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第03話 初陣

空が燃えていた。大気圏上空から黒い影が降りてくる。

NB。ネメシス・ビースト。

巨大な異形。

まるで空から落ちてくる災害だった。

『各機発進!』

カタパルト起動。最初に飛び出したのは黒いLF。

LF-02 ガルム。ユイ機。

「先行します」

加速。一瞬で視界から消える。

「速っ……!?」

カイトが息を呑む。続いて白銀のLF。

LF-PT-M01 ルナ・スケイル。背部ユニット展開。

浮遊ビット起動。

『後方支援ライン接続』

『戦術リンク開始』

ミオの声は落ち着いていた。

「カイト、聞こえる?」

「お、おう!」

『今から戦術補助送る』

直後、カイトのモニターへ光のラインが走る。

敵位置、予測軌道、回避ルート。

「うわっ!?」

『それ追えば大丈夫』

「簡単に言うな!」

その時。

『バスティオン、出ろ!』

タツヤの怒鳴り声。

「うおおおおっ!?」

LF-T01 バスティオン。発進。

激しい振動。昨日よりずっと重い。

「これ本当に初心者向けか!?」

『初心者向けだ』

「嘘だろ!?」

空からNB群接近。小型種。飛行型。

数が多い。

「来る!」

その瞬間。ガルムが加速。黒い残像。

高周波ブレード展開。一瞬の斬撃。NBが両断される。


「……っ」

カイトが息を呑む。速い。昨日よりさらに。

まるで最初からそこにいたみたいに自然に敵を切り裂いていく。


『右三、接近』

ミオの声。同時にルナ・スケイルの浮遊ユニット展開。

正確に光線が飛行型NBを次々撃ち抜く。

「全部見えてんのかよ……」

『見えてる』

普通みたいに答えるミオ。その時警報が鳴る。


『大型反応接近』

空気が変わる。雲を突き破り巨大なNBが降下してくる。

四足型。重装甲。ビル級。

「でかっ……!」

地上では避難が続いていた。このまま落ちれば街へ直撃する。

『止める』

ユイの声。ガルムが加速する。真正面から突撃。

「待て!」

カイトが叫ぶ。だがユイは止まらない。

ブレードによる連撃。だが浅い。

「硬っ……!」

巨大な腕でNBが反撃してくる。ガルムが吹き飛ぶ。

『ユイ!』

ミオの声。だがユイはすぐ立て直す。

『問題ありません』

声は冷静だった。その時大型NBが方向を変える。

目標は市街地。

「まずい!」

カイトが前へ出る。

「バスティオン!」

加速。

「うおおおおっ!」

重い。遅い。でも逃がしたくなかった。

昨日みたいに誰かが死ぬのは嫌だった。

バスティオンがNBへ体当たりする。衝撃。

「がっ!?」

コックピットが揺れる。

だが止めた。巨大NBの進行が止まる。

『カイト!?』

ミオが驚く。

「止まれぇぇぇぇ!」

必死だった。その瞬間、ユイの目が僅かに揺れる。

昨日と同じ無茶な戦い方。自分を顧みない動き。


「……っ」

ガルム再加速。

「ミオ」

『了解』

ルナ・スケイルの浮遊ユニットが展開。

大型NBの脚部へ集中射撃。一瞬動きが止まる。

その隙にユイが飛び込む。高周波ブレード最大出力。

「――そこ」

大型NBの首が切断され巨大な身体が崩れ落ちた。

静寂。そして。

『敵反応減少』

『周辺NB群後退開始』

オペレーター達が息を吐く。戦闘終了。

カイトは荒い呼吸を繰り返していた。

「はぁ……っ」

「はぁ……っ」

震える手。汗。 心臓が痛いほど鳴っていた。

その時、通信。

『……無茶しすぎ』

ユイの声だった。

「え?」

『次やったら死ぬ』

淡々とした声。でもどこか少しだけ怒っているようにも聞こえた。

カイトは苦笑する。

「そっちこそ」

「昨日から無茶しかしてないだろ」

一瞬、通信が静かになる。そして。

『……そうかも』

小さく、ユイが呟いた。


アーク・ノア格納庫。

「フレーム歪んでるな」

「関節部もやばい」

「よく壊れなかったなこれ」

