第46話 不在 ~side Kaito~
低い警告音が格納庫へ響く。
巨大カタパルト区画。《アーク・ノア》第三試験デッキ。
周囲では複数の整備班が慌ただしく動き回っていた。
霧島カイトはヘルメットを抱えたまま、発進デッキ中央へ立っている。
視線の先。 白と淡緑の装甲に、未塗装の追加装甲を重ねた機体が固定アームへ拘束されていた。
《レヴァン》。 ただし以前の姿とは違う。
右肩部には追加複合装甲。脚部推進器は高機動型へ換装。
背部には新設された補助武装ラック。 ベヒモス戦の損傷修復。
それだけではない。
対GD戦を前提とした再改修だった。
機体全体がより鋭く、攻撃的なシルエットへ変わり始めていた。
レイが端末を操作する。 ホログラム上に新装備一覧が展開された。
「高出力近接ブレード」
「追加姿勢制御スラスター」
「対NB用高圧縮砲」
「それと――」
表示が切り替わる。 新型バックユニット。
大型接続アーム。 複数のエネルギーライン。
カイトが眉を寄せる。
「……何これ」
「仮設型戦術支援ユニット」
「名前長い」
「まだ正式名称決まってねぇからな」
レイは軽く笑う。 だが視線は真剣だった。
「簡単に言えば、ユイがやってた補助を機械で代用する」
空気が少しだけ止まる。 カイトは無言でホログラムを見る。
レイは続けた。
「戦闘中の位置予測」
「姿勢補正」
「近接軌道演算」
「反応支援」
「全部アルゴリズムで無理矢理補う」
「……そんな事できるのか」
「無理だから今苦労してんだよ」
即答だった。 格納庫奥。 固定されたレヴァンの背部ユニットが起動する。
青白い光。 次の瞬間、機体全体が大きく震えた。
「出力跳ねた!」
「制御追いついてない!」
警告灯が赤く回転する。 整備班が慌てて制御系へ飛び付いた。
レイが小さく舌打ちする。
「やっぱまだ駄目か」
カイトはレヴァンを見上げる。 以前より強くなっている。
だが同時に不安定だった。
無理矢理継ぎ足している。
そんな印象が、カイトの胸に残った。 レイが端末を閉じる。
「本当なら専属オペレータが欲しいんだけどな」
「……」
「今のアーク・ノアにそんな余裕ない」
短い沈黙。 カイトは視線を逸らす。
分かっていた。 誰の事を言っているのか。
レイもそれ以上は言わない。 代わりに格納庫中央へ歩いていく。
「とりあえず試験やるぞ」
「今?」
「今だ」
レヴァン固定アーム解除。 重い駆動音。
巨体がゆっくり立ち上がる。 新装備ユニットが背部で展開した。
カイトはコクピットへ乗り込む。 モニター起動。
複数の新規システム表示。 未調整警告。
エラー表示。 大量の黄色警告が並ぶ。
『接続確認』
『姿勢補助同期開始』
『戦術支援ユニット起動』
機械音声が続く。 カイトは小さく息を吐いた。
「……やるしかないか」
スロットルを握る。 次の瞬間。 背部スラスターが爆発的に噴射した。
「っ!?」
機体が一気に前へ滑る。 想定以上の加速。
視界が流れる。 カイトは反射的に姿勢制御を叩き込む。
だが遅い。 レヴァンが大きくバランスを崩した。
『警告』
『姿勢制御限界』
「カイト!」
レイの声。 次の瞬間。 背部補助ユニットが自動補正を開始。
強引に機体姿勢が引き戻される。 金属音。
火花。 レヴァンはギリギリで停止した。
格納庫全体が静まり返る。 コクピット内でカイトは荒く息を吐いた。
汗が流れている。 レイの通信が入る。
『……今の感覚は』
「速すぎる」
『だろうな』
レイの声が少し低くなる。
『今の仕様、完全に対GD戦寄りだ』
『人間側限界近くまで反応速度引き上げてる』
カイトは前を見る。 モニター越し。
格納庫照明の中で、レヴァンの新装備が静かに光っていた。
強くなっている。 しかし、その代償みたいに、機体は少しずつ人間側へ無理を要求し始めていた。
遠く離れた帝国側では既に、さらに別の“何か”が動き始めている。
その事を、カイトはまだ知らない。




