第107章 大宮先輩の妹とみなみんの話
妹の部屋に友部と青柳と一緒にいる俺は、イケメンには強引に迫れたいがそうでない人が強引に迫るとセクハラだというのは不公平ではないかと妹に抗議するのですが……
「いまさらそんなことを言うから、三流なのよ。わかってないわね」
待てよ、そんな深いため息をつかれるほど、おかしなことを言ったのか、俺は。
「何がわかってないんだよ」
「だから、この世に公平なんてものがあると思ってるところが、三流なのよ。この世は不公平なの。公平なんてものは、教科書と先生のお説教にしかないのよ。だって、女の子が、イケメンとお兄ちゃんを、同じ人間なんだから公平になんて思わなくちゃいけない理由がどこにある? ごく限られた、スポーツ万能の一流イケメンに女の子は群がるの。おにいちゃんみたいな三流は見向きもされないんだよ。そんなのあたりまえじゃない。たぶん、同じ人間とさえ思われてないんだよ。イケメンなら何でも許されて、オタクはどんなにがんばっても軽蔑されるの。だけど、男だって、おんなじだよね。美人なら何でも許されて、ブスだと見向きもしないでしょ」
「いや、いや、待てよ」
と機関銃のようにしゃべる静に、俺は片手を上げる。
「女の子は、確かにそうだと思うよ。だけど、男は、もちろん美人が好きだけど、女の子ほど極端じゃないよ」
「知ってるよ。男はもちろん美少女が好きだけど、「女の子ならだれでもいい」っていう部分があるのよね。とにかく、ひたすらエッチのことしか考えてないんだから。だから、さーちゃんの言うとおりです。男は、自分のことを好きな女の子がいたら、必ず好きになるというか、魅力的に感じるんだよ。さーちゃんや透子様みたいに純真な人には、こんな露骨な言い方はもうしわけないけど、男は「やれそう」となれば、インスタントに誰でも好きになっちゃうんだよ。男が好きって言うのは、やりたい、ってこととほぼ同じなんだから。私、つくづくそう思う。私が知っている、まわりの男は、みんなそう。まあ、それが本能ってやつだから、しょうがないとは思うけどね」
おい、お前、中学生だろ。どんな人生経験してるんだよ、と俺は、内心、突っ込む。が、もしかしてそうなのかとも思う。静は俺とは正反対の積極的な性格で、しかも、かなりかわいいので、もてるらしい。肉食系というのだろうか、小学生のころから彼氏を作っている。たいてい長続きしないで別れているようだが、キスくらいはしてるのかな、それとも、もう少し先まで行っているのか? まだ、中2になったばかりだろ……? リア充の世界は俺にはわからんが、とにかく男の子の心理についても、友だちのいない俺よりずっと詳しいのかもしれない。
俺の心の言葉を代弁するかのように青柳が聞く。
「たかちゃんも、やっぱりそう? 自分を好きな人がいたら好きになる?」
「あ、ああ、そうかも。俺みたいにもてない三流の人間は、もし、女の子が好きって言ってくれたら、それも本気で(本物の俺を、と俺は内心でつけくわえた)好きになってくれたら、それだけで、好きになるかもしれない」
「美人でなくても美人に見える?」
「わからないけど、俺にとっては、女の子はみんな美人だから……」
「おにいちゃんみたいな三流は、分をわきまえた方がいいよ」
また静が口をはさむ。
「女の子は三流のボッチには眼もくれないの。イケメンが好きなんだから。だけど、もちろん、女の子全員がイケメンを射止めるわけにはいかないよね。だから妥協する。一流がだめなら二流ってわけね。一流を狙いつつ、まあ、そこそこかなと思う人が、好きと言ってくれたら、妥協して、とりあえず付き合ってみるかな、ってなる。問題は、おにいちゃんみたいな三流ぼっちは、その『そこそこ』にも入らないってこと。相手がよほど特別でない限り妥協さえしてもらえないんだから、どんなチャンスも逃しちゃだめ。嫌われないようにがんばるんだよ。強引なのは絶対にダメ。分をわきまえない三流は、一番、嫌われるんだよ」
もしかして、静は、友部のことを言っているのか? 友部にはその特別な事情があると思っているのか? 友部のように誰もが認める美少女が、俺なんかで妥協すると思うのは、やっぱり中学生だな。
「だから、俺はチャンスを逃すつもりはないよ。ただ、問題はチャンスがないだけだよ」
「静ちゃん」
と、青柳が口を出す。
「静ちゃんは昔のたかちゃんのイメージでいるかもしれないけど、今のたかちゃんは、大大地高では三流じゃないわよ。イケメン生徒会長として、女の子にもけっこう人気あるんだよ。ね、透子さん」
「うん、そう。1年生なんか、すれ違うだけで、きゃあきゃあ言ってる子もいるぐらい。私や那加がジラって呼んでいるのが伝わって、ジラというあだ名はすっかり定着していると思うよ。みなみんだって、ジラの大ファンだから立候補したんだよ」
「それって、ほんとなんですか? 利香って言うか、大宮さんが、そう言っていて、私、そんなはずないよ、って言ったんだけど。みなみん先輩のように素敵な人が、うちの三流兄貴のファンになるわけがないと思うんですけど……」
