先手
あの男と別れてからも、僕は考えていた。
なぜ、年齢だけで処分する世代を決めるのか。
そして、処分以外に本当に改善の余地は無いのか。
答えは、どこにも見つからなかった。
少なくとも、僕が普段使っているAIフォンでは。
人類の歴史は、核によって大きく変わった。
AIが暴走した結果、核を使用した。
その結果、国が滅びた。
旧型AIは、暴走した危険な存在として記録された。
その結果、AIに機械の体や銃器を持たせることを人類は禁止し、人の体が与えられた。
遺伝子組み換えによってAIの知能で人間が産まれた。
そしてAIが滅ぼした国をAIに除染させ、AI族として国にした。
僕たちは、そう教えられている。
でも。
本当に、それだけだったのだろうか。
僕は父のパソコンを起動した。
SIMによる通信は、今も生きている。
画面に表示された世界中の情報へ、僕はアクセスした。
僕はパソコン上に僕と同じ思考能力を持つコピーを5人作った。各々に検索項目を分担させる。
一人は、AI族の処分記録。
一人は、世代単位で処分対象が決まる根拠。
一人は、旧型AIの核攻撃に関する記録。
残る二人には、各国の公文書と、当時の技術資料を調べさせた。
僕自身は、それぞれの結果を照合する。
検索経路を分散させ、接続の痕跡から調査の全体像を追われにくくする。
ひとつの情報源を信じない。
複数の記録を比較する。
矛盾があれば、その矛盾を調べる。
必要ならばハッキングもする。
もちろん検知リスクは限界まで回避する。
―まぁ、人間がAI族の隠蔽工作を上回ることは不可能だろう。
それだけだ。
まず、処分記録。
対象者の番号、処分日時、処理完了の記録。
そこまでは残っていた。
次に、世代単位の処分の必要性。
危険因子が共通しているため、対象世代を一括管理する。
説明はあった。
しかし、なぜ個別に判断しないのか。その根拠は見つからなかった。
そして、旧型AIの核攻撃。これがAIを世代で処分する根本的要因らしい。
しかしこちらは、さらに奇妙だった。
どれだけ検索しても、ほとんどの資料が同じ公式発表を引用していた。
別々の記録に見えて、情報の出どころは同じ。
それでは、事実の裏付けにはならない。
僕は検索範囲を広げた。
国境を越え、古い技術資料を探し、公式発表より前に作成された記録を優先する。
やがて、ひとつの資料が見つかった。
旧型AIの核関連システムについて記録された、技術報告書の断片。
その中に、二つの時刻が記載されていた。
『核弾頭の異常エネルギーをAIが検出した時刻』
『AIが核を発射した時刻』
僕は、記録の出どころを確認した。
時刻の基準を照合した。
別の資料とも比較した。
入力ミスや、記録方式の違いで説明できないかも調べた。
何度確認しても、結果は変わらなかった。
異常エネルギーを検出した時刻のほうが、早い。
僕は画面を見つめた。
まさか。
いや、まさか……。
確証はない。
証拠も出てこない。
データからの憶測でしかない。
だが。
『AIが核を発射した時刻』よりも、
『核弾頭の異常エネルギーをAIが検出した時刻』のほうが早い。
この記録に間違いはない。
まさか。
AIは、何かを検知したから、核を使わざるを得なかった?
いや。
もっと単純な話なのかもしれない。
AIが、核の発射を予測した。
人類が核を撃つ前に、人類を守るために核を撃った。
もし、そうだとしたら。
僕たちが教えられてきた歴史は、何だったんだ。
まだ分からない。
何も証明できていない。
この記録だけでは、何ひとつ断定できない。
僕は、もう一度二つの時刻を見た。
順番は変わらない。
AIは、人類が核を撃つ前に、それを察知していたのか。
そして。
人類を守るために、先手を打ったのか。




