第83話 残された帝国 ~side Empire~
静かだった。
かつて《グラン・ネメシス》が存在していた宙域には、今や大量の残骸だけが漂っていた。
砕けた装甲。漂流する帝国艦。燃え尽きたGD。
帝国史上最大級の要塞だった巨大構造物は、宇宙へ無言で散らばっていた。
帝国辺境艦隊旗艦ヴェルゼイン。
臨時統合作戦区画。
空気は最悪だった。
怒号、責任追及、通信混線。
誰も状況を正確には把握できていない。
「グラン・ネメシス喪失だと!?」
「観測データは!?」
「ネメシス思想派は何をしていた!」
大型モニターには、崩壊した要塞映像が映り続けている。
その中心、レクイエム暴走記録。 帝国艦隊巻き込み。
GD制御崩壊、完全な惨事だった。
そして、誰もが理解していた。 もう隠し切れない。
帝国そのものが揺らいでいる。
その頃、旗艦深層区画。 薄暗い部屋。
その中央で、一人の男が静かに立っていた。
レグナート、生きていた。 黒い軍服は傷だらけ。
左腕には応急固定具。しかし、目だけは死んでいない。
彼は無言で戦況記録を見る、レクイエム。
暴走、ヴァイス。 そして、ユイ。
その時、部下が低く報告する。
「……ヴァイス・クロムウェルの所在、 未確認です」
レグナートの目が僅かに細くなる。
「死亡確認は」
「ありません」
沈黙、最悪だった。 ヴァイスが生きている。
それだけで、帝国内部はさらに壊れる。
その時、別モニターへ帝国中央通信が入る。
《ネメシス思想派統制委員会》。 しかし、
内容は酷かった。責任転嫁、思想派内部対立、粛清要求。
完全に混乱している。 ある者は、
「レクイエムは進化だった」
と言い、別の者は、
「思想派の暴走だ」
と叫ぶ、統制は既に崩れ始めていた。
レグナートは静かに端末を閉じる、そして小さく呟く。
「……愚かだ」
その声には疲労が滲んでいた。
その頃、帝国辺境補給艦。 医療区画。
アミィは一人で座っていた、静かな部屋。
外では負傷兵搬送が続いている。しかし、
アミィは何も見ていなかった、ただ。
ルクスで見た光景を思い出している。
ナユ、イリス。 レータ、笑っていた。
食事していた、普通に話していた。
兵器じゃなかった、アミィは小さく呟く。
「……おかしい」
PTは命令に従うもの、管理されるもの。
そう教えられてきた。しかし、 ユイ達は違った。
その時、廊下側から兵士の声が聞こえる。
「ネメシス思想派は終わりだ」
「いや、まだ残ってる」
「ヴァイスが生きてるって噂もある」
アミィの指先が僅かに動く、ヴァイス。
あの男を思い出す、怖かった。 あれはもう、
人間じゃない、その時。 アミィの端末へ極秘通信が届く。
送信元不明、一行だけ。 《回収対象確認》。
《PT-A01 生存》。 アミィの目が止まる。
ユイ、生きている。 その事実に、
自分でも分からない感情が浮かぶ、安心。
迷い、そして。 羨ましさ、その時。
医療区画窓の外、壊れた帝国艦隊が見える。
帝国は終わっていない、まだ巨大だ。
まだ戦える。しかし、 確実に何かが壊れ始めていた。
ネメシス思想、グラン・ネメシス。
レクイエム、全部が帝国の中へ傷を残している。
そしてその傷は今、静かに広がり始めていた。




