第317話 整備区画の新しい線
研究中枢最深部への扉は開いた。
命令層中枢。
再同期基盤。
PT人格形成記録。
その奥にあるものは、もう想像で済ませられる段階ではない。
そこへ進めば、帝国がPT達に望んだ返事の仕組みを見ることになる。
ユイの切る力も、アミィの自己応答も、レータの防壁も、ミオの支援網も、すべてが試される。
だが、すぐには進まない。
ルクス・ヴァルキュリアは、研究中枢最深部の入口を前にして、一度足を止めた。
それは後退ではない。
次に進むための停止だった。
ルクス・ヴァルキュリア整備区画。
そこは久しぶりに、戦闘前とは違う騒がしさに包まれていた。
損傷確認。
支援網中継器の交換。
GF-07リーフガードの防護層発生器の再調整。
ロス・セレネの残響波装置の冷却系検査。
フェンリオン・リサイトの照準補助AIログ確認。
ヴァルクレイド・セレスの防壁反応計測。
ノクス・レクイエムの封印区画再点検。
整備班の端末には、赤と黄色の警告項目が並んでいる。
グリッドは、その一覧を見て低く唸った。
「よくこれで帰ってきたな」
タツヤが別の端末を見ながら答える。
「支援網、防壁、索敵、射撃。全部に負荷が出てる。機体が壊れてないだけで、システムはかなり無理してるぞ」
コウタがリーフガードの部品を抱えたまま、少し青い顔で言う。
「これ、次に同じことをされたら持ちますか?」
グリッドは即答しなかった。
それが答えだった。
タツヤが端末を閉じる。
「持たせるしかない。でも、今のままじゃ無理だ」
その場にいたミオが、静かに顔を上げた。
「支援網を広げるだけでは、もう追いつかないんですね」
グリッドは頷いた。
「ああ。研究中枢入口戦の時点で分かってた。タナトスは機体を分断するんじゃなく、支援網の節点を切りに来た。モルスは砲撃だけじゃなく、偽残響でナユとセラの連携を揺らした」
黒瀬が端末を持って整備区画へ入ってくる。
「レグナリア包囲でも同じでした。監察局は、こちらの個別機体ではなく、連携構造そのものを狙っています」
グリッドが顔をしかめる。
「で、こっちはその連携を人力で維持してる。ミオが支援網を繋ぎ、ナユが拾い、セラが撃ち、レータとアミィが守る。毎回それじゃ、負荷が集中する」
ミオは自分の機体、ルナ・スケイル・リフレクトを見上げた。
「私の支援網に、もっと手が必要なんですね」
グリッドは、そこでようやく端末を切り替えた。
「だから、その話をする」
整備区画の中央に、修理済みGD/GF候補の一覧が表示された。
GD-01 モルテム。
GD-02 セレネ。
GD-06 バリスタ。
GD-07 ヴェイル。
GD-11 ファランクス。
GF-07 リーフガード。
GF-03 ヴェルディア。
その横に、倉庫区画の映像が映る。
ユイが回収し、保管していた帝国製GD群。
いくつかは外装に傷があり、いくつかは動力系を抜かれ、いくつかは完全に展示品のように整然と並べられている。
コウタが小さく呟く。
「本当に、あの倉庫の機体を使うんですね……」
ユイが静かに言う。
「保管していた機体です」
グリッドが即座に返す。
「展示品じゃなくてな」
「はい。展示ではありません」
「今、少し不満そうだったぞ」
「実用されるなら、問題ありません」
黒瀬がすぐに言う。
「実用は条件付きです」
ユイは少しだけ目を伏せた。
「分かっています」
グリッドは咳払いをして、話を戻した。
「案の名前は仮だが、《ルナ・ドール・リンク》。ミオのルナ・スケイル・リフレクトの支援網を使って、修理済みGD/GFを無人端末として限定管制する」
ミオは画面を見つめる。
「無人端末……」
タツヤが説明する。
「完全自律じゃない。自分で敵味方を判断して戦うわけでもない。ミオの支援網上に置く、動く中継点、盾、砲台、囮だ」
