79.眠りを誘う音
「ドウスルノダ?」
「依頼は依頼だからやるさ。ずっとやってればそのうち戻ってくるだろう。」
男の斧を持ち、見よう見まねで作業を始める。
が、力加減が難しい。あまり力を入れすぎると斧の柄が折れてしまうのだ。
折れたら復元をかけてを繰り返しながら作業を続け、
そろそろ木が倒れようかというところに差し掛かった。
「もう一息だな。」
「ソウダナ。」
倒れろ倒れろと念じながら斧を振るう。
ようやく木が倒れてきたと思ったら俺達がいる方向だった。
仕方がないので倒れてきた木を抱きかかえて繋がっている部分をねじ切った。
オバンコールの木:D
カリファ大陸南部に生えている木。癖がなく扱いやすい木材。
電話をかけまくるオバハンが思い浮かぶがこれはアカネの悪ふざけではない。
「失敗ダナ。」
「そうだな…その気になれば伐採はすぐできる。もう少しやってみたい。」
「物好キダナ。我ハ構ワナイガ。」
その後も失敗を繰り返したが斧に復元をかける頻度は低くなっていった。
何度目かの失敗の後、ついに狙った方向に木が倒れてくれた。
どうやら最初に入れる切れ込みの位置と深さが悪かったらしい。
横に回りこんだときによく見ておくべきだったな…
「うまくいったな。まだ続けようと思うが先に必要量を確保するか。」
「ソレガイイカモシレナイナ。」
まずは失敗してあちこちに倒れている木を一箇所にまとめた。
次に木の幹が収まるような形に腕を広げ、置換で次々に木を図鑑に入れていく。
おそらくだがこの木はあの男の所有物というわけではないだろう。
大量に手に入れて組合に売りつけるわけでもないし、
少しばかり失敬してしまっても構わないはずだ。
しばらくその作業を続け、オバンコールの木の所持数が
もうすぐ3桁に届こうかというところでヨルムから声がかかった。
「…サスガニソロソロイインジャナイカ?」
「それもそうだな…そもそも俺達が使う機会もそんなになさそうだしな。」
最初に斧で切り倒した木と置換で入手した木を積み上げていく。
男のペースとこれから切る数を考えると失敗した数に20本も足せば充分か…?
しかし切り口以外は全く同じ木が積み重なっているのはなんだか不気味だな。
「さて、残りの時間で樵としての腕を上げるか。」
「好キニスルトイイ。」
それからは一心不乱に斧を振るって木を切り倒し続けた。
力加減が上手くなり、復元が必要なくなった頃、ヨルムが切り出した。
「スマナイガ斧デ木ヲ打ツ音ガ心地ヨクテ眠クナッタ。我ハ少シ寝ル。」
確かにいい音だとは思うが眠くなるものか…?
「そうか、おやすみ。」
疑問ではあるが斧の音では起きないと判断して木を切り続ける。
上達していくのが面白くて夢中で作業をしていると後ろから声がかかった。
「おいおい、随分切ったな。ありがたいがそんなに報酬は出せないぞ?」
いつの間にか男が戻ってきていたようだ…というか暗くなりかけている。
「それは構わない。楽しくてついやりすぎてしまっただけだからな。」
「そいつはよかった。冒険者なんてやってないで樵に転職しないか?」
「さすがに専門でやるつもりはないよ。」
「残念だ。思えばこっちも名乗らずそっちの名前も聞かずに無礼だったな。
俺はヨサクだ。お前の名前を教えてくれ。」
樵としてはこれ以上ない名前だが大丈夫なのだろうか?
「ポノという、よろしく。」
「ああ、よろしくな。って言ってももう作業も終わりだ。
悪いが報酬は2万円までしか用意してない。」
「いいさ、楽しませてもらったよ。もう少し木をまとめた方がいいか?」
「いや、図鑑に片付けりゃ一緒だ。ほい、2万円だ。」
「ありがとう。ところで、こういう依頼を受けたのは
初めてなんだが組合に報告に行くものなのか?」
「今回みたいに依頼主が直接報酬を渡す場合は行かなくていいはずだ。
出来栄えを見て依頼主が判断を下す場合はそういうことが多いな。
その代わり依頼が達成された報告をしに依頼主が組合に行くことになる。」
「なるほど。じゃあこれで帰らせてもらうよ。」
「ああ、また依頼を出したらよろしくな。」
「手が空いてたらな。今日はたまたまだ。」
「そうか、残念だ。」
木を図鑑に片付け始めたヨサクを背に町に向かう。
1日働いて2万円か…確かカバナイフが1本10万円だったな。
燻っている冒険者より普通に働いた方が稼げるんじゃないのか?
…まぁ時間に融通は利くだろうし性分の問題か。
町に入り、酒場に到着すると既にラナが食事をしていた。
「今日は早かったんだな。」
「そう?移動時間が少ない分、狩りが長くなって疲れちゃったのかも。」
「おっちゃん、いつもの頼むよ。」
「あいよ!先にビール2つな!」
出てきたビールを飲んだのは俺だけだった。
「ヨルムちゃんは寝てるの…?」
「斧で木を打つ音を聞いてて眠くなったらしい。」
「確かにあの音は心地いいわよね。眠くなるのは初耳だけど。
っていうか今日は組合に行くって言ってたのに樵をしてたの?」
「組合で受けた依頼が樵だったんだよ。」
「そんな依頼もあるのね…」
「俺も初めてだからな。いつもあるのか定期的にあるのか珍しいのか…」
「ビールが温くなっちゃうわよ?」
「そうだな…」
指でヨルムの喉を撫でてみる。
『オハヨウ。乾杯。』
ヨルムはすぐに起きてビールを飲み始めた。
「起こしてしまってすまないな。ビールが温くなると悪いかと思ってな。」
『構ワナイ。ビールガ優先ダ。』
ヨルムはビールが好きだな。弱いのに…いや、普通基準で考えれば弱くはないか。
「キ…鹿牛2つと白米お待ちどう!」
その内おっちゃんの口からバレそうな気がするな…
「いただきます。」
『イタダキマス。』
「ポノ達は鹿牛が好きね。ヌーの方が美味しいと思うんだけど。」
ラナは私の方がいい物を食べているとでも言いたげなドヤ顔をしている。
言ってないだけでこっちはキリンの肉なんだけどな…
その顔を今後も続けるようならランクアップを待たずに真実を告げてやろうか。




