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第108章 大宮先輩の妹がびっくりする話

大宮先輩の妹は酒出がオーディションにでることに反対です。そんなことしてたら彼女を取られちゃうよって先輩に言ったのですが……

「そしたら『そうかもね』って答えたんだって」

「うそ」

「まさか」

「もちろん、利香というか、大宮さんはかみついたよ。『それでいいの? お兄ちゃんは、自分の恋人が他の人を好きになってもいいの? それを許すの?』って言うと、お兄ちゃんは少し悲しい顔をしたらしいよ。そして『おまえには全部は言えないけど、いろいろ、あったんだよ』と言うんだって。『みなみんは、心の底から宝石のように美しい人だ。だけど、あいつに会うまでは、俺はそれに気がつかなかった。恋人だったのにね。あいつが、俺に教えてくれたようなもんだ。みなみんは、ほんとうに、最高の恋人だよ。俺にはもったいないくらいのね。だから、あいつがみなみんのことを本気で好きで、それでみなみんが幸せになるなら、俺はそれでいいよ。少なくとも、あいつは俺にそう言ったし、今は、俺もそう思う』って」

「大宮先輩の言うあいつ……ってジラのこと?」

 友部が俺のほうに向きなおる。

 「ジラ、そんなこと言ったの?」

「おにいちゃん、みなみん先輩と何があったの? 教えて?」

「いや、何もないよ。ほんとに何もない」

 すべては那加の命令だし、すべての顛末を誤解のないように説明することなんて、とてもできそうにない。

「『あの生徒会長はすごい奴だよ』って言っていたって。『運動神経だけは俺のほうがいいと思うけど、あとは頭の良さも度胸も度量もとてもかなわない。正直に言うと、あいつにだったら、みなみんを取られてもしかたないと思う。いずれ、みなみんのために『よかったね』って言ってやらなくちゃならないのかもしれないな、俺は』って言うんだって。『私、ひっくり返っちゃった』って利香は言ってた。それって、すごい話だと思わない? で、利香は、それこそすごい勢いで、私に聞くわけ。鯨岡さんのお兄さんって、いったいぜんたいどういう人なの? そんなにすごい、すてきな人なのって」

「なんて、答えたの?」

「もちろん、全力で否定したよ。『それ、どう考えても、うちのおにいちゃんのこと、誤解している』って言ったの。私、お兄ちゃんには悪いけど、正直に、はっきり教えてやったの。『最近は前より勉強して成績もいいし、どういうわけか、生徒会長なんて似合わないもことやってるけど、中身は、全然、さえないよって。ただの、情けない、弱虫のオタク系ボッチだ』って。『一度会えばわかる』って……ごめんね。お兄ちゃん、こんなに、はっきり言っちゃって」

 おまえ、正直すぎるだろ、と思うが、ま、そのとおりなので、何も言えない。

「それでね、大宮さんは、次の日に、早速、お兄さんに、私のその言葉を伝えたんだって。そしたら、『そうだね』って言われたって。『おまえも、実際に会ったり、話したりしたら、人の顔色ばかりうかがって、情けないダメ男だって、きっとそう思うよ』って。だけど……」

 妹は少し言葉を切った。まるで、もったいぶるように、俺たちを見る。友部も青柳も面白そうに妹を見ている。

「だけど、何て言ったの? 大宮先輩」

 と青柳が聞く。

「だけど、『ひと月も一緒にいれば、こいつが何だかすごい奴だぞ、ってわかってくると思うよ』って、言ったんだって。私、ありえない、って全力で否定したよ、だって、私なんか一四年も一緒にいるんだよ、って……さーちゃんもそんなはずないって思うでしょ」

 静、お前はまったく正しい。だが、俺には、とんでもなくすごいご主人さまがついているってことを、お前は知らない。

「静ちゃん、静ちゃんは学校でのたかちゃんを知らないよね。私、学校に行くようになってから、たぶん、静ちゃんよりもたかちゃんのこと知ってると思うけど、たかちゃんは、とても素敵な人だと思うよ。特に最近のたかちゃんは、女の子にもすごく人気あるんだよ。それにしても、その話が本当なら、大宮先輩もすごいね。ほんとに心の底からみなみんを愛してるっていうことでしょう。彼氏にそれだけ思ってもらえる、みなみんもすごい」

 友部もうなずく。

「でも、みなみんってそれだけ思ってもらえる価値のあるひとだよね。美しさはもちろんだけど、裏表がなくて、まっすぐで、さわやかなひと。彼女が、ジラのファンだっていうのは知ってたけど……そんなことになってるなんて」

