表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
323/412

第321話 観測席の休息

 命令層中枢への突入準備は続いていた。

 だが、ルクス・ヴァルキュリアの艦内には、少しずつ日常が戻りつつある。

 整備区画では、《ルナ・ドール・リンク》の試験準備が進んでいる。

 格納区画では、《セレス・バスティオン》の低出力防壁試験に向けた調整が行われている。

 食堂では、カイトが直した保温器が条件付きで稼働している。

 医療区画では、レータの転倒事故後の経過観察が終わりつつある。

 戦闘前の静けさ。

 作戦準備の緊張。

 その合間にある、生活の音。

 イリスは、それを記録しようとしていた。


 観測席。

 イリスは、管制端末の前に座っていた。

 戦闘中ならば、ここは彼女の場所だ。

 敵反応、転移残響、星間航路、認証網、照合波。

 観測すべき対象はいくらでもある。

 しかし、今は違う。

 警報は鳴っていない。

 外部敵性反応もない。

 命令層中枢への突入前ではあるが、現時点の観測対象は安定している。

 だから、イリスは艦内記録を取ろうとしていた。

 食堂の会話。

 整備区画の作業音。

 医療区画の診察記録。

 格納区画での試験準備。

 居住区画の足音。

 カイトが修理した古い音楽プレイヤーから流れる曲。

 それらを記録端末へ入れようとして、イリスは手を止めた。

「分類不能」

 画面には、そう表示されている。

 イリスは無表情に画面を見つめる。

 戦闘記録なら分かる。

 敵反応。

 攻撃種別。

 損傷範囲。

 支援網接続。

 命令層干渉。

 残響波形。

 射撃結果。

 観測記録なら分かる。

 惑星環境。

 恒星活動。

 航路安定性。

 通信反応。

 文明痕跡。

 地球型惑星候補。

 だが、食堂で誰かが笑った音は何に分類するのか。

 整備班が文句を言いながら作業する声は、作業記録なのか、会話記録なのか。

 アイナがスープの味を調整している行為は、補給記録なのか、食生活記録なのか。

 レータが厨房に入ろうとして止められた記録は、事故予防なのか、日常行動なのか。

 カイトが保温器に余計な機能を付けたことは、修理記録なのか、設備変更記録なのか、問題行動なのか。

 イリスは、端末に問いかけるように呟いた。

「日常記録の分類基準が不足しています」


 そこへ、エルが通りかかった。

 彼は端末を抱え、観測席の前で足を止める。

「イリス、何をしているんですか」

「艦内の日常記録を作成しています」

「日常記録」

 エルは興味を持ったように近づいた。

「見せてもらっても?」

「はい」

 イリスは端末を回す。

 画面には、仮分類項目が並んでいた。

 食堂会話。

 整備区画音声。

 非戦闘行動。

 休息行動。

 不明瞭感情反応。

 笑い声。

 雑談。

 軽度騒動。

 生活音。

 エルはしばらく見て、真面目に言った。

「分類軸が足りませんね」

「はい。戦闘記録と異なり、項目が安定しません」

「では、分類軸を増やしましょう」

 エルは隣の席に座り、端末を操作し始めた。

「まず、音声記録は発生場所別に分類します。食堂、整備区画、医療区画、格納区画、居住区画。次に発話者別。さらに発話目的別。連絡、雑談、注意、謝罪、笑い、ツッコミ、独り言」

