表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
319/412

第317話 整備区画の新しい線

 研究中枢最深部への扉は開いた。

 命令層中枢。

 再同期基盤。

 PT人格形成記録。

 その奥にあるものは、もう想像で済ませられる段階ではない。

 そこへ進めば、帝国がPT達に望んだ返事の仕組みを見ることになる。

 ユイの切る力も、アミィの自己応答も、レータの防壁も、ミオの支援網も、すべてが試される。

 だが、すぐには進まない。

 ルクス・ヴァルキュリアは、研究中枢最深部の入口を前にして、一度足を止めた。

 それは後退ではない。

 次に進むための停止だった。


 ルクス・ヴァルキュリア整備区画。

 そこは久しぶりに、戦闘前とは違う騒がしさに包まれていた。

 損傷確認。

 支援網中継器の交換。

 GF-07リーフガードの防護層発生器の再調整。

 ロス・セレネの残響波装置セレネ・リップルの冷却系検査。

 フェンリオン・リサイトの照準補助AIログ確認。

 ヴァルクレイド・セレスの防壁反応計測。

 ノクス・レクイエムの封印区画再点検。

 整備班の端末には、赤と黄色の警告項目が並んでいる。

 グリッドは、その一覧を見て低く唸った。

「よくこれで帰ってきたな」

 タツヤが別の端末を見ながら答える。

「支援網、防壁、索敵、射撃。全部に負荷が出てる。機体が壊れてないだけで、システムはかなり無理してるぞ」

 コウタがリーフガードの部品を抱えたまま、少し青い顔で言う。

「これ、次に同じことをされたら持ちますか?」

 グリッドは即答しなかった。

 それが答えだった。

 タツヤが端末を閉じる。

「持たせるしかない。でも、今のままじゃ無理だ」

 その場にいたミオが、静かに顔を上げた。

「支援網を広げるだけでは、もう追いつかないんですね」

 グリッドは頷いた。

「ああ。研究中枢入口戦の時点で分かってた。タナトスは機体を分断するんじゃなく、支援網の節点を切りに来た。モルスは砲撃だけじゃなく、偽残響でナユとセラの連携を揺らした」

 黒瀬が端末を持って整備区画へ入ってくる。

「レグナリア包囲でも同じでした。監察局は、こちらの個別機体ではなく、連携構造そのものを狙っています」

 グリッドが顔をしかめる。

「で、こっちはその連携を人力で維持してる。ミオが支援網を繋ぎ、ナユが拾い、セラが撃ち、レータとアミィが守る。毎回それじゃ、負荷が集中する」

 ミオは自分の機体、ルナ・スケイル・リフレクトを見上げた。

「私の支援網に、もっと手が必要なんですね」

 グリッドは、そこでようやく端末を切り替えた。

「だから、その話をする」


 整備区画の中央に、修理済みGD/GF候補の一覧が表示された。

 GD-01 モルテム。

 GD-02 セレネ。

 GD-06 バリスタ。

 GD-07 ヴェイル。

 GD-11 ファランクス。

 GF-07 リーフガード。

 GF-03 ヴェルディア。

 その横に、倉庫区画の映像が映る。

 ユイが回収し、保管していた帝国製GD群。

 いくつかは外装に傷があり、いくつかは動力系を抜かれ、いくつかは完全に展示品のように整然と並べられている。

 コウタが小さく呟く。

「本当に、あの倉庫の機体を使うんですね……」

 ユイが静かに言う。

「保管していた機体です」

 グリッドが即座に返す。

「展示品じゃなくてな」

「はい。展示ではありません」

「今、少し不満そうだったぞ」

「実用されるなら、問題ありません」

 黒瀬がすぐに言う。

「実用は条件付きです」

 ユイは少しだけ目を伏せた。

「分かっています」

 グリッドは咳払いをして、話を戻した。

「案の名前は仮だが、《ルナ・ドール・リンク》。ミオのルナ・スケイル・リフレクトの支援網を使って、修理済みGD/GFを無人端末として限定管制する」

 ミオは画面を見つめる。

「無人端末……」

 タツヤが説明する。

「完全自律じゃない。自分で敵味方を判断して戦うわけでもない。ミオの支援網上に置く、動く中継点、盾、砲台、囮だ」

 エルが構造図を表示する。

「基本構成は、ミオさんの支援網を中核にして、各無人端末へ限定命令を送ります。端末側の判断は最小限。攻撃対象も、事前に承認されたビーコン、無人機、隔離場や座標固定の節点に限定します」