エルが構造図を表示する。
「基本構成は、ミオさんの支援網を中核にして、各無人端末へ限定命令を送ります。端末側の判断は最小限。攻撃対象も、事前に承認されたビーコン、無人機、隔離場や座標固定の節点に限定します」
黒瀬が、その横に運用条件を並べた。
「仮承認条件を提示します」
画面に項目が増える。
有人搭乗禁止。
自律攻撃禁止。
ミオ支援網から切断された場合、即時停止。
帝国製GDは命令層接続部品を完全撤去。
追跡タグ除去済み機体のみ使用可。
武装出力制限。
同時管制は通常三機まで。
攻撃対象は監察局ビーコン、無人機、隔離場・砲撃座標固定の節点に限定。
記録は全件保存。
グリッドが呆れたように言う。
「出たよ、黒瀬式の条件山盛り」
「必要な条件です」
「分かってる」
ミオは、その条件を見て少しだけ安心したように言った。
「むしろ、その方がいいです。全部自由に動かせと言われた方が怖いですから」
黒瀬は頷いた。
「ミオに全責任を負わせるためのシステムではありません。支援網の負荷を分散し、戦場を面で制御するための補助運用です」
グリッドが、候補機体を順に表示する。
「まず、GD-06 バリスタ。こいつは中距離固定砲台に向く。動きは鈍いが、支援網で座標補正すれば、監察局ビーコンや偽残響基準点を撃つには十分だ」
セラが反応する。
「私の射撃と役割が重なりませんか」
タツヤが首を横に振る。
「セラは点を撃ち抜く。バリスタは面を抑える。セラが本命を撃つために、バリスタで逃げ道やビーコン群を抑えるんだ」
セラは少し考え、頷いた。
「なるほど。私が撃つ場所を作るための砲台ですね」
「そういうことだ」
グリッドは次の機体を表示する。
「GD-11 ファランクス。こいつは盾だ。通路封鎖、ミオ本体の護衛、バリスタの前面防御に使える」
レイが腕を組む。
「動く壁か」
「そうだ。だが、突撃させるなよ。遅いし、融通は利かない」
リンが通信越しに言う。
『護衛の代替ではなく、護衛位置の固定具だな』
グリッドが頷く。
「その表現が近い」
次に、GF-07 リーフガードが表示される。
「リーフガードは既に使ってる。こいつは攻撃じゃなく、管制線防護だ。《ルナ・ドール・リンク》を使うなら、支援網を守る外皮になる」
ミオが画面を見つめる。
「バリスタが面を抑え、ファランクスが守り、リーフガードが管制線を守る」
「そうだ」
黒瀬が補足する。
「初期運用は三機まで。バリスタ一機、ファランクス一機、リーフガード一機。この構成を基本試験とします」
ユイが少しだけ残念そうに言う。
「GD-07 ヴェイルや、GD-02 セレネは使わないのですか」
グリッドが即座に言った。
「まだだ」
黒瀬も同時に言った。
「まだです」
ユイは二人を見た。
「同時に言わなくても」
グリッドがため息をつく。
「お前がすぐ増やそうとするからだ」
「有効活用です」
「段階的にやれ」
黒瀬が頷いた。
「段階的にやってください」
ミオは、ルナ・スケイル・リフレクトの支援網シミュレーションを見ていた。
これまでの支援網は、味方機を繋ぐためのものだった。
位置情報、反応補正、防護層、認証網の揺らぎ。
それらを繋ぎ、味方が動きやすいように支える。
だが、《ルナ・ドール・リンク》では、支援網の先に無人端末が置かれる。
バリスタが中距離から制圧する。
ファランクスが盾になる。
リーフガードが管制線を守る。
それは、ミオ自身が攻撃役になるというより、支援網に手足と砲台を増やす運用だった。
「私が撃つのではなく、支援網で撃つ場所を作る」
ミオが呟く。
カイトが頷いた。
「ミオらしい攻撃だと思う」
「攻撃、ですか」
「うん。でも、敵を倒すためだけじゃない。近づかせないとか、セラが撃ちやすい場所に追い込むとか、ナユが見る時間を作るとか」
