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第51章 額田が俺の小説の載った部誌を売る話

大大地フェスティバルが始まって、俺は友部と見回りをしていた、まず、青柳にお礼を言いに行った。青柳はとびきりの美少女なのに、なぜか自分ではブスだと思っている。

「そうみたいですね」

 俺も、前から不思議だった。青柳は、小学校のころから自分をブスだといっていた。「鏡を見るのが嫌い」って言うのを聞いたことがある。そうだ。たぶん、別の女の子と化粧の話をしていた時だ。

「ブスなんだもん。きれいな人はお化粧して、鏡の前でうっとりできるかもしれないけど、私みたいなブスだと、お化粧しても、よけいブスになるだけよね。そんなの見たくないわ。人に嫌がられない程度には清潔にしようと思って、一応、手入れはするんだけど、手入れをしても、ブスはブスだなあって思っちゃう」というようなことを言っていた。

「俺も、前から、ちょっと不思議には思ってます」

「昔からなのね……自分のことって、客観視しにくいってことなのかしら」

「委員長は鏡を見るたびに、自分が美少女だっていう自覚はあるんですね」

「さすが、私の大嫌いなジラ。いやなことを平気で聞くのね」

「あ、すいません、つい。でも、女の子たち、階段の鏡で、よく髪なんか直してますよね。ああやってお手入れして『ああ、やっぱり私は今日もきれい』って思って、毎日、楽しく生きてるんだとしたら、うらやましいなと思って……俺みたいにさえないやつは鏡を見るたびに、ああ今日もさえない顔をしてるなって、がっかりしちゃうものなんですよ。そういう意味でも委員長のような美少女がうらやましいです」

 友部は少し考えた。そして厳しい声で言った。

「ジラ、あなた、少し勘違いしてるわね。あなた、私が鏡の中の自分を見てうっとりとしているとでも思ってるの? 女の子たちは鏡の中の自分を見て、うっとりとなんかしてないわ。少しでも見苦しくないように、髪の毛を整えたりしてるのよ。たゆまぬ努力の一環よ。私は、自分でブスだとは思ってないけど、そんな美少女だと思ってもいないわ。でも、努力はしてる。うらやむくらいだったら、あなたも努力したら?」

 那加みたいなことを言う。実は、「見かけがさえないことを嘆く代わりに努力しなさい」と那加に言われて、最近は、それなりに努力はしているのだが。

 文芸部のブースの前を通りかかると、額田が部誌を売っている。那加も隣にいる。時間で売り子は交代することになっていて、見回りが終わったら、次は俺の番だ。

 立ち止まって見ていると額田が聞き捨てならないことを言っている。

「お嬢様方、文芸部の最新の部誌はいかがですか。ヴィーナス先輩の美しいヌードの作品が載ってますよ。わっしの作品はBLと女の子同士の百合が同時に楽しめる優れものっすよ」

 部誌を開いて見せる。

「ただ、正直に言うと、あの生徒会長のジラ、知ってますよね、あの人のハレンチ極まりない作品が載っているのが、玉に瑕なんす。まあ、お買い上げいただいても、読まなきゃいいだけなんで、害がないと言えばないんですが……くれぐれも、この作品だけは、読まないでください。十八禁どころか商業誌だったら発禁間違いなしのエログロっす。まあ、どうしても載せるって言うので、載せてやったんすが。こうして販売することになると、お客様には、前もって知らせしておかないと失礼かとも思いまして」

「そんな、過激なの?」

 本を手に取っているのはソフト部の1年の笠間と稲田だ。

「過激も過激。描写も、ものすごくリアルでエッチ。わっしは学校一の淫乱女だから、臆せず、全部、読んじゃいましたがね、よくここまで書くな、とわっしが赤面しちゃいます。美少女を徹底的に凌辱する話っす。絶対に読まないで下さい。あ、ちょうど後ろに、ジラが来てるっす。本人から白状させるっす」

