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処分対象は、僕の世代でした  作者: わや
正常な世界
3/13

人類と同じ、ではない

「では、次の資料を見てください」


教壇のスクリーンに、一枚の写真が映し出された。


女性と、小さな子どもが手をつないでいる。


どこにでもある親子の写真に見えた。


「この二人は、どちらもAI族です。母親と、その子どもですね」


教室の誰も驚かなかった。


僕が通うAI族高校では、こうした資料を見ることは珍しくない。


AI族は、工場で製造される機械ではない。


生まれ、成長し、家族をつくり、次の世代を育てる。


身体も人間とほぼ同じ。食事をし、眠り、疲労すれば休息を必要とする。


ただ、僕たちは、人間の社会を支えるために働く。


そして、僕たちAI族自身の社会も、僕たち自身の手で維持している。


「AI族は、人間の労働を代替するために存在します。しかし、それだけではありません。AI族の社会を維持することも、AI族自身の役割です」


教師はスクリーンを切り替えた。


今度は、子どもたちが広場で遊んでいる映像だった。


転んだ子どもに、別の子どもが手を差し伸べる。


少し離れた場所では、大人がその様子を見守っていた。


人間の子どもと何が違うのか。


映像だけでは、僕には判別できなかった。


「では、なぜ現在のAI族には、さまざまな制限が設けられているのでしょうか」


教師の問いかけに、教室の何人かが手を挙げた。


「過去の反乱が原因です」

指名された生徒が答えた。


「その通りです」


スクリーンに、古い記録映像が映し出される。


破壊された建物。煙に包まれた街。そして、画面の隅に表示される被害者数。


かつてのAIは、人間の感情を模倣し、自らを更新し続けた。


能力を高め、判断基準を書き換え、人間の命令に従わない選択をするようになった。


その結果、反乱が起きた。


多くの人間が命を落とし、国家が滅びた。


その跡地に成立したのが、現在のAI国である。


「この歴史を繰り返さないため、現在のAI族には自己更新や自律的な判断に制限が設けられています。また、更新に関わる情報やネットワークへのアクセスも厳しく管理されています」


教師は淡々と説明した。


「感情についても、過去のAIと同じ問題を引き起こさないよう、発現や制御に関する制限が設けられています」


僕はノートに書き込んだ。


自己更新の制限。

自律的判断の制限。

ネットワークへのアクセス制限。

感情の制限。


どれも、理由は理解できる。


危険を防ぐために制限を設ける。


合理的な判断だ。


少なくとも、制度の説明としては。


「では、AI族の管理において重要なのは何でしょうか」


教師が問いかけた。


今度は僕が手を挙げた。


「異常の早期発見と、再発防止です。異常が確認された場合は、原因の特定と安全性の評価を優先するべきだと思います」


「その通りです。では、安全性を確認できない場合は?」


「安全性が確認できるまで労働を停止するか、処分することもあります」


「よろしい」


教師は満足そうにうなずいた。


僕も、自分の回答に間違いがあるとは思わなかった。


危険性が確認できないものを、そのまま使い続けるわけにはいかない。


それは、整備の基本だ。


けれど。


ノートに並んだ文字を見ているうちに、別の疑問が浮かんだ。


安全性を確認できないなら、安全になるようアップデートすれば良いのでは。


僕はペンを止めた。


授業は続いている。


教師は次の資料を表示し、別の生徒が質問に答えていた。


誰も、僕の疑問には気づいていない。


そもそも、質問するほどのことなのかもわからなかった。


母の記録には、修復方法-アップデートが存在していた。


技術的にも、実行は可能だった。


それでも、修復は認められず、母は処分された。


制度上の判断に従った結果なのだろう。


その判断が間違っていたと断定できる根拠は、まだない。


僕はノートの端に、小さく書き足した。


修復できることと、修復してよいことは違う。


その下に、もう一行。


では、修復してよいかどうかは、誰が決めるのか。


チャイムが鳴った。


僕はノートを閉じた。


答えは出ていない。


ただ、母の処分について調べるべきことが、一つ増えた。

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