表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
312/412

第310話 オリジナル六名

 研究中枢への入口は開いた。

 完全な突破ではない。

 タナトスもモルスも健在。

 監察局は、こちらがどのように進むのかを記録し続けている。

 入口の内側には、命令層照合波も残っている。

 それでも、ルクス側は研究中枢外層端末へ接触できる位置を確保した。

 そこに残っていたのは、PT関連記録のさらに深い索引だった。

 未起動個体。

 A系列設計。

 セレスティア分解記録。

 ノクス・リリス封印関連。

 そして、オリジナル六名の初期記録。

 ユイ。

 ミオ。

 レイ。

 セラ。

 レータ。

 イリス。

 帝国の記録では、彼女たちは名前ではなく、六つの系列として並んでいた。


 ルクス・ヴァルキュリア解析室。

 黒瀬は、研究中枢外層端末から得た記録を慎重に整理していた。

 クロエが索引を復元し、エルが古い認証形式を切り離す。

 リクトは命令層に近い階層を隔離し、カナデは閲覧時の心理負荷を確認していた。

 中央画面には、ひとつの記録群が表示されている。

 PTオリジナル個体初期評価記録。

 Y系列。

 M系列。

 R系列。

 S系列。

 L系列。

 I系列。

 黒瀬が言った。

「まず、記録上の誤分類を修正します」

 ユイが顔を上げる。

「誤分類?」

「はい。古い中間資料の一部には、オリジナルタイプを四種として扱う断片があります。しかし、研究中枢外層の正式記録では、オリジナル個体は六名、六系列です」

 画面に、六つの項目が並ぶ。

 Y系列オリジナル。

 M系列オリジナル。

 R系列オリジナル。

 S系列オリジナル。

 L系列オリジナル。

 I系列オリジナル。

 黒瀬は続けた。

「四タイプという表記は、初期分類または途中段階の管理資料だった可能性があります。正式な研究中枢記録では、ユイ、ミオ、レイ、セラ、レータ、イリスの六名がオリジナルとして扱われています」

