第75話 漂着者達 ~side Kaito~
ルクス・ヴァルキュリア工廠区画は巨大だった。
見上げても天井が遠い。超大型整備アーム、艦艇建造レール、無数の資材。
そこへ今、
アーク・ノア側整備班とラスト・オーダー側クルーが集まり始めていた。
しかし、空気は最悪だった。
「だからその配線は危険だと言っている!」
地球側整備主任が怒鳴る、対するグリッドは工具を肩に担いだまま吐き捨てた。
「危険じゃねぇ方法なんか今残ってねぇんだよ」
「推進炉死んでんだぞ!?」
「正規手順じゃ再起動まで半年だ!」
「半年で済む訳が――」
「だったら代案持ってこい軍人!」
周囲が一瞬静まる、地球側整備班が睨む。
ラスト・オーダー側も険悪、完全に文化が違った。
地球軍は、手順、規律、管理、安全性を重視する。
対してラスト・オーダーは、生き残ること、動かすこと、壊れる前提で現場判断することを重視してきた。
文化が違う。
グリッドがクロウヴェイルを指差した。
「俺達はこれで生き延びてきた」
「綺麗な整備記録なんか無ぇ」
「でも飛ぶ」
地球側整備主任も負けない。
「だから壊れるんだ!」
「軍艦は博打で動かす物じゃない!」
グリッドが笑った。
「戦場で生き残るのは、綺麗な艦じゃねぇよ」
空気が張り詰める、その時。
後ろから低い声。
「そこまでにしろ」
カイルだった、工廠内が少し静まる。
カイルは双方を見る。
「今は喧嘩してる場合じゃない」
地球側整備主任は舌打ちする、だが引いた。
グリッドも工具を肩へ戻す。
「……ちっ」
完全には納得していない、その頃。
カイトは少し離れた場所で、アーク・ノアを見上げていた。
傷だらけだった、艦首損傷。
外装破断。
推進器焼損、巨大戦艦なのに、今は静かに止まっている。
その隣にはクロウヴェイル、こちらもボロボロ。
まるで二隻とも、限界まで戦ってきたみたいだった。
その時、隣へカイルが来る。
数秒。
お互い無言、最初に口を開いたのはカイトだった。
「……助けてくれてありがとうございました」
カイルは少しだけ笑う。
「礼を言われる事じゃない」
「俺達は拾っただけだ」
カイトは少し困った顔をする。
「それ、普通はやらないと思います」
「だろうな」
即答だった、少しだけ空気が緩む。
カイトはクロウヴェイルを見る。
「ずっとこんな感じだったんですか?」
カイルも艦を見る。
「もっと酷かった」
「ブラック・ピットで拾った時は半分死んでた」
カイトが驚く。
「よく飛んでましたね……」
「飛ばした」
カイルの答えは簡単だった、しかし、
そこに積み重ねが見える、カイトは少し考えてから言う。
「軍とは違いますね」
カイルは否定しない。
「俺達は軍じゃない」
「逃げ遅れた奴を拾って、生き残ってきただけだ」
静かな声、しかし、そこに重みがある。
その時、工廠奥。
巨大ホログラムが展開される。
レオニス・ハルトだった、帝国技術者用端末。
そこへ映る、クロウヴェイル。
アーク・ノア。
そして、ルクス・ヴァルキュリア内部構造。
レオニスが静かに言った。
「結論から言う」
「両艦とも、単独完全修復は不可能だ」
工廠が静まる、地球側整備班も。
ラスト・オーダー側も。
全員分かっていた、しかし、改めて言われると重い。
レオニスは続ける。
「アーク・ノアは主骨格損傷」
「クロウヴェイルは推進系統崩壊」
「通常修理では戦線復帰不可」
グリッドが腕を組む。
「だが方法はある」
レオニスが頷く、ホログラムが変化する。
二隻の艦影、重なる。
接続される。
工廠空気が変わる、カイトが呟く。
「……繋げる?」
グリッドが笑った。
「全部使う」
「クロウヴェイルも」
「アーク・ノアも」
「ルクスの資材も」
その目が少し危険だった。
地球側整備主任が顔をしかめる。
「正気か?」
グリッドが即答する。
「戦争で正気なんかやってられるか」
その時、ルクス内部放送。
《居住区画開放》
《医療ブロック移送開始》
難民達が移動していく。
子供、負傷兵。
PT。
避難民。
全部が混ざっていた、カイトはその光景を見る。
軍も、ラスト・オーダーも、地球も。
帝国も、もう全部ぐちゃぐちゃだった。
だが、だからこそ、今ここに残っている者達だけで進むしかない。
その時。
カイルが静かに言った。
「お前はどうしたい」
カイトは少し驚く。
「え?」
「戦う理由だ」
短い言葉、カイトは少し黙る。
グラン・ネメシス。
ユイ、レクイエム。
地球、全部思い出す。
やがて小さく言った。
「……守りたいです」
「今ここにいる人達を」
カイルは少しだけ笑った。
「なら十分だ」
その瞬間、工廠区画奥で巨大整備アームが起動する。
轟音、火花。
建造レール始動。
《クロウヴェイル修復計画》
始動、いや。
それはもう、別の何かになろうとしていた。




