29.緊急依頼
「ちょうど食事が終わったところだから向かうことにするよ。ありがとう。」
と、食事代を支払って席を立つ。
「えっ、ちょっと!お触りタイムは!?」
自分の食事を終え、こちらを見ながら今か今かと待ち構えていたラナは
怪しげな名称を叫びながら絶望の表情を浮かべた。
「勝手にいかがわしい名称をつけるな…後でいくらでもできるだろう。
こいつが途中で嫌がらない保証はないけどな。」
「うぅ、一日千秋の思いで待ってるから…」
ラナもヨルムと似たような事を言うな。流行ってるのか?
…しかし陸上と海の底で流行が似るなんてことはないだろう。
というかそもそも海の底に流行があるとも思えないしな。
いや、ヨルムの中で流行ればそれは海の底での流行と呼べるかもしれない。
などと考える意味が皆無な事を考えながら組合に向かう。
『アノ女ハ蛇ガ好キナノカ…良キ趣味ヲシテイルナ。』
『俺も初めて知ったよ。まぁ苦手よりはいいだろう。』
『ドウダロウナ…アノ様子ダト、嫌イヨリモ性質ノ悪イ好キニナリカネナイ。』
『それはありえるな。もし嫌になったら首周りに氷の壁でも作るといい。』
『可能ダガソンナコトヲシタラサスガニ冷タクナイカ?』
『障害があってこそ燃え上がるって聞くしな。いや、燃え上がっちゃだめか。』
『イヤ、ポノガ冷タク感ジテシマウノデハ?トイウ意味ダッタノダガ…
壁トイウ以上ハズット触レテイルワケダカラナ。』
『ああ、そっちか。少しだけひんやりするかな?くらいだと思うから大丈夫だ。』
『…襲イカカル前ニ話シカケテオイテヨカッタト心ノ底カラ思ッテイルゾ。』
組合に到着し、中に入ると正面にいるアマンダが
少しだけ訝しげな顔をしたがすぐに直り、こちらに軽く一礼した。
「ゴンザナシから聞いた。組合長から俺に依頼があるとか?」
「ええ、私も詳細はわかりませんので奥の部屋へどうぞ。
すぐに組合長を呼んできますので少々お待ちください。」
言われるがまま応接室に入って椅子に座ると
すぐに隣の部屋からウィリスとアマンダが出てきた。
『アレガソウカ。組合長ト言ウダケアッテ少シハヤリソウダナ。』
『冒険者をまとめるんだ、多少の腕っ節は必要なんだろうな。』
「では、私はこれで失礼します。」
と、アマンダは受付に戻っていった。それを確認したウィリスが話し始める。
「呼び出してすまんかったのう。
実は国王から首長地竜の肉が欲しいと依頼があったんじゃ。」
「それだけでわざわざ呼び出すってことは期限があるのか?」
「そうなんじゃ、お主は毎日来るわけじゃないからのう。そうじゃなくとも
期限は5日、移動と討伐時間を考えれば余裕など全くないと言うてよい。」
「無理だと言って突っぱねられなかったのか?」
「国王は聡明で誠実なお方、組合としてもできることなら協力したいんじゃよ。」
「聡明で誠実なら無茶な期限など付けないと思うんだが…」
「何故そんなに期限が短いのかは儂も聞かされておらん。
大方バカ王子に言われて断り切れんかったんじゃろう。
唯一の欠点である親バカを利用された形じゃな。」
『仮ニモ王族ヲバカ呼バワリスルトハナカナカヤルモノダ。』
『そうだな、それくらいじゃなければ組合長は務まらないのかもしれないが。』
「親バカが勝つのか…性質が悪いな。」
「その点以外は本当に尊敬できるお方なんじゃがな…
現状、首長地竜を討伐できそうなのはお主くらいじゃ。やってくれんか?」
「まぁ構わないが…必要な数は?あと買取の値段は?」
「1つでよい。価格は三角地竜の素材と同じで1億じゃ。」
「1つでいいならもうあるぞ。」
図鑑から首長地竜の肉を取り出す。
「なんと!急がんでもよかったわけか。…いや、それは結果論じゃな。」
ウィリスは組合の図鑑から1億入りのアタッシュケースを取り出した。
「そういえばクロエがそれを持ちたがっていたな。」
「そんなことを言っておったのか…優秀なんじゃが少し落ち着きが足らんのう。」
少し呆れている様子だ。
アタッシュケースをこちらに渡し、首長地竜の肉を組合の図鑑にしまう。
「助かったぞ。お主に断られたら他国に依頼を通達せねばならんかった。」
「他の国には地竜を倒せる奴がいるんだな。」
「数は多くないがもちろんおるぞ。
とは言え冒険者は出身国に属しているわけではないからのう。
腕の立つ者ほど今どこにいるのかわからんもんじゃ。
自国内で対応できない場合は他国に報せれば達成可能な者が
誰かしら来てくれるかもしれんというわけじゃ。」
「なるほどな。なるべく他の国に頼みたくないような言い方だったのは?」
「自国内で対応できないという事態はなるべくなら避けたいんじゃ。
カリファで言えば人族冒険者の面子に関わるらしいからのう。」
「組合長ともなるとそんなことまで考えないといけないんだな。」
「儂個人としてはどうでもいいんじゃがな、
現役なのに実力もない奴ほどそんなことをほざきよる…
そう思うんじゃったら少しでも強くなってほしいもんじゃ。」
「苦労してるようだな。まぁ今回のような依頼なら回してもらって構わない。」
「助かるわい。では儂は仕事に戻るとするかのう。
…そうそう、近々狼人族の冒険者が初心者講習でアビンザに来るんじゃ。
お主にはあまり関係ないじゃろうが伝えるだけ伝えておく。」
「わかった。じゃあまたな。」
狼人族か。全身が狼?頭部だけ狼?耳だけ狼?どのタイプなのか気になるな。
聞けば教えてくれるだろうが見てのお楽しみってことにしておくか。