 黒瀬が、その横に運用条件を並べた。

「仮承認条件を提示します」

 画面に項目が増える。

 有人搭乗禁止。

 自律攻撃禁止。

 ミオ支援網から切断された場合、即時停止。

 帝国製GDは命令層接続部品を完全撤去。

 追跡タグ除去済み機体のみ使用可。

 武装出力制限。

 同時管制は通常三機まで。

 攻撃対象は監察局ビーコン、無人機、隔離場・砲撃座標固定の節点に限定。

 記録は全件保存。

 グリッドが呆れたように言う。

「出たよ、黒瀬式の条件山盛り」

「必要な条件です」

「分かってる」

 ミオは、その条件を見て少しだけ安心したように言った。

「むしろ、その方がいいです。全部自由に動かせと言われた方が怖いですから」

 黒瀬は頷いた。

「ミオに全責任を負わせるためのシステムではありません。支援網の負荷を分散し、戦場を面で制御するための補助運用です」


 グリッドが、候補機体を順に表示する。

「まず、GD-06 バリスタ。こいつは中距離固定砲台に向く。動きは鈍いが、支援網で座標補正すれば、監察局ビーコンや偽残響基準点を撃つには十分だ」

 セラが反応する。

「私の射撃と役割が重なりませんか」

 タツヤが首を横に振る。

「セラは点を撃ち抜く。バリスタは面を抑える。セラが本命を撃つために、バリスタで逃げ道やビーコン群を抑えるんだ」

 セラは少し考え、頷いた。

「なるほど。私が撃つ場所を作るための砲台ですね」

「そういうことだ」

 グリッドは次の機体を表示する。

「GD-11 ファランクス。こいつは盾だ。通路封鎖、ミオ本体の護衛、バリスタの前面防御に使える」

 レイが腕を組む。

「動く壁か」

「そうだ。だが、突撃させるなよ。遅いし、融通は利かない」

 リンが通信越しに言う。

『護衛の代替ではなく、護衛位置の固定具だな』

 グリッドが頷く。

「その表現が近い」

 次に、GF-07 リーフガードが表示される。

「リーフガードは既に使ってる。こいつは攻撃じゃなく、管制線防護だ。《ルナ・ドール・リンク》を使うなら、支援網を守る外皮になる」

 ミオが画面を見つめる。

「バリスタが面を抑え、ファランクスが守り、リーフガードが管制線を守る」

「そうだ」

 黒瀬が補足する。

「初期運用は三機まで。バリスタ一機、ファランクス一機、リーフガード一機。この構成を基本試験とします」

 ユイが少しだけ残念そうに言う。

「GD-07 ヴェイルや、GD-02 セレネは使わないのですか」

 グリッドが即座に言った。

「まだだ」

 黒瀬も同時に言った。

「まだです」

 ユイは二人を見た。

「同時に言わなくても」

 グリッドがため息をつく。

「お前がすぐ増やそうとするからだ」

「有効活用です」

「段階的にやれ」

 黒瀬が頷いた。

「段階的にやってください」


 ミオは、ルナ・スケイル・リフレクトの支援網シミュレーションを見ていた。

 これまでの支援網は、味方機を繋ぐためのものだった。

 位置情報、反応補正、防護層、認証網の揺らぎ。

 それらを繋ぎ、味方が動きやすいように支える。

 だが、《ルナ・ドール・リンク》では、支援網の先に無人端末が置かれる。

 バリスタが中距離から制圧する。

 ファランクスが盾になる。