「ツッコミ」

「カイトさんとグリッドさんの発話頻度が高いので、独立項目が必要です」

 イリスは頷いた。

「合理的です」

「さらに、笑い声は原因別に分類します。成功、失敗、緊張緩和、照れ隠し、皮肉、困惑、余計な機能発覚」

「余計な機能発覚」

「カイトさん用です」

 イリスは端末に入力した。

「カイト用分類、余計な機能発覚」

 ちょうどそこへ、カイトが通路を通りかかった。

「今、俺の名前が聞こえた気がする」

 エルは真面目に言う。

「艦内日常記録の分類項目に、カイトさん用の余計な機能発覚を追加しました」

「追加しなくていい」

 イリスは首を傾げる。

「実際に発生頻度が高いです」

「それは否定しづらいけど」

 エルはさらに言った。

「また、ユイさん用には収集物保管先変更、レータさん用には低頻度重大誤判断、黒瀬さん用には必要な書類、グリッドさん用には余計な機能を付けるなを登録します」

 カイトは額に手を当てた。

「日常記録って、そういうものだったっけ」

 イリスは真剣に答える。

「分類基準としては有効です」

「有効なんだ……」


 そこへ、クロエがやって来た。

 彼女は二人の端末を覗き込み、数秒だけ沈黙した。

「何をしてるの」

 エルが答える。

「艦内日常記録の分類体系を作っています」

 クロエは画面を見る。

「ツッコミ発話頻度。余計な機能発覚。必要な書類。低頻度重大誤判断。香り強調モード使用許可制……」

「実際に発生した事象です」

 イリスが言う。

 クロエは軽く息を吐いた。

「発生したからって、全部同じ重さで並べるものじゃないわ」

 イリスは少しだけ目を動かした。

「同じ重さではない?」

「そう」

 クロエは観測席の横に立つ。

「情報は、全部同じ重さじゃない。戦場では特にそう。敵の座標、味方の損傷、通信途絶、補給不足。全部情報だけど、今すぐ動くべきものと、後で見ればいいものがある」

 エルは頷いた。

「優先度ですね」

「それもある。でも、日常記録では優先度だけじゃ足りない」

 クロエは画面の中の項目を指差した。

「例えば、カイトが保温器に余計な機能を付けた記録。これは設備変更記録としては軽い。でも、艦内の空気が少し緩んだ記録としては意味がある」

 イリスは静かに聞いていた。

「レータが厨房に入れなかった記録。厨房作業制限としては小さい。でも、アミィが“失敗しても終わりではない”と理解するきっかけとしては大きい」

 クロエは次の項目を示す。

「古い音楽プレイヤーが直った記録。戦術的価値は低い。でも、ラスト・オーダーにとっては、誰かの生活が残っていた証拠になる」

 イリスは、端末の項目を見る。

「戦術価値と、生活価値」

「そう。情報の価値は一つじゃない」

 エルは考え込む。

「では、日常記録には複数評価軸が必要ですね。戦術価値、生活価値、心理安定寄与、文化的記録価値、個人関係変化」

 クロエは少しだけ笑った。

「まあ、そうやって項目を増やしたくなるのは分かるけど」

「違いますか」

「違わない。でも、増やしすぎると、また日常が見えなくなる」

 イリスが問い返す。

「記録しすぎると、見えなくなる?」

「ええ」

 クロエは言った。

「全部を分類しようとすると、今度は分類の方を見てしまう。誰が何を感じたか、何を残したかったかを見落とす」

 イリスは、ゆっくり瞬きをした。


 三島が観測席へやって来たのは、その少し後だった。

 黒瀬の補佐として、艦内休息記録と監査上の注意項目を確認していたらしい。

「ここにいたんですね。黒瀬監査官が、日常記録の分類案が増えすぎていると聞いて確認を」

 カイトが小さく言う。

「もう伝わってる」

 エルは端末を表示する。

「三島さん、ちょうどよかったです。監査記録として、艦内日常記録をどう扱うべきか意見をください」

 三島は画面を見た。

「余計な機能発覚……必要な書類……低頻度重大誤判断……」

 彼女は少しだけ言葉に詰まる。

「これは、監査記録というより、艦内あるある集では」

 カイトが頷く。

「俺もそう思います」

 イリスは首を傾げる。

「艦内あるある集」

 エルが端末に入力しようとする。

 クロエが止めた。

「項目化しなくていい」

 三島は少し笑い、それから画面を見直した。

「でも、分かる気はします」

「何がですか」

 イリスが問う。

 三島は、観測席の窓の向こうに広がる艦内モニターを見た。

 食堂の映像。

 整備区画の音。

 格納区画の作業風景。

 医療区画での診察後の雑談。

 居住区画で小さく流れる音楽。

「監査記録では、残しにくいものがあります」

 三島は言った。

「誰が何時にどの設備を使ったか。どの機体にどんな改修をしたか。誰がどの条件で出撃したか。そういうものは記録できます」

 イリスは頷く。

「はい」

「でも、食堂のスープの香りで少し空気が緩んだこととか、レータさんが転んでみんなが本気で慌てたこととか、アミィさんがそれを見て安心したことは、普通の監査記録には残しづらいです」

