66.お試しヨルム
召喚体の攻撃を受けながら図鑑に目を通す。ドロップとは一体…
戦闘中に強奪しないと手に入らないアイテムもあるんだと覚えておこう。
それにしても抜けた牙の体積によってという部分が気になるな。
とりあえず召喚体をまとめて処理して地竜に目をやる。
大きい牙はあと1本残っている。あれを切断じゃなくて
根元から引っこ抜いたらもっとダガーが立派になるかもしれない。
口を大きく開いたタイミングで地竜の周りの空気の座標を気体のまま固定する。
空気牢獄!
…地竜の動きがピタリと止まり、微動だにしていない。これなら抜きやすいな。
地竜の口の中に移動し、牙を掴んで生えている方向を考慮しながら
折れないように根元から引っこ抜く。
「ふんっ!」
…無事抜けたようだ。
口から脱出して牙を見ると徐々に変化して柄、鍔、刀身を形作っていく。
消える前に俺が見たのはダガーというよりは
脇差くらいの刃渡りを持つ立派な刃物だった。
「いい物が取れたな。満足だ。」
「条件ガワカッテヨカッタナ。…トコロデ、アレハ処理シナイノカ?」
「…すっかり忘れてた。」
置換で地竜の頭を切断して戦闘は終了した。
ドロップ品に夢中だったとはいえ無視してしまって申し訳なかったな。
図鑑から大きいほうのダガーを取り出して眺める。
金属じゃなくて牙でできた刃物か、何か変な感じがするな。
石器時代とかだと当たり前だったのかもしれないが、
一応俺も現代人だったわけだし見慣れないのも無理はない。
タイガーサーベルの時は何も思わなかったのに不思議なものだ…
満足して図鑑に収納したところでヨルムが話しかけてくる。
「モウ一周スルカ?」
「うーん、そうだな…ダガーをもう少し回収するかな。」
「ダッタラ次ハ我ニ任セテミナイカ?ドロップハ無理デモ牙ヲ折ルコトハデキル。
ヒョットシタラソノママダガーニ変ワルカモシレナイ。」
「おお、それはいいな。試してみる価値はある。やってみよう。」
「フフ、腕ガ鳴ルナ。」
…それは突っ込み待ちなのか?
「そうと決まれば再入場しよう。」
出口から出て入り口の方に向かう。
と、衛兵が話しかけてきた。
「お疲れではないですか?」
「ああ、大丈夫だ。」
「そうですか…お気をつけて。」
扉を開けてダンジョンに進入した。目の前に広がる草原にもそろそろ飽きてきたが
今日が終わればしばらく目にすることもないだろうな。
「サア、乗ッテクレ。」
ヨルムは巨大化してやる気満々の様子だ。
「それじゃ頼んだ。」
そう言って俺がヨルムに跨ると今朝と変わらない速度で進み始めた。
草原、森、崖の道…と瞬く間に過ぎていく。
速いのはいいことだがこの速度に慣れると外での移動が苦痛にならないか心配だ。
平原も抜けて岩山の階段も駆け抜けた。
…駆け抜けるという表現でいいのかわからないが。
「コノママ一気行クゾ!」
ヨルムがそう叫んで地竜に向かっていく。
このままだとヨルムの背で戦闘が見えないので飛び降りて観戦する。
地竜が反応するより先にヨルムが地竜の口以外を氷で囲んだ。
そのまま距離を詰めて相手の顎部分を噛み千切って地面に投げ捨てる。
うまい具合に上顎も下顎も歯がある方が上を向いている。
少しの間それを確認したヨルムが毒をかけると大きい牙以外が溶けてなくなった。
残った牙をヨルムが咥えると牙は見る見るうちにダガーに変化していく。
ダガーを優しく地面に置き、地竜に毒をかけてとどめを刺した。
戦闘が終わったのでヨルムに近づいて声をかける。
「いい手際だったな。」
「フフン、ソウダロウソウダロウ。」
ヨルムはそう言うとダガーを咥えて俺に渡してきた。
「これも立派なダガーというか…もはや剣だな。」
受け取って図鑑にしまう。自分で仕留めたわけじゃないので複雑な心境だが。
「ポノノ戦闘ヲ見テ考エタ作戦ガ上手クイッタナ。」
ヨルムは縮んで俺の首に巻きついてくる。
「作戦を練ってたんだな。それにしても見事だった。」
「フフン、ソウダロウソウダロウ。」
ヨルムに鼻があったら随分伸びてそうだな。
「さて、立派なダガーはこれで3本になったし
普通サイズももう2本くらい確保しておこうかな。」
「デハ我ハ移動ダケニシテオコウ。」
「ああ、次もよろしくな。」
出口から出て入り口の方に向かう。
と、再び衛兵が話しかけてきた。少し難しい顔をしているな。
「また挑戦されるんですか?それほどすぐ戻って来られることが多いようでしたら
失礼ですがもう少し地力を付けてから挑まれた方がよいかと。」
なるほど、囲まれてすぐ諦めてるように見えたわけか。
「いや、これでも一応ボスを倒して帰還してるんだが…」
「何を馬鹿な…ああ、貴方が…そうでしたか。
差し出がましい助言、大変失礼致しました。」
組合長から何か聞いていたのだろう、衛兵は察してくれたようだ。
思わず本当のことを口走ってしまったが助かった。
「気にしないでくれ。見た目がこれだし通してくれるだけありがたいよ。」
「…そう言っていただけると助かります。」
「あんたが思いやりのある優しい人だということはここ数日のやりとりで
わかっているつもりだ。いい人が衛兵でよかったと思うよ。」
「そんな…私はただ職務を全うしているだけですので。ご武運を。」
本日3度目のダンジョンだ。これが終わったら組合に顔を出してみようかな。
「サア、乗ッテクレ。」
ヨルムは変わらずやる気のようだ。ありがたいな。
「同じところを何度も悪いが頼んだ。」
そう言ってヨルムに跨る。
「我ニトッテハ風景ハ重要デハナイ。行クゾ!」
さほど時間もかからずに岩山の上まで到着する。
…これじゃ衛兵が勘違いするのも無理はないな。
地竜が咆哮をあげた瞬間、置換で大きい牙を2本とも手元に移動させた。
牙がダガーに変化し、図鑑に入ったことを確認した後に地竜の首を切断した。
「まぁこんなもんだろう。」
「サスガダナ。」
「それじゃ出ようか。」
「ソウダナ。」
出口から町の中に戻る。日は高さを落とし始めたようだがまだまだ時間はあるな。