 リーフガードが管制線を守る。

 それは、ミオ自身が攻撃役になるというより、支援網に手足と砲台を増やす運用だった。

「私が撃つのではなく、支援網で撃つ場所を作る」

 ミオが呟く。

 カイトが頷いた。

「ミオらしい攻撃だと思う」

「攻撃、ですか」

「うん。でも、敵を倒すためだけじゃない。近づかせないとか、セラが撃ちやすい場所に追い込むとか、ナユが見る時間を作るとか」

 ミオは少しだけ考えた。

「面で押し返す」

 黒瀬がその言葉を拾う。

「記録します。《ルナ・ドール・リンク》の主用途は、面制圧、支援網中継、防御補助、進路制限。直接撃破は主目的ではない」

 グリッドが苦笑する。

「また書類が増えたな」

「必要な書類です」

「はいはい」


 次に表示されたのは、ヴァルクレイド・セレスの構造図だった。

 レータとアミィが、並んでそれを見る。

 グリッドが説明を始める。

「次はこっちだ。ヴァルクレイド・セレス用の重装防衛パッケージ。《セレス・バスティオン》」

 画面に、追加装備案が並ぶ。

 大型防壁発生器。

 追加装甲フレーム。

 前線固定アンカー。

 支援波増幅器。

 通信保護強化ユニット。

 防壁面迎撃装置。

 低速高出力推進補助。

 レータが静かに言う。

「重装防衛」

 グリッドは頷く。

「L系列は重装・統率型だ。ヴァルクレイド・セレスは、今でも防壁と支援が強い。でも、命令層中枢へ行くなら、今の防壁じゃ足りない」

 タツヤが続ける。

「今回の旧補給衛星群の照合波、防壁を薄く広げて受け流しただろ。次はもっと強い波が来る。なら、守る場所を決めて、そこを絶対に抜かせない構造が必要だ」

 アミィが少しだけ不安そうに言う。

「重く、なるんですか」

 グリッドは頷く。

「なる。機動力は落ちる。展開にも時間がかかる。防壁を張っている間は、方向転換もしにくい」

 レータが即座に言う。

「それでいいです」

 アミィがレータを見る。

「いいんですか」

「私達は、レイやリンのように斬り込む機体ではない。ミオのように広く支援網を張るだけでもない」

 レータはヴァルクレイド・セレスを見上げた。

「ここを抜かせない。ここにいる人を戻させない。そういう線を作る機体です」

 アミィは、少しだけ考えた。

「守る壁。でも、隠れるだけではない」

 レータは頷く。

「一緒に進むための壁」

 黒瀬が端末に記録する。

「《セレス・バスティオン》主用途。重装防衛線形成、命令層照合波の局所遮断、味方撤退支援、支援網中継点防護、保護対象の自己応答保持」

 グリッドが補足する。

「攻撃能力も少しはある。防壁面に近づいた敵を迎撃する装置だ。範囲制圧に近い。ただし、追撃用じゃない。守る範囲に入ってきたものを押し返す」

 レイが腕を組む。

「ミオが広い面で押し、レータ達が固定面で押し返すわけか」

 カイトが頷く。

「攻撃できる支援機が二つになる感じだな」

 黒瀬がすぐに訂正する。

「正確には、攻撃機能を持つ支援・防衛機です」

 グリッドが笑う。

「細けえ」

「重要です」


 整備区画の画面に、今後の連携図が表示された。

 ミオ。

 《ルナ・ドール・リンク》。

 修理済みGD/GF無人端末。

 広域支援、面制圧、進路制限。