「おにいちゃん、教えてよ。利香のお兄ちゃんの言ってた、いろいろあって、って何なの。みなみん先輩と、一体、何があったの? 何があったか教えてよ。もし、秘密なら秘密は守るから」

 そうか、美少女二人と一緒に、俺を、珍しく自分の部屋に入れてくれたのは、そこらへんを聞き出すことが本命か……

 確かに、今の話はすごい、にわかには信じられないくらいだ、「いろいろ」が聞きたくてたまらなくなるのは当然だが……

「えーと、さっきも言ったけど、みなみんが俺を狙っているって言うのは、誤解だと思うよ」

「そうなの? じゃ、お兄ちゃんの気持ちはどうなの? いろいろって何なの。何があったの」

「えーと、それは……」

 俺はあんまり話したくなかった。話せば長くなるし、すべては那加の命令でやったことだ。何しろ、マネージャーとして何をするかに始まって、どのタイミングで、大宮先輩に何を言うかまで指示されていたのだ。それを伏せて何があったかを詳しく話せば、まるで嘘の手柄話をするようなものだ。俺みたいな三流にもまるで一流に接するみたいにさわやかに接してくれる酒出を大切にしたいという気持ちだけは本物だが、その酒出のために実際にした行動は俺の意思ではない。度胸も度量も頭の良さも、大宮先輩からはそう見えるものは、すべては那加の指示にひたすら忠実だった俺のみかけに過ぎない。

 だが、那加との関係は絶対に秘密だとご主人様にいわれている。

 困ったな、どうしたものかと迷っていると、幸い、部屋の扉が開いて父親が顔を出した。

「風呂が沸いたよ。入るといい」

 それから、友部を見て満面の笑顔になる。

「透子さんが入っていくというので念入りに洗ったんですけど、まあ、少し古いのでなかなかピカピカにはならなくてすみません。娘が無理を言ってすみません」

「あ、はい。ありがとうございます」

「もう九時を過ぎたし、だいぶ遅いから、お開きにしたらどうだ。さーちゃんのところでも、あまり遅いと心配するだろうし」

「透子様」

 静が友部の両腕を取ってその中に飛び込むと、胸に頬を摺り寄せた。

「一緒に、お風呂、入りましょ。おっぱいみせてください」

 まったく大胆な妹だ。尊敬に値する。

 俺は、助かったという思いで、青柳を見る。

「じゃ、そろそろ終わりにしようか。家まで送るよ」

「大丈夫だよ。すぐそこじゃない」

「一応、送らせてよ。さーちゃんの家の前まで」

「ふふふ、じゃ、そうする?」

 静が、うれしそうに友部の手を引っ張って階段を下りるあとを、俺と青柳が続く。

 外へ出ると、黒い山並みの上の月に薄雲がかかっていた。先週、眞知と見た月は、今日はだいぶ太っている。

 穏やかな夜だった。

「楽しかった。透子さんって、案外、お茶目なのね。かわいいって思っちゃった。ほんとにすてきな人」

「うん、そうだね」

「なんか、ずっと雲の上の人のような気がしてたんだけど、今日は、思い切り友達気分になれた。なんか不思議な気持ち……そうそう、前から言おうと思ってたんだけど、たかちゃん、魔法使いみたいね。今回のオーディションもそうだけど、たかちゃんが生徒会長になってから、なんだか学校に魔法がかかったみたいな気がするの。なんだかよくわからないだけど、不思議に、みんな生き生きしてくる気がする。今日も楽しかった」

「それは、俺のせいじゃないよ。いろんなことがうまくかみ合って……」

 確かに、俺のせいじゃない。

 すべては、那加のおかげだ。那加の指示に従って俺が行動しているうちに、なぜか、あっちこっちがかみ合って、物事がうまく進み、なんとなくみんなが生き生きしてくる。本当に魔法みたいだ。青柳もそれを感じているのだ。

 青柳の家についた。塀の前で唐突に青柳が立ち止まる。

「那加とはその後、デートしたの?」

 不意に聞かれてびっくりする。やはり、俺と眞知を目撃したのは青柳なのか?

「え? いや、あの……」

「ごめん。やっぱり答えなくていいよ。こんなこと聞くなんて、私ったらばか」

 それから急に、俺の手を取ると少しかがんで自分の頬に押し当てた。



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