ミオは少しだけ考えた。
「面で押し返す」
黒瀬がその言葉を拾う。
「記録します。《ルナ・ドール・リンク》の主用途は、面制圧、支援網中継、防御補助、進路制限。直接撃破は主目的ではない」
グリッドが苦笑する。
「また書類が増えたな」
「必要な書類です」
「はいはい」
次に表示されたのは、ヴァルクレイド・セレスの構造図だった。
レータとアミィが、並んでそれを見る。
グリッドが説明を始める。
「次はこっちだ。ヴァルクレイド・セレス用の重装防衛パッケージ。《セレス・バスティオン》」
画面に、追加装備案が並ぶ。
大型防壁発生器。
追加装甲フレーム。
前線固定アンカー。
支援波増幅器。
通信保護強化ユニット。
防壁面迎撃装置。
低速高出力推進補助。
レータが静かに言う。
「重装防衛」
グリッドは頷く。
「L系列は重装・統率型だ。ヴァルクレイド・セレスは、今でも防壁と支援が強い。でも、命令層中枢へ行くなら、今の防壁じゃ足りない」
タツヤが続ける。
「今回の旧補給衛星群の照合波、防壁を薄く広げて受け流しただろ。次はもっと強い波が来る。なら、守る場所を決めて、そこを絶対に抜かせない構造が必要だ」
アミィが少しだけ不安そうに言う。
「重く、なるんですか」
グリッドは頷く。
「なる。機動力は落ちる。展開にも時間がかかる。防壁を張っている間は、方向転換もしにくい」
レータが即座に言う。
「それでいいです」
アミィがレータを見る。
「いいんですか」
「私達は、レイやリンのように斬り込む機体ではない。ミオのように広く支援網を張るだけでもない」
レータはヴァルクレイド・セレスを見上げた。
「ここを抜かせない。ここにいる人を戻させない。そういう線を作る機体です」
アミィは、少しだけ考えた。
「守る壁。でも、隠れるだけではない」
レータは頷く。
「一緒に進むための壁」
黒瀬が端末に記録する。
「《セレス・バスティオン》主用途。重装防衛線形成、命令層照合波の局所遮断、味方撤退支援、支援網中継点防護、保護対象の自己応答保持」
グリッドが補足する。
「攻撃能力も少しはある。防壁面に近づいた敵を迎撃する装置だ。範囲制圧に近い。ただし、追撃用じゃない。守る範囲に入ってきたものを押し返す」
レイが腕を組む。
「ミオが広い面で押し、レータ達が固定面で押し返すわけか」
カイトが頷く。
「攻撃できる支援機が二つになる感じだな」
黒瀬がすぐに訂正する。
「正確には、攻撃機能を持つ支援・防衛機です」
グリッドが笑う。
「細けえ」
「重要です」
整備区画の画面に、今後の連携図が表示された。
ミオ。
《ルナ・ドール・リンク》。
修理済みGD/GF無人端末。
広域支援、面制圧、進路制限。
レータ&アミィ。
《セレス・バスティオン》。
重装防壁、通信保護、自己応答保持、防衛線固定。
ナユ。
残響索敵。
偽残響の基準点検出。
セラ。
精密射撃。
節点破壊。
レイ、リン。
近接突破、護衛、接近阻止。
カイト、カイル。
前衛判断、外周判断。
ユイ。
ノクス・レクイエム。
命令層切断、切断後の受け渡し。
ジン、黒瀬、グリッド、カナデ、リクト。
指揮、承認、整備、心理補助、命令層解析。
黒瀬が言う。
「監察局は、こちらの連携構造を狙っています。なら、こちらも構造を強化する必要があります」
ジンが通信で頷く。
『個人の力を増やすんじゃない。線を太くするわけだな』
「はい」
ミオが画面を見つめる。
「私の支援網は、切られても繋ぎ直すだけではなく、押し返す線になります」
レータが続ける。
「ヴァルクレイド・セレスは、守るだけではなく、防衛線を固定します」
アミィが小さく言う。
「返事を、守る場所を作ります」
ユイは、その言葉を聞いて静かに頷いた。
「私が切った後を、渡す場所にもなります」
