91.ヨルムの暴走
翌朝、酒場に向かう途中でラナが切り出した。
「ねえ、今日は私とCランクの動物の魔子を比べてみてくれない?」
「別に構わないが…もうそんなにヌーを倒したのか?」
「狩った数が足りてるとは思わないけど…
ドンイ鋼の剣が手に入ったし何とかならないかと思って。」
カバドから巻き上げた金で装備を買ったのは知っていたが
ドンイ鋼の剣も買ってたのか…貸してた金も返ってきたし
王子から相当巻き上げたようだな。
「武器が良くなったくらいで倒せるものなのか?」
「同ランクの武器があれば結構損傷を与えられるものなのよ。
ポノは武器を使わないみたいだから知らないかもしれないけど。」
そういうものか…同ランクの武器を持っていて
討伐に失敗したというカバドはヘボだったということだな。
ダガーと剣じゃ話は変わってくるのかもしれないが。
「なるほどな…ちなみに武器の性能はスキルに乗るのか?」
『ソノハズダ。本来デアレバ格上ニ挑ム時ハ
武器トスキルヲ組ミ合ワセテ最善ヲ尽クスモノダカラナ。』
『…言われてみれば白い牙もそうだったもんな。』
酒場に着いたので食事を済ませた。やはり姿を隠さず普通に食べるのはいいな。
昨夜は色々あったせいか別に何とも思わなかったのに不思議なものだ。
「ドンイ鋼の剣はもちろんいいんだがその金があれば
横向きの斬撃を飛ばすスキルも買えたんじゃないか?」
「…盲点だったわ。予定を変更してスキル書を買いに行こうかしら?」
まだスキル書を買える金が残っていたらしい。
しかしミスリルの剣に手が届くほどではなかったようだし気にしないでおくか。
「範囲狩りをする時に毎回倒れこんでたら不便そうだしな。どうする?」
「ごめんなさい、やっぱりスキル書を優先するわ。
今日はスキル書を買って宿に戻って読むことにする…」
「わかった。それじゃこっちは依頼を受けに行くか。」
3人で組合の方に向かい、魔法具屋の前でラナと別れて歩き続ける。
『ラナハ随分ト巻キ上ゲタヨウダナ。』
『そのようだな。カバドのせいでラナも辛い思いをしてたんだから
今回は大目に見ようと思ってるが。』
『ソレデヨイノカ?』
『この世界でどうだかは知らないが俺が元いた世界だと
精神的苦痛を受けた場合にその相手から金を取る手段があったからな。』
『何ト、ソノヨウナモノガ?』
『ああ、俺も詳しくは知らないが力無き者に与えられた権利というか…』
『マサカソレヲコノ世界ニ取リ入レヨウト?』
『さすがにそんなことはしないしやるつもりもないよ。
俺の価値観でその国の法を変えたりしたらアカネに怒られるだろう。』
『ポノデモアカネ様ニハ弱イノダナ。』
『こっちは遊ばせてもらってる身だからな。
アカネが言うことには極力従うようにするさ。』
『ソレデモ極力ナノカ…』
組合に着いたので中に入ると組合内は閑散としていた。
みんな頑張っているようだな。
「おはよう、アマンダ。今日も特に何もないか?」
「おはようございます、ポノさん。ご無事で何よりです。
冒険者達を王子の魔の手から救い出してくれてありがとうございます。」
「そこまで言われるほどのことをしたわけじゃないさ。それで、依頼は?」
「…そうでした、依頼ですね。ところで、ポノさんはあまりお金に
執着がないようですが報酬が安くても構いませんか?」
「まあ…構わないが内容によるな。」
「それでは今朝届いたこちらの依頼はどうでしょう?」
アマンダは1枚の紙を差し出してきた。
捜索依頼:猫
報酬:500円
依頼主:リジー
「…飼い猫がいなくなったから探してほしいとか?」
「仰る通り、飼い猫の捜索依頼ですね。
依頼主が子供なので報酬が安いのですが…」
「受けよう。」
「…ありがとうございます。こちらが依頼主の家の地図です。
猫を見つけたら捕まえて届けてあげてください。
あと、依頼主から手紙をお預かりしていますので目を通してください。」
アマンダから地図と手紙を受け取った。
「じゃあ行ってくるよ。」
「よろしくお願いします。お気をつけて。」
組合を出たところで思わず顔が綻ぶ。
『ソンナニニヤニヤシテドウシタノダ?』
『子供の依頼ということもあるが猫だぞ猫。さぞかしかわいいんだろうな。』
『ポノハ猫ガ好キナノカ。アンナ毛ダラケノ我侭ナ生キ物ノドコガイイノダ?』
『見た目がかわいい、仕草がかわいい、鳴き声がかわいい、
肉球がプニプニで感触がいい、毛がフワフワで触り心地がいい上に温かいし…』
『ワカッタワカッタ、モウイイ。
シカシソノ程度ナラ我ガイレバ大体ハ事足リルデハナイカ。』
ヨルムがそう言うと首元が温かくなった。体温を上げたのだろう。
かと思ったら地面にスルスルと降りていき、全身から柔らかそうな毛を出した。
『フフ、ドウダ?魅力ガ上ガッテキタカ?』
『いや、ちょっと待っ…』
『ニャーン!』
思わず吹き出しそうになったが必死にこらえる。
チノワの時のようにヨルムが首元にいたらバレていたかもしれない。
ヨルムを改めて見ると前進が黒い毛で覆われていて…そう、これは…
『すまんヨルム。異様に長い毛虫に見えるから元の姿に戻ってくれ。』
『ナッ…』
数秒固まった後、ヨルムは毛を引っ込めるとスルスルと俺の首に戻ってきた。
姿は見えないが落ち込んでいる様子が伝わってくる。
『俺のためにやってくれたのにごめんな。』
『ヨイノダ。我ガ浅ハカダッタ…』
『ヨルムはいい女なんだからそのままでいいんだよ。』
『フフ…』
ヨルムが簡単で助かるな…さて、まずは手紙を読まないと。




