53.実食
「…おっちゃんの言う通り飲んで元気出そう。」
「…そうね。」
『…ソウダナ。』
「「『乾杯!』」」
「ふう、動いた後はやっぱりこれだな。」
「ぷぅっはぁー!くぅー!この時のために生きてるようなもんよねー!」
『キンキンニ冷エテヤガル!悪魔的ダ!』
お前らそれ危ないからやめてくれ。ちょっと違うからセーフなのかもしれんが…
あと変わり身が早過ぎる。名のある忍者もびっくりだろう。
「おっちゃん、ありがとう。悪いんだが迷惑ついででこれを料理してくれ。」
図鑑からカリファパーチの身とクラーケンの身を出してカウンターに置いた。
「カリファパーチなんて久々だな。腕が鳴るぜ。こっちのはタコ…か?」
おっちゃんともなるとカリファパーチは見たことがあるようだ
が、さすがにクラーケンはわからなかったらしい。
「クラーケンだ。」
「またとんでもないものを持ってきたな…調理法の希望はあるか?」
「とりあえずカリファパーチを塩焼きにして全員分、クラーケンは
火を通してもらえれば味付けはおっちゃんに任せたい。
俺とヨルムの分を頼むよ。あと白米1つ。」
本当は刺身も食いたいんだが醤油がないとな…
「あいよ!ちょっと待ってな!」
『オッチャンノ気マグレクラーケン…楽シミダ。』
どこで覚えてきたやら…アカネだろうけど。
「ねえ、クラーケンは私に食べさせてくれないの?」
ラナが物欲しそうに聞いてくる。
「クラーケンはランクが高いからな。
食うとかなり魔子が増えそうだがそれでもいいか?」
「そういうことね…やめておくわ。」
「我慢させてしまって悪いな。数はあるからランクが上がったら一緒に食おう。」
「そうね、楽しみにしておくわ。」
ビールを飲みながら料理を待つ。
「まずはカリファパーチの塩焼きお待ちどう!あと白米な。」
目の前に出されたのは程よく焼き目がついたカリファパーチの切り身だった。
こんなもんどう考えたって美味いだろう。
「さすがおっちゃん、見た目からして美味そうだ。いただきます。」
「いい香り…美味しそうね。いただきます。」
『サメハ食ベタコトガアルガコノ魚ハ美味イノカ?イタダキマス。』
皆ほぼ同時に一口頬張る。
「これは…美味いな!」
「脂をあまり感じないのに旨味が凄いわね。とても上品な味…美味しいわ。」
『サメノブヨブヨトシタ肉ト比ベルト天ト地ダナ。
イヤ、比ベルノモ失礼ナクライ美味イゾ。』
美味すぎる…久々の焼き魚ということもあって口の中に広がるカリファパーチの
味、香り、食感、旨味…それらの主張が全て美味だと思わせる方向に働いている。
後は塩焼きの魚と言えば白米との相性だ。飯が進む進む。手が止まらないぞ…
3人ともあっという間に食べ終わってしまった。
「美味かった…カリファパーチの美味さもあるだろうが
おっちゃんの焼き加減、塩加減が絶妙なんだよな。」
「はは、そこまで言ってくれると素直に嬉しいな。
ポノの分は白米と一緒に食うことを考えて少し塩分を足してあったんだ。」
なるほど、単品で食うには少しだけ塩辛いかもと思ったが配慮だったんだな。
「こっちの優しい塩加減の方も美味しかったわよ。
素材の味を上手く引き出してるって感じがしたわ。」
「おっ!嬉しいこと言ってくれるね!ビール飲むかい?」
俺は褒めても言われなかったのにな…
「いただくわ。」
ラナはこちらにドヤ顔を向けている。
おっちゃんに腹は立たないがラナには腹が立つな…
『ヨルムも気に入ったみたいでよかったよ。』
『火ヲ通シタダケデコウモ違ウノダナ。サメモ火ヲ通セバ美味カッタノカ?
