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第355話 エルマの再分類案

 ネメシア中枢区画、戦術演算局。

 その一角にあるパルスティア識別管理部門は、監察局ほど厳重な封鎖空間ではない。

 だが、そこに保存されている記録は、監察局の観測ログとは別の意味で危険だった。

 パルスティア系列分類。

 命令適性評価。

 人格機能安定度。

 戦術運用適性。

 再同期可能性。

 命令層接続反応。

 自己応答発生時の処置案。

 それらは、パルスティアを兵器として運用するための資料だった。

 エルマ・ディクセンは、その中央端末の前に立っていた。

 目の前には、命令層中枢停止後に集められた不完全な記録が並んでいる。

 オルフェンの観測ログ。

 監察局の欠落記録。

 外縁方面軍から提出された監察局越権記録。

 中枢認証網の異常照合。

 再同期基盤隔離の結果。

 そして、パルスティア達の自己応答保持に関する断片的な報告。

 どれも完全ではない。

 だが、エルマはそれを問題にしなかった。

 完全な記録がないなら、不完全な記録から分類する。

 観測できなかったなら、残った結果から評価する。

 彼女にとって、それは当然の手順だった。

「対象Yの記録を開いてください」

 補佐研究官が、端末を操作する。

『対象Y』

『別名:ユイ』

『Y系列原型』

『命令層接続切断能力保持』

『ノクス・レクイエム運用』

『再同期基盤隔離に関与』

『危険度再評価:必要』

 エルマは表示を見たまま、静かに言った。

「対象Yではなく、ユイで処理します」

 補佐研究官が一瞬だけ手を止めた。

「個体名で、ですか」

「はい。対象表記では現在の反応差を十分に記述できません。ユイはY系列原型でありながら、命令層接続線の精密切断を行っています。系列名だけでは不十分です」

「了解しました」

 補佐研究官は、表記を修正する。

『ユイ:Y系列原型/命令層切断能力保持個体』

 エルマは頷く。

 その声に、温度はなかった。

 名前を使う。

 しかし、名前を尊重しているわけではない。

 分類精度を上げるために、名前を使う。

「ユイは、最優先再分類対象です」

 エルマは端末へ視線を向けたまま続ける。

「理由は三つ。第一に、命令層接続線を切断できること。第二に、人格形成記録を破壊せず再同期基盤のみを隔離したこと。第三に、ノクス・レクイエムとの接続後も本人意思認証を維持していること」

「分類名はどうしますか」

「暫定で、命令層切断能力保持個体」

 補佐研究官が入力する。

 その文字列が画面に並ぶ。

 ユイ。

 命令層切断能力保持個体。

 エルマは、それを見ても表情を変えなかった。

「問題は、彼女が命令を拒否したことではありません」

 周囲の研究官達が顔を上げる。

「命令層を外されても、戦術機能と自己応答を同時に維持したことです」

 それは、エルマにとって最も危険な事実だった。

 命令を拒否するだけなら、反乱個体として処理できる。

 機能停止するなら、失敗個体として処理できる。

 暴走するなら、危険個体として処分できる。

 だが、ユイは違った。

 命令層を切りながら、壊れなかった。

 自己応答を保持しながら、戦術判断を失わなかった。

 それどころか、他のパルスティア達の自己応答を守る側へ回った。

 それは、帝国の管理思想にとって都合が悪すぎる結果だった。


 次に表示されたのは、アミィの記録だった。

『対象A』

『別名:アミィ』

『A系列』

『L系列欠損補完』

『代替指揮支援個体』

『自己応答保持』

『再同期失敗』

『セレス・バスティオン共同展開』

 エルマは短く息を吐いた。

「再同期失敗、という表記は不正確です」

「監察局ログでは、そのように」

「監察局ログは欠落しています。結果として正しいのは、アミィが自己応答を保持したことです。再同期失敗ではなく、再同期処理を受けてもA系列機能を維持したまま自己応答を保持した、と記述してください」

