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54.キンゾコノフ

「あー、食った食った。大満足だ!」

「私も刺身を少しもらえばよかったかしら…」

『我モ満足ダッタゾ。』


「そうかい、不味いって言われたらどうしようかと

 内心ヒヤヒヤしてたんだが大丈夫だったみたいだな。」


「不味いなんてとんでもない、おっちゃんの腕を再確認させてもらったよ。」

「カリファパーチしか食べてないけど美味しかったわ。さすがおっちゃんね!」

『オッチャンノ腕ハ世界一イイイイ!』

…もう突っ込まないぞ。


「ありがとよ。こっちも久々に魚介類を料理できて楽しかったぜ。」


「欲を言えばワサビが欲しかったところだがそこまで高望みはできないな。」


「ワサビ?それもパンジャの調味料か何かか?」


「香辛料だな。鼻にツーンと抜ける辛さが特徴なんだ。刺身とよく合うんだよ。」


「それだけ聞いてもピンと来ないな。

 ウチで普段から刺身を出してるなら仕入れるかもしれないが…」


「そこまでしてもらうわけにはいかないから気にしないでくれ。」


「何でポノがパンジャの調味料とか香辛料を知ってるのよ?

 旅を始めたばかりって言ってたわよね。

 図鑑にはこの周辺の動物しか載ってなかったし…」

元出身地だと言ってもおかしなことになりそうだし適当に切り抜けよう。


「そういえば今日はダチョウなしでどう過ごしてたんだ?」


「以前と同じく自分で走ってヌーを狩ってたわ。

 走るのも少しずつ速くなってきてるから効率は悪くなかったはずよ。」


「ナワツボ平原まで行ったのか?」


「いいえ、狼人族達がまだヌーを対象にしてないみたいだったから行ってないわ。

 自分で走って行くには時間がかかりすぎると思うしちょうどよかったの。」


「そうか、ダチョウがいないせいで

 苦労をかけたかと思ったがそこまでじゃなかったんだな。」


「と言っても狩るのも移動も全力でやってたから疲れたわ…」


「以後気をつけるよ。すまなかったな。」


「ポノだけが悪いわけじゃないから気にしなくていいわよ。」


自然に話を逸らすことができた…かな?


「さて、腹も膨れたし宿に戻るか。」


「そうね。」

『ソウダナ。』


特別料金になるかと思ったが材料の提供があったから鹿牛と同じでいいと言う。

こちらとしてはありがたいが奥さんには後で文句を言われるんだろうな…

人が良すぎると商売には向かないのかもしれない。


代金を支払って宿に向かう。


途中、町の入り口から狼人族達が入ってくるのが見えた。

こちら側の引率はモノノフだったようだ。

とするとまだ名前を知らない引率の男が休みだったんだな。

話したことはないが2人と同じくまともな人物であることを願う。


宿に着いていつものように過ごし、朝を迎えた。


今日は共に朝食を済ませて町を出る。

別行動じゃなければダチョウを貸し忘れることもないから安心だ。


「それじゃあとりあえずヌーがいるところまで移動するか。」


「そうね。」

『ソウダナ。』


図鑑からダチョウを出し、ラナを乗せて移動を開始する。


「やっぱりこのダチョウは速いわね。

 これに慣れると普通のダチョウが遅く感じないか不安だわ。」


「それはあるかもしれないな。

 せっかくダチョウを捕まえられるようになっても

 自分より遅いからあんまり乗らないなんてこともあるのか?」


「遅くても移動で魔子を消費するよりはマシよ。

 …別にシャレで言ったんじゃないからね。」


「なるほど、そういうものか。」


「少しは自分が変わってるって自覚を持った方がいいと思うわ。」


「ポノハ常識ノ外ニイル存在ダト思ッテイルゾ。」

ヨルムとしては褒めたつもりなのかもしれないが、

話の流れからすると完全に逆に意味に取れてしまう。


「多少変わってるかもしれないがそこまで言わなくてもいいだろう。」

それに俺と一緒なことに慣れてきているということは

ラナも普通とはズレてきているということだ…って、全然いい事じゃないな。


ああだこうだ話しているうちに狼人族達が見えてきた。

引率は予想通り名前を知らない男だ。ヌーの相手をしている者もちらほらいる。


「ヌーを相手にし始めてるな…ナワツボ平原まで行くか?」


「そうね、ここだとあまり動かない狼人族達の前を

 何度も横切ることになりそうだしそうしましょう。」


この前と同じく大きく迂回して進む。

さすがに兎狩りとは違って指導の手を止めてこちらに来ることもないだろう。

と思っていたがエルクに乗ってこちらに向かってきているようだ。


「一度止まろう。狼人族の男がこちらに来るようだ。」


「え?本当ね…何の用かしら?」


「昨日似タヨウナコトガアッタ。大方、挨拶ニ来ルノダロウ。」


さすがにエルクの速度は速く、こちらに到着するのにそう時間はかからなかった。

モノノフよりもガッチリしている狼人族の男がエルクを降りて話し始めた。


「初めましテ。岩より硬いと評判のキンゾコノフダ。

 少し長いからコノフと呼んでくレ。見届け人、よろしく頼ム。」

チノワと同じく名前に何か意味がありそうだが俺にはわからなかった。

元ネタがわからなくてよかったと思うのは初めてだな。


「初めまして。見届け人を任せてもらうポノだ。よろしく。」

「初めまして。ラナよ。」

「ヨルムダ。ヨロシクナ。」


「短い挨拶ですまないが引率の最中なのでこれで失礼すル。」


「わざわざすまなかったな。当日は任せておいてくれ。」


コノフは挨拶を端的に済ませ、エルクに乗って戻って行った。

その背には大型の盾を背負っている。盾役か、それであの体型なんだな。


「これで3人とも礼儀正しいってことがわかったな。」


「ほんと、あいつらにも見習ってほしいものだわ。」


「奴ハ若干我ト被ッテイナイカ?」


「そうか?全然違うと思うが…」


「イヤ、語尾ガカタカナ…」

そういう事を言うのはやめてくれ…


「それじゃ移動を再開しよう。」



その後、交通事故が起こることもなく無事にナワツボ平原に到着した。

今日は何をして暇を潰そうかな…

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