 イリスが静かに呟く。

「六名……」

 ミオが息を吐いた。

「よかった、という言い方が正しいのか分かりませんけど……少なくとも、私達の記録が欠けているわけではなかったんですね」

 レイが腕を組む。

「記録されていること自体は、あまり嬉しくないけどな」

 セラが頷く。

「でも、間違った数で扱われるよりは……」

 レータが続ける。

「六名として、並んでいる」

 ユイは画面を見つめた。

 名前ではない。

 系列としての記録だ。

 それでも、そこには確かに六つの始まりが並んでいた。


 会議室。

 今回は、オリジナル六名が全員集まっていた。

 ユイ。

 ミオ。

 レイ。

 セラ。

 レータ。

 イリス。

 アミィも、カナデの確認を受けたうえで同席している。

 彼女はオリジナルではない。

 A系列として、L系列凍結後に設計された存在だ。

 だが、彼女はここにいた。

 記録を見る側として。

 そして、これから先に続く存在として。

 黒瀬は表示制限を確認してから言った。

「これから開くのは、オリジナル六名の初期設計意図と初期評価です。詳細な命令層接続記録は表示しません。本人が望まない項目は開きません」

 カナデも続ける。

「無理に全部受け止める必要はないわ。これは帝国の記録であって、今のあなた達の全部ではないから」

 レイが少しだけ笑う。

「最初からそう思って見るしかないな」

 ユイは静かに頷いた。

「見ます」

 ミオ、レイ、セラ、レータ、イリスも、それぞれ頷いた。

 黒瀬が記録を開く。


 最初に表示されたのは、Y系列だった。

 Y系列オリジナル。

 高適応型。

 異環境潜伏、現地同化、長期観察任務を想定。

 命令層切断反応、特異。

 外部命令干渉への耐性、変動。

 現地人格形成による任務逸脱リスク、要監視。

 対象世界への過剰適応傾向あり。

 ユイは静かに記録を読んだ。

「高適応。現地同化。長期観察」

 彼女は小さく息を吐く。

「私が地球で竜奈として生きた時間は、帝国にとっては任務逸脱リスクだったんですね」

 カイトが隣で黙っている。

 ユイは続けた。

「でも、私はそれを失敗だとは思いません」

 その声は、以前よりはっきりしていた。

「地球で過ごした時間があったから、私は今ここで命令を切る意味を考えています。現地に適応しすぎたからではなく、そこで人として扱われたから、私は今の私になりました」

 カイトが頷く。

「うん」

 ユイは画面を見つめた。

「帝国の設計通りなら、私は潜伏して、観察して、必要なら命令を果たす個体だったのかもしれません」

 彼女は少しだけ目を細める。

「でも、今の私は、誰かの返事を奪う命令を切るためにここにいます」


 次に表示されたのは、M系列。

 M系列オリジナル。

 広域支援型。

 支援波安定化、集団補助、戦場全体の連携維持を想定。

 命令層接続補助への応用可能。

 過度な自律判断により、支援対象の優先順位が変動する可能性あり。

 役割維持のため、応答安定化が必要。

 ミオの表情が少し硬くなる。

「命令層接続補助への応用可能……」

 彼女は、その言葉を一度飲み込んだ。

「私は、誰かを命令層へ繋ぐために支援したいわけではありません」

 イリスが静かに頷く。

 ミオは続ける。

「支援対象の優先順位が変動する可能性あり。帝国にとっては、それが問題だったんですね」

 黒瀬が答える。

「記録上は、はい。ミオが自分で誰を支えるかを判断することが、帝国にとっては不安定要素だったのでしょう」

 ミオは少しだけ微笑んだ。

「なら、今はそれでいいです」

 レイが顔を向ける。

「いいのか?」

「はい。私は、自分で誰を支えるか決めます。命令層を支えるのではなく、みんなが自分の返事を選べるように支えます」

 彼女は端末に表示された支援網図を見た。

「それに、支援だけでは足りない場面も増えています。私の支援網を使って、動かせる機体を動かす案もあります」

 グリッドが通信越しに言う。

『修理済みGD/GFの無人管制か』

 ミオは頷いた。

「はい。まだ先の話です。でも、必要になると思います」

 黒瀬が即座に補足する。

「仮案として記録します。攻撃端末化は条件付き。自律攻撃は禁止。ミオの支援網から切断された場合は即時停止。武装出力制限、命令層接続部品の撤去、追跡タグ除去確認が必須です」

