51.泳ぐヨルム
図鑑を消したところでヨルムが話しかけてきた。
『シバラクコノ魚ヲ狩ルノカ?』
『ああ、そのつもりだ。何かあったのか?』
『ココノ水ハ随分暖カクテ動キヤスソウダカラナ、シバラク泳イデキテイイカ?』
深海と比べればそうだろうな。泳ぐのが好きなのは意外だったが…
『構わないぞ、楽しんできてくれ。』
『デハ行ッテクル。』
そう言ってヨルムは器用にスルスルと水中を泳ぎ始めた。
蛇は水面を泳ぐイメージがあったがヨルムは違うらしい。
ウミヘビと違って尾ひれがあるわけでもないのに…
ヨルムを見送って移動しながらひたすらカリファパーチを狩り続ける。
図鑑では見つけるのが難しいとあったがドロップ品を回収するのも大変そうだな。
この濁った水の中では最初から見失ってもおかしくない。
絶命しないような場所に銛を突き刺して陸揚げすれば回収も留めも簡単だが
引き上げるのもブン投げるのも相当な腕力が必要だ。
陸まで行く間にカバの群れに当たったら余程の実力がないと危ないだろうし…
それほどの実力があるなら他の獲物を狩った方がいいか。
つまりカリファパーチの身はそれほど出回らない!…と思う。
この世界に詳しくない俺がいくら考えたところで正解には
辿りつけないこともある。考えるのも所詮は暇潰しだな。
その後も狩り続けていると頭上からやけに魔子密度が高い生き物が降りてきた。
その生き物は当たり前のようにスルスルと俺の首に巻きついてくる。
形状と密度と動きと習性からして間違いなくヨルムだろう。
『フウ、泳イダ泳イダ。タダイマ。』
もはや俺の首が家のようなものなんだな。嬉しい事ではあるが。
『おかえり。楽しめたか?』
『楽シメタゾ。タマニハ体ヲ動カスノモイイモノダナ。』
一日中俺の首にいる時もあるからな…
『それはよかった。別に俺が狩りをしている最中は自由に動いていいからな?』
『体ヲ動カスノハタマニデイイノダ。ポノノ首ハ居心地ガイイカラナ。』
『それならそれで構わないが…』
『以前ハ何者カニ挑マレタ時以外ハ自分ノ尾ヲ咥エテイルノガ
当タリ前ダッタカラナ。動カナイコトニハ慣レテイル。』
『誰かにそうするよう言われたのか?』
『ソウイウワケデハナイガ何故カソウ思イ込ンデイタナ。』
ヨルムが動き出したらラグナロクが始まるなんて言われているくらいだ。
滅多なことでは動かないよう本能に刻み込まれていたのかもしれない。
『深く考えずにヨルムを連れてきてしまったが
アスガルドで戦いが始まってたりしないだろうな…』
『オソラクハ我ガ従魔ニナッタコトデ
再出現シタ別個体ニソノ役割ガ移ッタンジャナイカト思ウ。』
それならラグナロクは始まらないしヨルムは自由に動けるしでいい事尽くめだな。
新しい個体には悪いがヨルムンガンドに生まれた宿命だと思ってもらうしかない。
『そうだといいな。』
『我ト同ジ存在ガイルナド考エタダケデ気分ガ悪イナドト言ッテシマッタガ
ソノオカゲデ今コウシテ自由ニ動ケルノダ。考エヲ改メテ感謝スルトシヨウ。』
ヨルムの中では予測が確定に変わっているらしい…が、
その通りなら俺も都合がいいから正解であることを願おう。
『モチロンポノニモ感謝シテイルゾ。』
『思いつきでヨルムを仲間に引き入れようとして途中でその必要がなくなって
所持品だけもらおうとしたらうっかり捕まえてしまったってのが真実だが…』
『確カニソレダケ聞クトイロイロヒドイガ…
例エソレガ偶然デアッテモ我ニトッテハ今自由デアルコトガ嬉シイノダ。』
『過ぎたことを言ってもしょうがないし、ヨルムが嬉しいならそれでいいか。』
『ソウイウコトダ。』
ヨルムが気のいい奴でよかった。狩りを再会するとしよう。
とは言いつつ飽きてきたので大きめの個体を陸に向かって放り投げる。
やはり魔子だけじゃなく姿も確認したいからな。
一応魚の着地点周辺に人らしき魔子がないことは確認してある。
カバを避けつつ陸に上がり、可視魔子を解除して投げた魚を確認すると…
まんまナイルパーチだな。ビタンビタン跳ねているカリファパーチに留めをさす。
最後だからと大きい個体を選んだのが功を奏したのか、身と鰭をドロップした。
やはりドロップ目当てなら同種族でも倒すなら大きい方がよさそうだな。
今回のように独占状態なら片っ端から狩るで問題なさそうだが。
それほど長い時間狩ってたつもりはなかったが空は夕焼けだ。
目的も果たしたし町に戻るとしよう。着く頃にはちょうど夜かな。