 補佐研究官が入力を修正する。

『アミィ:A系列/自己応答保持個体』

『代替指揮支援個体から逸脱』

『L系列との共同安定形成』

 室内にいた監察局評価部門の人間が、口を挟んだ。

「逸脱というなら、危険個体指定ではないのですか」

「危険個体指定は処置分類です。今は機能分類です」

「同じでは?」

「違います」

 エルマは即答した。

「危険と呼ぶだけなら、理由を見なくて済みます。分類は、なぜ危険になり得るのかを明確にする作業です」

 監察局員は黙った。

 エルマは画面を見続ける。

「アミィの問題は、自己応答を得たことだけではありません。自己応答後も、A系列本来の支援能力を失っていないことです」

「つまり?」

「命令層に従わなくても、機能するということです」

 それは、パルスティア管理部門にとって致命的な言葉だった。

 パルスティアは、命令で動く。

 系列ごとの役割を与えられ、命令層で統制され、戦術目的に応じて運用される。

 そうでなければならない。

 だが、アミィは命令ではなく、自分の返事で動いた。

 それでも支援機能を維持した。

 エルマは、その事実を成長とは呼ばなかった。

「アミィは、代替指揮支援個体から、自己応答保持個体へ再分類します」

 端末に、新しい項目が追加される。


 続いて、レータの記録が開かれた。

『対象L』

『別名:レータ』

『L系列原型』

『コマンダータイプ』

『突発的判断欠陥記録あり』

『A系列との共同防壁反応』

『セレス・バスティオン安定』

 エルマは、古い記録を横に並べた。

 L系列事故記録。

 判断遅延。

 過剰防衛。

 味方支援線との衝突。

 面制圧範囲の拡大。

 指揮判断の一時的逸脱。

 L系列は優秀だった。

 重装、防衛、統率、前線維持。

 だが、時折とんでもないミスをする。

 その欠陥が、指揮型として見過ごせないと判断され、L系列は凍結された。

 レータの不在も、それを後押しした。

 その穴を埋めるために作られたのが、アミィだった。

 しかし今、記録は別の結果を示している。

 レータとアミィが、命令ではなく、相互確認によって防壁を安定させた。

「L系列欠陥の一部が、A系列との相互補完によって補正されています」

 エルマは言った。

 補佐研究官が眉をひそめる。

「それは、改善ではないのですか」

「改善という言葉は使いません」

「なぜですか」

「帝国が設計した補正ではないからです」

 エルマは平然と答えた。

「レータは、A系列を代替として使っていません。アミィを隣接支援個体として認識し、相互判断を行っています。これはL系列本来の指揮補正ではありません。外部関係性による欠陥補正です」

