68.小さな宴
この時間に町中にいることがあまりなかったので何をしていいかわからないな。
『半端な時間だな。どうしようか…ヨルムは何か希望があるか?』
『ソウダナ…タマニハ2人デ祝ウノハドウダ?』
『うん?何をだ?』
『何デモヨイ。ダンジョン制覇記念デモイイシ
ダガーノドロップ条件判明記念デモイイ。要ハ2人デ飲ミタイノダ。』
『たまにはいいかもな。
じゃあ今日はビールとキリン肉を思う存分楽しむか。』
『イヨッ!大統領!』
だからどこで覚えてくるんだよそれ…
酒場に到着した。日はまだ沈んでいないが朝から飲んでいる連中もいるくらいだ、
この時間から飲んだところでとやかく言う人はいないだろう。
いつものようにカウンター席に座り、おっちゃんに声をかける。
「おっちゃん、キリン肉とビール2つずつ、あと白米1つ頼むよ。」
「おうポノ。今日は早いな。先にビールだ。」
『『乾杯!』』
『ふう、うまいな。』
『今日ハ特ニヨク動イタカラナ。昨日ヨリ更ニ美味ク感ジル。』
『体を動かすいい機会になってよかったな。』
『コレカラモタマニダンジョンニハ行キタイモノダナ。』
『そうだな。予定がある日じゃなければ連れて行くよ。』
『ソウイエバモノノフトノ約束ハ明後日ダッタカ?』
『そのはずだ。見届け人か…無事討伐できて出番がないといいけどな。』
『ソウダナ。アイツラハ礼儀ヲワカッテイルカラナ。伝説…フフ。』
伝説という響きはヨルムの中にまだ残っていたようだ。
「キリンステーキ2つ、お待ちどう!」
『お、来た来た。いただきます。』
『イタダキマス。』
出てきたステーキを頬張る。やはり美味い。
毎日食べても苦にならない鹿牛の上位互換のような肉だ。
贅沢をするつもりはないがこの味を知ってしまっては鹿牛には戻れないというか…
ただ単にランクが高ければ美味いというわけでもないだろう。
この前おっちゃんに調理してもらったクラーケンも確かに美味かったが
味で言えばキリンの肉の方が上だと思う。
あくまでも主観なので好みの問題だろうと言われてしまうと反論できないが。
キリン肉を食べ終えると白米もビールもなくなってしまっていた。
「おっちゃん、キリンとビール2つずつ追加で。」
『我ハツマミガナクテモ構ワナイゾ。』
これは真の酒飲みの言葉…弱いのに。
「やっぱりキリンは1つ取り消してくれ。」
「あいよ!先にビール2つな。ヨルムは酒だけでいけるもんな。」
「なんだ、おっちゃんは知ってたんだな。」
「以前話した時にそう言ってたぜ。」
『乾杯スルカ。』
『乾杯は普通一度だろうに。』
『何!?ソウナノカ?』
『まぁ普通は一度しかしないってだけでしちゃいけないなんて決まりはないか。』
『ナラバ是非シヨウ。』
『『乾杯!』』
「それにしても今日は珍しいな。何かいいことでもあったのか?」
『時間ガ半端ナコトモアッテセッカクダカラ
ダンジョン制覇ヲ2人デ祝ウコトニシタノダ。』
慣れない念話におっちゃんは少し驚いたようだ。
「なるほどな。しかしダンジョン制覇とはまたとんでもないな。」
『何、大シタコトデハナイ。我モ久々ニ全力デ動ケテ楽シカッタゾ。』
ジョッキに頭を突っ込んでビールを飲みながら念話を飛ばしている。
酒の力もあって上機嫌だな。
「ヨルムの力はそれほどか…話には聞いていたが本当に強いんだな。」
「入り口からボスまで全部ヨルムが倒したこともあったぞ。」
「そりゃ凄いな。あいつにも話してやらないとな。」
仲のよろしいことで。
『フフン、我ニカカレバアノ程度造作モナイコトヨ。オッチャン、ビールクレ。』
ヨルムは飲むのが早いな…
「おっちゃん、ヨルムはどれくらい飲むと怪しくなってくる?」
「ほい、ビールな。普通に喋り始めたのは2桁に到達してからだったはずだ。」
じゃあまだ大丈夫か。
「そういえば忘れてた。これ使うか?使うならおっちゃんに1つやるよ。」
そう言って図鑑からカリファパーチの鰭を取り出した。
「おー、カリファパーチの鰭か。これも高級品なんだが…いいのか?」
「いいさ。数はあるしこの店にはこれからも世話になるつもりだからな。」
「それじゃありがたく頂いておくよ。」
「ところで、それの説明に酒の風味がよくなるとか
書いてあったがビールでも大丈夫なものなのか?」
「ん?ああ、あれはな…
最大限生かせるのは温度が高くても美味い酒に限られるぞ。
パンジャ酒とかな。温かいビールを飲みたいというなら作ってやるが…」
「…遠慮しておこう。」
『我ハ少シ飲ンデミタイ気ガスルナ。チョウド蒸発シタトコロダ。』
それも酒飲みのセリフ…!しかしチャレンジャーだな。
「温度と風味の等価交換になるぞ。どうする?
ほんの少しだけかき混ぜるなら温度もそこまで変わらないからな。」
それならいけそうだな。
「ヨルムが挑戦するなら俺も飲んでみるか。
温度があまり変わらないやつを頼むよ。」
『我ハ風味ヲ重視シテミル。』
「わかった。ちょっと待っててくれ。」
おっちゃんは鰭を火で炙り始めた。
『どうなるか楽しみだな。』
『全クダ。温イビールモ初体験ダシナ。』
ただ単に温いビールなら美味くないのは知ってるが…鰭のお手並み拝見だな。
鰭を熱し終わったおっちゃんがビールを2つ出してきてそれぞれをかき混ぜる。
「ほい、ポノのがほんの少し混ぜたビール。ヨルムのが充分混ぜたビールだ。」
『『乾杯!』』
恐る恐る一口飲んでみると確かに苦味と風味が増しているようだ。
鰭の生臭さが移るかもと思っていたがそうじゃないんだな。
温度もさほど変わっていない。これならいいかもしれない。
『こっちはなかなか美味いぞ。ヨルムの方はどうだ?』
『コレハ…ヒドイナ。温度ガ違ウダケデアノビールガココマデ…』
ヨルムの口には合わなかったようだ。俺の口にも合いそうにないが…
と、酒場にラナが入ってきた。いつの間にかそんな時間か。
「おっちゃん、いつものお願い!」
「あいよ!先にビールな。」
「おかえり。ヌー狩りは順調か?」
『ラナ、オカエリ。コレ飲ムカ?』
ヨルムは自分で飲むのを諦めかけているようだ。
「ヨルムちゃんの飲みかけ!?いただくわ!」
止める間もなくラナは一気に飲み干した。
「ふー!やっぱり動いた後はビールね!ちょっと温かったけど美味しかったわ!」
ヨルムでさえ二口目をためらっていたビールを
あっさり片付けたラナを見て俺達3人は苦笑を浮かべるのだった。




