85.冒険者組合の罠
翌日、朝食のために酒場に向かう。
「今日は一人で狩りに行こうと思うの。」
「スキルの範囲には慣れてきたようだしいいんじゃないか?
強い動物を巻き込む恐怖が身に沁みただろうしな。」
「そうね、あんな怖い思いはしたくないわ。」
「それじゃこっちは何か依頼を受けに行こうかな。」
酒場に到着したので食事を済ませてラナと別れた。
少々不安は残るが細心の注意を払うと言っていたから大丈夫だろう。たぶん。
最終的には独り立ちするはずなのでずっと見てるのもよくないだろう。きっと。
『今日はどんな依頼になるかな…』
『面白イ内容ダトイイナ。』
『そもそもそんな依頼が来てるのかわからないけどな。
掲示板をまじまじと見たことがないし。』
『気ニナルナラ見テシマエバヨイデハナイカ。』
『それをしてしまうと大体の場所がわかってしまうじゃないか。
毎日位置が変わるならいいけどそうじゃないだろうしな。』
『ソレモソウカ。』
『位置が変わるんだとしてもあっちの依頼の方が面白そうだったな…
って思ってたら依頼に身が入らないかもしれないだろ?』
『ソウカモシレナイナ。』
組合に到着して中に入る。今日も一応アマンダに確認しておくか。
「おはよう、アマンダ。今日は何か急ぎの依頼はあるか?」
「おはようございます、ポノさん。組合長からお話があるそうで…」
「またか…わかった。奥の部屋でいいのか?」
「ええ、すぐ組合長を呼んで参りますので。」
俺とアマンダは奥の部屋に入り、アマンダはそのまま隣の部屋に入っていった。
『さて…今日は何だろうな?』
『モウコノパターンダトバカ王子ニシカ思エナイガ…』
『だよなあ…』
などと話しながら待っているとアマンダとウィリスが部屋に入ってきた。
例のごとくアマンダはすぐ受付に戻っていった。
「儂の予想が当たったようじゃ。バカ王子が地竜討伐に乗り出すそうでのう。」
「今後は何も納品しないようにするか…」
「もはや手遅れじゃろう。バカ王子がそれだけの力と
装備を手に入れてしまったんじゃから。」
「まあバカ王子がどこで何をしようと俺の知ったことではないが…
バカ呼ばわりされてるような奴が白い牙の3人と
同じランクになるのは何だか腹立たしいな。」
「お主はあの3人と面識があるのか?」
「面識があるもなにも地竜討伐の見届け人を頼まれた程だ。
実力がある上に礼節もきちんとした一流の冒険者という印象だったな。」
「お主にそこまで言われればあの3人も嬉しいじゃろうな。」
「それで、バカ王子の動向だけなら伝言だけでもよさそうだが
わざわざここで話すってことは何かあるのか?」
「討伐の際に地竜の素材や装備を提供した冒険者を
同行させろと言うてきよった。もちろん断ったがのう。」
「そこで話は終わりじゃないのか?」
「バカ王子がそれくらいで諦めるならいいんじゃがのう…
奴のことじゃからその辺の冒険者からでも情報を集めるじゃろう。
お主は見た目からして特徴的じゃし…
あまり時間もかからずに特定されると見ておる。」
「冒険者に口止めしても無駄だってことだな?」
「儂らがいくら言っても金のために教える者もおるじゃろうからのう。」
「なるほどな…まあ直接絡んでくるなら目に物を見せてやるさ。」
「じゃろうな…そこでお主が以前言っておったのを思い出してな、
バカ王子の意志がこの国全体の意志だとは思わないで欲しいんじゃよ。」
「敵対するなら国が相手でも…ってやつだな。さすがに俺はそこまで
横暴じゃないつもりだ。話を聞いてる限りではバカ王子個人の問題だろう。
実際に会ってみてまるで違ったとなったら話は別だが。」
「会えばわかるはずじゃ…と言うか会ったことを後悔すると思うわい。」
「それほどか。ちなみにバカ王子は一人で挑むのか?」
