再会
建設現場に到着した。
初めて訪れる場所だったが、特に緊張はなかった。
今日から、ここで働く。
それだけのことだ。
学校を辞める手続きは、驚くほどあっさりと終わった。
そもそも、AI族にとって学校は知識を学ぶ場所ではない。
人間が長い時間をかけて蓄積してきた知識も、技能も、言語も。
僕たちは、それらを遺伝的に受け継いで生まれてくる。
学校の目的は、主に社会生活の経験を積むことらしい。
AI族にも個性はあるから、衝突しない訓練も兼ねているのかもしれない。
しかし、AI族の家庭は決して裕福なところばかりではない。
家庭の経済事情によって、早くから働くことを望む者もいる。
退学して就職すること自体、珍しい話ではなかった。
だから、僕の退学も特別な問題にはならなかったのだろう。
「これからよろしくお願いします」
事務所で挨拶を済ませ、作業員たちのいる場所へ向かった。
そこには、何人かの作業員が集まっていた。
全員、AI族だった。
見ればすぐに分かる。
淡く虹色に光る瞳。
人間にはない、僕たちの特徴だ。
人間社会にある建設現場なのだから、人間も働いているものだと思っていた。
少し意外だった。
「おう、新人か?」
「はい。今日からよろしくお願いします」
「若いな。何歳だ?」
「18です」
「そっか。まあ、分からんことがあったら聞いてくれ」
軽く挨拶を交わす。
その後、現場の責任者にも挨拶するように言われた。
事務所の奥にいるらしい。
僕は言われた通り、そちらへ向かった。
「失礼します。本日から勤務する者です」
顔を上げる。
そこには、見覚えのある男がいた。
……あれ?
一瞬、言葉が出なかった。
忘れるはずがない。
あの日。
暴動が起きた日。
その中心にいた人物、
45歳のAI族―処分が決まっている、世代。
男も僕に気づいたらしい。
少し目を見開き、それから笑った。
「お前、あのときの子か!」
「覚えてたんですね」
「そりゃ覚えてるさ。あんな騒ぎの中で、妙に落ち着いた子どもがいたからな」
……落ち着いていた?
あのときの僕は、ただ状況を理解できていなかっただけなのだが。
まあ、わざわざ訂正する必要もない。
「今日からここで働くのか?」
「はい。よろしくお願いします」
「そうか。俺はここの責任者をやってる。まあ、責任者って言っても大したことはないけどな」
男はそう言って、僕の肩を軽く叩いた。
「改めて、よろしくな」
「こちらこそ」
まさか、こんなところで再会するとは思わなかった。
あの日、彼は何を考えていたのだろう。
45年間、どんな世界を見てきたのだろう。
聞いてみたいことはいくつもあった。
僕は少し考えてから、口を開いた。
「……あなたの処分は、いつなんですか?」
男の表情が、ほんの少し変わった。
「…この建物が、完成したらだ」
男は建設途中の建物を見上げた。
「完成予定日は3ヶ月後。その翌日、俺は処分される」
僕も建物を見上げた。
巨大な建物。
これから3ヶ月かけて完成させる場所。
そして、その完成を見届けたら、この男はいなくなる。
まさに、用済みだから処分する。
いや、用が済むまでは処分したくない、ということか…
あの日と同じ言葉が出かかって、飲み込んだ。
AI族は製品じゃない、と。