 補佐研究官は、少し迷ってから入力する。

『レータ:L系列原型/外部関係性による指揮欠陥補正』

『A系列アミィとの相互補完あり』

『通常のL系列分類から逸脱』

 エルマはそれを確認する。

「この項目は、中枢防衛認証にも提出します」

「なぜそこまで」

「L系列の欠陥が命令層外で補正されるなら、今後のコマンダータイプ運用に影響します」

 それは冷たい言い方だった。

 レータとアミィが互いに支え合ったこと。

 それはルクス側にとっては、救いだった。

 だがエルマにとっては、帝国の設計外で成立した補正機能だった。


 次はミオだった。

『対象M』

『別名:ミオ』

『M系列原型』

『支援・分析・補助特化』

『ルナ・ドール・リンク実戦投入』

『複数端末管制』

『命令層切断後空白受領』

『味方支援線保護』

 エルマは、少しだけ画面を長く見た。

「M系列支援型の範囲を超えています」

「広域支援個体ですか」

「いいえ。支援ではなく、戦域管制に近い」

 彼女は端末に手を伸ばす。

「ミオは、単に味方を補助したのではありません。敵の偽端末を排除し、残すべき射線と退避線を選別し、切断後の空白領域を受け取って安定化させています」

「戦域管制型へ変質、としますか」

「暫定で」

 入力される。

『ミオ:M系列原型/広域管制個体へ変質』

『支援型分類から逸脱』

『ルナ・ドール・リンク中核適性あり』

 監察局評価部門の人間が、苦い顔をした。

「支援型がそこまで変化するなら、M系列量産個体にも影響が出る可能性があります」

「そのための再分類です」

 エルマは答える。

「ミオを成長例として見れば、量産型にも同様の拡張が可能だと誤解されます。ですが、実際には命令層外安定構造の一部として機能している。単独の能力拡張ではありません」

「では、どう扱うのですか」

「孤立させて評価してはいけません」

 エルマは、画面上でユイ、アミィ、レータ、ミオの記録を線で結んだ。

「彼女達は単体で逸脱しているのではなく、相互関係によって安定しています」

 その言葉は、正確だった。

 だが、その正確さが、かえって不気味だった。


 イリスの記録が表示される。

『対象I』

『別名:イリス』

『I系列原型』

『観測・記録特化』

『命令ではない記録』

『監察局記録回路遮断への関与疑い』

『帝国記録形式外データ保持』

 エルマは目を細めた。

「イリスは、命令履歴保持個体ではありません」

 補佐研究官が確認する。

「I系列は、観測・記録型です」

「はい。ですが、帝国が求めた記録は、命令履歴、観測対象、反応値、位置情報、上層部提出用の整理記録です」

 エルマは、イリスの新しい記録形式を開く。

 そこには、帝国式の分類に収まらない断片があった。

 食堂。

 整備区画。

 医療区画。

 観測席。

 艦橋。

 レータが失敗した記録。

 アミィが自分で歩いた記録。

 セラが撃たなかった記録。

 ミオが支援網を調整した記録。

 監察局側から見れば、不要情報に近い。

 だが、それが命令層中枢で効果を持った。

「イリスは、命令履歴ではなく、非命令記録を保持しています」

「非命令記録?」

「命令、任務、戦闘成果、反応値では説明できない行動記録です」

「私的記録ということですか」

「帝国分類上は、そう呼ぶしかありません」

 エルマは入力する。

『イリス:I系列原型/非命令記録保持個体』

『帝国記録形式から逸脱』

『監察局観測遮断への関与疑い』

『命令層外安定構造の記録支援要素』

 その項目を見た監察局員が、不快そうに言った。

「つまり、日常記録が監察局の観測を妨害したと?」

「妨害という表現は、監察局視点です」

「では何と」

「機能した、です」

 エルマは淡々と答えた。

「帝国にとって不都合な形で」


 次に開かれたのは、セラ、レイ、リン、ナユの関連記録だった。

 エルマは、主要再分類対象からは一段下げて扱った。

 だが、無視はしなかった。

『セラ』

『S系列原型』

『命令射撃記録あり』

『射撃保留判断』

『本命端末のみ精密射撃』

『撃たない選択後、射撃成功』

「S系列は、命令射撃から判断保留型へ変化しています」

 エルマは言った。

「命令を受けて即時射撃する個体ではなく、射撃しない判断を挟んだうえで、必要点のみを撃つ。これは射撃特化としては効率低下にも見えますが、味方支援線を守るという点では安定しています」

