第76話 再起動 ~side Yui~
静かな部屋だった。
《ルクス・ヴァルキュリア》中央医療区画。
白い天井、淡い照明。
微かな機械音。
そして、薬品と金属が混ざったような匂い。
ユイはゆっくり目を開けた。
視界がぼやけている。
身体は重い。だが、痛みは思ったより少なかった。
その時、隣から静かな声。
「……起きたか」
ユイの視線が動く、そこにいたのは、
白衣姿の男、アルベルト・ルーメンだった。
かつてPT研究に関わり、ユイ達を逃がそうとした研究者。
少し疲れた顔、しかし、昔と同じ穏やかな目。
ユイは数秒止まる、そして。
小さく呟いた。
「……生きてたんだ」
アルベルトは少し苦笑した。
「お互い様だ」
短い沈黙、ユイはゆっくり身体を起こそうとする。
しかし、身体へ淡い光のラインが走っていた。
神経接続治療、帝国医療術式。
生体再生フレーム。
ユイが眉をひそめる。
「……帝国式?」
アルベルトが頷く。
「PT用神経修復技術だ」
「レクイエム接続で神経負荷がかなり来ていた」
「普通なら数ヶ月寝たきりでもおかしくない」
ユイは静かに目を閉じる、レクイエム。
暴走、グラン・ネメシス、全部思い出す。
その時、部屋奥で端末を操作していた男が振り返った。
軍用コート、鋭い目。
レオニス・ハルト。
帝国技術局で艦艇、GD、特殊機関系統を扱っていた男だった。
ユイは少し驚く。
「……レオニス」
レオニスは小さく肩をすくめた。
「生き残った」
「不本意だがな」
いつもの口調だった。
それだけで、少しだけ安心する。
その時、医療端末へ淡い術式光が流れる。
帝国医療技術、魔術と科学が混ざったような治療システム。
地球側にはない技術だった。
神経ライン修復。
生体同期調整。
PT向け補助術式。
アルベルトが静かに説明する。
「本来これはPT量産用調整技術だ」
「だが神経接続負荷治療にも応用できる」
ユイは小さく笑う。
「嫌な応用ね」
アルベルトは否定できなかった。
短い沈黙が落ちる。
その後、ユイが小さく聞く。
「……何人助かったの」
レオニスが答える。
「予想より多い」
「ラスト・オーダーがかなり拾った」
「PTも」
ユイの肩から少し力が抜ける、その時。
アルベルトが静かに言った。
「君も無茶をした」
ユイは少し顔を逸らす。
「……誰のせいだと思ってるの」
部屋が少し静まる、アルベルトは答えない。
答えられない、その沈黙だけで、
色々伝わってしまう、ユイは小さく息を吐く。
怒っている、しかし、完全には嫌いになれない。
それが余計苦しかった、その時。
医療区画入口が開く。
カイトだった、包帯姿。
こちらもかなり傷だらけ。
入った瞬間、ユイと目が合う、数秒。
お互い言葉が出ない、最初に口を開いたのはカイトだった。
「……よかった」
本当に安心した顔だった、ユイは少しだけ困ったように笑う。
「死にかけたけどね」
「笑い事じゃない!」
思わず強く返す、その反応で逆に少し空気が緩む。
アルベルトが静かに立ち上がる。
「五分だけだ」
「まだ安静が必要だからな」
レオニスも端末を持って退出する、部屋に二人だけ残る。
静かだった、カイトはベッド横へ来る。
何か言おうとして、でも言葉がまとまらない。
ユイが先に言った。
「……ごめん」
カイトが顔を上げる。
「止めてもらった」
「ありがとう」
カイトはすぐ答えられない、あの時。
撃てと言われた、でも撃てなかった。
助けたかった、それだけだった。
やがて小さく言う。
「……生きててよかった」
ユイは少し黙る、その言葉が、今は妙に響いた。
その時、窓の向こう。
ルクス・ヴァルキュリア内部都市ブロックが見える。
難民達、修理班。
PT達、皆少しずつ動き始めていた。
崩壊した戦場の後、それでも、まだ終わっていない。
しかし、今だけは少しだけ、生き残った事を、
信じてもいい気がした。