ソレトモカリファパーチハ生デモ美味イノダロウカ?』
サメの味はわからないが生のカリファパーチなら提供できるな。
置換でカリファパーチの切り身の一部をヨルムの皿の上に置く。
『試してみたらいい。』
『デハ遠慮ナク…ウム、弾力ガアルシ旨味モ強イナ。
要ハサメガ不味カッタダケノヨウダ。』
そうか…これからは美味い物を食わせてやるからな…
ヨルムが生の切り身を食うところを見ていたおっちゃんが言う。
「おっ?ヨルムは生でもいけるのか。それならソイソースをかけるか?」
「醤油があるのか!?」
思わず立ち上がってしまった。
「ショウユ…?ああ、パンジャでのソイソースの呼び方だったか…
変なところで博学だな。いるのか?」
「いる!クラーケンの後でいいからカリファパーチを刺身にしてくれ!」
「お、おう。わかったから落ち着いてくれ。」
ちょっと興奮しすぎたようだ。
「ポノがそこまで興奮するなんて珍しいわね。そんなに好きなの?」
『興奮スルホド美味イノダロウ。是非我モ食ベタイゾ。』
「好きも何も醤油がないと思って頼まなかっただけだからな。
本当ならいの一番に頼みたかった料理だ。」
まだ少し興奮が治まってないな…静まれ俺。
「生の魚…ねぇ。私は遠慮しておこうかしら。」
「好みの問題だからな。無理に食わせたりはしないさ。」
「クラーケンの煮込みお待ちどう!」
「おっ、次はクラーケンだな。」
『アレガドウ美味クナッテイルカ楽シミダ。』
程よい弾力と柔らかさ、歯で簡単に千切れるので実に食べやすい。
ハーブらしき香りとクラーケンの出汁で上手く煮込まれている。
『コレガアノクラーケンダトイウノカ。
クラーケンガ元々コノ味ナラ我モモット成長シテイタダロウニ…。』
「こっちは飯よりビールの方が合うな。おっちゃん、ビール2つ。」
「美味しそうに食べるわね…私も食べたくなっちゃうじゃない…」
「ビールお待ち!今から刺身を作るぞ。少し待ってくれ。」
「それは楽しみだ。」
今の段階でほぼ満足しているのだが醤油があるとわかったらどうしても
刺身は食べてみたいからな。クラーケンとビールを楽しみつつ刺身を待つ。
ちょうど両方がなくなった頃、刺身が完成したようだ。
「お待ちどう!カリファパーチの刺身とソイソースだ。」
出された刺身は丸い皿にまるでフグ刺しの様に美しく盛り付けられていた。
「おっちゃんは盛り付けまで腕がいいんだな…」
『コレハマタナントモ綺麗ダナ。』
「ステーキじゃこうするわけにはいかないからな。
披露する機会があってよかったよ。」
「いただきます。」
『イタダキマス。』
刺身に醤油をつけて口に入れる。脂はないが弾力が凄い。
そして噛むごとに口の中に広がる甘み…鯛を思わせる品のある白身だな。
脂が少ないのでワサビがなくても大丈夫だ。本当は少しあった方が好みだが…
「美味い…おっちゃん、白米1つ。」
『ソイソース?ショウユ?トイウノヲ付ケルダケデコウモ変ワルノダナ。
何モ付ケナクテモ美味カッタカリファパーチガ更ニ美味ク感ジルゾ。』
『個人的な意見を述べさせてもらえるなら醤油は万能調味料だ。
その中でも魚介全般に特に合う。魚介には醤油だ!』
『ナルホド…覚エテオコウ。』
「はいよ、白米お待ち!」
「刺身と白米…この組み合わせに勝てる物はそうないぞ。」
つい独り言が出てしまった。
その後夢中で刺身と白米を平らげた。今日の夕飯は大満足だ。




