89.救出
『緊急事態だし少し急ぐか。』
『ソノ方ガヨサソウダナ。』
解放的な刑務所を使用して姿を消し、飛行して北東部の豪華な宿を目指す。
『上から見た町はこんな感じなんだな。』
『ヤハリポノハノンビリ癖ガアルナ。』
『そうは言っても音速を超えたらうるさいしな…』
『ソウダナ…我ガ悪カッタ。』
さすがに街中だけの移動なので短時間で宿に到着した。
向かうのを見ただけでここだとは限らないけど大丈夫だろう…
人目がない位置に着地して解放的な刑務所を解除した。
宿の大きな扉の前には門番がいる。時間もないし強行突破だな。
「止まれ!ここは王族専用の宿だ!許可のない者の立ち入りは許されない!」
問答をしている時間も惜しいので空気牢獄で止まっていてもらおう。
門番を無視して中に入ると受付もないエントランスが広がっていた。
何故か整列している兵士達が騒ぎ出す前にまとめて空気牢獄で固めておく。
可視魔子を使うと奥の部屋に3人とカバドがいるらしいのがわかった。
動けない兵士達の前を通って扉を開けると目に飛び込んできたのは
十字架に括り付けられた全裸の3人と暴力を振るうカバドだった。
ゴンザナシまで全裸にする意味はよくわからなかったが…
なんで宿に十字架があるんだ…などと考えてる暇はないな。
とりあえず置換を使ってカバドをエントランスの中央に移動させ、
空気牢獄で動きを止めておく。
「待たせたな。大丈夫だったか?」
「来てくれたのね…ありがとう…」
「こんな様を見せるとは…不覚だ。」
「来てくれなかったら危なかったよー。ありがとー。」
3人を十字架から解放する。カバドに殴られたらしく、全身痣だらけだ。
まずは傷を癒すか…
「昭和家電!」
「…痛みが消えたわ。」
「物だけじゃなくて人も治せるのか。」
「ありがとー。でもあんまり見ないでー。」
「すまんすまん、予備の服はあるか?」
「残念ながらないわ…」
「俺も一張羅だったからないな。」
「あたしもないよー。」
…この世界の住人は洗濯をしないのだろうか?
薬草の土のように図鑑に一度片付ければキレイになるのか…?
それにしても全裸になる必要があるわけで…その辺は今度聞くことにしよう。
全身をカバーできる物…図鑑から三角地竜のフリルを3つ取り出して3人に渡した。
「とりあえずこれを。」
俺のコレクターぶりがこんな形で生きるとは思わなかった。
「ありがとう。って、重いわねこれ…」
「すまない…本当に重いな。」
「ありがとー。重いし恥ずかしいけど我慢するよー。」
これで見た目の問題は解決だな。あんまり動くと色々見えそうだが。
踵を返してエントランスに入り、カバドに近づいていく。3人も俺についてきた。
「聞いた話によるとラナが最初に捕まったらしいが何をしたんだ?」
「私は何もしてないわよ。王子がいきなり私を捕らえるように命令したのよ。」
その辺の事情がわからないと何とも言えないので
カバドの首から上を動かせるように空気牢獄を調整した。
「何故ラナを捕らえるよう命じた?」
「余に何をした!?こんな真似をしてただで済むと思っているのか!?」
この状況でこんな物言いができるとは見上げた根性だな。
「自分の立場がわかっていないようだな。」
固定した空気ごしにカバドの腹を殴る。
その衝撃は全身に伝わり、カバドは呻き声を上げた。
「答える気になったか?」
「だ、誰がお前のような愚民の問いに答えるか!」
再び腹を殴る。
「答えなければこれが永遠に続くと思え。その前にお前は死ぬだろうがな。」
俺の言葉に恐怖を憶えたのかカバドが少しおとなしくなったようだ。
「その女は以前、余の命令に背いた挙句暴言を吐いて逃げていったのだ。」
どこかで聞いたような話だ。ナンパじゃなくて命令か…
それではラナが怒って暴言を吐いたのも無理はない。
「あー、あの時の…王子だったのね…」
ラナはすっかり顔を忘れていたらしい。
「余、余の顔を忘れていただと…!?」
さすがのカバドも自分の顔を忘れられたのは未体験だったようで
見る見るうちに顔が真っ赤になっていった。
「初対面の女性に命令したのなら暴言を吐かれてもしょうがないな。」
「余が娶ってやると言っているのだぞ!?最大限の名誉ではないか!」
「…黙れ。」
イラッとしたので喋れない状態にしてから再び腹を殴ってやった。
カバドは動けないまま身悶えしている。
「それで、ラナが捕まったのを見てゴンザナシ達が止めに入ったのか?」
「そうだな。王子の横暴ぶりは話に聞いていたから止めるべきだと思ったんだ。
ラナちゃんが無礼を働いたとは思えなかったからな。」
「私もそう思ったから止めに入ったんだよー。」
ラナの暴言の一件は聞いていたのに…
王族に逆らうのがどれくらいの罪なのかはわからないな。
「普通、王族のやることを妨害した場合は罪になるのか?
なるとしたらどれほどの重さなのかが知りたい。」
「王族の行動が罪につながりそうな場合は止める側は無罪だな。
正当性があったとしたら妨害の内容にもよるが重いと死罪になる。」
「ナンパを断られた腹いせに拉致…は罪になると思うがどうだ?」
「王族であろうがなかろうが罪になるだろうねー。」
「じゃあバカ王子が悪いな。」
カバドを喋れる状態に戻して続ける。
「3人の服や装備を弁償すればお前の愚行は許してやるがどうする?」
「余に向かってそのようなことを申すとは命がいらないらしいな!?」
この期に及んでまだそんなセリフを吐けるとは…
「俺に向かってそんなことを言うか…命がいらないのはお前の方じゃないのか?」
カバドの顔が青ざめた。
「命とプライド…どっちが大事だ?死にたいなら望みを叶えてやるぞ。」
「…わかった。」
「何がわかったんだ?」
「…その3人の装備を弁償しよう。」
これくらいが落としどころだろう。
「バカ王子も少しは反省したようだし許してやるか?」
「あ、裸にされた分を考えてないんじゃない?」
「おお、そうだな。さすがラナちゃん。」
「そうねー。乙女の裸は高いよー。」
…いい根性してやがる。
面倒になってきたがもう少し話を続ける必要がありそうだな。




