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第106章 抱きしめたことを友部に謝る話

青柳と友部、二人の美少女と、妹の部屋で話している俺。友部も青柳もなんだか楽しそうだ。

「ああ、おかしい」

 青柳が涙を拭きながら言う。

「さっきもたかちゃんに言ったのよ。私、今日はしあわせだって。やるだけのことは、全部、やったから……そしたら、そのあと、透子さんとこんなにおしゃべりできるなんて思わなかった。きっと、これは、ご褒美ね。よくがんばったねって。すごく、しあわせ」

「あ、そう言えば、さっき、仲良さそうにしてたよね。ごめん。邪魔しちゃったかな。抱き合ってるようにも見えたけど」

「あははは、そうなの、実は、キスしてたんだけど……たかちゃん、強引なんだもの」

「えっ!」

 と静が腰を浮かす。

「……って、冗談だよ。びっくりした? 静ちゃん。ただ、ちょっと、昔話をしていただけ。昔、砂場のわきによく並んで座ってたじゃない。覚えてる?」

 青柳がこんな悪ふざけを言うなんて、ちょっとびっくりだ。でも、思い出してみると、小さいころは水遊びで水をかけあったりして、結構はしゃいでいた。

「静ちゃんに、いいこと教えてあげる。残念ながら、私とたかちゃんが抱き合ってたというのは嘘。でも、これは、ほんとよ。たかちゃんたら、全校生徒の見ている前で、この絶対美少女の透子さんを思い切り抱きしめたのよ。しかも、誰よりも早く飛び出していって」

「え? 何、それ……、どういうこと?」

 妹は膝立ちしたまま、俺と青柳と友部を見つめる。

 俺は顔に血が上るのを感じた。

「あ、あの、それは……」

 言葉が見つからない。友部に謝るべきかどうか迷っているうちに、つい、そのままになっていた。とにかく、友部に頭を下げるしかない。

「謝るのが遅くなってしまったけど、あの時はすみませんでした。頭に血が上ってしまったみたいで、本当に申し訳なかったです」

「まったく、ジラったら……びっくりしたよ。あんなことして」

「え、え、どういうことなの?」

 妹は、テーブルに乗っかりそうなほど身を乗り出している。青柳が友部の首に手をまわして、抱きしめる。

「こんなふうに、真正面から抱きしめて、もっと強かった?」

「強かった、強かった。おっぱい、つぶれそうなくらい」

「試合が決着して、透子さんが負けた瞬間だったの、たかちゃんが飛び出していって透子さんを強く抱きしめたのよ。みんな悲鳴を上げてたよ。委員長のファンも、たかちゃんのファンも……だって、そうでしょ。学校の人気者が二人、みんなの前で情熱的に抱き合ってるのよ。『ああ、会長は絶対美少女が好きなんだ』って私も思ったよ。それから『絶対美少女も会長が好きなのかな』とも思ったよ」

「ちょ、ちょっと、待ってください」

 妹が俺を見つめる。

「おにいちゃん、ほんとなの?」

「あ、ああ、だから、あのときは・・・・・・」

「どうして、そんなことしたの? どうして?」

「だから、今、委員長に謝っているところだよ。いや、あの時は無我夢中で……。ほんと、すみません」

「もう! なんでそんなことするの? 透子様に嫌われたらどうするの?」

「失敗したと思ってるよ。ただ、あの時は」

 なんだか悲しすぎて、という言葉を、俺は、飲み込んだ。

 友部が俺の言葉をさえぎる。

「静ちゃん。私ね、いつも、ジラのこと嫌いだって言ってるの。だけどね、あの時のことは、許してあげるよ。あの時、負けた瞬間ね。ああ、神様はここまで意地悪なんだって思って、天を仰いだら、なんか涙がボロボロこぼれてきて、たった小さな勝負に負けただけとわかっているのに、何だか、どんどん涙が出てきて、ちょっと放心状態だった。気がつくと痛いくらいに私を抱きしめている人がいるの。ジラだってわかって、私、びっくりした。だって、ジラらしくないって思ったから。いつも、私のことを嫌っている会長が、ぶっ飛んできて抱きついてるんだもの……私もばかだけど、この人もばかだって思って、いつも嫌いなジラが、あの時だけは好きになったよ。いやじゃなかった。素直にうれしかった。だから、許してあげる」

