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第50章 青柳佐和の魔法の話

大大地フェスティバルが始まり、俺は友部と見回りを始めた。まず青柳にお礼を言いに行った。

 今回の大大地フェスティバルに関しては、那加の魔法の最たるものは、この一件だ。

 実は、軽音部は、最初、俺たち生徒会に必ずしも協力的ではなかった。特設ステージを設ける以上、いろいろな機材とノウハウを持つ軽音部の協力を、俺たちは当初から期待していた。特設ステージでの演奏は軽音部にとっても悪い話ではないはずなので、発表の機会をたっぷり設ける代わりに、音響機器を貸してもらって、校長のバックバンドもやって欲しいと要望したのだが、まあ、詳細は省くが、いろいろ難癖をつけるというか、交渉がスムーズに行かなかった。「フェスティバルが成功すれば、必ず部費も上がるから」などと、いろいろ説得したのだが、妙にかたくなで、話がなかなか進まず、困っていた。途方に暮れかけて、那加に相談すると、「青柳さんにお願いしてごらん」と言うのだ。青柳は学校でも指折りの美少女だが、まだ1年だし、とてもおとなしくて控えめで、たとえて言えば、いつも人の陰に隠れているような子だ。そんな影響力のある子には見えない。軽音部と本当に何かつながりがあるのか、とちょっと不思議な気分で、試しに、お願いしてみた。その時は、青柳がちょっと不安そうに首をかしげて「はい、わかりました。話してみます」と小さな声で返事してくれただけだったので、俺はこれでどうにかなるの? と思っていたが、驚いたことに、半日もたたないうちに軽音部の1年生が何人か俺のところに来て「全面的に協力する」と言うのだ。そして、そのあとの彼らの働きは、目を見張るものだった。ステージの設置から音響機器の設置と設定、スポットライトや雨対策まで、考えられるありとあらゆることをどんどん進めてくれて、校長先生のバックバンドも見事につとめてくれた。今日のフェスティバルの成功は軽音部のおかげと言っても言いすぎではないほどだ。だから、さっき冒頭の挨拶でも感謝の言葉を述べたのだ。さすがに、さっきステージではそこまでは言わなかったが、青柳には、一言、お礼を言わなくてはと思っていたのだ。

「そんな、何もしてないどころか、本当に、今日の日を、無事、迎えられたのは、青柳さんが軽音部と生徒会の仲を取り持ってくれたおかげだよ。本当にありがとう」

 青柳に一言話しただけで、事態ががらっと変わってしまったのも、まるで狐につままれた気分だったが、事態を解決するために、青柳に一言話せばいい、と命じるご主人様も、まるで魔法使いのようだ、と俺はは思った。いったいどんなからくりがあるのだろう?

「そう言ってもらえるのはうれしいです。軽音部の人たちも、きっと喜ぶと思います。会長と副会長がそろって、私にまでお礼を言ってくれたよって、伝えておきますね……綿飴、ありがとうございます。軽音部に持って行ってあげます」

 青柳に深々と頭を下げられて、「もう少し何かを持ってきた方がよかったかな」と一瞬、思ったが、もう遅い。

「あ、いえ、ささやかですみません」

 青柳は下げていた頭を上げると俺たちを見比べていった。

「お二人はいいコンビですね。マラソン大会で透子さんがメダルをかけてあげたシーン、見てました。私、感動しちゃいました」

 友部は少しあわてた。

「あ、佐和、勘違いしないでよ。私とジラは一緒に仕事はしてるけど、個人的には、何でもないからね。個人的には、ジラは私を嫌ってるし、私もジラが大嫌いなんだから」

「え?」

 青柳はきょとんとした顔をする。

「そうだったんですか?」

「そうみたいですね」

 まあ、ここは友部に話を合わせておこう。

「ただ、俺は、友部さんの副会長としての仕事ぶりには尊敬もし、感謝もしていますけれど」

「私も生徒会長としてのジラの働きぶりは素晴らしいと思っているし、マラソン大会もよく頑張ったと思ったからメダルをあげたのよ」

 青柳がクスッと笑ったように思ったのは、気のせいかもしれない。青柳の笑顔は本当に美しい。友部の美しさとはまた違う、暖かくて優しい笑顔だ。

「そうなんですか。とにかく、絶対美少女の透子さん、女の子に大人気の生徒会長の鯨岡君、私はお二人を尊敬してます。そんなお二人に、わざわざ、お礼を言いにきてもらって感激です。ありがとうございました」


「青柳さんて本当にかわいいよね」

 青柳と別れて、見回りに戻ると、友部が言った。

「軽音部の人たちとはどういう知り合いなの?」

 友部も不思議に思っていたらしい。この天才美少女は、ほぼ、何もかも完璧なのだが、箱入り娘のせいなのか、アンテナだけは、俺なみに低い。

「よくは、わからないんですけど……」

 頼んだのは俺なので、友部は、当然、俺がからくりを知っていると思っている。

「軽音部の1年生と仲がいいという噂を聞いたんで、試しに頼んでみたんです」

「ふーん、もしかして、恋人がいるの?」

「それも、よくはわかりませんが、恋人ではないと思います……」

 実は、俺こそどういう知り合いか、知りたいくらいです。

「知らないんだ? ジラは青柳さんと仲がいいのかと思ってた。幼なじみって聞いたけど」

「昔、って言っても、小学校の頃ですけど……ずいぶん仲良くしてましたね。中学ぐらいまでは、『たかちゃん』と『さーちゃん』て呼び合っていましたね」

「今は違うのね」

「そう、高校に入ったら、どういうわけか、なんだか距離が出来ちゃって。昔みたいに気楽に話せない雰囲気になっちゃって……」

 いや、正確には、中学ですでに距離が出来ていたかな、と思ったが口には出さなかった。何しろ、中学時代の青柳は、あの美しさと、明るい人柄でクラスの人気者だった。いつも暗い顔で、人に遅れがちな、ぼっちの俺とは、なかなか接点がなかった。親しい友だちと言えるような仲では、だんだん、なくなっていた。それでも、中学の頃は、会えば、いつも明るく挨拶してくれていたものだったが……と、俺は淋しい気分になった。

「恋人はいないの?」

「はい、たぶんいないと思います」

 それについては、俺の方が詳しい。というのは、うちのクラスの三人の美少女トリオの中でも、少なくとも俺に近しい三流グループの間では、青柳は一番人気で、しょっちゅう噂をしているからだ。もっとも、あとの二人は、彼氏のいる酒出と、完璧すぎて近寄りがたい友部だから、当然といえば当然だが。

「結構、告白するやつがいて、全部、断っているみたいです」

「ふーん。理想が高いのかな、それとも、男の子にそもそも興味がないとか」

「たぶんどっちかというとあとの方ですね。『まだ、そういうこと、考えられないので』って断られたっていう話、聞きましたから。昔っから、何というか、無邪気で天然なところのある子でしたから」

 そう、幼なじみというだけの理由で、中学生になって身分の差が出来ても、俺のことを大事にしてくれるくらいだから、と俺は心の中で付け加えた。

「天然といえば、青柳さん、て、ちょっと不思議な人ね。あれだけの美少女なのに、自分はすごいブスだって、本気で思っているでしょ」


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