 レータ&アミィ。

 《セレス・バスティオン》。

 重装防壁、通信保護、自己応答保持、防衛線固定。

 ナユ。

 残響索敵。

 偽残響の基準点検出。

 セラ。

 精密射撃。

 節点破壊。

 レイ、リン。

 近接突破、護衛、接近阻止。

 カイト、カイル。

 前衛判断、外周判断。

 ユイ。

 ノクス・レクイエム。

 命令層切断、切断後の受け渡し。

 ジン、黒瀬、グリッド、カナデ、リクト。

 指揮、承認、整備、心理補助、命令層解析。

 黒瀬が言う。

「監察局は、こちらの連携構造を狙っています。なら、こちらも構造を強化する必要があります」

 ジンが通信で頷く。

『個人の力を増やすんじゃない。線を太くするわけだな』

「はい」

 ミオが画面を見つめる。

「私の支援網は、切られても繋ぎ直すだけではなく、押し返す線になります」

 レータが続ける。

「ヴァルクレイド・セレスは、守るだけではなく、防衛線を固定します」

 アミィが小さく言う。

「返事を、守る場所を作ります」

 ユイは、その言葉を聞いて静かに頷いた。

「私が切った後を、渡す場所にもなります」

 グリッドは全員を見回した。

「そういうことだ。次は、切った後を受け止める側も強くする」


 その流れで、タツヤが別の資料を開いた。

「それと、地球軍側のLF開発初期データも参考にする」

 コウタが顔を上げる。

「LF開発初期データですか?」

「ああ。森から掘り出したGDの解析データだ」

 コウタが固まった。

「森から、掘り出した?」

 ユイが静かに目を逸らした。

 黒瀬が淡々と説明する。

「ユイが竜奈時代に、非常用として森の奥に隠していた帝国製GDおよび部品群です。転向後の潜伏拠点調査で、地球軍の回収班が発見・回収しました」

 コウタはユイを見る。

「森に、GDを隠してたんですか」

「必要な備えでした」

 グリッドが言う。

「問題は、本人が半分忘れてたことだ」

「忘れてはいません」

 ユイは少しだけ反論した。

「使用予定がなくなっていたため、優先順位が下がっていただけです」

 黒瀬が即座に言う。

「存在を報告しなければ、忘れていたのと同じです」

 ユイは沈黙した。

 タツヤが苦笑する。

「回収班、苦労したらしいぞ。目印の木が変わってたとかで」

 ユイは真面目に答えた。

「五年経てば、木は増えます」

 グリッドが即座に言った。

「だから大変だったんだよ」

 コウタが恐る恐る聞く。

「見つかったんですか」

 黒瀬は淡々と答える。

「三日かかりました」

「三日……」

「帝国製反応遮断材、地中偽装、自然成長した樹木の根、土砂の堆積。回収班からは、二度と同じ形式で隠さないようにとの報告が上がっています」

 ユイは少しだけ考えた。

「次は、記録を残します」

 黒瀬が即答した。

「次がないようにしてください」

 整備区画に、短い笑いが広がった。


 タツヤは、森から回収されたGDの解析データを表示した。

「冗談みたいな話だが、このデータは役に立ってる。LF系列の関節構造研究、GD装甲材の解析、帝国規格センサーの弱点、命令層接続部品の危険性確認。初期の対GD技術のかなりの部分に、この回収機体の解析が入ってる」

