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処分対象は、僕の世代でした  作者: わや
正常な世界

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2/15

仕方の無いこと

「なあ。もし俺たちが処分対象になったら、どう思う?」


昼休み、僕はそう尋ねた。


向かいに座っていた友人は、箸を止めた。


「……何その質問」


「仮定の話だよ」


「仮定にしても物騒すぎるやろ」


友人は呆れたように笑い、弁当の卵焼きを口に運んだ。


僕たちの世代に、将来的な危険性があると判断されたとする。


修復できる可能性はある。しかし、その方法は正式には認められていない。


その場合、僕たちは処分される。


「どう思う?」


もう一度尋ねると、友人は少し考えた。


「仕方なくね?」


予想していた答えだった。


「どうして?」


「いや、危険なんやろ? ほんなら、何か起きる前に処分するしかないんちゃう?」


「修復できる可能性があっても?」


「可能性やん。絶対安全になるわけじゃないんやろ?」


「そうだね」


「やったら仕方ないやろ。何か起きてからじゃ遅いし」


友人は、それ以上話すつもりがないらしかった。


再び箸を動かし、冷めかけたご飯を口に運ぶ。


僕は彼の答えを否定できなかった。


危険性があるなら、排除する。


被害が発生する前に対処する。


限られた情報の中で、被害を最小限に抑える。


どれも合理的な判断だ。


では、何が問題なのだろう。


「もし、修復できる方法があるって分かってたら?」


「それが確実なら、修復したらええんちゃう?」


「確実じゃなかったら?」


「そら、危険性と修復にかかるコスト次第やろ」


「コスト?」


「修復する金も時間も人手もいるやん。失敗したときの責任もあるし」


友人は当たり前のことを説明するように言った。


「全員を助けるのが一番ええのは分かるけど、現実には無理なこともあるやろ」


「……そうだね」


僕は頷いた。


彼の言うことには、矛盾がなかった。


少なくとも、僕が指摘できる範囲では。


「ていうかさ」


友人が僕の顔を覗き込んだ。


「なんで急にそんな話するん?」


「別に。少し気になっただけ」


「ほんまか?」


「うん」


嘘ではない。


ただ、説明していないことがあるだけだ。


母が処分された。


その事実を、僕はまだ誰にも話していなかった。


話したところで、何かが変わるとも思えなかった。


母が処分されたことは、記録上、正規の手続きによるものだった。


違法性は確認されていない。


危険性の評価にも、規定上の問題はない。


少なくとも、公開されている情報からはそう判断できる。


それでも僕は、あの記録を閉じることができなかった。


修復できる可能性があった。


なのに、処分された。


その二つの事実が、僕の中でうまく繋がらない。


「まあ、お前らしいわ」


友人は笑った。


「考えすぎやって。そんなこと気にしてても、昼飯まずくなるだけやで」


そう言って、彼は最後の唐揚げを口に放り込んだ。


僕は自分の弁当を見下ろした。


確かに、食事の味は変わっていなかった。


母がいなくなってからも、食事はできる。


睡眠も取れる。


学校にも通える。


日常生活に支障はない。


だから、問題はない。


そう判断することもできる。


けれど。


「なあ」


「今度は何やねん」


「処分することが合理的なのと、処分するしかなかったことって、同じだと思う?」


友人は今度こそ、箸を止めた。


「……何が違うん?」


その質問に、僕はすぐには答えられなかった。


違いを説明するための情報が足りない。


そもそも、本当に違うのかどうかも分からない。


「分からない」


正直に答えると、友人はますます不思議そうな顔をした。


「なんやそれ」


「だから、考えてるんだよ」


「難儀な性格やなあ」


友人は笑い、食べ終えた弁当箱を片付け始めた。


その表情に悪意はなかった。


彼は僕を馬鹿にしているわけでも、母を処分した制度を擁護したいわけでもない。


ただ、自分が知っている範囲で、妥当だと思う答えを出しただけだ。


それは、正しいことなのかもしれない。


僕は空になった弁当箱を見つめた。


母が最後に言った言葉を思い出す。


――ご飯、ちゃんと食べるのよ。


言われたとおり、僕は毎日ご飯を食べている。


約束を守ることに、特別な努力は必要なかった。


それでも、母がいなくなった世界は、以前と同じではなかった。


何が変わったのか。


僕には、まだ説明できない。


「次、移動教室やで」


友人に促され、僕は席を立った。


窓の外では、校庭を走る生徒たちの姿が見えた。


笑い声が聞こえる。


誰かが転び、誰かが助け起こしている。


その光景に、特別な意味はない。


ただ、いつもどおりの学校の昼休みだった。


僕は教室を出る前に、一度だけ振り返った。


もし、あの中の誰かが危険だと判断されたら。


もし、修復できる可能性があっても、認められなかったら。


もし、その対象が僕だったら。


彼らは、何と言うだろう。


仕方ない。


そう言うのだろうか。


そして僕自身も、同じ立場になれば、そう判断するのだろうか。


答えは出なかった。


ただ、一つだけ確かなことがあった。


僕はまだ、自分が納得できる理由を見つけていなかった。

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