 カイトは静かに聞いていた。

 三島は続ける。

「でも、それがないと、この艦がただの兵器庫や実験施設に見えてしまう」

 イリスは目を伏せる。

「ただの兵器庫ではない」

「はい」

 三島は頷いた。

「ここは、人が暮らしている場所です。監査官補佐としては危険を見落とせません。でも、危険だけを記録すると、ここで暮らしている人達が見えなくなる」

 イリスは、端末に表示された日常記録を見た。

 彼女は観測型だ。

 記録するために作られた。

 命令を受け、観測し、報告する。

 何を見たかではなく、何を報告すべきかを優先するように作られていた。

 だが、今は命令がない。

 誰かが、これを記録しろと言ったわけではない。

 イリスは、自分で記録しようとしている。


 エルは分類案を整理し直した。

「では、日常記録には二層を作りましょう」

 クロエが少し警戒する。

「また複雑にするつもり?」

「いいえ。最小限です」

 エルは画面を示す。

 一層目。

 事実記録。

 発生時刻。

 発生場所。

 関係者。

 行動内容。

 設備状態。

 安全上の注意。

 二層目。

 任意記録。

 残したい理由。

 誰が笑ったか。

 誰が安心したか。

 何が変わったか。

 後で思い出したいこと。

 イリスは、その項目を見つめる。

「任意記録」

 エルは頷く。

「はい。命令によらない記録です。記録者が、残す意味があると判断した場合に記入します」

 クロエは少しだけ表情を和らげた。

「それなら悪くないわね」

 三島も頷く。

「監査記録とは別にできます。安全記録として必要な部分と、艦内生活記録として残す部分を分ければいい」

 カイトが言う。

「じゃあ、イリスが残したいと思ったことを書けばいいんじゃないかな」

 イリスは、カイトを見る。

「私が、残したいと思ったこと」

「うん。全部を完璧に分類しなくてもいいと思う」

 イリスは端末に視線を戻した。

 命令ではない記録。

 任意記録。

 残したい理由。

 それは、彼女にとって不慣れな項目だった。


 イリスは、最初の任意記録を作ることにした。

 対象は、食堂の保温器。

 事実記録。

 発生時刻。

 食堂。

 カイトにより保温器修理。

 追加機能、香り強調モード。

 アイナ許可制。

 黒瀬記録対象。

 安全上の注意、エデン香草使用時は作動禁止。

 ここまでは簡単だった。

 問題は、任意記録だった。

 残したい理由。

 イリスは手を止める。

 カイトが直したから。

 アイナが助かったから。

 グリッドが余計な機能を付けるなと言ったから。

 食堂で笑いが起きたから。

 アミィが壊れたら捨てる以外があると知ったから。

 どれも事実だ。

 だが、どれが残したい理由なのか。

 イリスは、しばらく考えた。

 そして、入力した。

 任意記録。

 直った保温器からスープの香りが広がった。

 食堂にいた者達の会話が増えた。

 アミィが小型端末を抱えたまま、壊れたものが戻ることを確認していた。

 カイトは、大きなものは直せないかもしれないが、小さいものから直すと言った。

 この記録は、戦闘記録ではない。

 しかし、命令層中枢へ向かう前に、戻る場所があることを示す記録として残す。

 入力を終えた後、イリスは少しだけ手を止めた。

「これで、よいですか」

 誰に問うたわけでもない。

 クロエが画面を見て、静かに頷いた。

「いいと思う」

 三島も小さく微笑んだ。

「監査記録では拾えないものですね」

 エルは真面目に言った。

「形式としても十分です」

 カイトは少し照れたように笑う。

