80.貧乏性
翌日、昨日と同じ流れでラナと別れて冒険者組合に向かう。
『今日はどんな依頼があるかな。』
『昨日ハ途中デ寝テシマッテスマナカッタ。』
『気にするな。確かに木に斧を打つ音はいいよな。』
『普通ハモウ少シ音ト音ノ間隔ガ長ソウダガナ。』
『力加減が上手くなったのが嬉しくてついやりすぎたか…』
『ダガ間隔ガ短クナッテカラ急ニ眠クナッタノダ。』
『不思議な話だな。』
冒険者組合に入った。こちらも昨日と同じく冒険者の姿はない。
頑張っているようで何よりだ。全体のレベルが向上したらクロエが喜ぶだろうな。
掲示板を確認する前に一応アマンダに急ぎの何かがないか聞いてみるか。
組合長がまた何か難題を抱えているかもしれないし。
「おはよう、アマンダ。何か急ぎの依頼は入ってないか?」
「おはようございます、ポノさん。今日は特にありませんよ。」
「そうか…なら昨日と同じく何か掲示板の依頼を受けようかな。」
「…他にやることがないから掲示板の依頼をですか?」
「そんな感じだな。ダメだったか?」
「いえいえ、何も問題はありませんよ?」
アマンダの笑顔がいつもと違って不自然な気がするが…?
確証もないことを気にしていてもしょうがないので掲示板の前に移動する。
『ポノ、アノ女ハ何カ企ンデイルノデハナイカ?』
『俺も少しそんな気がするが気のせいかもしれないしな。』
『ポノハアノ女ニ甘イ気ガスルゾ。』
『アマンダには色々世話になってるからな…こっちも多少は寛容になるさ。』
『ソンナモノカ。』
『そんなものだ。』
目を閉じて掲示板の方に向き直り、指先に神経を集中する。
なお、そんなことをする必要は全くない。
『今日の依頼は…これだ!』
『ドレドレ…』
目を開けて依頼を見る。
納品依頼:薬草1kg 100kgまで
達成報酬:200円
依頼主:商人組合
『今日モ地味ソウナ依頼ダナ。』
『そういう時もあるさ…』
昨日に続いて商人組合か。
生えてる場所さえわかれば何とかなるだろうが…それにしても安いな。
1本でも生えてればずっと採集できるんだからこんなもんか?
紙を取ってアマンダに渡す。
「この依頼も商人組合に行けばいいのか?」
「いえ、納品依頼ですので依頼品をこちらに持ってきていただければ
量に応じた報酬をお支払いします。」
「なるほど、依頼によって違うんだな。
薬草の生えている場所は教えてもらえるのか?」
「探索も依頼の一部ならさすがにこんなに安くありませんよ。
今地図をお渡ししますので少々お待ちください。」
アマンダは机の中を漁り始めた。
自分用の地図でも買うかな…色々書き込んでいけば忘れたときに
役に立つだろうしそっちの方が冒険っぽさが出るだろう。
「こちらが薬草が生えている場所の地図です。
ご存知ないと思いまして薬草の絵もつけておきました。」
アマンダから地図と絵を受け取った。
「ありがとう、助かるよ。」
「それではお気をつけて、いってらっしゃいませ。」
組合を出て南口に向かう。地図によると町の南西…樵の依頼で行った辺りの
少し先に薬草が生えているらしい。今日もヨサクは木を切っているのだろうか?