 カイトが驚いたように言う。

「じゃあ、ユイが隠してたGDが、地球軍のLF開発に役立ったってことですか」

 黒瀬が頷く。

「結果的には」

 ユイが少しだけ誇らしげに言う。

「結果的に役立ちました」

 グリッドがすぐに釘を刺す。

「結果論で正当化するな」

「はい」

 ミオはそのデータを見ながら言った。

「でも、この解析データがあるなら、GDを無人端末として安全に使うための参考になりますね」

 エルが頷く。

「はい。地球軍が過去に解析した命令層接続部品の位置、外部通信遮断の方法、動力系の安全停止手順が利用できます」

 黒瀬は端末に追記する。

「《ルナ・ドール・リンク》試験運用に、地球軍LF開発初期解析データを参照。森回収GDの命令層遮断事例を基準に、安全確認を行います」

 コウタが小声で言う。

「森に隠したGDが、今度はミオさんの強化に繋がるんですね」

 ユイは静かに頷いた。

「保管は無駄ではありませんでした」

 黒瀬が言う。

「報告されていれば、さらに良かったです」

「はい」


 ミオは、改めて《ルナ・ドール・リンク》のシミュレーションを見た。

 バリスタが中距離からビーコン群を抑える。

 ファランクスが前方に出て、支援網の中継点を守る。

 リーフガードが管制線を防護する。

 それは、今までのように支援網をただ伸ばすだけではない。

 支援網そのものに、位置と圧力を持たせる運用だった。

「私が支えるだけでは、もう足りないんですね」

 カナデが近くで言う。

「支える形が変わるだけよ」

 ミオはカナデを見る。

「変わるだけ……」

「ええ。支えるために押し返す。支えるために進路を塞ぐ。支えるために相手の動きを制限する。それも支援の形だと思うわ」

 ミオは少しだけ表情を緩めた。

「なら、私は支援のままでいいんですね」

「もちろん」

 ミオは頷いた。

「では、やります。《ルナ・ドール・リンク》、試験運用に協力します」

 黒瀬が確認する。

「本人同意を確認しました。ただし、負荷が過大になった場合は即時中断します」

 ミオは苦笑する。

「はい。黒瀬さんなら、そう言うと思いました」


 レータとアミィは、ヴァルクレイド・セレスの前で《セレス・バスティオン》の追加装備図を見ていた。

 大型防壁発生器。

 前線固定アンカー。

 重装甲フレーム。

 機体は明らかに重くなる。

 動きは鈍くなる。

 だが、防壁の強度と範囲は増す。

 アミィが言う。

「動きにくくなりますね」

 レータは頷く。

「うん」

「怖くないですか」

「少し」

「レータさんも怖い」

「怖い。でも、逃げる機体ではないから」

 レータはヴァルクレイド・セレスを見上げる。

「この機体は、私達が隣に座る場所。なら、私達が守る線も、ここに作る」

 アミィは小さく頷いた。

「守るだけではなく、一緒に進む壁」

「うん」

 グリッドが通信で言う。

『ただし、最初は低出力試験だ。いきなり全装備は付けねえぞ』

 レータは真面目に答えた。

「分かっています」

 アミィも続ける。

「無理はしません」

 黒瀬が即座に言う。

「その発言も記録します」

 レータが少しだけ首を傾げる。

「信用されていない?」

 グリッドが言う。

「されてるから記録されるんだよ」

 アミィが少しだけ笑った。


 整備会議の最後に、ジンが全体通信を開いた。

『全員、聞け』

 整備区画、解析室、艦橋、保護区画に通信が入る。

『研究中枢最深部へ踏み込む前に、ルクス・ヴァルキュリアは再編を行う。機体整備、支援網強化、防壁強化、記録整理、休息。すべてを並行して進める』

 ジンの声は落ち着いていた。

『ミオの《ルナ・ドール・リンク》は、試験運用に入る。修理済みGD/GFを無人端末として使う。ただし、黒瀬の条件に従う』

 黒瀬が小さく頷く。

『ヴァルクレイド・セレスの《セレス・バスティオン》も、低出力試験を行う。重装防衛線形成を目的とし、無理な展開は認めない』

 レータとアミィが並んで頷いた。

『ノクス・レクイエムは、引き続き封印待機。使う時は、切断後の受け渡しまで含めて判断する』

 ユイは静かに答えた。

「了解しました」

 ジンは続ける。

『次は、命令層中枢だ。敵は個人ではなく、こちらの線を狙ってくる。なら、こちらは線を作り直す』

 整備区画の全員が、それぞれの機体を見る。

 ミオは、ルナ・スケイル・リフレクトを。

 レータとアミィは、ヴァルクレイド・セレスを。

 ユイは、封印区画のノクス・レクイエムを。

 セラは、フェンリオン・リサイトの照準系を。

 ナユは、ロス・セレネの残響装置を。

 カイトは、アルタイル・ノヴァ・ブレイスを。

 ジンは最後に言った。

『整備が終わるまで、無理な出撃はさせない。休める者は休め。次に進むためだ』


 通信が終わった後、整備区画には再び作業音が戻った。

 工具の音。

 端末の確認音。

 搬送機の駆動音。

 誰かの短い笑い声。

 重い記録を見続けた後の艦内に、少しだけ日常の温度が戻ってくる。

 それでも、準備は確実に進んでいた。

 ミオは、支援網に無人端末を繋ぐ。

 面で押し返し、仲間が動く場所を作るために。

 レータとアミィは、重装防壁で戦線を固定する。

 戻されない場所を作り、一緒に進むために。

 ナユは、撃たれる前の残響を拾う。

 セラは、露出した一点を撃ち抜く。

 レイとリンは、近づく敵を止める。

 カイトとカイルは、前線と外周で判断する。

 ユイは、必要な時だけ命令を切り、切った後を仲間へ渡す。

 命令層中枢へ向かう前に、ルクス・ヴァルキュリアは新しい線を作り始めていた。

 個人の力ではなく、繋がりとしての力。

 監察局がその線を崩そうとするなら、こちらはさらに強く結び直す。

 整備区画の光の中で、新しい戦い方が形になっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