グリッドは全員を見回した。
「そういうことだ。次は、切った後を受け止める側も強くする」
その流れで、タツヤが別の資料を開いた。
「それと、地球軍側のLF開発初期データも参考にする」
コウタが顔を上げる。
「LF開発初期データですか?」
「ああ。森から掘り出したGDの解析データだ」
コウタが固まった。
「森から、掘り出した?」
ユイが静かに目を逸らした。
黒瀬が淡々と説明する。
「ユイが竜奈時代に、非常用として森の奥に隠していた帝国製GDおよび部品群です。転向後の潜伏拠点調査で、地球軍の回収班が発見・回収しました」
コウタはユイを見る。
「森に、GDを隠してたんですか」
「必要な備えでした」
グリッドが言う。
「問題は、本人が半分忘れてたことだ」
「忘れてはいません」
ユイは少しだけ反論した。
「使用予定がなくなっていたため、優先順位が下がっていただけです」
黒瀬が即座に言う。
「存在を報告しなければ、忘れていたのと同じです」
ユイは沈黙した。
タツヤが苦笑する。
「回収班、苦労したらしいぞ。目印の木が変わってたとかで」
ユイは真面目に答えた。
「五年経てば、木は増えます」
グリッドが即座に言った。
「だから大変だったんだよ」
コウタが恐る恐る聞く。
「見つかったんですか」
黒瀬は淡々と答える。
「三日かかりました」
「三日……」
「帝国製反応遮断材、地中偽装、自然成長した樹木の根、土砂の堆積。回収班からは、二度と同じ形式で隠さないようにとの報告が上がっています」
ユイは少しだけ考えた。
「次は、記録を残します」
黒瀬が即答した。
「次がないようにしてください」
整備区画に、短い笑いが広がった。
タツヤは、森から回収されたGDの解析データを表示した。
「冗談みたいな話だが、このデータは役に立ってる。LF系列の関節構造研究、GD装甲材の解析、帝国規格センサーの弱点、命令層接続部品の危険性確認。初期の対GD技術のかなりの部分に、この回収機体の解析が入ってる」
カイトが驚いたように言う。
「じゃあ、ユイが隠してたGDが、地球軍のLF開発に役立ったってことですか」
黒瀬が頷く。
「結果的には」
ユイが少しだけ誇らしげに言う。
「結果的に役立ちました」
グリッドがすぐに釘を刺す。
「結果論で正当化するな」
「はい」
ミオはそのデータを見ながら言った。
「でも、この解析データがあるなら、GDを無人端末として安全に使うための参考になりますね」
エルが頷く。
「はい。地球軍が過去に解析した命令層接続部品の位置、外部通信遮断の方法、動力系の安全停止手順が利用できます」
黒瀬は端末に追記する。
「《ルナ・ドール・リンク》試験運用に、地球軍LF開発初期解析データを参照。森回収GDの命令層遮断事例を基準に、安全確認を行います」
コウタが小声で言う。
「森に隠したGDが、今度はミオさんの強化に繋がるんですね」
ユイは静かに頷いた。
「保管は無駄ではありませんでした」
黒瀬が言う。
「報告されていれば、さらに良かったです」
「はい」
ミオは、改めて《ルナ・ドール・リンク》のシミュレーションを見た。
バリスタが中距離からビーコン群を抑える。
ファランクスが前方に出て、支援網の中継点を守る。
リーフガードが管制線を防護する。
それは、今までのように支援網をただ伸ばすだけではない。
支援網そのものに、位置と圧力を持たせる運用だった。
「私が支えるだけでは、もう足りないんですね」
カナデが近くで言う。
「支える形が変わるだけよ」
ミオはカナデを見る。
「変わるだけ……」
「ええ。支えるために押し返す。支えるために進路を塞ぐ。支えるために相手の動きを制限する。それも支援の形だと思うわ」
ミオは少しだけ表情を緩めた。
「なら、私は支援のままでいいんですね」
「もちろん」
