67.誤解
『それじゃあ多すぎるアイテムを組合に買い取ってもらおう。』
『我ガ取ッタダガーモカ?』
『いや、ダガーは短いのも長いのも3本ずつだし売る気はないよ。』
『ソウカ。トッテオイテクレルノダナ。』
『おそらくダガーの価値は相当なものだし
長いダガーなんてそもそも買い取れないかもな。』
『ソウナノカ。組合トハ随分貧乏ナノダナ。』
『まあそう言ってやるな。』
表に回って組合に入る。狼人族の影響か、今日も組合のテーブルは満席だ。
アマンダがこちらに軽く一礼してくれたのでこちらも頭を軽く下げて返した。
そんなやり取りはあったが今日はアマンダに用があるわけでもない。
クロエの前まで行って図鑑を出す。
「買取りを頼むよ。」
「あ、ポノさんお久しぶりです!今日は何を持ってきてくれたんですか!?」
クロエに名乗った覚えはないが図鑑を見たか組合長かアマンダに聞いたのだろう。
ライオンマフラー、タイガーサーベル、ヒョウ柄のビキニ…と
次々にコレクトから外れた分を乗せていく。
そのトレイを見つめているクロエの目はキラキラしている。
当初は余裕があったトレイもアイテムが溢れそうになると、
あせったかのように既に乗せてあったアイテムを縮めていった。
『ホウ、面白イ道具ダナ。』
『そういえばヨルムは初めて見るんだったか。』
『ウム、相当ナ技術ガ使ワレテイルヨウダ。』
『まぁあそこのサインを見ればわかるだろう。』
と、秤の方を指差す。
『ナルホドナ。アカネ様ノ御業カ。』
「クロヒョウのドロップはないんですか!?」
「あるにはあるが数が少なくてな…買取りには出さない。」
手を止めずに答えた。
「え…取っておいてどうするんですか?まさか自分で着…」
「着るわけないだろう。コレクターってのはそういうもんだ。」
あらぬ誤解を受けてさすがに手が止まってしまった。
「そういえばコレクターさんでしたね…すみませんでした。」
わかってくれたようなので再び手を動かし始める。
やがてアイテムを乗せ終わるとクロエがトレイを運ぼうとするが
かなり力が入っているようで腕が震えている。
そんなに緊張しなくても…と思ったが、単に重さが変わっていない可能性もある。
様子を見ているとトレイを何とか持ち上げて重い足取りで秤まで移動していた。
持つ位置は違っても【ウィッチデリバリー】の芋を運ぶシーンを髣髴とさせる。
どうやら重さはそのままのようだ。小分けにしてやればよかったか…
「ええと、ライオンマフラー7つ、タイガーサーベル26本、
ヒョウ柄のビキニとブーツそれぞれ15組で合計9700万円です…」
何か腑に落ちない様子だ。
「…何か不満なのか?」
「あと300万円分、何か売りません…?」
ああ、アタッシュケースを持ちたいんだな。
アマンダがクロエの方を見始めていることには気付いていないようだが…
「しょうがないな…ちょっと待ってくれ。」
値段がそれなりに高そうで数が余ってるものか…
『クラーケンノ墨ハドウダ?』
『そうだな、ちょうどいいかもな。』
この辺の動物から出る物じゃないがこれでいいか。
図鑑から小瓶を念のため2つ取り出してクロエに渡す。
「何ですかこれ…?乗せますね。クラーケンの墨!?
…2つで500万円追加です!合計1億300万円です!
組合長のところに行ってきますので少々お待ちを!」
こちらが言葉を挟む前に奥の扉にダッシュで入っていった。
組合長が呆れるのもわかるな…と苦笑していると
アマンダがこちらに深めに頭を下げた。そこまで気にすることはないんだけどな。
少し待つとクロエが笑顔で戻ってきた。その手にはアタッシュケースがある。
「お待たせしました!1億300万円です!お納めください!」
アタッシュケースを受け取り目をやると
1億300万円!の文字とアカネのサインが確認できたので図鑑にしまう。
「ライオンとかサーベルタイガーをこれだけ狩れる上に
クラーケンまで倒せるならそろそろ地竜もいけちゃうんじゃないですか!?
ここだけの話、狼人族の引率の方達が地竜に挑むらしいんです。
ポノさんも負けてられないですよ!人生は挑戦です!」
「ああ、そのうちな。」
買取りも済んだので立ち去ろうとすると背後から声がかかった。
「あたしの初アタッシュケースを奪ってくれてありがとうございます!!」
その一際大きな声にテーブル席の冒険者達がざわつき始めた。
思わずアマンダを見るとアマンダは頷き、クロエの方に歩みを進めた。
「ア、アマンダさん…ええと、今のはですね…」
アマンダはよく通る済んだ声で
「冒険者の皆様!少しの間受付を空にすること、お許しください!」
と叫んだかと思うとクロエの首根っこを捕まえて奥の部屋に入っていった。
さすがに少し心配なので戻ってくるまでここで待つことにしよう。
新たに入ってきた冒険者が受付に来たら説明してやらないとだしな。
しばらくして奥の部屋からアマンダとクロエが出てきた。
奥からは特に怒号が飛んできたわけでもなかったが
防音処理が施されているのか静かに叱ったのかどっちだろうな…
クロエは受付に戻ってきて開口一番、
「先゛程゛は゛申゛し゛訳゛あ゛り゛ま゛せ゛ん゛で゛し゛た゛ぁ゛。」
よく聞き取れないほどの涙声で謝罪した。
自分の持ち場に戻ったアマンダに目をやると以前のようにウインクをしてくれた。
『ポノ、アノ女ハ危険ダゾ。』
『どういう意味でかわからないがアマンダはそういう相手じゃないぞ。
あれは淑女の嗜みというやつだろう。』
『淑女ノ嗜ミカ我モ練習スベキカ…』
なんでだよ…大体ヨルムに瞼はないだろう。
「まぁ…今後気をつけてくれればいいさ。
組合長も言ってたが少しは落ち着きを持った方がいいぞ。」
「は゛い゛、す゛み゛ま゛せ゛ん゛で゛し゛た゛…」
組合を出ると思ったより時間が経過していたらしく、夕焼けが始まっていた。
しかし一体どれほど怒られたらいい大人があそこまで泣けるんだろうな…