「俺の発言まで残るのか」

 イリスは頷いた。

「残します」

「そっか」

 カイトは少しだけ困ったように、それでも嬉しそうに笑った。


 次に、イリスはレータの転倒事故記録を開いた。

 これは既に黒瀬が事故記録として整理している。

 床面異常なし。

 照明異常なし。

 搬送機油分なし。

 突起物なし。

 外部干渉反応なし。

 命令層干渉なし。

 重力制御異常なし。

 原因、歩行中の姿勢制御ミス。

 対策、同行推奨、疲労時の単独移動制限、通路安全確認、過度な揶揄禁止。

 事実記録としては十分だった。

 だが、イリスは任意記録を追加した。

 レータが倒れた時、アミィは強く動揺した。

 コウタが医療班を呼び、モルドが診察し、アイナが冷却パックを持ってきた。

 黒瀬は事故として記録し、欠陥として扱わなかった。

 レータの第一声は「床に段差はありませんでした」。

 周囲は脱力したが、誰も彼女を廃棄対象とは見なさなかった。

 アミィは、失敗しても終わりではないと理解した。

 この記録は、L系列の欠陥記録ではない。

 倒れた者を助け起こし、また一緒に歩くための記録である。

 入力後、三島が静かに言った。

「これを残すのは、少し勇気が要りますね」

「なぜですか」

「帝国側の記録と、同じ出来事を違う意味で残すことになるからです」

 イリスは、画面を見つめる。

「同じ出来事でも、意味が変わる」

 クロエが頷いた。

「そう。記録は、事実だけじゃない。どう残すかで、後から見る人に伝わる意味が変わる」

 イリスは小さく呟いた。

「帝国は、低頻度重大誤判断と残した」

 エルが言う。

「ルクス側では、日常運用上の注意事項として残した」

「私は」

 イリスは少しだけ間を置いた。

「一緒に歩くための記録として残します」

 クロエは、満足そうに頷いた。


 観測席の端末には、いくつかの任意記録が追加された。

 古い音楽プレイヤーの再生記録。

 ナユが「戦闘記録ではない記録」と言ったこと。

 食堂の厨房立入許可記録。

 レータが厨房に入れなかったが、食堂には来ていいと言われたこと。

 倉庫備品管理記録。

 ユイが食堂容器を部品整理に使おうとして止められたこと。

 整備区画限定分類記録。

 レータが危険物棚だけは正しく分類し、役に立ったこと。

 カイト修理記録。

 壊れたものを小さいものから直すという言葉。

 それらは、どれも戦術的には小さい。

 だが、艦内で暮らす者達にとっては、確かに意味があった。

 イリスは、それらを一つのフォルダにまとめた。

 フォルダ名を入力しようとして、手を止める。

「日常記録」

 それでも間違いではない。

「非戦闘記録」

 それも正しい。

「艦内生活記録」

 少し近い。

 イリスは、しばらく考えた。

 そして、入力した。

 命令ではない記録。

 エルが画面を見る。

「フォルダ名としては少し抽象的ですね」

 クロエが笑う。

「でも、いいんじゃない?」

 三島も頷いた。

「今のイリスさんには、それが一番近い気がします」

 イリスは、画面を見つめる。

「私は、命令されてこの記録を作ったわけではありません」

 カイトが静かに頷く。

「うん」

「残したいと思いました」

 イリスは、自分の言葉を確かめるように続けた。

「戦闘記録ではありません。観測任務でもありません。報告を求められた記録でもありません」

 彼女は、画面に表示されたフォルダ名を見た。

「それでも、残したいと思いました」

 クロエが言う。

「それが、自分で選ぶってことじゃない?」

 イリスは、ゆっくり頷いた。

