86.小旅行
翌朝、前日からの解放的な刑務所は継続していた。
食事の際はヨルムには他から見える状態で動いてもらい、
ラナには蛇を連れて食事をしている女性として動いてもらった。
おっちゃんに事情を説明してわかってもらうまでが一番大変だったな。
宿から酒場に向かう最中、ラナが小声で話しかけてきた。
「そのバカ王子っていうのに目を付けられるなんて、強いのも考え物なのね。」
こちらだけ普通に喋るわけにもいかないので音量を合わせて返す。
「ラナもいずれそうなるかもしれないぞ。」
「自由を求めて冒険者をやってるのに強制されるなんて絶対にごめんだわ。」
「自由を求めてか…家族と何かあったとか?」
「…今は言えないわ。」
「そうか、なら聞かないさ。ところで、狩りの方はどうだった?」
「バッチリよ!」
「声がでかいぞ…」
「…スキルの範囲も把握できたし効率は劇的に上がったと思うわ。」
「そりゃよかった。勧めた甲斐があったな。」
「お金も貸してもらったしね。
このペースで狩れれば返すのにそこまで期間はかからないかも。」
「そういえばラナが物を売っているところを見たことがないな。」
「ちゃんと組合に行って売ってるわよ。商人組合の方が多いけどね。」
「冒険者組合じゃなくてか。」
「低ランクの買取りはすぐいっぱいになっちゃうからね…
その点、商人組合ならいくらでも買い取ってくれるのよ。」
「その代わり価格は安いとか?」
「そういうこと。Cランクまで上がればそんな悩みはなくなると思うんだけど…」
「まぁあせらず地道に…だな。」
「そうね。」
「酒場に着いたし昨日の要領で頼むよ。」
「わかったわ。」
いつものように…とは言えないが食事を済ませてラナと別れた。
『今日モ組合デ依頼カ?』
『そのつもりだが…何かあるのか?』
『ソノバカ王子ガドコカラ来ルノカト思ッテナ。
転移装置カラダトスルト一度見ニ行ッタ方ガイイカモシレナイ。』
『なるほど、一理あるな。』
『ソレラシイ理由ハツケタガ単純ニ我ガ見テミタイトイウダケダ。』
『それならそうと言ってくれればいいだろうに。
まぁ俺も見に行ってみたいと思っていたしちょうどいいか。』
『行コウ行コウ。』
しかし場所がわからない…と思ったが地図を買ったんだった。
目立たないように路地に入って図鑑を出す。
買ってから見ていなかったが地図は思ったより縮尺が小さかった。
それに合わせて文字もとても小さい…と思っていたら拡大することができた。
自分がいる場所から一定距離以上離れた場所を表示することはできないが、
通常の縮尺で表示されている場所ならどこでも拡大して見ることができるようだ。
性能を確認してから地図を見ると町の北東部に転移装置の表記があった。
図鑑を消してとりあえずは組合に向かって歩き出す。
組合のある通りを右に曲がれば町の東門に出るはずだ。
『町の東側って何気に初めて行くんだよな。』
『ソウナノカ?』
『ああ、今まで用事がなかったからな。』
『ポノハコノ町ニ長クイルト思ッテイタゾ。』
『まだこの星に来てから1ヶ月も経っていないからな…』
『ソレデ常識ガナイノダナ。』
『随分はっきり言うようになったな…その通りなんだが。』
『今更気ヲ使ワナクテイイト言ッタデハナイカ。』
『やっぱりはっきり言われると傷付くから程々にしておいてくれ…』
組合の前まで来たので右に曲がる。ここからは未知のエリアだ。
『こっちの通りは宿屋が多いのか。人通りも多いな。』
『南方面ト比ベルト豪華ダナ。』
『転移装置を使ってきた旅行者が泊まるのかもな。
旅行者なんて来るのか知らないが。』
『コノ雄大ナ自然ヲ見ニ来ル者モイルダロウ。』
『すっかり見慣れてしまったが確かにこの周辺の自然は一見の価値があるな。』
『ソウダロウソウダロウ。』
そうこう言っているうちに東門に到着すると、町に入るための行列ができていた。
転移装置を使って来たであろう荷馬車なども検問を受けている。
門番は立っているがこちらの姿が見えるわけでもないので素通りした。
ここから北上していけば転移装置が見えてくるはずだ。
『さて、どんな感じなのか楽しみだな。』
『ソウダナ。』
歩き始めてそう時間が経たないうちにそれらしき物が見えてきた。
石造りでドーム状になっている建物がそこら中に点在している。
建物ごとに衛兵が立っていて、入る人または出てくる人と話している様子だ。
ごく一部の建物には衛兵がいないのはどういう理由だろう?
どのように使うのか確かめるために様子を見ていると
入ろうとしている人が並んでいる建物から人が出てくることはなく、
人が出てきた建物に入ろうとしている人はいなかった。
『行く用と来る用で分かれているのか。』
『ソウラシイナ。』
『せっかくだから人が並んでいない建物に入ってみるか。』
『ソンナコトヲシテ大丈夫カ?』
『姿が見えないんだから大丈夫だろう…たぶん。』
人が全然並んでいない建物を見繕って近づいていく。
建物の入り口にはワクスモ(アシロ王国)と書いてあった。
『白い牙の3人がいる国は人気がないのか…寒いからか?』
『ズットコウデハナイノダロウ…タブン。』
建物の中に入ると床には魔法陣らしきものが描かれていた。
『中に入ってすぐに転移が始まるわけじゃないんだな。』
『中央マデ進ムト始マルノカモシレナイナ。』
ヨルムの予想通り、中央に進むと一瞬にして風景が変わり
入り口の外は一面の銀世界になっていた。
『おお、さすがに雪が多いな。』
『寒ソウダナ。ポノ膜ノ内側ニイテヨカッタ。』
勝手に変な名前を付けられてしまった。
…いや、それが変だと言うと俺の名前自体が変だということになるか。
『転移装置は一方通行だろうから外に出てアビンザに帰る建物を探さないとな。』
『雪ノ上ダカラ足跡ヲ付ケナイヨウ気ヲツケナイトナ。』
『さすがヨルムは俺のうっかりをフォローしてくれるな。』
『フフン。ソウダロウソウダロウ。』
少しだけ浮いて移動を開始した。【猫型ロボット】のようだな。
幸い少し歩いただけでアビンザに戻る建物は見つかって無事に戻ることができた。
調子に乗って次は衛兵がいない建物に入ってみたが転移装置は起動しなかった。
『何故コノ建物ハ転移ガ始マラナイノダ?』
『わからないな…単純に故障しているのかもしれないし、
もしくは何らかの理由で町同士が繋がりを断っているのかもしれない。』
『アカネ様ニヨル装置ダ、故障ハシナイト思ウガ。』
ヨルムの言う通り、建物の背には特大サイズの見覚えのあるサインが
入っているのでアカネの作と言えるだろう。それなら故障はなさそうだな…
『気を取り直して他の場所に行ってみよう。』
『ソウダナ。』
その後は人が切れるのを待って各転移装置であちこちの町に行ってみた。
建物から建物までの短い距離を歩くだけだが気分は小旅行のようだった。