 グリッドがぼやく。

『言うと思ったよ』

 ミオは少しだけ困ったように笑った。

「私の支援網は、命令のためではなく、守って押し返すために使います」

 それは、M系列の設計意図から外れた、今のミオの答えだった。


 R系列の記録が開かれる。

 R系列オリジナル。

 近接戦闘型。

 高反応速度、接近戦適性、単独突破力を想定。

 命令層応答時、反発傾向あり。

 自律判断により、攻撃対象の選別が発生する可能性。

 運用時、指揮系統による抑制を推奨。

 レイは記録を見て、短く笑った。

「攻撃対象の選別か。ずいぶん丁寧な言い方だな」

 カイルが通信越しに言う。

『要するに、斬れと言われても斬らない時があるってことだろ』

「そういうことだな」

 レイは腕を組んだ。

「帝国は、私に斬る力を求めた。でも、誰を斬るかは決めさせたくなかった」

 黒瀬が頷く。

「記録上は、そう読めます」

「なら、今の私は設計通りじゃない」

 レイは画面から目を離した。

「私は、斬る相手を自分で選ぶ。命令されたから斬るんじゃない。斬らなきゃ守れない時に斬る」

 リンが通信で短く言った。

『それでいい』

 レイは少しだけ目を細める。

「リンに言われると、妙に重いな」

『近接護衛も同じ。斬るのは護衛対象を守るため』

「なるほどな」

 レイは小さく笑った。

「私は突破するために作られたのかもしれない。でも今は、守るためにも斬る。それで十分だ」


 S系列の記録が表示される。

 S系列オリジナル。

 射撃・照準補助型。

 精密射撃、遠隔制御下での安定射撃、照準補助AIとの同期を想定。

 命令伝達精度、高。

 自律射撃判断の成長により、遠隔制御安定性が低下する可能性。

 照準補助AIとの一体運用を推奨。

 セラは静かにその記録を見た。

「遠隔制御下での安定射撃」

 以前も見た言葉だった。

 だが、今は少し違う受け止め方ができた。

「帝国は、私に正確に撃つことを求めていた。でも、その正確さは、私の意思ではなく命令の正確さだったんですね」

 カナデが頷く。

「そう見えるわ」

 セラは自分の手を見た。

「フェンリオン・リサイトは、照準補助AIを再調整しました。帝国命令系統を除去して、私の意思で撃つために」

 彼女は少しだけ顔を上げる。

「なら、私はもう、遠隔制御下で安定して撃つS系列ではありません」

 カイトが言う。

「自分で撃つセラだね」

 セラは小さく頷く。

「はい。撃つ時も、撃たない時も、自分で決めます」

 その言葉は、静かだった。

 だが、確かだった。


 L系列の記録が開かれる。

 L系列オリジナル。

 重装・統率型。

 防衛戦指揮、局地統率、集団防衛維持を想定。

 指揮伝達効率、高。

 突発状況下における判断逸脱あり。

 低頻度重大誤判断、要監視。

 オリジナル個体所在不明後、系列継続凍結。

 レータは、深く息を吸った。

 この記録はもう見ている。

 だが、六名の中で並ぶと、また違って見えた。

「私は、失敗しない指揮型として作られたわけではないんですね」

 黒瀬が少しだけ首を傾げる。

「記録上は、むしろ低頻度重大誤判断が問題視されています」

 レータは真顔で頷いた。

「はい。低頻度です」

 レイがぼそりと言う。

「そこは強調するんだな」

「重要です」

 重かった空気が、少しだけ緩む。

 レータは続けた。

「私は、防衛線を維持するために作られた。でも、帝国は私の判断ミスを許さなかった。だから、凍結された」

 アミィが隣で手を握る。

「レータさん……」

「でも、今の私は、間違えないために命令されたいわけではありません」

 レータはアミィを見る。

「間違えた時に、隣で止めてくれる人がいる方を選びます」

 アミィは少し驚いたように目を開いた。

「わたしも、止めていいんですか」

「うん」

「でも、わたしも間違えるかもしれません」

「その時は、私も止める」

 アミィはしばらく考えた。

 それから、小さく頷く。

「隣にいるって、そういうことなんですね」

「たぶん」

 レータは少しだけ笑った。

「まだ、勉強中」


 最後に、I系列の記録が表示された。

 I系列オリジナル。

 探索・識別型。

 異常反応検知、広域探索、識別補助を想定。

 探索地域拡大用系列として展開可能。

 命令層応答安定性、良。

 識別対象の自己判断による報告優先順位の変動あり。

 運用時、情報選別権限の制限を推奨。

 イリスは静かに読んでいた。

「情報選別権限の制限……」

 彼女は小さく呟く。

「帝国は、私が何を見つけるかだけでなく、何を報告するかも制限したかったんですね」

 リクトが頷く。

「探索型としては当然の恐れだろうな。見つける力があるなら、見つけたものを隠すこともできる。あるいは、命令されたもの以外を重要だと判断することもある」

 イリスは目を伏せた。

「私は、見つけたものを全部そのまま渡すための機体ではありません」

 ナユの通信が入る。

『イリスさん』

「はい」

『見つけたものを、どう伝えるかも大事です。私は最近、それを少し分かりました』

 イリスは少しだけ表情を緩めた。

「ありがとうございます、ナユさん」

 彼女は改めて画面を見る。

「私は探索型です。でも、ただ命令されたものを探すだけではありません。何を見つけて、誰にどう伝えるか。それも自分で選びたいです」

 黒瀬は、その言葉を記録した。


 六つの記録が、画面に並んだ。

 Y系列。

 M系列。

 R系列。

 S系列。

 L系列。

 I系列。

 高適応。

 広域支援。

 近接戦闘。

 射撃補助。

 重装統率。

 探索識別。

 帝国は、それぞれに役割を与えた。

 初期設計意図を置いた。

 望む応答を想定した。

 そこから外れる可能性を、リスクとして記録した。

 だが、会議室にいる六名は、その記録通りではなかった。

 ユイは、潜伏任務のためではなく、返事を奪う命令を切るためにいる。

 ミオは、命令層接続補助ではなく、仲間が自分で選ぶために支える。

 レイは、命令された対象を斬るのではなく、守るために斬る。

 セラは、遠隔制御で撃つのではなく、自分の意思で撃つ。

 レータは、失敗しない指揮型ではなく、間違えた時に支え合うことを選ぶ。

 イリスは、命令されたものだけを探すのではなく、見つけたものをどう伝えるかを選ぶ。

 黒瀬は静かに言った。

「帝国の記録では、設計から外れることはリスクでした」

 カイトが画面を見つめる。

「でも、今はそこが大事なんですね」

「はい」

 黒瀬は頷いた。

「設計通りではないからこそ、現在の皆さんがいます」

 カナデも続ける。

「作られた理由は消せないわ。でも、今どう生きるかまで、作られた理由で決めなくていい」

 ユイは、その言葉を静かに受け止めた。


 アミィは、六つの記録を見ていた。

 自分はそこにはいない。

 A系列は、L系列凍結後に設計された。

 欠損補完。

 役割固定。

 セレスティア接続。

 オリジナル六名とは違う。

 その感覚は、確かにあった。

「わたしは……ここには、いないんですね」

 アミィが小さく言った。

 レータがすぐに顔を向ける。

「アミィ」

「いえ、悲しいだけではないです」

 アミィはゆっくり言葉を探す。

「わたしは、オリジナルではありません。A系列は、後から作られました。L系列欠損補完として」

 レータの表情が痛む。

 だが、アミィは続けた。

「でも、ここにいる六人も、設計通りではないんですよね」

 ユイが頷く。

「はい」

 ミオも言う。

「そうですね」

 アミィは少しだけ息を吐いた。

「なら、わたしも……設計通りじゃなくていいんですか」

 会議室が静かになる。

 カナデが優しく答えた。

「もちろん」

 アミィの目が揺れる。

「A系列欠損補完として作られても……それだけで終わらなくていいんですか」

 レータが、アミィの手を強く握った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