ミオは頷いた。
「では、やります。《ルナ・ドール・リンク》、試験運用に協力します」
黒瀬が確認する。
「本人同意を確認しました。ただし、負荷が過大になった場合は即時中断します」
ミオは苦笑する。
「はい。黒瀬さんなら、そう言うと思いました」
レータとアミィは、ヴァルクレイド・セレスの前で《セレス・バスティオン》の追加装備図を見ていた。
大型防壁発生器。
前線固定アンカー。
重装甲フレーム。
機体は明らかに重くなる。
動きは鈍くなる。
だが、防壁の強度と範囲は増す。
アミィが言う。
「動きにくくなりますね」
レータは頷く。
「うん」
「怖くないですか」
「少し」
「レータさんも怖い」
「怖い。でも、逃げる機体ではないから」
レータはヴァルクレイド・セレスを見上げる。
「この機体は、私達が隣に座る場所。なら、私達が守る線も、ここに作る」
アミィは小さく頷いた。
「守るだけではなく、一緒に進む壁」
「うん」
グリッドが通信で言う。
『ただし、最初は低出力試験だ。いきなり全装備は付けねえぞ』
レータは真面目に答えた。
「分かっています」
アミィも続ける。
「無理はしません」
黒瀬が即座に言う。
「その発言も記録します」
レータが少しだけ首を傾げる。
「信用されていない?」
グリッドが言う。
「されてるから記録されるんだよ」
アミィが少しだけ笑った。
整備会議の最後に、ジンが全体通信を開いた。
『全員、聞け』
整備区画、解析室、艦橋、保護区画に通信が入る。
『研究中枢最深部へ踏み込む前に、ルクス・ヴァルキュリアは再編を行う。機体整備、支援網強化、防壁強化、記録整理、休息。すべてを並行して進める』
ジンの声は落ち着いていた。
『ミオの《ルナ・ドール・リンク》は、試験運用に入る。修理済みGD/GFを無人端末として使う。ただし、黒瀬の条件に従う』
黒瀬が小さく頷く。
『ヴァルクレイド・セレスの《セレス・バスティオン》も、低出力試験を行う。重装防衛線形成を目的とし、無理な展開は認めない』
レータとアミィが並んで頷いた。
『ノクス・レクイエムは、引き続き封印待機。使う時は、切断後の受け渡しまで含めて判断する』
ユイは静かに答えた。
「了解しました」
ジンは続ける。
『次は、命令層中枢だ。敵は個人ではなく、こちらの線を狙ってくる。なら、こちらは線を作り直す』
整備区画の全員が、それぞれの機体を見る。
ミオは、ルナ・スケイル・リフレクトを。
レータとアミィは、ヴァルクレイド・セレスを。
ユイは、封印区画のノクス・レクイエムを。
セラは、フェンリオン・リサイトの照準系を。
ナユは、ロス・セレネの残響装置を。
カイトは、アルタイル・ノヴァ・ブレイスを。
ジンは最後に言った。
『整備が終わるまで、無理な出撃はさせない。休める者は休め。次に進むためだ』
通信が終わった後、整備区画には再び作業音が戻った。
工具の音。
端末の確認音。
搬送機の駆動音。
誰かの短い笑い声。
重い記録を見続けた後の艦内に、少しだけ日常の温度が戻ってくる。
それでも、準備は確実に進んでいた。
ミオは、支援網に無人端末を繋ぐ。
面で押し返し、仲間が動く場所を作るために。
レータとアミィは、重装防壁で戦線を固定する。
戻されない場所を作り、一緒に進むために。
ナユは、撃たれる前の残響を拾う。
セラは、露出した一点を撃ち抜く。
レイとリンは、近づく敵を止める。
カイトとカイルは、前線と外周で判断する。
ユイは、必要な時だけ命令を切り、切った後を仲間へ渡す。
命令層中枢へ向かう前に、ルクス・ヴァルキュリアは新しい線を作り始めていた。
個人の力ではなく、繋がりとしての力。
監察局がその線を崩そうとするなら、こちらはさらに強く結び直す。
整備区画の光の中で、新しい戦い方が形になっていった。