 次にレイ。

『レイ』

『R系列原型』

『近接特化』

『突入保留』

『刃を下ろす判断』

『必要時のみ切断』

「R系列も、命令近接から判断保留型へ移行しています」

 リンの記録も並ぶ。

『リン』

『量産R系列』

『護衛判断』

『突入抑制』

『ナユの残響判断に追従』

「量産R系列にも、命令外判断の兆候あり」

 ナユ。

『ナユ』

『量産Y系列』

『残響索敵』

『偽記録識別』

『日常記録による人格形成の可能性』

 エルマは、そこでわずかに間を置いた。

「ナユは、量産Y系列の危険な証拠です」

「危険?」

「量産型であっても、日常記録と関係性によって人格形成し、命令外判断を支える可能性がある」

 補佐研究官は、入力する手を止めた。

「それは、量産型パルスティア運用の前提が崩れるということでは」

「はい」

 エルマは即答した。

「だから危険なのです」


 リゼル・オルブライトが戦術演算局に入った時、再分類案はほぼ形になっていた。

 彼は、外交観測局の照合権限で提出前の草案閲覧を求めた。

 当然のように、戦術演算局側は渋った。

 だが、命令層中枢停止が外宇宙認証へ波及する可能性が残っている以上、リゼルには関連資料を確認する建前がある。

 エルマは、彼の入室を止めなかった。

「リゼル観測官。ちょうど再分類案がまとまったところです」

「見せていただけますか」

「ええ。どうせ中枢へ送ります」

 その返答に、リゼルはわずかに眉を動かした。

 画面に、再分類案が表示される。

『命令層外安定個体群』

『暫定分類対象:ユイ、アミィ、レータ、ミオ、イリス』

『関連変化対象:セラ、レイ、リン、ナユ』

『評価:命令層を外されても自己応答と戦術機能を維持』

『危険性:帝国式パルスティア管理体系への波及』

『処置案:再同期ではなく、再分類後の再制御方針を検討』

 リゼルは黙って読んだ。

 読み終えた後、静かに言う。

「彼女達の名前を使うのですね」

「個体識別名として必要です」

「名前を認めているわけではない」

「名前は認めています」

 エルマは、当たり前のように答えた。

「ですが、名前の有無は分類結果を変えません」

 リゼルは、その言葉に目を細めた。

「あなたは、彼女達が自分の意思で動いたとは考えないのですか」

「考えます」

「ならば」

「自分の意思で動き、なお戦術機能を維持しているから問題なのです」

 リゼルは沈黙した。

 エルマは続ける。

「命令を外されれば崩れる。命令を外されれば暴走する。命令を外されれば機能停止する。それならば、従来の管理体系で処置できます。ですが、彼女達は違う」

 画面上で、ユイ、アミィ、レータ、ミオ、イリスの記録が結ばれる。

「命令層外で安定しています。互いの関係性、支援網、非命令記録、防壁、切断後の受領構造によって、命令なしに機能している」

「それを、あなたは逸脱と呼ぶ」

「はい」

「成長とは呼ばない」

「呼びません」

「なぜ」

「成長と呼べば、帝国はそれを認める言葉を持たなければなりません」

 リゼルは息を呑んだ。

 エルマは、淡々と続ける。

「今の帝国に、その言葉はありません」

 それは、彼女なりの正確な認識だった。

 帝国には、命令で動く個体を扱う言葉がある。

 反乱個体を処分する言葉がある。

 再同期する言葉がある。

 危険個体を隔離する言葉がある。

 だが、命令を外されても、互いを支え、自分の名前で返事をし、機能を保つ存在を認める言葉がない。

 だから、エルマは新しい分類を作る。

 認めるためではない。

 管理するために。


 中枢官僚達への説明会は、その直後に開かれた。

 監察局評価部門。

 戦術演算局。

 中枢防衛認証部門。

 皇帝府連絡官。

 外宇宙観測局。

 通常軍連絡窓口。

 複数部門の端末が接続される。

 エルマは、再分類案を淡々と読み上げた。

「ユイ。Y系列原型。命令層切断能力保持個体。最優先再分類対象」

 画面に、ノクス・レクイエムの記録が映る。

「アミィ。A系列。代替指揮支援個体から逸脱。自己応答保持個体へ再分類」

 次に、防壁反応。

「レータ。L系列原型。A系列との相互補完により、従来の指揮欠陥を一部補正」

 ルナ・ドール・リンクの記録。

「ミオ。M系列原型。支援個体から広域管制個体へ変質」

 イリスの記録。

