52.失態
とりあえずは狼人族達が見えるまでいつもの速度で走るか。
そのまま町まで行ってもいいんだが門番に警戒されても面倒だしな…
「コチラ側モホトンド人通リガナイノダナ。
コレナラバ我ガポノヲ乗セテ移動スレバヨカッタ…」
そういえば川には橋も架かってなかったな。向こう側に町はないのかもしれない。
「どちらにしろ音速を超えない程度に抑えるんだから変わらなくないか?」
「確カニ移動ニカカル時間ハ変ワラナイダロウ。我ガポノヲ乗セタイダケダ。」
何でそんなに乗せたがるんだ…?
「何か乗せたい理由があるのか?」
「首ニ巻キツイテイルヨリ独占欲ガ満タサレルノダ。」
そんな理由があったのか…
「独占されてるつもりはなかったがそうしたいなら今からそうするか?」
「イイノカ!?」
予想以上の食いつきでびっくりする。
「俺としてはどちらでも構わないからな。
ヨルムの方が俺より遠くまで見えるようだし、
人目につく前に縮んで首に戻ることはできるだろう?」
「ソノ程度ハ朝飯前ダ。」
乗り気なようなので走るのをやめた。
「ただ前方の視界が塞がれるから正面の風景は楽しめないのが難点だな。」
「ナルホド。デハ別ノ体勢デ乗セルトシヨウ。」
ヨルムは少し巨大化してとぐろを巻き、頭部をコブラのように膨らませた。
とぐろの後方に体が伸びているのは移動で使う部分なのだろう。
「胴体ヲ跨イデ高イ部分ニ座ッテクレ。」
巻きの数が違うのに左右の高さが一緒なのが不思議だ。
座る部分はドーナツクッションのようになっている。
座り心地は悪くないが俺は別に地主じゃないぞ…
「ドウダ?必要ナラ肘置キト背モタレモ作レルゾ。」
脳裏にゾウ革の鞍が浮かぶ。俺は聖帝様じゃないぞ…
「いや、このままで充分だ。」
「頭上ニ顎ヲ乗セテモイイシ膨ラマセタ部分ニシガミツイテモラッテモイイゾ。」
それをやると却って辛そうだ。
「大丈夫だ、進んでくれ。」
「ソウカ…?デハ行クゾ。」
ヨルムは少し残念そうにそう言うといつもの速度で進み始める。
予想通り後方の部分を動かして前に進んでいるようだ。
他人から見た場合を考えるとかなり異様な光景だよな…
人目につかないとはわかっていてもつい考えてしまう。
そのまま移動はしばらく続いたが狼人族達の姿が見えたのか、
ヨルムは少しずつ減速してやがて完全に動きを止めた。
「楽シイ一時ダッタガココマデダナ…」
ヨルムは心底残念そうだ。ここまで落ち込むなら
もう少し機会を作ってやりたいところだが…
「また機会はあるさ。首は首でいいんだろう?」
「ソウダナ。移動ハ移動ノ、首ハ首ノヨサガアルカラナ。」
そう言って首にスルスルと巻きついた。
俺にはわからない感覚だがヨルムは納得したようなので歩き始める。
すぐに狼人族の子供達の姿が見えてきた。
兎狩りは一区切りしたようでチノワの指導の下、模擬戦を行っているようだ。
狼人族の狩りではほとんど移動をしないので、
魔子を馴染ませる狙いもあるのかもしれない。
そのまま町に入り、酒場に到着した。辺りはすっかり夜だ。
中に入ると見慣れた後姿が食事を摂っている…うん?何か忘れてるような…?
隣の席に座るとすぐに声がかかった。
「ポノ…先に行ってって言った私も悪かったわ。
でも気付いてくれてもよかったんじゃない…?」
ひどく落ち込んでいるようだが何の話だ?あ…わかった…
「ダチョウか…いや、本当にすまなかった…」
「今の今まで忘れてたのね…まぁ私も町を出て気付いたんだけど…」
『我トシタコトガスッカリ忘レテイタ…』
「ヨルムちゃんは悪くないわ…私とポノが悪いのよ…」
「そうだな…ヨルムは悪くないぞ…」
『シカシ我モソノ会話ヲ聞イテイタワケダシ…』
3人で落ち込んだ雰囲気を出しているのを見かねておっちゃんが声をかけてきた。
「…何があったか知らないがとりあえずこれ飲んで元気出せよ。」
ビールを3つ出してくれた。おっちゃん…ありがとう。