 笠間と稲田が振り向く。

「わ、ジラ。ひさしぶりぃ。そんなエッチな話、書いてるの? びっくりしたわ」

「まさか、そんなわけないですよ」

「とぼけても無駄っす。読んでもらえれば一目瞭然だけど、こんな過激なもの、一年生の純情な乙女に読ませられないから、少しだけ暴露してしまうです。主人公は、ジラみたいにさえない男子高校生っす。それが、美少女の豊かな胸の谷間に、金属片をぐいと差し込むんすよ。それだけで、もう十分にエロいっすよね」

「待ってよ、なんでそんな話になるの? 主人公はただペンダントを服の上からかけただけだよ。豊かな胸とも書いてないし……」

「服の上からかけても、襟元から吸い込まれれば、胸の谷間に落ちるっす。書いてなくたって、美少女は豊かな胸をしているにきまってるっす。ジラの大好きなラノベでは、みんな、はち切れそうな胸をしてるっす。しかも、聞いてください、お嬢様方、このペンダント、ただのペンダントじゃないんすよ。電流が流れて美少女をしびれさせるんす。美少女はその刺激に耐えられずに悶絶するんすよ。もうここまで行けば、究極のいわゆるSというやつですよね」

「なんで、そうなるんだよ。ただ痛いだけだよ」

「ほら白状したでしょ。美少女を痛めつけて、快感を得る小説なんすよ。とんでもないエログロっす。発禁ものすよね」

「面白そう。読んでみようかな」と笠間がページを開く。

「違いますって」

 と、俺が額田と笠間の間に入る。

「ほら、孫悟空って知りません? 三蔵法師が孫悟空を連れて旅する話。それを、主人公を高校生、孫悟空を美少女に置き換えて書いてみたようなものなんですよ。孫悟空の頭にはめる『緊箍児』っていうリングがあるでしょ? 三蔵法師が呪文を唱えるとしまるやつ。あれをペンダントに置き換えただけなんですから。全然エログロなんかじゃありませんから!」

 額田はわざわざ立って俺の脇に来る。

「見苦しい弁明をしてますがね、胸の谷間に入れたこのペンダントからおっぱいに電流が流れて、美少女がハアハア苦しがるんですぜ、もう、ジラの本性が丸見えのいやらしい描写が続くんです。絶対に読んじゃいけません」

「そんなことないって!……」

「ふーん。どっちの言ってることが正しいか。買って読んでみようかな」

「お買い上げありがとうございます。でも、絶対ジラのは読まない方がいいっすよ」

 結局、笠間は部誌を買って帰った。稲田も「あとで見せて」とか言っているようだった。

「額田さん」

 と俺は、一応、抗議してみた。

「いくら何でもあの解釈はないと思うけど……」

「何を言ってるっすか。わっしは読んで興奮しまくりだったっす。ジラのエログロの過激さには、さすがのわっしも感服っす」

「俺、そんなつもりで書いてないよ」

「いくらもてないからって、力ずくで美少女を奴隷にしようなんて発想だけでもすごいっす、影でいろいろエッチなことやってるに違いないっす」

「そんなことどこにも書いてないですよ」

「書いてなくても、ジラの考えてることぐらい、お見通しっす」

「まったく、いくら額田さんでも、どうしてそうなるんですか! ……中井さんも何か言ってくださいよ」

 隣で、黙って座っている那加に水を向けてみる。

「額田さんは、お客さん全員にあんなこと言ってたんですか」

「うん、言ってたわ」

「あれじゃ、俺は、完全に誤解されちゃうじゃないですか」

「まあ、買って読んでくれれば、誤解かどうかはわかるわけだし」

「誤解じゃないっすよ」

「額田さんの言うことを信じて、読まない人も、いるかもしれないじゃないですか」

「大丈夫、たいていは読んでくれるよ。怖いもの見たさって言うか、結構、みんなエロもの好きだから……おかげで、かえって、多くの人が読んでくれるかもよ」

「参ったなあ……」

「河合の宣伝のおかげなのか、河合が宣伝したにもかかわらずと言うべきか、どっちにしても、部誌は、さっきので、きれいに売り切れたから、文芸部はもう店じまいよ。私たち、机をかたづけたら引き上げるね。少し雨もぱらついてきたし」

「あ、はい」

 俺は空を見上げる。頬に雨粒が少し当たる。困ったな。心配はしていたが、本降りにならないといいが……


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