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第33話 RAVEN ~side Yui~

司令室を出た後も、ユイの頭からあの文字が離れなかった。


《RAVEN SIGNAL DETECTED》


短い表示。

しかし、レグナートが反応した。それが異常だった。

帝国軍総司令官。その男が、あんな表情を見せる事自体ほとんど無い。

長い通路を歩きながら、ユイは小さく目を伏せる。

隣ではセラが眉をひそめていた。


「……どう思う?」

ユイは少しだけ考える。


「分からない」

正直な答えだった。しかし、一つだけ確かな事がある。

レグナートは何かを隠している。それも軍事機密以上の何かだった。

その時だった。艦内警報が小さく鳴る。

周囲の兵士達が慌ただしく動き始めた。


『第四監視区画にて空間反応確認』

『繰り返す――』

通信が飛び交う。セラが顔をしかめる。


「今日、本当に空気おかしい」

ユイも同感だった。旗艦全体が妙に張り詰めている。

まるで何かを警戒しているみたいだった。

その時、通路奥からレオンが歩いてくる。

赤い軍服。険しい顔。ユイ達を見るなり、小さく息を吐いた。


「いたか」

セラが即座に聞く。


「何が起きてるの?」

レオンは少しだけ黙った。だが今回は誤魔化さなかった。


「……外縁部で艦隊が一つ消えた」

ユイとセラの動きが止まる。


「消えた?」

レオンは頷く。


「通信断絶後、残骸だけ発見された」

その声は低かった。


「GD部隊も全滅」

セラが目を見開く。帝国軍GD部隊。

それが一方的に消えるなど、普通ではあり得ない。

相手が地球軍なら、まだ説明はつく。だがレオンの表情は、その可能性を否定していた。

ユイの胸に嫌な感覚が走る。その時。レオンが小さく呟いた。


「……現場に残っていた」

「黒い翼の紋章がな」

ユイの表情が変わる。黒い翼。聞いた事が無い。

しかし、レオンの顔は本気だった。


「それが……RAVEN?」

ユイが静かに聞く。レオンは数秒黙る。

そして小さく頷いた。


「旧帝国軍特殊部隊コード」

「存在自体は十年以上前から噂されていた」

セラが眉をひそめる。


「噂?」

「幽霊みたいな連中だ」

レオンは吐き捨てるように言った。


「帝国軍でも詳細を知る者は少ない」

「しかし、一部の将軍連中は本気で警戒してる」

ユイは静かに話を聞いていた。嫌な予感が強くなる。

その時だった。艦内照明が一瞬だけ落ちる。

全員の視線が上を向いた。次の瞬間。旗艦全体へ低い警報音が鳴り響いた。


『未確認反応、旗艦周辺へ接近』

『繰り返す――』

兵士達がざわつく。レオンの顔が険しくなる。


「チッ……!」

直後。艦全体が大きく揺れた。爆発音。

遠くで何かが吹き飛ぶ。ユイ達も反射的に壁へ手をつく。


『左舷外部隔壁損傷!』

『侵入反応あり!』

司令部通信が混乱し始める。セラが目を見開いた。


「侵入!?」

レオンは即座に武器を抜く。


「ユイ、セラ!」

「司令区画へ向かうぞ!」

その瞬間だった。通路奥の隔壁が、突然内側から吹き飛ぶ。

轟音が響く。火花。煙。兵士達が悲鳴を上げる。

その煙の中から、一機のGDがゆっくり姿を現した。

黒い機体。細身。だが異様な威圧感を放っている。

そして、その肩部。そこには黒い翼の紋章が刻まれていた。

レオンの顔色が変わる。


「……RAVEN」

黒いGDは静かにこちらを見つめていた。

そのセンサー光だけが、不気味に赤く輝いていた。

吹き飛んだ隔壁の向こう。煙の中から現れた黒いGDは、静かに立っていた。

細身の機体。帝国製GDに似ている。だが決定的に違った。

余計な装飾が無い。まるで“戦う”事だけへ特化したような機体だった。

そして肩部に刻まれた、黒い翼の紋章。

レオンの表情が険しくなる。


「全員下がれ!」

周囲の兵士達が一斉に武器を構えた。

だが黒いGDは動かない。ただこちらを見ている。

その異様な静けさが、逆に不気味だった。

セラが小さく呟く。


「……一機だけ?」

レオンは答えない。代わりに銃口を向けたまま、低く言う。


「RAVENは数じゃない」

その瞬間だった。黒いGDが消える。


「っ!?」

次の瞬間には、兵士達の中央へ入り込んでいた。

速い。ユイですら、一瞬見失った。閃光。

衝撃。兵士達の武器が一斉に弾き飛ばされる。

だが誰も殺されていない。正確だった。

異常なほど。レオンが舌打ちする。


「やはりか……!」

赤いGD用拳銃を抜く。だが黒いGDは攻撃しない。

代わりに、ゆっくりこちらへ歩いてくる。

ユイは小さく目を細めた。敵意が薄い。

少なくとも、無差別襲撃ではない。その時。

黒いGDから通信回線が開く。ノイズ。

数秒後、女性の声が響いた。


『……久しぶり』

静かな声だった。ユイの動きが止まる。

聞き覚えがあった。だが信じられない。


『ユイ』

『まだ生きてたんだ』

セラが目を見開く。レオンも表情を変えた。

ユイだけが、ゆっくり目を見開いていく。


「……レータ?」

短い沈黙。そして黒いGD側から、小さな笑い声が返ってきた。


『正解』

その瞬間。セラが息を呑む。


「嘘……」

レータ。

十年前、PT脱走事件の混乱の中で帝国側に残り、その後、戦場で行方不明になったはずのPTだった。

レオンが険しい声を出す。


「生きていたのか」『そっちこそ』

レータは淡々と返した。


『相変わらず帝国の犬やってるんだ』

その言葉に、レオンの目が鋭くなる。

空気が一気に張り詰めた。だがレータは気にしない。

黒いGDがゆっくりユイを見る。


『話がある』

その声だけが、少し柔らかかった。ユイは迷う。

目の前の存在は、確かにレータだった。

でも変わっている。

空気が違う。

帝国軍でもない。地球側でもない。

まるで、どちらにも属さない何かだった。

その時だった。艦内警報がさらに激しく鳴り響く。


『司令区画に侵入反応多数!』

『RAVEN部隊確認!』

周囲がざわつく。レオンが顔をしかめる。


「一機じゃないのか……!」

レータは小さく息を吐いた。


『だから言った』

『時間が無い』

その瞬間。遠方通路側で爆発音が響く。

兵士達の悲鳴。そして、重い振動。何かが旗艦内部を進んでいる。

しかも一つではない。セラが不安そうに呟く。


「……何しに来たの、あんた達」

短い沈黙。やがてレータが静かに答えた。


『迎えに来た』

「……誰を?」

レータは少しだけ間を置く。そして、


『“本物”を』

その言葉の意味を、ユイはまだ理解できなかった。

しかし、レオンだけは違った。その瞬間、彼の表情が初めて明確に変わる。

驚き。そして、警戒。レータはそれを見て、小さく笑った。


『やっぱり知ってるんだ』

『レグナートが、何を隠してるのか』

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