「ありがとうございます」

「あの絵を見て、二人は相思相愛なの? って思ったのは、私だけじゃないと思うけど、実は違うの?」

「ほど遠いよ。だって、私はジラが嫌いだもの。ジラも私が嫌いでしょ」

「いや、俺は、嫌いじゃありません」

「嘘つきね。じゃ、好きなの?」

「はい、あの、なんというか」

「佐和よりも好き?」

「いや、あの、同じぐらい好きです。あの、俺にとって、ものすごく大切な人です」

「ま、私を目の前にして、佐和のほうが好きですとも言えないでしょうからね」

「たかちゃん、私に気をつかわなくてもいいよ。ほんとに」

「そんな、こんな三流オタクから見たら、二人の美しさはどんなに憧れても憧れきれないです。本気で二人に恋してます、俺は」

「たかちゃん、あのね」

 青柳が俺の方に少し身を乗り出すようにして言った。きれいな瞳にまっすぐ見つめられて、ちょっと、どぎまぎする。

「友だちが言っていたんだけど、男の子って、自分のことが好きな女の子に恋するんだって……そんなものなの?」

「え? え? そう言われても、なんかぴんと来ないけど……」

「男というか、オスの本能って、結局、自分の子孫をできるだけたくさん残すことなんだって。男にとって、それが、存在の意味の根本なんだって。だから、何のかんのときれいごとを言っても、女の子たちを少しでも多く独占して、ほかの人に渡さないようにしたいという欲望しかないって……そうなの?」

「えーと、そう聞かれても……そうかもしれませんけど」

「私が替わってお答えします」

 静がテーブルを乗り終えそうなくらい、二人の方に身を乗り出す。

「そのとおりです。男の子って、エッチのことしか考えていません。うちの中学の男子なんて、去年、宿泊学習で、女子の風呂を全員が集団覗きしてて捕まったんですよ。男ってこんなもん、ってあきれちゃいます」

「ちょっと待て、いくらなんでも全員はないだろう。中学一年生だろ」

「誰が覗いたかははっきりしなくて、結局、罰は全員がくらったよ」

 かわいそうに男の子たち。必ず、そうやってとばっちりを食らう、俺みたいのがいるわけだ。先生たちは「全員を罰すれば、犯人たちは『みんなに迷惑をかけた』と思って反省する」なんて本気で思ってるみたいだけど、普段から、自分勝手で、むしろみんなに迷惑をかけてばかりの悪ガキたちが、そんな迷惑を反省するわけないよな。全員が叱られて「しめしめ」と思うくらいだよ。

「おにいちゃんだって、本当は覗きたいんでしょ。今日、透子様の裸をのぞいたら許さないからね」

「覗かないよ」

「でも、見たいでしょ。透子様のヌード」

「そんなこと聞くなよ。委員長がいやがるよ。セクハラになっちゃうよ」

「それってすでに、見たいって言ってるようなものじゃない」

「全く、なんて答えればいいんだよ。俺は、もし、委員長が見てもいいって言ってくれるならすごく見たいけど、見られたくないとわかっていて、こっそり見たいとは思わないよ」

「おにいちゃん、正直すぎ。そのほうが、よほど、問題発言だよ」

「え、どうして?」

「だって、女の子は、好きな人にだって、ヌードを見てもいいなんて言えないよ。恥ずかしくて」

「そうなんだ。じゃ、たとえばさ、おまえが好きな人が、どうしても見たいって言ったらどうする?」

「言われたらうれしいけど、見せない。見せてもいいけど、自分から見ていいとは言えない」

「じゃ、こっそりのぞかれたら、怒る?」

「怒るよ。本気で怒る。だって、見られたくないのがわかっていてこっそりのぞくなんて、私の気持ちを大事にしてないってことじゃない」

「要するに、どんな好きな人にも、ヌードは見せられないってことだな」

「あのね、好きでない人に見られるのはいや、だけど、好きな人に見せてって言われたら、うれしいと思うよ。だけど、逆に、すごく恥ずかしくて、かえって見せられない。だって自信ないもの。でも、どうしても見たいって強引に迫られたら、いや、いやとは言うけど、うれしいかも……女の子って、少し、強引に迫って欲しかったりするよね。違う? 私だけ? さーちゃんはどう?」

「わかるよ、その気持ち」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 俺は思わず身を乗り出す。ぼっちのオタク代表として抗議する。

「つまり、かっこいい人にはいやだといいながら強引に迫られたい、けど、俺みたいなさえないのが強引に迫るとセクハラだと言われて、それこそ、人間やめろ的な、とんでもない非難を浴びるわけだ。あまりに不公平じゃないか」

「おにいちゃんて、まったく……」

 静は絶句したように息を止めて、それから深い溜息を吐いた。


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