『薬草の採集か、また随分地味な仕事だな。』
『ソウダナ。ヒタスラ取リ続ケルノハ根気ガ必要ソウダ。』
『木を切る作業と違って成長することもなくただ取るだけになりそうなのが…』
『呪ウナラ自分ノ指ヲ呪ウノダナ。』
『仕方がないか。』
南門から町の外に出て南西方向に進む。
しばらく歩き続けると斧で木を打つ音が聞こえたきた。
「オオ、コノ音ハ。」
「今日は自分で頑張ってるのかもな。」
音に釣られて…というわけではなく進行方向なので
そのまま音がする方向に進んでいくとヨサクが木を切っていた。
昨日と同じように木を倒す方向と逆側に移動する時にこちらと目が合った。
「おう!昨日の…ポノじゃないか!やっぱり樵になりたくなったか?」
「いや、残念ながら違う。この先に薬草が生えてるらしいから採集に行くんだ。」
「そうか…しかし昨日は樵で今日は薬草取りか。
見た目からするといい年なんだし身を固めたらどうだ?」
「今のところ冒険者が肌に合ってるからこのまま続けるつもりだ。」
「残念だ。気が変わったらいつでも来てくれ。会いたくなったらここに来るか、
ここにいなかったら店の方にいる。商人組合で聞けば場所もわかるはずだ。」
よっぽど樵になってほしいらしく、聞いてもいないことを教えてくれた。
「わかった。もしその時が来たらよろしく頼むよ。」
「それまでにイキのいいのが入ったら断るけどな!ははははは!」
そう言ってヨサクは作業を再開した。強引に勧誘しないだけ良心的だな。
斧の音を聞きながら森に入っていく。
方向はこれでいいはずだから後は薬草を探すだけだ。
しばらく進んでみたがそれらしき草は生えていない。
森の中が少し暗いのも見つけにくい要因になっていた。
薬草というくらいだ、雑草よりは魔子は含んでいるだろう。
ということで片目を可視魔子状態にして辺りを見回すと
周りの草よりも魔子を多く含んだ草がまとまって生えていた。
普通の状態の目で絵と草を見比べると薬草で間違いなさそうだ。
これを100kgか。試しに1本抜いてみると…
薬草:F
チキュー全域に生えている草。僅かだが傷を癒す効果がある。
寒い地域にも暑い地域にも生えるその生態には謎が多い。
所持品リストを見ると薬草:1本となっていた。
願いを込めて【本】の部分に触れてみると薬草:10gと表示が変わった。
これは地味にありがたいな。しかし10000本はちょっと多い気がする。
そういえば薬草は切ればいいのか抜けばいいのか聞くのを忘れていた。
根も使うんだとしたら抜かないとだよな…
そう思ってもう一度絵を確認すると根もしっかり描かれていた。
これは抜けということだろう…さすがアマンダだ。
1本抜いた感じではこの辺りの土は柔らかいようなので抜くのにあたって
苦労はしないだろう。1秒に3本抜けば1時間で済むがそんなに急ぐ必要もないか。
群生しているとはいってもその間隔はそう狭くはない。が、ちょうど両手で
1本ずつ抜くのにちょうどいい生え方をしている場所があったのでそこに陣取る。
中腰になって無心で薬草を次々に引き抜いていく。
必要量や体勢を考えると他の冒険者の姿が全く見えないのも頷けるな。
一気にやろうとすると腰への負担が凄そうだ。
座ってのんびりやるのが普通なのかもしれないが…
とは言え、一定の動作だけで採取できるので楽といえば楽かもしれない。
図鑑に目をやるとどんどん所持する重さが増えている。
「楽だが暇だな…ずっと同じ動作をしているだけなら
ラナの狩りを見ている方が楽しいかもしれないな。」
「ソウカモシレナイナ。」
「明日はもう少し違った形の依頼だといいんだが…
この手の依頼は明日も全く同じものが貼り出されているかもしれない。」
「一度ヤッタ依頼ハ指ヲ差シ直スコトニシタラドウダ?」
「それは名案だな。採用させてもらうよ。さすがヨルム。」
「フフン、ソウダロウソウダロウ。」
その後、日が暮れるまで薬草を抜き続け所持する薬草の重さは200kgを超えた。
自分で使うことはないと思っていてもついついやってしまう。
コレクターとは言っているが貧乏性なだけかもしれない…




