた。


「気分悪い?」


「今のところは。大きく乱れている感覚はありません。ただ、普段と完全に同じかは、ここだけでは比較できません」


「記憶は?」


「連続しています。自分の名前も、魔法学校へ所属していることも覚えています」


「使い魔ができた感じは?」


「ありません。住民になることと、使い魔を得ることには、今のところ関係がないようです」


「記録を取ってもよいですか?」


 ミネットは鞄へ手を伸ばしかけた状態で止まっていた。


「記録には、周囲の情報も含まれます」


 俺だけでは決められない。入口の近くにいる皆へ確認する。


「私は構いません。ただし、奥の生活区域や、他の方の持ち物については書かないでください」


「外から入口までの道もだ」


 リゼが続ける。


「書いたものを学校へ提出する予定はあるのか?」


 千代が尋ねる。


「ありません。これは私自身が、分かったことと分からないことを混ぜないための記録です」


「後に誰かへ見せる必要が出たなら?」


「その前に、どこまで見せてよいか確認します」


 千代が頷く。


 ミネットは、記憶の欠落は自覚できない、意識の混濁なし、身体に目立った痛みなし、自由意思による拒否行動が一度可能、使い魔との契約感覚なし、と記録した。


「そこまで書くの?」


「『変化なし』だけでは、何を確認したのか分かりませんから」


 次に灰色の床、低い仕切り、二つの腰掛け、壁際の浅い棚を見る。生活区域へ続く方角については書かず、入口付近に簡素な区画があるとだけ記録する。


「明るさはあります。光源は……」


 ミネットが天井を見上げた。


「どこ?」


「分かりません」


「夜になると暗くなる」


「外と同じ時刻ですか?」


「比べてない」


「空気はあります。呼吸もできます。風は……今はほとんど感じません」


「もっと奥だと感じる時もある」


「外から入ってきている風ですか?」


「分からない」


「分かりました」


「分かってないんだけど」


「分からないと分かった、という意味です」


 ミネットは一度筆を止め、俺を見る。


「魔力の流れも確認したいのですが、よいですか?」


「魔法を使う?」


「いいえ。まずは、自分に分かる範囲で外から見ます。より詳しく調べるには魔法が必要になるかもしれませんが、今日は行いません」


「どうして?」


「この場所が魔法へどう反応するか分からないからです」


 俺が頷く前に、千代が口を開いた。


「外から見るだけならば構わぬ。ただし、妙な反応を感じても追うでないぞ」


 ミネットは床や仕切りへ近づき、触れる前にも許可を求めた。


「この区画は、以前からあったのですか?」


「昨日まではなかった」


「私が来ると決まった後にできた?」


「皆が入れていいって決めた後だな」


「誰も作っていないのですよね?」


「少なくとも、ここにいる者は作っておらぬ」


「必要に応じて、《淫獄》内部の形が変わる可能性がある」


「可能性じゃ」


「はい」


 ミネットは書いた言葉へ線を加えた。


「入域者を迎えると住民間で決めた時期と、入口付近の変化が確認された時期が近い。原因は不明」


 何に反応したのかは分からない。ただ、ミネットを迎えると決めた後で、迎えるための場所らしいものができた。今分かるのは、それだけだった。


     ◇


 入口近くへ来ることへ同意した皆が、順番にミネットへ名乗った。


「リゼだ」


「レイナと申します」


「千代じゃ」


「ヴィオラ。よろしくね、新しい住民さん」


「ミネット・ノルンです。よろしくお願いします」


「新しい住民と呼ばれることに、まだ慣れていません」


「そのうち慣れるよ」


「慣れるかどうかも、今は分かりません」


 最後に来たのは、ナーヴァだった。人型の姿だが、角も鱗も隠していない。


「お名前を伺ってもよいですか?」


「ナーヴァだ」


「種族についても伺えますか?」


「今は必要あるまい」


「分かりました」


「聞かぬのか?」


「今は話さないと、本人が決めたのでしょう?」


「そうだ」


「では、必要になった時に改めて理由を説明して伺います」


「……好きにせよ」


「住民になった気分は?」


 ヴィオラが尋ねる。


「まだ分かりません。住民として表示されたことは確認しました。ただ、それだけで生活まで変わったとは言えません」


「真面目だねえ」


「ヴィオラは、すぐ住民だって思えたの?」


「私は呼ばれて来たからね。考える前に、もう中にいた」


 ミネットは何か聞きかけて、口を閉じた。


「その話を聞いてよいか、まだ確認していませんでした」


 通常召喚のことへ踏み込まず、ミネットは自分の記録へ戻った。


     ◇


 入口付近だけでも、ミネットが確認することは多かった。どれも、その場で答えを出すためではない。後で普段の環境と比べるための記録だった。


「もっと見ていく?」


「今日は帰ります」


「住民になったのに?」


 言ってから、自分でおかしいと思った。


「住民になったことと、今日ここへ泊まることは別だと、夜斗さんが説明しました」


「そうだった」


「学校で確認したいこともあります。自分の魔力や身体に変化がないか、普段の環境でも比べたいです」


 ミネットは一度言葉を切り、手元の記録へ視線を落とした。


「それと、今日確認したことを手掛かりに、学校で似た現象を調べてもよいですか?」


「《淫獄》のことを話す?」


「いいえ。まずは公開されている資料から、外部と分かれた空間や、入口を通って入る場所について調べます」


「誰かへ質問する必要が出たら?」


「《淫獄》を特定できる情報は出しません。それでも説明が必要だと思った場合は、先に皆さんへ確認します」


「それなら、俺はいいと思う」


「他の皆さんにも確認してください」


「うん。俺一人の秘密じゃないからな」


「じゃあ、外へ出られるかも確認する?」


「お願いします」


 外への入口を開く。ミネットは境界の前で足を止めた。


「出たら住民じゃなくなるかもしれない?」


「分からない。でも、ファステたちは外へ出ても住民のままだった」


「私も同じとは限りませんね。では、出た後で確認します」


 ミネットは、自分の足で境界を越えた。


 姿が完全に向こう側へ移った後、《住民管理》を確認する。


『ミネット・ノルン』


 名前は消えていなかった。


「残ってる」


「では、少なくとも今回、外へ出ただけでは住民登録は解除されなかったようです」


「残っててよかった?」


「それも、まだ判断できません。ですが、勝手に消えなくて安心はしました」


「次に確認したい時は、どうすればよいですか?」


「今は、俺と会ってからになる。一人で戻る方法もあるかもしれないけど、準備するなら皆と相談して、ミネット自身にも選んでもらう」


 《帰還目印》のことは、まだ説明していない。俺一人で勝手に決めて登録するものでもない。


「分かりました。では、次も学校でお待ちします」


「住民なのに?」


 また同じことを言ってしまった。


「私は、《淫獄》の住民になったようです」


「うん」


「ですが、今日は学校へ帰ります」


「うん。それでいい?」


「私が決めたことです。はい。それでよいと思います」


 《淫獄》の住民が、一人増えた。


 それでも、その人がどこで暮らすかまで、《淫獄》が決めたわけではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。