70.暴露大会
宣言どおりしばらく地竜を観察する。攻撃パターンは以前見た通りだな。
攻撃や魔法を使う度に少しずつ魔子が減っているが、
それでもミスリルが魔子を吸収しているのが見て取れる。
「ナカナカノ速度デ魔子ヲ吸収スルモノダナ。」
「そうだな。これなら待ってるだけで地竜はそのうち死ぬかもしれない。」
実際に魔子はいいペースで減っているが剣は突き刺さったままで
出血自体は少ないので本当に死ぬかは怪しい…
「知識ハアッタガ実際ニ目ニスルトミスリルノ特性ハ凶悪ダ。
我ナラバドウ防グカ…」
「触れたら永続的に効果が続くわけでもないし抜いたらいいんじゃないか?
それにそもそもヨルムに普通のミスリルの剣は刺さらないと思う。」
「…ソレモソウダナ。今ウマクイッテイルノハ相手ガ地竜ダカラカ。」
そうこう話しているうちに地竜の魔子も相当少なくなってきたようだ。
以前ヨルムの毒を受けたゾウのように大きかった地竜の体が縮み始めている。
地竜は攻撃するのをやめ、草を食べ始めている。
魔子を補給しているのかもしれないが吸われるペースの方が早いようだ。
「そこまで1体を相手に時間をかけたことがないからわからないんだが
相手の攻撃を受け続けるだけでもそのうち縮んだりするのかな?」
「自分デ使ウ魔子ニハ限界ガアルカラソンナコトニハナラナイハズダ。
何ラナノ方法デ魔子ヲ減ラセバ縮ムダロウガナ。」
「なるほど、そういうものか。」
使える魔子がなくなったら草や葉を食って魔子を回復してまた攻撃をするのか…?
そこまで魔子を消費させることができるならそうなる前に倒しそうなものだが。
地竜は順調に縮み、体に対してミスリルの剣の比率が大きくなってきた。
そろそろ刀身が前から突き出るかと思っているとその前に地竜の体が消え、
ミスリルの剣が草の上に落ちた。心臓にでも突き刺さったのだろうか?
「ドロップは出なかったか…結構日数を明けたはずなんだがな…」
「ドロップニ必要ナ魔子ガ全部ミスリルノ剣ニ吸収サレタカラデハナイカ?」
「…それだ。」
盲点だった。というよりはこれもうっかりだな…
せっかくもう一つ世界中の葉が手に入るかと思ったのに。
落ちたミスリルの剣を拾い上げて目をやると、
突き刺す前よりもミスリル部分の色が黒ずんでいるように見える。
「魔子を吸収すれば吸収するほど黒くなっていくってことかな。」
「ソノヨウダナ。」
「ドロップは残念だったが剣に変化が見られるし続けてみようかな。」
「構ワナイゾ。」
「ちょっと実験してみるか…」
ミスリルの剣を持って飛行を開始する。少し離れた場所に出現していた
首長地竜に近づき、刺激しないように細心の注意を払って
背の中ほどにミスリルの剣を優しく乗せた。攻撃とはみなされなかったようだな。
着地して再び涅槃の格好を取って地竜を観察する。
「ひょっとしたらこれで地竜を倒せるんじゃないかと思ってな。」
「ヨクソンナ抜ケ道ノヨウナコトヲ思イツクモノダ。」
触れているミスリル部分がさっきよりも少ないせいか、
なかなか変化は見られなかったがそのうち地竜の体が縮みだした。
「おお、成功っぽいな。」
「狼人族ガ苦労シテ倒シタ後ニ教エタラ卒倒シソウダガ…」
「一応言っておくが攻撃判定されないように乗せるには結構技術がいるぞ。」
「ソレハソウカモシレナイガ…」
そうこう言っているうちに地竜の体は縮んでいき、
やがて剣の重さに耐えられなくなって絶命した。
先程と同じようにドロップはなかったのでヨルムの説が正しいのだろう。
ミスリルの剣はというと更に黒味を増していた。
「時間はかかったが地竜の魔子をほぼ丸ごと吸収できたわけか。
刀身を根元まで突き刺して攻撃で魔子を消費している時と
どっちが効率がいいんだろうな…」
「触レテイル魔子ヲ吸収スルノダカラ
時間的ナ効率ダト刺シタ方ガイインジャナイカ?」
「そうか…そうだな。地竜は無限に倒せるんだから
1体から吸収できる魔子の量は考えなくていいもんな。」
「ソウイウコトダ。」
ミスリルの剣は鍔部分の上部…刀身の方向は刃状になっている。
これなら刀身の根元までじゃなくて柄部分まで突っ込めそうだな。
柄部分には革が巻きつけられているがこの際だから外してしまおう。
革を剥がしているとヨルムが心配そうに聞いてくる。
「直接持ツトポノノ魔子ガ吸収サレルノデハナイカ?」
「大丈夫だ。たぶん俺に魔子はないからな。」
「何…ダト!?」
「見てて気付かなかったのか?」
「我ヲ捕マエル程ダ。目立チタクナイトモ言ッテイタシ
テッキリ何ラカノ方法デ隠蔽シテイルモノカト…」
「そういうことか。
俺は元々この世界の住人じゃなくて遊びに来てるだけなんだよ。
革も取れたし話の続きはこの剣を刺してからにしよう。」
そう言って地竜に近づき、再び尻にミスリルの剣を突き刺す。
今度は柄まで全部入れてやった。これで更に効率が上がるはずだ。
地竜の攻撃を受けながら同じように寝転がった。
「サラット凄イコトヲ暴露シテクレタモノダ…ソレデ常識…何デモナイ。」
「今更気を使ってくれなくてもいいさ。この世界に疎いのは本当だしな。」
「強サト常識ガ噛ミ合ッテナイ理由ガアッタノダナ。コノ上ナク納得デキタ。」
「まぁそういうことだからヨルムの博学ぶりには助けられてるよ。」
「コレカラハモット頼ッテクレテイイゾ。」
「ついでだから話しておくとアカネとは知己だから
呼び捨てにするが気にしないでくれ。」
「アカネ様ト…ソウナノカ、ワカッタ。色々話シテクレテ我ハ嬉シイ。」
「ヨルムも何かあったら話してくれ。」
「ソウダナ。勘違イシテソウダカラ言ッテオクガ我ハ女性デモアル。」
ドレーク海峡からの帰りに様子が変だったのはそれが理由か。
「でもあるってことは男でもあるんだな。
位の高い存在だから両性とかそういう話なのか?」
「ソノ通リダ。ソノ気ニナレバ人ノ形ニモナレルゾ。」
ヨルムはそう言うと全裸の女性の姿になった。
せっかくなので可視魔子を解除して凝視する。
「おお、ヨルムは綺麗だな。」
「ふふ、照れるな。気に入ってくれたようで嬉しいぞ。
ポノが望むならこの姿でいてもいい。」
人の身のせいか言葉が流暢だな。
「どっちでも構わないが…その姿だと俺に巻きつくことはできないだろうし
綺麗な全裸の女性に抱きつかれながら町を歩くのはちょっとな。」
俺の話を聞いてヨルムは蛇の姿に戻った。
「フフ、綺麗…綺麗カ。我トシテモコチラノ姿ノ方ガ
落チ着クシポノニ巻キツクコトモデキル。ヤハリコノママガイイナ。」
「そうだな。やっぱりいつも通りがいいな」
話に夢中になっていたせいで忘れていたがいつの間にか
地竜は消えて更に黒くなったミスリルの剣が地面に落ちていた。




