第70話 暴走 ~side All~
最初に壊れたのは、帝国艦だった。
グラン・ネメシス前方宙域。 レクイエム周囲へ展開していた帝国護衛艦隊。
その一隻が突然爆発した。 誰も攻撃していない。
内部からだった。 次の瞬間。 別の艦。
さらに別の艦。 爆発。 炎。 破断。
通信混線。 帝国艦隊側が一気に混乱する。
《制御不能!》。 《GDが命令を受け付けません!》。
《NB反応暴走!》。 戦場全体が揺れ始めていた。
ネメシス・レクイエム。 その巨体が、
宇宙空間で脈動している。 赤い発光。
異常重力波。 背部から展開された黒い巨大翼。
そして。 機体そのものが変形を始めていた。
装甲展開。 骨格変異。 巨大尾部形成。
頭部延長。 まるで生物みたいに。 いや。
怪物そのものだった。 ドラゴン形態。
誰も言葉を失う。 地球艦隊。 帝国艦隊。
両方が止まる。 その瞬間。 レクイエムが咆哮した。
音のない宇宙。 なのに。 全員が聞いた。
脳へ直接響くみたいな、異常な咆哮。
次の瞬間。 周囲のGD部隊が一斉に暴走した。
帝国側GD。 目が赤く点灯。 識別喪失。
味方識別消滅。 そして。 帝国艦隊へ攻撃開始。
「なっ――!?」
「止めろ!」
「制御が――」
遅い。 GD群が帝国艦へ突撃する。
爆発。 艦橋崩壊。 砲塔破壊。 戦場が地獄へ変わっていく。
アーク・ノア艦橋。 警報が鳴り響いていた。
「全GD反応異常!」
「帝国側識別崩壊!」
「何が起きてるんだ!?」
カイトはモニターを見る。 レクイエム。
異常だった。 もう兵器じゃない。 怪物だった。
その時。 通信ノイズ。 ユイの声が微かに混じる。
『……逃げ……て……』
途切れる。 直後。 レクイエムが加速した。
速すぎる。 巨大艦隊を一瞬で突破。
そのまま帝国母艦へ突撃。 巨大爪が艦体を引き裂く。
爆発。 さらに。 レクイエム周囲空間が歪む。
NB由来エネルギー暴走。 重力異常。
艦隊陣形そのものが崩壊していく。 帝国艦隊側が完全に混乱する。
ヴァイス・クロムウェルだけが笑っていた。
第零観測区画。 彼は狂気みたいな目で戦場を見ている。
「素晴らしい……!」
「進化だ!」
「これがネメシスだ!」
レグナートが睨む。
「貴様……」
ヴァイスは止まらない。
「制御など旧時代だ」
「暴走こそ進化!」
その瞬間。 グラン・ネメシス全体が激しく震えた。
警報。 《深層エネルギー異常》。 《構造負荷限界突破》。
《外周ブロック崩落開始》。 研究員達が青ざめる。
「要塞が持ちません!」
「エネルギー逆流!」
「第七ブロック崩壊!」
遅かった。 レクイエム暴走が、要塞そのものへ干渉し始めていた。
深層区画。 NBコア暴走。 神経同期逆流。
グラン・ネメシス内部各所で爆発が起きる。
搬送区画崩壊。 工廠火災。 GD格納庫暴走。
PT研究区画停電。 まるで巨大要塞そのものが、
中から壊れ始めていた。
クロウヴェイル側保護区画。 警報。 爆発。
医療区画の隔壁が震える。 通信端末の向こうで、アイナが小さく身を縮めた。
ナユは要塞内の潜伏区画から、その映像を一瞬だけ見る。
すぐ隣ではリンが低く吐き捨てる。
「最悪だな……!」
クロエが端末を見る。
「要塞全部死に始めてる!」
レータだけが青ざめていた。 その視線は、
レクイエム方向。
「……共鳴しています」
「NB反応が全部引っ張られてる」
イリスが小さく震える。
「……痛い」
「いっぱいいます」
「叫んでます」
その声が怖い。 まるで要塞全体から、
悲鳴が聞こえているみたいだった。
レクイエム内部。 ユイは必死に制御を抑えていた。
でも止まらない。 ヴァイスの暴走コード。
NB共鳴。 神経逆流。 機体そのものが暴れている。
《LIMITER RELEASE》。
《DRAGON PHASE COMPLETE》
レクイエムの目が完全に赤く染まる。
ユイが叫ぶ。
「やめろぉっ!」
その瞬間。 レクイエムがグラン・ネメシス外壁へ激突した。
超巨大装甲が砕ける。 要塞全体が揺れる。
外周ブロック崩壊。 帝国艦隊が巻き込まれる。
地球側も後退開始。 戦場は完全に地獄だった。
そして誰も理解していた。 もう。 帝国ですら、
この怪物を止められない。




