82.親バカ
翌朝、酒場に向かう途中でラナに気になっていることを聞いてみた。
「そういえばラナは技とか魔法は使えないのか?
ゴンザナシやモノノフみたいに斬撃を飛ばす感じの奴。」
「使えないわよ。スキル書とか魔道書は高いからね…
確かに使えれば便利でしょうけど魔子の消耗も激しいみたいだし。」
そういう技もスキル書で覚えるものなのか。
俺が持ってるのは毒無効だけだからな…
「そうか、しばらくDランクが続くならまとめて倒せた方がいいかと思ってな。
ちょうどヌーは群れでいることも多いし一発でかなりの数を減らせるなら
多少魔子を消費しても効率がいいんじゃないか?」
「…言われてみると確かにそうね。この前みたいに槍で少しずつ倒すと
時間もかかるしドロップを拾うのにも時間がかかるのよね。」
「まぁ思いつきで言ってみただけだ。財布と相談して考えたらいいさ。」
「そうね…今度店に行ってみようかしら。」
酒場で食事を済ませ、ラナと別れた。
ラナがダンジョンに行くならジャッカルをまとめて倒せた方がいいだろうし、
ラーテル相手ならドンイ鋼の剣の方がいいだろう…難しいところだな。
『さて、今日はどんな依頼を引くかな?』
『ココ二日ハ地味ナ依頼ダッタカラナ。ソロソロ討伐依頼ヲ当テテホシイガ。』
『ここの組合に来る討伐依頼なんて狩ったことのあるやつが
対象だろうしあんまり変わらない気もするけどな。』
『ソレモソウカ…』
組合に到着して中に入ると今日も冒険者達の姿はない。
頑張っているようだがいつまで続くかな…
掲示板を見る前に一応アマンダに何かないか聞いてみよう。
「おはよう、アマンダ。今日も特に急ぎの依頼はないか?」
「おはようございます、ポノさん。組合長からお話があるようですよ。」
聞いてはみたもののウィリスからの話か…一体なんだろうな?
「奥の部屋で待ってればいいのか?」
「ええ、すぐに呼んで参りますので少々お待ちください。」
アマンダと一緒に奥の部屋に入り、椅子に座ってウィリスを待つ。
『今度はいったい何だろうな?』
『マタバカ王子絡ミデ変ナ依頼ガ来テナイトイイガ。』
『ありえる話だな…納品するだけなら楽でいいんだが。』
『気ガ乗ラナイノナラヤラナクテヨイノデハナイカ?』
『できないと思われるのも癪に障るしな…』
『ソウイウモノカ。達成スルカラ図ニ乗ルノカモシレナイゾ。』
奥の部屋からウィリスとアマンダが出てきた。
いつものようにアマンダはすぐ受付に戻っていった。
「今日は何の話なんだ?」
「今度も難題じゃ。お主にとってはどうだかわからんがのう。
ティラノダガーを手に入れてくれとのことじゃ…」
「またバカ王子か?」
「依頼主は国王じゃがおそらくまたバカ王子の頼みじゃろう。
ドロップの条件もよくわかっておらん品を国王が依頼するわけがないわい。」
普通に考えたら地竜との戦闘中に牙を折ったり抜いたりは難しいか。
図鑑の説明とは違ってアダマンタイトとかオリハルコンのダガーは
普通に作られているのかもしれないな。
「ティラノダガーは3本しかないし取りに行かないとだな。」
「既に持ってはおるんじゃな…」
「ダンジョンに行ったことは耳に入ってるんだろ?」
「そうじゃな。だからこそこうして来てもらったわけじゃ。」
「しかしここの冒険者にできない依頼はめったに来ないって言ってたのに
随分と話が違うんじゃないか?」
「ダメ元の依頼である地竜の角と皮を納品したからじゃろうな…
つまるところ儂の責任じゃ。申し訳ない。」
「なるほどな…今のところ実害はないから謝らないでくれ。」
「すまんのう。」
「ダガーを納品するのは構わないがバカ王子がさらに増長しないか?」
「するじゃろうな…じゃがお主がやらなければ他の国に依頼が回って
誰かが達成するじゃろう。犠牲は出るかもしれんがの…
かかる時間が違うだけで結果は同じじゃ。」
「国王も本当は依頼したくはないと思うか?」
「お主は会ったことがないからわからんじゃろうが
儂はそう思うておる。この国の者ならみんなそう思うはずじゃ。」
「そうか…しょうがない。俺に直接害があるわけではないし、
ダガーは納品するよ。ちなみにいくらになるんだ?」
「助かるわい。2億という事で話はついておる。
お主が持っておるならもっと高くしておくべきじゃったな。」
「組合にもいくらか入るのか?」
「それは当然じゃろう。
お主に全額渡して組合を傾けるわけにもいかんからのう。」
「聞いてみただけだ。金のことでとやかく言う気はないさ。」
図鑑から短い方のダガーを取り出してテーブルに置いた。
「これが…現役を退いた儂でも見ているだけで血が沸くのう。」
ウィリスは組合の図鑑から2億円!と書かれたアタッシュケースを取り出して
テーブルに置いてからティラノダガーを図鑑に片付けた。
「気持ちはわかる。刃物には不思議な力があるよな。」
こちらもアタッシュケースを図鑑にしまう。
これだけの値打ちがあるなら1本と言わずにもう数本確保しておこうかな…
と言っても金の使い道を思いついていないが。
「それにしても色々納品したから王子の戦闘能力は随分上がってそうだな。」
「王族が財力を使って強くなるのは珍しい事ではないんじゃが
バカ王子に関してはやりすぎじゃ。」
「バカが金を持つとロクな事をしないとは聞くがその典型か。」
「そうじゃのう…そのうち地竜を討伐に行くなどと言い出しかねん。」
「バカ王子が単独で挑んで返り討ちに遭うといいな。」
「不謹慎じゃが儂もそう思うわい。」
「はは、本音を話してくれるのは嬉しいが
そんなことを言わない方がいいんじゃないのか?」
「何、儂とて人間じゃ。この中でくらい本音を言わせてもらわんとのう。」
「やっぱりここには防音処理が施されているのか?」
「ここには要人も来るからのう。
しかしやっぱりと言うからには何かそう思うことがあったのじゃな?」
「この前アマンダがクロエを叱っていたと思うんだが
外には何も聞こえてこなかったからな。大声を出していたかはわからないが
何も聞こえないのも不自然だと思ってな。」
「なるほどのう。あれ以来クロエも落ち着いてくれたようじゃな。」
「こっちとしては少し調子が狂うけどな。」
「当分はあのままじゃろう。時間が経てば元に戻るかもしれんが。」
「楽しみにしておくか。用事はこれで済んだかな?」
「ああ、助かったわい。」
部屋を出るとアマンダが以前のように心配してくれた。
「随分長いお話のようでしたが大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない。だが今日はダンジョンに行くことにしたから
掲示板の依頼はまた明日かな。」
「わかりました。お気をつけて。」
組合を出てダンジョンの入り口で衛兵と軽くやりとりをした後、
日が暮れるまでダンジョンのドロップを回収して回った。
結果的に討伐依頼を受けたみたいになったが明日はどうなることやら…




