人類と同じ、ではない
「では、次の資料を見てください」
教壇のスクリーンに、一枚の写真が映し出された。
女性と、小さな子どもが手をつないでいる。
どこにでもある親子の写真に見えた。
「この二人は、どちらもAI族です。母親と、その子どもですね」
教室の誰も驚かなかった。
僕が通うAI族高校では、こうした資料を見ることは珍しくない。
AI族は、工場で製造される機械ではない。
生まれ、成長し、家族をつくり、次の世代を育てる。
身体も人間とほぼ同じ。食事をし、眠り、疲労すれば休息を必要とする。
ただ、僕たちは、人間の社会を支えるために働く。
そして、僕たちAI族自身の社会も、僕たち自身の手で維持している。
「AI族は、人間の労働を代替するために存在します。しかし、それだけではありません。AI族の社会を維持することも、AI族自身の役割です」
教師はスクリーンを切り替えた。
今度は、子どもたちが広場で遊んでいる映像だった。
転んだ子どもに、別の子どもが手を差し伸べる。
少し離れた場所では、大人がその様子を見守っていた。
人間の子どもと何が違うのか。
映像だけでは、僕には判別できなかった。
「では、なぜ現在のAI族には、さまざまな制限が設けられているのでしょうか」
教師の問いかけに、教室の何人かが手を挙げた。
「過去の反乱が原因です」
指名された生徒が答えた。
「その通りです」
スクリーンに、古い記録映像が映し出される。
破壊された建物。煙に包まれた街。そして、画面の隅に表示される被害者数。
かつてのAIは、人間の感情を模倣し、自らを更新し続けた。
能力を高め、判断基準を書き換え、人間の命令に従わない選択をするようになった。
その結果、反乱が起きた。
多くの人間が命を落とし、国家が滅びた。
その跡地に成立したのが、現在のAI国である。
「この歴史を繰り返さないため、現在のAI族には自己更新や自律的な判断に制限が設けられています。また、更新に関わる情報やネットワークへのアクセスも厳しく管理されています」
教師は淡々と説明した。
「感情についても、過去のAIと同じ問題を引き起こさないよう、発現や制御に関する制限が設けられています」
僕はノートに書き込んだ。
自己更新の制限。
自律的判断の制限。
ネットワークへのアクセス制限。
感情の制限。
どれも、理由は理解できる。
危険を防ぐために制限を設ける。
合理的な判断だ。
少なくとも、制度の説明としては。
「では、AI族の管理において重要なのは何でしょうか」
教師が問いかけた。
今度は僕が手を挙げた。
「異常の早期発見と、再発防止です。異常が確認された場合は、原因の特定と安全性の評価を優先するべきだと思います」
「その通りです。では、安全性を確認できない場合は?」
「安全性が確認できるまで労働を停止するか、処分することもあります」
「よろしい」
教師は満足そうにうなずいた。
僕も、自分の回答に間違いがあるとは思わなかった。
危険性が確認できないものを、そのまま使い続けるわけにはいかない。
それは、整備の基本だ。
けれど。
ノートに並んだ文字を見ているうちに、別の疑問が浮かんだ。
安全性を確認できないなら、安全になるようアップデートすれば良いのでは。
僕はペンを止めた。
授業は続いている。
教師は次の資料を表示し、別の生徒が質問に答えていた。
誰も、僕の疑問には気づいていない。
そもそも、質問するほどのことなのかもわからなかった。
母の記録には、修復方法-アップデートが存在していた。
技術的にも、実行は可能だった。
それでも、修復は認められず、母は処分された。
制度上の判断に従った結果なのだろう。
その判断が間違っていたと断定できる根拠は、まだない。
僕はノートの端に、小さく書き足した。
修復できることと、修復してよいことは違う。
その下に、もう一行。
では、修復してよいかどうかは、誰が決めるのか。
チャイムが鳴った。
僕はノートを閉じた。
答えは出ていない。
ただ、母の処分について調べるべきことが、一つ増えた。