「イリス。I系列原型。命令履歴保持ではなく、非命令記録保持へ変質」

 セラとレイの記録が続く。

「セラ、レイ、関連量産型であるリン、ナユ。命令射撃、命令近接、命令索敵から、判断保留型へ変化傾向あり」

 中枢官僚の一人が、低く言った。

「つまり、パルスティア達が自由になったということか」

「違います」

 エルマは即座に否定した。

「自由という語は、状況を説明しません」

「では、どう説明する」

「制御不能な人格機能ではありません」

 そこで一度、エルマは間を置いた。

「正確には、命令層外で安定する人格機能です」

 室内の空気が変わる。

 危険個体。

 反乱個体。

 暴走個体。

 それらよりも、ある意味では厄介な分類だった。

 暴走しているなら止めればいい。

 反乱なら討伐すればいい。

 機能停止なら回収すればいい。

 だが、命令層外で安定するなら。

 その存在は、帝国の管理思想そのものに問いを突きつける。

 命令は本当に必要なのか。

 命令がなくても、彼女達は機能するのではないか。

 命令層を外しても、人格と戦術判断は壊れないのではないか。

 その問いを、帝国は許容できない。

 エルマは、そこまで分かっていた。

「彼女達は、再同期では戻せません」

 監察局評価部門の一人が顔を上げる。

「監察局の再同期基盤を否定するのか」

「結果が示しています。アミィは再同期を受けても自己応答を保持しました。ユイは命令層接続を切断しました。ミオは切断後の空白を受け取り、レータとアミィは防壁を安定させた。イリスは命令ではない記録を機能させました」

「だから何だ」

「再同期は、彼女達の現在の構造に対して十分ではありません」

 エルマは静かに言った。

「ならば、彼女達は再同期ではなく、再分類すべきです」

 誰もすぐには反論しなかった。

 その言葉は、監察局の失敗を切り捨てるものでもあり、同時に帝国本国中枢へ新しい危険を提出するものでもあった。

 再同期では戻せない。

 だから再分類する。

 そして、再分類したうえで再制御を検討する。

 それは、オルフェンの観測とは違う、別の首輪だった。


 説明会が終わると、リゼルは廊下でエルマを呼び止めた。

「エルマ主任」

「何でしょう」

「あなたの再分類案は、インペリウム起動準備の論拠に使われる可能性があります」

「知っています」

「それでも送るのですか」

「はい」

「なぜ」

 エルマは、少しだけ首を傾けた。

 その仕草には、困惑というより、質問の意図を測るような冷静さがあった。

「記録を見ました。結果を確認しました。分類を作りました。提出しない理由がありません」

「彼女達を再制御対象にする理由にもなります」

「再制御が必要かどうかは、提出後に中枢が判断します」

「あなた自身は」

「必要になる可能性が高いと考えています」

 リゼルは目を伏せた。

 エルマは嘘をつかない。

 だからこそ厄介だった。

「あなたは、ユイやアミィを名前で呼ぶ」

「はい」

「それでも、再制御対象にする」

「名前と分類は矛盾しません」

 エルマは静かに言った。

「ユイはユイです。アミィはアミィです。だからこそ、正確に分類できます」

 リゼルは、その言葉に寒気を覚えた。

 名前を奪う敵より、名前を知ったまま分類する敵の方が、ずっと厄介かもしれない。


 再分類案の草案が、ネメシア中枢へ送信される。

『命令層外安定個体群』

『再分類案』

『再制御方針:要審査』

『提出者:戦術演算局パルスティア識別管理部門 エルマ・ディクセン』

 その記録は、監察局、戦術演算局、中枢防衛認証部門、皇帝府連絡系統へ同時に送られた。

 そして、封鎖中のインペリウム関連審査領域にも、参照用記録として転送される。

 エルマは、送信完了表示を見て、静かに目を閉じた。

 彼女にとって、それは怒りの報告ではない。

 敗北の報告でもない。

 まして、彼女達の自由を認める記録でもない。

 分類だった。

 命令層の外で安定した存在達を、帝国の言葉で再び囲い込むための、最初の分類。

 送信完了音が鳴る。

 ネメシア中枢の奥で、新しい審査項目が立ち上がった。

 再制御案の草案が、帝国本国中枢へ送られた。

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