第71話 アルタイル ~side Kaito~
宇宙が燃えていた。
グラン・ネメシス周辺宙域。
崩壊する要塞。
暴走GD群。
爆発する帝国艦。
地球艦隊も既に戦線維持限界。
戦場は完全に崩れていた。
その中心。
《ネメシス・レクイエム》
巨大な黒いドラゴン。
赤い光を撒き散らしながら、
宇宙空間を暴れ回っている。
帝国艦を噛み砕き。
GDを引き裂き。
要塞外壁を破壊し。
まるで世界そのものを壊そうとしているみたいだった。
アーク・ノア艦橋。
警報が鳴り続けている。
「レクイエム接近!」
「迎撃隊壊滅!」
「このままじゃ要塞ごと地球圏へ――!」
その時、格納庫側から通信が入った。
《LF-X04 アルタイル・カスタム 発進準備完了》
カイトは静かにヘルメットを持ち上げた。
周囲が何か言っている。止める声。危険だという声。
けれど、もう耳には入っていなかった。
モニターに映るのは、レクイエム。
そして、その内部にいるはずのユイ。
カイトは静かに言った。
「……行きます」
アーク・ノア外部カタパルト。
アルタイル・カスタムが静かに立つ。
白と青を基調とした機体。
追加推進器展開。
各部リミッター解除。
そして。
コックピット内。
カイトは前を見る。
怖い。
正直、今までで一番怖かった。
それでも、行かなければならない。
通信が開く。
ミオの声だった。
『カイト』
『無茶するなとは言わない』
『でも帰ってきなさい』
短い沈黙。
カイトは小さく笑った。
「……努力します」
《発進シークエンス開始》
《アルタイル・カスタム、カタパルト接続》
外では、レクイエムが帝国艦を叩き潰していた。
巨大な黒い翼。
赤い目。
完全に怪物だった。
しかし、その中にユイがいる。
カイトは操縦桿を握る。
《発進》
次の瞬間。
アルタイルが宇宙へ飛び出した。
蒼い光。
高速加速。
崩壊する戦場を一直線に突き抜ける。
帝国艦隊残骸。
爆発。
GD暴走群。
全てを避けながら、真っ直ぐにレクイエムへ向かう。
レクイエム内部。
ユイは必死に制御を抑えていた。
だが止まらない。
NB共鳴。
暴走コード。
神経逆流。
意識が削れていく。
その時。
レーダー反応。
高速接近。
ユイの目が僅かに開く。
「……カイト」
次の瞬間。
アルタイルがレクイエムへ突撃した。
蒼い斬撃。
レクイエム外装へ直撃。
火花。
衝撃。
レクイエムが初めて止まる。
戦場全体がその光景を見る。
巨大怪物。
そして。
それへ立ち向かう一機のLF。
レクイエムが咆哮する。
重力波。
衝撃。
アルタイルが吹き飛ばされる。
だがカイトは立て直す。
通信回線を強引に接続。
ノイズ。
警報。
そして。
微かな声。
『……カイト』
繋がった。
カイトが叫ぶ。
「ユイ!」
ノイズ混じり。
途切れ途切れ。
それでもユイの声だった。
『来ちゃ……だめ……』
「止める!」
『無理……!』
レクイエムが再び暴れる。
巨大爪。
アルタイル回避。
推進器全開。
カイトは必死に食らいつく。
その時。
ユイの悲鳴が響く。
『もう……抑えられない……!』
次の瞬間。
レクイエム胸部が赤く発光する。
超高出力反応。
クロエの叫びが通信へ飛ぶ。
『カイト避けろ!』
砲撃。
赤黒い奔流が宇宙を貫く。
アーク・ノア側艦隊が吹き飛ぶ。
要塞外壁が蒸発する。
空間そのものが裂けたみたいだった。
アルタイルも衝撃で弾かれる。
警報。
機体損傷。
だがカイトはレクイエムを見る。
その奥。
ユイがいる。
苦しんでいる。
その時。
通信越しに。
本当に小さな声。
『……撃って』
カイトが止まる。
『お願い……』
『もう……止めて……』
ユイは泣いていた。
神経接続空間。
暴走するレクイエム。
その中心で。
壊れながら。
それでも正気を保っていた。
カイトは歯を食いしばる。
撃てる訳がない。
それでも、このままならもっと被害が出る。
帝国も。
地球も。
全部壊れる。
その時。
レクイエムが再び暴走加速する。
グラン・ネメシス中心部へ向かう。
もし深層炉へ到達すれば。
全部終わる。
カイトは震える手で操縦桿を握る。
涙が浮かぶ。
しかし、目は逸らさなかった。
「……絶対」
小さな声。
「絶対、助けるから」
次の瞬間。
アルタイル・カスタムが、
限界加速でレクイエムへ突撃した。