「いや、兵士達を数十人連れて行くらしいのう。
その兵士達もバカ王子を慕っているわけはないじゃろうから可哀想でならん…」
「出立の日時はわかるか?」
「明日この町に入り、明後日の朝にここを出ると聞いたのう。
それまではお主を探すことに尽力するじゃろう。」
「そうか、組合の職員は俺の味方ってことでいいのか?」
「それは誓おう。ここの職員にお主を悪く言う者はおらんしな。
バカ王子と比べることすら馬鹿らしいわい。」
「わかった。わざわざすまなかったな。」
「なるべく穏便に頼むぞい。お主にはこれからも稼いでほしいからのう。」
「はは、ウィリスは長生きしそうだな。じゃあな。」
部屋を出るとアマンダとクロエが真剣な表情でこちらに一礼してくれた。
今回はウィリスから聞かされて事情を知っているのだろう。
バカ王子が来るのは明日とのことだったが
事前に手の者を送り込んできていても不思議ではない。
今日は依頼を受けるのをやめて…いや、見つからなければ構わないか。
「アマンダ、何か依頼を見繕ってくれないか?」
「ポノさん…お気持ちはわかりますが身を隠した方がよろしいのでは?」
「何、見つからなければ問題はないだろう。解放的な刑務所!」
俺の姿が瞬時に透明になる。もちろん影も落とさないし
どの方向、角度から見ても俺がそこに存在していることはわからないだろう。
透明になると言うよりは俺の先の風景がそのまま見えるだけなんだが…
アビンザのダンジョンの壁から着想を得た魔法だ。
「ポノさんの霊圧が消えた…?」
アマンダもか…もはや突っ込むまい。
「いや、俺は元いた位置にいる。見えてないだけだ。」
「本当ですか…?ちょっと失礼。」
アマンダは俺の体があった辺りを確認するように触り始めた。
「これは凄いですね。これなら見つかりっこないです。」
「だろう?」
「ええと、依頼でしたね。」
アマンダは掲示板から一枚の紙を剥がして持ってくる。
「こちらでどうでしょう?」
紙に目を通すと…
納品依頼:クロヒョウのビキニ、ブーツのセット 上限なし
達成報酬:1500万円
依頼主:アビンザ冒険者組合
「これは…完全に俺を利用してないか?」
「いえいえ、ごく普通の依頼ですよ?」
アマンダの笑顔はこの前と同じくどこか不自然だ。これを企んでたのか?
ウィリスの指示かアマンダの判断なのかクロエが絡んでいるのか…
職員は俺の味方だという話はいったい…
「しょうがないな…今回は受けるがやりすぎないでくれよ。
そのうち俺の堪忍袋の緒も切れると思うからな。」
「…ちょっと何を言ってるのかわかりませんが肝に銘じておきます。」
アマンダもなかなかの女のようだ。
組合を出てダンジョンに向かう。
『ヤハリアノ女ハ油断ナラナイ存在ダッタナ。』
『まさかこんなことになるとは…女は怖いな。』
『我ヲソコニ含メナイデホシイ。』
『わかってるよ。ヨルムはいい女だ。』
『フフ…』
衛兵に今日も何度も入ることになると事情を説明してダンジョンに入った。
こっちを把握するまでに多少の時間がかかったが
透明のまま話しかければそりゃびっくりするよな…
その日は夜になるまでクロヒョウ狩り(ついでにティラノダガーも)を行った。
以前予想した通りクロヒョウの出現にはパターンがあるようで、
1頭もいない場合、2頭いる場合、3頭いる場合の3種類のようだ。
入った位置からまっすぐを北とすると、2頭いる場合は北東と北西に。
3頭の場合は真北、真東、真西にそれぞれ出現するようだ。
納品がてらその情報を伝えるとクロエは納品の量にも情報にも狂喜乱舞し、
もうクロヒョウのドロップの納品依頼は出さないと言ってくれた。
クロエの仕業だったか…だがそれは他の依頼を出す気があるってことだよな…




