42.噂の一行
町に到着し、食事のために酒場に向かう。
酒場に着いたがいつもと様子が違い、冒険者の客の他にも見慣れない姿があった。
狼が人の形を取ったような者、頭部だけ狼な者、人族の頭部に狼の耳がある者…
それぞれ狼の度合いに差はあるが噂の一行が来たようだ。
幸い狼人族はテーブル席の方にいるのでカウンター席には座ることができた。
一行が兎狩りから始めるならラナが成長する余裕があるんだが…どうだろうな。
とりあえずは飯だな。今の段階でいくら予想を立てても外れたら意味がない。
しかし彼らを見ていると何か引っかかる…
「おっちゃん、いつものよろしく!ビールもね!」
「俺も同じ物を頼むよ。」
『我ノ事ヲ忘レナイデクレ。』
『すまんすまん。いるのが当たり前になって首に違和感もないからつい…』
「あと追加で鹿牛ステーキ1つ。」
『当タリ前…カ、照レルナ。』
照れる理由がどこにあるんだろうか。
「あいよっ!先にビールな!」
「「乾杯。」」
今日はおっちゃんも忙しそうだし時間がかかるかもな…
狼人族について全く知識がないから探っていこう。
「狼人族と言ってもそれぞれ狼の部分の割合が違うんだな。
耳だけついている者はそこさえ隠せばほぼ人族に見えそうだ。」
「個人差があるのは当たり前でしょ?結婚相手が人族だったり
耳長族だったりすれば人っぽい部分が多くても不思議はないと思うわ。」
言われればその通りだな。耳長族…エルフのことだろう、定番だしそりゃいるか。
『女性ノ場合ハ純血デモナイト狼部分ガ極端ニ減ルヨウダゾ。』
「それは知らなかったわ。さすがヨルムちゃん。」
「おーい、料理ができたぞ。あそこのテーブルに頼む。」
おっちゃんが店の奥の方に声をかけるとおばちゃんが出てきた。
奥さんだろうか?まさに文字通りだな。
「はいよー。」
おっちゃんの奥さんと思しきウェイトレスのおばちゃんが料理を運んでいる。
今まで見たことがなかったが…さすがにこれだけ盛況だと一人じゃ無理だもんな。
ひょっとしたらラナのシマロバ討伐記念の宴の時もいたのかもしれない。
「そういえばDランクの動物とラナの魔子を比較することをすっかり忘れていた。
差が小さいようなら最初に狙う部位を間違えなければ倒せると思うんだが…」
『我モ失念シテイタナ。』
「私も何か忘れてる気がしてたんだけどきっとそれね。明日お願いするわ。」
狼人族達を見て感じていた違和感の正体がわかった。
「ここの冒険者と違って狼人族が普段から武器を携帯してるのは
彼ら故郷の敵が向こうから襲い掛かってくるからなのかな?」
『アシロ王国ダトホッキョクオオカミヤグリズリー等ガ襲ッテクルダロウナ。
初心者冒険者ガソレラニ襲ワレタラ武器ヲ携帯シテイテモ無駄ナ気ハスルガ。』
海の底にいた割に本当に色々知ってるな…アカネに贔屓されてないか?
知ってないからこそ楽しめてる部分もあるから文句があるわけではないんだが…
「ヨルムちゃんは博学ねー!」
「いつものセット2つと追加のステーキお待ちどう!」
「いただきます。」
『相変ワラズウマソウダ。』
「来た来た!いただきまーす!」
おっちゃんのステーキはヨルムも虜にしている。流石だな。
「ごちそうさま。」
『ゴチソウサマデシタ。』
「おいしかったー、やっぱり1日の始まりと終わりはおっちゃんのステーキね!」
これは間違いなくビールを出させる気だな。
「おっ、嬉しいこと言ってくれるね!ビー…」
おっちゃんは横にいる奥さんをチラ見して固まった。
ラナの作戦は失敗に終わったようだ。
店を出ようと代金を払っているところで3人組の狼人族が入ってきた。
店内を見回すが3人で座れる場所がないので店を出ようとしている。
「ちょうど出るところだ、よければここに座るといい。」
「すまない、助かる。」
先頭にいた頭部が狼の男がこちらに礼を言った。
あの見た目で普通に喋るんだな。他種族のことも考えて慣れておかないと。
すれ違いで店を出たところでヨルムが切り出した。
『アノ3人ハナカナカノ実力者ダナ。ゴンザナシ達ヨリモ強イダロウ。』
『そんなにか。初心者ではないなら引率として来てるのかもな。』
「見た目からして強そうだったもんね…それにしても
おばちゃんがいるとおっちゃんも弱いわね。繁盛しすぎるのも考え物だわ。」
ラナはおばちゃんを見たことがあるんだな。それにしてもひどい話だ。
「おっちゃんを転がすのも程々にしておけよ。
ないとは思うがもし潰れでもしたら責任の一端はラナにあることになるぞ。」
「店が傾くほど集ってないわよ…」
集っているという自覚がある分マシか?
いや、自覚があるのに続けているからそうでもないな…




