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このスキル、やばスギル。 ~ガチャ沼に堕ちたら俺の負け~  作者: 明日乃風
第九章 「このスキル、やばスギル」

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第104話 一個、あふれなかった

 翌朝、目を覚まして最初に見たのは召喚画面だった。


『所持《淫獄石》:10,000』


『通常《住民召喚》を実行できます』


 減っていない。

 当然だ。寝ている間に回した覚えはない。


 増えてもいない。

 昨日と同じ数字が並んでいる。


「まだ回しておらぬな」


 千代が起きてきた。


「確認しただけ」


「昨日も、何度も確認しておったが」


「押してないだろ」


「押さぬまま眺め続けることを、我慢と呼ぶかは難しいところじゃな」


 昨日持ち越した受け入れ準備を、役割ごとに決めていく。


「縁が離れぬ時はどうする?」


 千代が聞く。


「無理に引きはがさない。本人が嫌がってたら、俺たちも近づきすぎない」


「話したくないって言われたら?」


 ヴィオラが口を挟む。


「必要なことだけ伝えて、待つ」


「外へ出たいと言った場合は?」


「危険は説明する。でも、閉じ込めない」


 答えながら、必要な物を書き出していく。


「ねえ、その表示、もう一回見せて」


 ヴィオラが俺の横から覗き込んだ。


「昨日から変わってないよ」


「だから見たいんじゃなくて、夜斗が回したそうな顔をしてるから」


「顔は表示されてないだろ」


「こっちを見れば分かる」


 振り向くと、思っていたより顔が近かった。


 長い茶色の髪が頬へ触れる。耳元で笑う声と、薄着の身体が肩へ触れそうな距離。俺が固まったのを見て、ヴィオラの目が楽しそうに細くなった。


「押したくなった?」


「別の意味で困ってる」


「何の意味?」


「分かって聞いてるだろ」


 昨日も近い距離にはなった。似た刺激に少し慣れていたのか、大きく揺さぶられたわけではない。


 それでも、欲望は確かに反応した。


『《淫獄石》を1個獲得しました』


『所持《淫獄石》:10,001』


「……一個?」


「少ないね」


「そこじゃない」


 表示を閉じ、もう一度開く。


『所持《淫獄石》:10,001』


「残ってる」


「何が?」


「一万を超えた分」


 ヴィオラも表示を見直した。


「上限、一万じゃなかったの?」


「そのはずだった」


          ◇


 千代が過去の記録を開いた。


「前は、上限へ達したと分かる表示が出ておった」


「うん」


「上限中に増えた石が、保持されなかったこともある」


 俺にも覚えがある。


 前回、所持数が10,000個へ届いた時には、はっきり表示された。


『《淫獄石》は現在の上限に達しています』


 今回は違う。


 昨日10,000個へ届いた時に出たのは、通常《住民召喚》を実行できるという表示だけだった。


 そして今日、増えた一個は失われずに残っている。


「じゃあ、いつ上限が変わったんだ?」


「変化したのが今回とは限らぬ」


「もっと前から?」


「可能性はある。わしらが一万を超えるまで確かめられなかっただけかもしれぬ」


「今の上限は?」


「一万ではない。それ以上は分からぬ」


 俺は表示へ尋ねた。


「《淫獄石》の所持上限は?」


『所持《淫獄石》:10,001』


「それは今持ってる数。上限」


 新しい答えは出ない。


「次の通常召喚に必要な石は?」


『必要《淫獄石》:10,000』


「次の次は?」


 答えはなかった。


「どうして一万を超えて持てるようになった?」


 これにも答えはない。


「聞き方を変えたら?」


 ヴィオラが言う。


「俺が、一万より高くなるのは嫌だと思ったから?」


 何も表示されなかった。


「肯定も否定もせぬか」


「能力は、俺の欲望に関係してるんだよな」


「既にある欲望が、能力の向かう先へ影響する。その可能性はある。されど、今の情報だけでは証明できぬ」


 通常召喚に必要な数が10,000個で止まり、持てる量だけが増えた。


 もし俺が、高くなり続ける召喚価格を嫌ったからだとしたら。


 《淫獄の王》は、俺が望んだ形へ少し変わったことになる。


 でも、変わったとは教えなかった。


「嘘は出してないんだよな」


「今のところ、表示された数と実際の結果に食い違いは見つかっておらぬ」


「でも、必要なことを全部言ってない」


「それも、どこまでを必要とみなすか次第じゃ」


 召喚価格。所持上限。解放条件。《淫獄》の機能。


 今までも、できるようになった後で初めて知ったことがある。聞いても答えず、実際に起きるまで分からなかったこともある。


 表示されたことだけを、その仕組みの全部だと思っていた。


「今さらだけど、これ、かなり説明が足りなくない?」


「今さらじゃな」


「そこは否定してほしかった」


          ◇


 話を聞いたリゼは、召喚画面より先に俺を見た。


「それで、私たちのことまで疑うのか?」


「疑わない」


 答えはすぐに出た。


「システムの説明は疑う。でも、皆が自分で選んだことまで疑うつもりはない」


 ファステがここで暮らすことを選んだ。

 レイナが自分で身につける物を作った。

 セリナが外へ出た。

 ナーヴァが皆へ肉を残した。


 それは表示で教えられたことではない。

 俺たちが実際に見て、聞いて、話してきたことだ。


「当然だ」


 ナーヴァが腕を組む。


「我の意思を、あの表示ごときに決められてたまるか」


「うん」


「そなたの欲望に反応して石を出すことだけは、少々不愉快だがな」


「俺も好きで表示してるわけじゃない」


「欲望はそなたのものであろう」


「そこを言われると弱い」


 ヴィオラが笑った。


          ◇


「では、今日の召喚はどうする?」


 千代に聞かれ、俺は二つの数字を見た。


『所持《淫獄石》:10,001』


『必要《淫獄石》:10,000』


 回せる。


 一回回しても、一個残る。

 何が出るかも見たい。


 でも、昨日まで考えていた理由の一つは消えた。


 一万で上限なら、それ以上に増えた石を無駄にする前に回さなければならない。そう思っていた。


 貯められるなら、石があふれるからという理由で今すぐ回す必要はない。


 新しい住民が必要になった時。

 迎えられる余裕がある時。

 どうしても回したくなった時。


 その時に、改めて決めればいい。


 ……回したくなった時、という条件を入れた時点で、少し負けている気もするけど。


「今日は、まだ回さない」


「昨日より一個増えたのに?」


「一個増えたからだよ」


 次の一個も残る保証はない。

 上限そのものがなくなったと分かったわけでもない。


 それでも、少なくとも今は、10,001個を持っていられる。


「千代。これからは、出た表示だけじゃなくて、出なかった表示も記録できる?」


「以前なら出たはずのもの、という意味か」


「うん」


「出なかったものまで?」


 ヴィオラが首を傾げる。


「今回、役に立ったであろう」


 千代は昨日の記録へ、一行を書き加えた。


 所持数10,000個。

 通常召喚可能。

 上限到達の通知なし。


 今日の記録にも、新しい数字が残る。


『所持《淫獄石》:10,001』


『必要《淫獄石》:10,000』


 一個あふれたのではない。

 一個、残った。


 システムが今まで見せていたものは、嘘ではないのかもしれない。

 ただ、全部でもなかった。

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