「自分で選ぶ記録」


 その後、イリスは黒瀬へ記録形式の確認を求めた。

 黒瀬は端末に表示された「命令ではない記録」というフォルダ名を見て、少しだけ沈黙した。

 三島が横から言う。

「監査記録とは別枠にした方がいいと思います」

 黒瀬は頷く。

「同意します。これは監査記録ではありません」

 イリスは問いかける。

「不要ですか」

「いいえ」

 黒瀬は即答した。

「必要です。ただし、監査記録とは目的が違います」

「目的」

「監査記録は、危険を見落とさないためのものです。この記録は、彼らが何を守ろうとしているのかを見失わないためのものです」

 イリスは、その言葉を受け取った。

「何を守ろうとしているのか」

「はい」

 黒瀬は続ける。

「私が危険だけを記録すれば、ルクス・ヴァルキュリアは危険な兵器庫としてしか見えなくなる。ですが、あなたの記録があれば、ここが生活の場所でもあることが残ります」

 三島は少しだけ微笑んだ。

「監査官らしい言い方ですね」

 黒瀬は表情を変えずに言う。

「必要な言い方です」

 カイトが小さく笑った。

「やっぱり黒瀬さんだ」

 イリスは端末に追記した。

 黒瀬監査官確認。

 この記録は監査記録ではない。

 危険を見落とさないためではなく、守る対象を見失わないための記録。


 観測席に戻ったイリスは、最後に外部観測画面を開いた。

 研究中枢最深部の入口。

 命令層照合波。

 再同期基盤。

 帝国が望む返事を作る場所。

 そこへ向かえば、記録はまた重くなる。

 PT人格形成記録。

 失敗個体記録。

 応答値。

 再調整。

 凍結。

 廃棄。

 命令層接続。

 帝国は、多くの記録を残している。

 だが、その記録の多くは、誰かを分類し、管理し、戻すためのものだった。

 イリスは、自分の新しいフォルダを見る。

 命令ではない記録。

 そこには、戦闘結果は少ない。

 敵撃破数もない。

 作戦成功率もない。

 兵器性能評価もない。

 代わりに、スープの香りがある。

 修理された端末がある。

 転んだレータを心配した声がある。

 余計な機能を止めるグリッドの声がある。

 食堂には来ていいと言うアイナの声がある。

 壊れたものを小さいものから直すカイトの言葉がある。

 イリスは、それらを保存した。

 保存完了。

 画面に短い表示が出る。

 イリスは、静かに呟いた。

「記録完了」

 少し間を置いて、言い直す。

「いいえ」

 彼女は、自分の端末を見た。

「記録、開始」


 命令層中枢への突入準備は、また一つ進んだ。

 機体の整備。

 防壁の調整。

 支援網の拡張。

 医療確認。

 監査条件。

 そして、命令ではない記録。

 それは戦力ではない。

 敵を撃つ武器でも、防壁でも、命令層を切る力でもない。

 だが、ルクス・ヴァルキュリアが何を守ろうとしているのかを残すものだった。

 イリスは観測席から艦内を見た。

 戦場ではない場所。

 作戦ではない時間。

 命令ではない行動。

 それを残すことを、彼女は自分で選んだ。

 帝国にいた頃なら、観測対象にならなかったもの。

 報告価値が低いと処理されたもの。

 分類不能として捨てられたもの。

 その一つ一つが、今のルクス・ヴァルキュリアには必要だった。

 命令層中枢へ進む前に、イリスは新しい記録を始める。

 誰かに命じられたからではない。

 残したいと思ったから。

 その理由だけで、彼女は記録を保存した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