整備班が騒がしい。LF-T01 バスティオン。

傷だらけだった。カイトは少し離れた場所から、それを見ていた。

「……」

実感がない。昨日まで普通の高校生だった。

それが今怪獣と戦っている。LFに乗って。

「おい新人」

タツヤが声をかける。

「へ?」

「座ってろ」

工具箱を投げられる。

「何で」

「邪魔だから」

「扱い雑だな!?」

コウタが笑う。

「もう半分整備班扱いっすよ」

「嫌なんだけど!?」

だがどこか少しだけ空気が軽かった。

昨日より確実に。その時ミオが格納庫へ入ってくる。

「お疲れ」

「……おう」

ミオはバスティオンを見る。

「かなり無茶したね」

「いや勝手にそうなったんだよ」

「普通あそこまで食い止められない」

「そうなのか?」

ミオは頷く。

「LF適性が高いんだと思う」

「適性?」

その時。後ろからユイが来る。

「ルミナス・フレームは誰でも動かせる兵器じゃない」

声は静かだった。カイトは振り向く。

ユイはガルムの整備状況を見ながら続けた。

「操縦適性、神経接続率、空間認識能力、全部必要」

「特にNB戦は反応速度が重要」

「遅れたら死ぬ」

さらっと怖いことを言う。

「……つまり?」

ミオが少し笑う。

「カイトは向いてるってこと」

「全然嬉しくないんだけど」

格納庫奥の白いシート。LF-X04 アルタイル。

カイトはそちらを見る。

「……あれも適性必要なのか?」

空気が少し変わる。タツヤが工具を止めた。

「必要どころじゃねぇ」

低い声。

「現行LFとは別物だ」

「別物?」

「出力が違う」

ユイが静かに言う。

「反応速度も、要求される神経負荷も」

「下手に乗れば脳が焼ける」

カイトの顔が引きつる。

「怖ぇよ」

「だから乗り手が決まらない」

ミオが言う。

「起動実験も途中で正式稼働できてない」

カイトはシート越しの機体を見る。静かだった。

それでも、なぜか目を離せなかった。


その時、艦内放送が聞こえてくる。

『全パイロット及び候補生はブリーフィングルームへ集合』

タツヤが嫌そうな顔をする。

「来たか」

「何が?」

「お前の処遇会議だ」

「嫌な予感しかしない」


ブリーフィングルーム。大型モニター。

地球各地の被害状況。NB出現ポイント。

そして。アーク・ノア艦長。厳つい顔の男が、カイトを見ていた。

「霧島カイト」

「はい」

「君の戦闘データを確認した」

モニターへ映像が流れる。昨日、そして今日の戦闘。

バスティオンの動き。

「素人とは思えん」

「いや本当に素人です」

「だから困っている」

即答だった。部屋に少し笑いが漏れる。

だが艦長の顔は真剣だった。

「現在、地球統合軍は慢性的なLFパイロット不足に陥っている」

「特にNB適性保持者は少ない」

カイトの顔が強張る。

「……」

「率直に言おう」

艦長が言う。

「君には、LFパイロット候補生になってもらいたい」

カイトが固まる。

「……は?」

「もちろん強制ではない」

「民間人だからな」

「だが」

モニターへ昨日の映像が映る。NB。

崩れる街。逃げ惑う人々。そして、戦う自分。

「君には力がある」

「それは事実だ」

重い空気。カイトは何も言えなかった。

ユイが静かに口を開く。

「断ってもいい」

全員がそちらを見る。

「戦う理由が無いなら」

「無理に乗る必要はない」

声は静かだった。

でも、どこか少しだけ優しかった。

カイトは俯く。戦う理由。そんなものは、昨日までは無かった。

でも今日、逃げる人達を見た。

泣いている子供を見た。

壊れる街を見た。

そして、戦うユイ達を見た。

「……」

カイトはゆっくり顔を上げる。その視線の先。

モニターではなく格納庫映像。

そこに映る白いシートに覆われた機体、アルタイル。

なぜかその機体が、自分を待っている気がした。


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