第61話 集結 ~side Kaito~
警報が鳴り続けていた。 地球統合軍・第一軌道基地。
巨大スクリーン。 戦術モニター。 艦隊識別光。
無数の通信。 司令部全体が慌ただしく動いている。
以前とは違う。 ベヒモス事件の時とも。
もう局地戦ではない。 戦争そのものが近付いていた。
中央モニターへ映し出されるのは、外縁宙域へ集結し始めた帝国艦隊だった。
戦艦。
輸送艦。 GD母艦。 そして。 未確認超大型反応。
司令官が低く呟く。
「……数が違う」
誰も反論しない。 オペレーターが次々報告を飛ばす。
「第七宙域防衛ライン後退!」
「外縁観測基地応答なし!」
「帝国艦隊、更に増加中!」
モニター上。 赤い識別光が地図を埋め始めていた。
ラスト・オーダー経由で共有された断片情報と、地球側観測網の反応が一致した。
それが、グラン・ネメシス接近の最初の確証になった。
まるで宇宙そのものが、赤い敵性反応に侵食されていくみたいだった。
――――――。
格納庫。 巨大整備アームがゆっくり動いている。
火花。 蒸気。 駆動音。 その中央に立つ機体。
LF-X04。《アルタイル・カスタム》。
白と青を基調とした機体。 だが以前とは少し違う。
各部装甲再構築。 推進器増設。 戦闘データ反映。
ベヒモス戦後、何度も改修を重ねられていた。
整備班が叫ぶ。
「右脚駆動チェック!」
「神経接続安定!」
「出力系統問題なし!」
その下。 カイトは静かに機体を見上げていた。
以前より少し痩せている。 目の下にも疲労がある。
だが視線だけは変わっていた。 逃げる目じゃない。
その時。 後ろから声。
「随分“戦う顔”になったじゃない」
ミオだった。 整備服姿。 端末片手。
以前より忙しそうだ。 カイトは苦笑する。
「そういう顔してる?」
「してる」
即答だった。 ミオはアルタイルを見る。
「調整はほぼ終わり」
「でもまだ完全じゃない」
「時間がないからね」
カイトもモニターを見る。 外宇宙。
増え続ける帝国艦隊。 嫌でも分かる。
来る。 今までとは違う何かが。 その時。
格納庫全体へ重低音が響いた。 カイトが振り返る。
巨大ハンガー隔壁が開いていく。 その向こう。
巨大艦。 《アーク・ノア》。 地球統合軍所属の大型戦闘艦。
全長約四百メートル。
ルクス・ヴァルキュリアやグラン・ネメシスに比べれば小さい。
だが、地球側の艦艇としては十分に大型で、重装甲と多数の砲塔を備えた主力艦だった。
その姿はまるで移動要塞だった。 しかし、
近くで見ると分かる。 外装修復跡。
損傷部位。 増設装甲。 こちらもまた、戦い続けてきた艦だった。 整備員達が慌ただしく動く。
艦載兵器搬入。 補給。 弾薬輸送。
まるで総力戦準備だった。 ミオが小さく呟く。
「……正直、限界ギリギリ」
「艦隊も、人も」
「でも止まれない」
カイトは黙ってアーク・ノアを見る。
巨大だった。 強そうだった。 しかし、
無敵には見えなかった。 むしろ。 壊れかけながら前へ進んでいるように見えた。
その時。 通信警報。 格納庫モニターが切り替わる。
《緊急戦術会議》。 《全パイロット招集》。
空気が変わる。 周囲の整備員達も静かになる。
ミオが端末を閉じた。
「……始まるね」
カイトは小さく頷く。 もう逃げられない。
ユイ。 帝国。 グラン・ネメシス。
全部繋がっている。 そして今。 宇宙全体が動き始めている。
――――――。
司令会議室。 巨大スクリーン。 そこへ映し出された瞬間、室内が静まり返った。 《グラン・ネメシス》。
超巨大要塞。 圧倒的な質量。 異常な規模。
誰かが小さく呟く。
「……何だ、これは」
説明を受けても、現実感がない。 司令官が低く言った。
「帝国は本気だ」
「恐らく、この要塞を中心に全面侵攻を開始する」
モニターが切り替わる。 帝国艦隊群。
数。 戦力。 補給ライン。 全部異常だった。
そして。 最後に映し出されたのは、黒い巨大反応。 識別不明。 だが異様な存在感だけがあった。
司令部がざわつく。
「未確認大型兵器……?」
「GD反応に近い?」
「違う……これは……」
カイトだけがその反応を見ていた。 嫌な感じがした。
説明できない。 しかし、 何故か分かる。
あれは危険だ。 その時。 司令官が静かに言う。
「……これより地球圏防衛体制を第三段階へ移行する」
「全戦力を集結」
「帝国との全面戦争に備える」
誰も喋らなかった。 もう分かっている。
これは防衛戦だ。 生き残るための。
カイトは静かに拳を握る。 怖くない訳じゃない。
しかし、 もう戦う理由は決まっていた。
宇宙のどこかで。 今もユイが戦っている。
なら。 自分も行かなければならない。
その頃。 遠い宇宙では、グラン・ネメシスが静かに進軍を始めていた。