「いろいろと悩みの相談に乗ってあげたって聞いたよ……そうなんでしょ、ジラ」
「いや、そういうわけではなく、ソフトボール部のマネージャーを手伝っただけです。それ以来、ある程度は仲良くしてもらってますけど、彼女が俺のファンということはないと思います。もちろん、俺の方はみなみんの大ファンですけど……だって、みなみんは、俺みたいな三流にもさわやかに優しいので」
「大宮さんって……うちのクラスにいる妹の利香のほうの話ね……すっごくかわいい子で、頭もいいし、みんなのあこがれの的で、男の子はみんな恋人にしたいと狙っているんだけど、彼氏を作る気はまったくないんだよ。どうしてかっていうと、実のおにいちゃん、つまり、大大地高の大宮先輩が大好きで、同級生の男子はみな、くずに見えるって言うの。その大宮先輩ってそんなにかっこいいの?」
はあ、なるほど、いつか聞いた、典型的なブラコンというやつですね。まあ、大宮先輩なら、おれと違って、その資格はあるかもね。
「うん、かっこいいと思うよ。顔もいいけど、性格もね。というか、俺よりも、女子の意見のほうが確かだと思うけど、さーちゃん、知ってる?」
「ごめん、私、あまり知らない。アンテナ低いから」
「うわさは聞いてるよ」
友部がさめた紅茶を口にしながら言う。
「テニス部だよね。かっこいいらしいよ。気さくで、面倒見もいいらしいしね。テニス部の後輩たちにはファンが多いみたい。憧れていた女子も多かったみたいだけど、さっさと最高の彼女を見つけてしまったわよね。まあ、あのみなみんだから納得よね。しかも、相当にラブラブだよね。帰るのもいつも一緒で、今度のオーディションも全面的にバックアップしてるでしょう。確か、応援演説も大宮先輩がやるらしいよ。そうなんでしょう?」
そういえばそうだった。明日は、本人のアピール以外に、応援者が一人だけ、応援演説をすることになっている。
「ほんとに、そんなにラブラブなんですか? うちのクラスの妹の大宮さんは怒っていたけど」
「怒ってるって?」
「だって、みなみん先輩は、お兄ちゃんの恋人役に立候補してるんでしょ。大宮先輩の彼女なのに、劇とはいえ、主役の男、って、つまり、お兄ちゃんだけど……と抱き合ったり、キスシーンもあるかもしれない、そんなヒロイン役に、普通、応募する? って怒ってるの。大宮先輩のことが本当に大好きなら、そんなことできないはずだって」
「えーと、中学生だとそう思うかもしれないけど、大宮先輩は、もう少し大人なんだと思うよ。抱き合うったって、あくまでお芝居なんだから、演劇部だったら普通にやってることだよ。先輩は相思相愛だからこそ、みなみんの夢をかなえてあげようとしているんだよ。応募するときも一緒に来て、『みなみんが一番の美少女であることを証明する』って言っていたよ。そういう意味では大宮先輩が、いかにいい人で、酒出さんを大切にしているかっていう証だと思うよ。俺、立候補の受付の時に、二人で来たときに、ちょうど部屋にいたんだけど、すごく信頼し合っている感じで、幸せそうでいい感じだったよ」
「知ってるよ。『あいつの望みだから』って言ってるって。いい人みたいだよね。しかも、みなみんが大好きで……だから、お人よしすぎるって、利香は怒ってるの。『みなみん先輩は、絶対、鯨岡さんのお兄さんを狙っていて、キスしたり抱き合ったりしたいんだよ』って、そういう下心で、ヒロインの座を狙っているんだって言い張ってるの」
「まさか。おまえ、当然、そんなはずないって言ったんだろ」
と言いつつ、俺は、酒出がオーディションの申し込みに来た時の、帰り際の言葉をふと思い出していた。「夢の世界の出来事なんだから、許してください」と酒出が言い、「現実には、俺の恋人なんだから、それで十分』と大宮先輩が答えていた。あれはどういう意味だったのだろう?
「言ったよ。うちの兄貴がそんなにもてるはずないって。でも、なんだか、そう思い込んじゃって、意固地に言い張るの。『絶対違う』って、私、全力で否定したんだけど、そしたら、びっくりするような話、聞かされて……」
「え?」
「どんな?」
二人の美少女は身を乗り出した。
「それを、お兄様に言ったんだって、気をつけなくちゃだめだよ、って。そしたら、なんと、『そうかもね』って言うんだって……『どういうこと? それがわかっていて、それを彼女に許すどころか、応援するなんて信じられない』、って私、両腕を捕まれて怒られたよ」
「みなみんには私が立候補してって、お願いしたんだよ」と友部。「ジラのファンだっていうこと知っていたし、立候補がいないと盛り上がらないと思って……まあ、ジラも、たぶん、私より、みなみんの方がうれしいだろうし……」
「大宮さんは『そんなことしてたら、彼女をとられちゃうよ』ってお兄様に言ったんだって。そしたらなんて答えたと思う? って聞かれた」
「なんて答えたの?」
二人の美少女はさらに身を乗り出す。




