46.裏技
「何か忘れてる気がしてたんだがラナとDランクの動物の比較をだな…。」
狼人族の狩りやモノノフとの出会いもあってすっかり忘れていた。
「…そうだったわ!」
「ソウダッタナ。」
それは1人と1匹…いや、ヨルムはもはや人だ。
それは2人も同様だったようだ。
ヌーが遠くに見える。数が多いが比較するだけなら群れでも構わないだろう。
「あそこにいる群れでいいか、比べるには遠いから少し近づこう。」
全員でヌーの群れに近づく。
「よし、じゃあやるか。可視魔子!」
ヌーとラナの魔子密度を見比べる。ほとんど違いがわからないな…
フィルターの精度を調整していくと、ラナの方が先に見えなくなった。
が、すぐにヌーも見えなくなったのでほとんど差がない状態のようだ。
「僅かにラナの方が魔子が少ないようだが…
これくらいの差なら倒せるんじゃないか?」
「えっ!本当に!?」
「ああ、しかし数日で約1000頭は狩りすぎじゃないか?」
「強くなってる実感があるなら反復作業は苦にならないわよ。
それに借りたダチョウの足が速いから効率も相当上がったと思うわ。
一番のネックは移動時間だったし。」
まぁ俺から見てもそうだったが…にしてもやりすぎだろう。
「デ、ドウスルンダ?ヌーニ挑ムノカ?」
「是非とも挑戦したいわ。」
「1対1ならともかくさすがに群れ相手は自殺行為だろう。
やるならはぐれヌーを探さないとな。」
「ちょっと待って、あそこにいるヌーはどうかしら?」
近づいたことによって新たに見えたヌーの中に、
群れの一員なのかはぐれなのか微妙なヌーがいた。
「うーん…絶妙な位置にいるな。判断が難しいぞ。」
「我ニモ判断ガツカナイナ。」
「少し距離があるから群れに襲われたらそっちの相手を頼めない?」
「すっかりやる気だな。まぁそれくらいはやらせてもらおう。」
「じゃあそっちはお願いね。はぁ…やると決めたらドキドキしてきたわ。」
ラナはダチョウに乗ったままはぐれらしきヌーに近づいていく。
俺達はラナの戦闘とヌーの群れが視界に入るよう位置取る。
「いつでもいいぞ。」
「心の準備中よ。少し待って。」
「ヤハリ初メテノ相手ハ緊張スルモノナノカ。」
「それじゃ別の意味に聞こえ…なんでもないわ。」
ラナの頭の中は意外と桃色らしい。
やがて決心したのか、ラナが動き出した。狙うのは前脚のようだ。
突進と突き上げが主な攻撃だったはずなのでいい選択だと思う。
草を食んでいる頭部があるので両足同時は難しいと判断したようで
片足に狙いを絞って剣を振るう。
切断とまではいかないが深い傷を与えることに成功していた。
と、群れがいっせいに草を食べるのを止め、ラナの方に突進を始めた。
はぐれじゃなく群れの一員だったようだ。一群をまとめて温度反転で片付ける。
「キャッ!何よこれ!」
再びラナに目をやると言葉とは裏腹に随分動きがよく、ヌーを圧倒していた。
ものの数秒でラナはヌーを倒したがラナの前に図鑑は出現していなかった。
「何で図鑑が出てないんだ?初めての相手だったんだろう?」
「…その言い方やめてよ。
図鑑ならたぶんポノが群れを片付けた時に目の前に出てくれやがったわよ。」
不機嫌なようで言葉遣いが荒くなっている。
「群れだとそういう事が起きるんだな…知らなかったとはいえ悪かったよ。」
「いいえ、私の方こそごめんなさい。
思った通りにいかなかったけどポノは助けてくれたのに。」
「まぁ一つ勉強になったということで水に流してくれると嬉しい。」
「そのつもりよ。次からは気をつけるわ。」
「目を離した隙に動きがよくなってたのは
俺が倒した分のヌーの魔子がラナにも流れたってことでいいのかな?」
「感覚が変わってびっくりしたわよ。でも馴染む前に倒せちゃった。
冒険者組合で説明を受けた時の記憶だと
同じ相手に複数で挑んだ場合は均等に魔子がもらえるって聞いたんだけど…」
「群れの場合は全部合わせて1頭っていう判定なのかもな。」
悪用したらパワーレベリングに使えるな。ラナはそれを望まないだろうが。
「そういうことなんでしょうね…過ぎたことを言っていてもしょうがないし、
Dランクに上がったことを喜ぶことにするわ。」
「ああ、おめでとう。」
「オメデトウ。」
「ありがとう。でもヌーを倒したからってこの前みたいな宴会は御免だからね?」
「バレたか…ああいう場に慣れるのも必要だと思うんだが。」
「前ニランクガ上ガッタ時ハ盛大ニ祝ッタノカ?」
「そうなんだよ。盛り上がって楽しそうだったぞ。
俺は始まってすぐ離脱したからおっちゃんに話を聞いただけだけどな。」
「ポノがいたらもう少し違ったはずなのに…」
ラナは小さく呟いた。
「ソレナラ我ガ傍ニツイテイテヤロウカ?コノ前ノ宴ハ愉快ダッタカラナ。」
マトンがいた時のような事は起こらないと思うが。
「本当!?それなら何も問題ないわ!やりましょう!」
さっきの呟きは一体…
「じゃあ今日も宴を開くことにして、時間も食ったし町に戻るか。」
「待って、あれはどうするの?」
そう言われてラナの指差す方向を見ると
群れからのドロップ品が大量に転がっている。
「忘れてた…面倒だな。」
「お金持ちみたいなこと言ってないで拾いなさいよもったいない。」
「金持ちではあるんだがな…」
文句を言いつつドロップ品を回収していく。町に戻る頃にはすっかり夜だな。




