第72話 終焉 ~side Raven~
グラン・ネメシスが崩れていた。
巨大要塞内部では、警報、爆発、崩落が途切れない。
外周ブロックは次々と分離し、帝国艦隊も完全に混乱していた。
GD暴走。通信断。火災。
もはや誰も、戦争を制御できていない。
そしてその中心。
《ネメシス・レクイエム》
巨大な黒いドラゴンが、要塞中心部を破壊しながら暴れていた。
クロウヴェイル艦橋。
警報音が鳴り続ける。
クロエが叫ぶ。
「崩壊速度上昇!」
「このままじゃ要塞ごと吹き飛ぶ!」
リノヴァが歯噛みする。
「カイル達は!?」
『まだ内部!』
モニターには崩壊し始めた内部構造図。
赤く染まる区画。
封鎖される通路。
時間がない。
その頃。
要塞内部。
カイル達は崩壊する通路を走っていた。
後方で爆発。
隔壁崩壊。
リンが振り返りながら叫ぶ。
「急げ!」
レータがホログラムを展開する。
「第三搬送路消失!」
「次の崩落まで七十秒!」
グリッドが吐き捨てる。
「毎回ギリギリすぎんだろ!」
その時。
前方通路。
白い影。
イリスだった。
その後ろには数人のPT。
怯えている。
混乱している。
だがイリスだけは静かだった。
「……こちらです」
カイルが頷く。
「誘導頼む」
イリスは小さく頷いた。
以前の空っぽな声とは少し違う。
微かに、意思があった。
その頃。
レクイエム内部。
ユイは限界だった。
神経接続暴走。
NB共鳴。
視界が赤い。
それでも、まだ意識だけは消えていない。
その時。
衝撃。
アルタイルだった。
カイトが再び突撃してきた。
蒼い光がレクイエムを貫く。
外装破損。
重力制御乱れ。
ユイが叫ぶ。
「来ないで!」
しかし、カイトは止まらない。
『助ける!』
その声が届いた瞬間。
ユイの中で、
ほんの少しだけ暴走が止まる。
レクイエムの動きが鈍る。
その瞬間だった。
クロエの声が通信へ飛び込む。
『今!』
『止まってる!』
同時に、クロウヴェイル側が動いた。
ECM妨害を最大展開し、要塞内部制御網へ強制侵入する。
クロエが歯を食いしばる。
「制御奪う!」
「十秒しか持たない!」
レータが補助接続。
イリスも静かに目を閉じる。
観測能力接続。
三方向からレクイエム制御へ干渉。
その瞬間。
レクイエム内部へ大量ノイズが流れ込む。
《制御異常》
《同期率低下》
《外部干渉検知》
ユイが目を見開く。
止まる。
ほんの少しだけ。
その隙に。
アルタイルが接近。
巨大ブレード展開。
カイトが叫ぶ。
「終われぇぇぇっ!」
蒼い斬撃。
レクイエム胸部コアへ直撃。
赤い光が砕ける。
次の瞬間。
レクイエム全身へ亀裂が走った。
咆哮。
悲鳴みたいな音。
巨大黒翼崩壊。
ドラゴン形態が崩れていく。
そして。
静止。
戦場全体が止まった。
レクイエムが、初めて動きを止めた。
しかし、グラン・ネメシスはもう限界だった。
《深層炉暴走》
《構造維持不能》
《全区画退避――》
最後まで流れなかった。
巨大要塞中央部が爆発する。
崩壊開始。
超巨大構造体が内側から砕けていく。
帝国艦隊が逃げ始める。
地球艦隊も後退。
宇宙そのものが崩れていくみたいだった。
その時。
クロウヴェイルが突入する。
傷だらけの艦体。
限界推進。
それでも進む。
「カイル!」
リノヴァが叫ぶ。
格納庫開放。
回収ワイヤー射出。
カイル達がPTを連れて飛び込む。
ナユ。
リン。
レータ。
イリス。
そして、保護されたPT達。
最後。
崩壊するレクイエム残骸の中。
ユイが落下していく。
意識を失いながら。
その瞬間。
クロウヴェイル側回収アームが伸びた。
ギリギリで掴む。
艦橋で全員が息を呑む。
グリッドが叫ぶ。
「引き上げろ!」
ワイヤー巻き上げ。
直後。
背後でグラン・ネメシス外周が崩壊した。
巨大爆発。
光。
衝撃波。
クロウヴェイルが激しく揺れる。
警報。
外装損傷。
推進器異常。
それでも、
進む。
逃げる。
生き残るために。
格納庫。
ユイが運び込まれる。
重傷。
神経損傷。
意識なし。
しかし、生きていた。
カイトも傷だらけで降り立つ。
数秒。
誰も喋らなかった。
その時。
医療区画側の通信端末から、アイナの小さな声が届く。
「……助かったの?」
静かな空気。
カイルがゆっくり頷く。
「助けた」
その言葉で、ようやく少しだけ空気が戻る。
クロウヴェイルは進む。
崩壊する巨大要塞から離脱しながら。
傷だらけの船。寄せ集めの人間達。PT。難民。
全部を乗せたまま、それでも進む。
それでよかった。
ラスト・オーダーは、
最初からそのための船だったのだから。




